記念すべき一話目、どうぞ。
終わりと始まり
『創作は常に冒険だ。所詮は人事を尽くした後、天命に任せるより仕方はない』
採用と押された新作ゲームの計画書を片手に思い浮かんだのは、有名な小説家の名言だ。
作ること自体は誰にだってできる。しかしそれがどれだけの年月と努力をかけて作った最高傑作であっても、自分以外の人に認められるかどうかは最終的に運に任せるしかない、という意味だと俺は思っている。
確かにその通りだ。
先日、俺が働くゲーム会社で新作を作る話が上がった。その際、同じ会社で働いている二人の妹達と一緒に昔考えたものを計画書に書いて提出した。無論他にも計画書を提出した先輩たちもいる。計画書は全部で10枚、その中から一つ選ばれたものを今日発表するということだった。
俺達三人は会社の人間から見れば新人の部類に入る。そのため、周りから『新人の計画が通るわけがない』とさんざん言われた。正直俺達もそう思っていた。提出した先輩たちの中には過去に8回も発案し、却下された人だっていたからだ。
そして今日、社長から計画書のタイトルが発表された。
『シブリング・オブ・アンレイス』
一瞬自分たちの耳を疑った。
俺達が考えたゲームのタイトルだ。
まさか通ると思わなかった先輩たちは、色々言ってすまなかったと謝りながら拍手で祝ってくれた。
無論、新人の計画が通ったことに不服そうな先輩もいたが。
「だーれだ?」
高層ビルの入り口で待っていると、急な声と共に視界を塞がれる。
同時に、背中に何やら柔らかいものが当たる。
「うーん…………美香?」
「せいかーい!」
名前を挙げると視界が元に戻る。振り向くと、笑顔でこちらを見つめるOLがいた。
天道美香、24歳。この俺、天道勇人より2歳年下の妹だ。
いつも明るく、会社のムードメーカーとして重宝されている。
スタイル抜群の美人で、男性陣だけでなく女性陣にも人気。
一見可憐な見た目だが、実は元陸上部エース。他に空手黒帯・柔道八段・チャンバラ四段、剣道師範代等を取得しており、結構強い。
「驚いたでしょ?」
「ウン、ビックリシタナー」
「なんで棒読みなの⁈」
「冗談だ。それで、残っていた作業は終わったのか?」
「もちろん、もう大変だったよ~。私、凄く頑張った」
「……………………ほとんど私がやったのに」
胸を張ってドヤ顔で頑張ったと自分で言う美香の後ろから、眼鏡をかけた女性が呆れたような声をあげながら現れる。
彼女の名前は天道朱音。22歳のもう一人の妹だ。
冷静沈着で無口。というより、俺達以外の人間との会話が苦手。
IQは125。名大学の理学部を卒業しており、物理と数学が得意。
「お疲れ様、朱音」
「うん…………本当はもっと早く終わる予定だったけど、美香がパソコンフリーズさせてしまって、修復に時間が……………」
「うっ、それは………本当にごめんなさい」
「ハハハ、まぁ次気を付ければいいさ」
ドンマイと言いながら、美香の頭をなでる。猫みたいな声を出して笑顔になった美香を、朱音がすかさずスマホで撮る。シャッター音でハッとなったが遅い。朱音はニヤケ顔で彼女を見る。
「手伝ったお礼、これで許す」
「ぐぬぬぬ……………」
断ったらどうなるかわかってるよね?的な顔をした朱音に、美香は悔しそうだ。
このまま見るのもいいが、辺りも暗くなってきたので早く帰ろうと二人に言った。
しばらく歩いていると、美香が口を開いた。
「それにしても驚いたなぁ。まさか私たちの案が採用されるなんて」
「確かにな。あれを最初に考えたのいつだったっけ?」
「…………勇人が、小6の時。私達が、
「…………あぁ、そうだったな。俺達が
スマホを取り出し、画面に見える幼少期の俺達を見る。
俺達は三兄妹。しかし、血は全く繋がっていない。つまり、義理だ。
出会いは15年前。
夏休みに家族全員で海外旅行に行っていた俺は、帰りの飛行機でバードストライクに遭った。エンジントラブルで操縦不能となった飛行機はそのまま海に墜落した。その直前両親が俺を守るように体を覆ったのを確認したところで意識がなくなり、次に目が覚めたときは病院だった。
俺が目覚めたのを確認した病院の先生は俺に事情を話そうとしたが、しなくていいと言った。あの時俺をかばうように守ってくれた親の姿が全く見えないことに気付いて、すべてを悟ったからだ。もう、家族はこの世にいないと。
悲しかった、というより寂しかった。でも失ったものは絶対に戻らないということを知っていた俺は、俺を守ってくれた家族の分も生きようという考えに無理矢理切り替え、前を向くことを決めた。
入院してから3週間後、完治した俺は先生の紹介で近くの孤児院に送られた。
孤児院では、俺のように不慮の事故などで孤児になってしまった年下の子供たちが23人もいた。更にその孤児院はつい最近建てられたらしく、従業員は60代の院長とその妻である副院長の二人だけだった。
孤児院に着いた時、院長が俺の部屋に案内してくれた。その部屋で出会ったのが、朱音と美香だった。
院長に聞いてみたところ、二人もその日に送られた孤児だった。
突然家族を失ったショックで言葉を失っていた二人。院長たちも何とか心を開かせようとしたらしいが、無理だったという。
だが、俺には二人の気持ちが何となくわかった。
そして俺がその場でできる打開策を考えた結果、思いついたのが、
『俺の家族になってくれないか?』
それが俺達の始まりだ。
当時の俺には、ただ家族がいなくて寂しいという感情を埋めたいという気持ちもあった。
最初はぎこちなかった。いきなり赤の他人に家族、つまり兄妹になれと言われても混乱するだけだっただろう。
しかし日を重ねることに俺達は仲が良くなっていき、気が付いた時は文字通りの兄妹になっていた。
そしてある日、美香が俺に『もし生まれ変わることができるなら、また三人で兄妹になりたいな』と言った。
父親がゲーム関係の仕事をしていたことを思い出した俺は、二人にそれができるゲームを作ろうと提案した。
道具の設定は朱音が、種族やキャラメイクの設定は美香が、そして魔法やスキルの設定は俺が考えた。
『【転生者】という名のプレイヤーが【第二の人生】を歩む』をコンセプトとした自由な世界観を求めた俺達が試行錯誤を繰り返し、完成に近づいたゲーム、それが【シブリング・オブ・アンレイス】だ。
シブリング─────Siblingとは英語で“兄妹・姉弟”という意味。そしてアンレイス─────Unraceとは英語で“異種族”という意味だ。つまり、“異種族の兄妹”が最大のテーマだ。
といっても詳しいストーリーはまだ出来上がっていないので、これからだが。
ただそれ以外の設定は決まっている。
「懐かしいなぁ。あの時は本当にびっくりしたよ。会うなり『俺の家族になってくれないか。キリッ』って言うんだもん」
「キリッ、とは言ってない。それにあの時はそれが最善策だと思ったんだよ。不満か?」
「そんなことはないよ!むしろ良かったと思ってる」
「うん。勇人が言ってくれなかったら、今の私達はなかった……………断言できる」
「……………そうか」
真正面からこうも正直に褒められると恥ずかしくなる。
顔が紅潮してきたのを感じ、何とかごまかそうとすると美香が何かを思い出したように自分のカバンを開けた。
「そうだ!この間、私たちをイメージした試作キャラを描いてみたの」
これなんだけど、と透明なファイルから三枚の紙を取り出した。それぞれ3Dのイラストと俺達の名前、そしてその横にステータスらしきものが書かれている。どれもよくできている。
「へぇ、すごいじゃん」
「でしょ?色々考えて書いてみたの。気にいってもらえるかな?」
「……………うん、気に入った」
「本当?よかった!ちなみにそれぞれのキャラを詳しく説明すると……………」
美香が試作のキャラの説明をしようとした時だった。
視界がグラっと歪み、全身がよろけるような感覚が走った。
その感覚は一瞬で終わる。しかしこの感覚が走った後、俺達は今まで感じたことのない不安や恐怖を全身に感じていた。
周りの動きがとても遅く見える。時間でいえばほんの数秒だけだっただろうが、俺達にはその10倍は長く感じた。
そして次の瞬間、さっき感じたものとは比べ物にならないほどの大きな揺れが俺達を襲った。
「じ、地震だぁぁぁ!」
突然発生した地震に近くの歩行者が叫ぶ。
それを皮切れに周りの人々が悲鳴を上げ始めた。
揺れの大きさは尋常ではなく、立つことさえ困難だった。
コンクリートの道路にひびが入り始め、建物も大きく揺れ始める。
バタン、と板が倒れる音が響く。視線を向けると、そこには工事中と書かれた看板が……………
ギィィ……………!
上空から金属同士がひしめき合う音が鳴る。
まさかと思い見上げると、クレーンで吊り上げられた複数の巨大な鉄骨が地震で揺れていた。
更によく見ると、揺れの影響で重心が徐々にずれてきている。
まずいと思った俺は、体勢を崩して身動きが取れなくなっている朱音と美香に飛び込んだ。
それと同時に鉄骨が滑り落ちてきた。
「朱音ぇぇぇぇぇぇ!美香ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
必死に叫んで二人に手を伸ばす。
俺に気が付いた二人も手を伸ばす。
届いた!そう思って引っ張り抱きしめた瞬間、鉄骨が無慈悲にも俺達の体を潰した。
俺達が死を覚悟した瞬間だった。
『もし生まれ変わることができるなら、また三人で兄妹になりたいな』
かつて美香が言っていた言葉を思い出す。
あぁ、そうだな…………
生まれ変われるなら、また…………家族、に…………
それを最後に、俺の……………俺達の意識は、この世を去った。
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【シブリング・オブ・アンレイス】
“異種族の兄妹”という名を持つ彼らの夢は、突然の悲劇と共に消えた。
しかし、彼らが必死に作り上げた“設定”は、新たな異世界を作り出すきっかけとなった。
彼らが良く知る“
“
この転生が彼らにどのような影響を及ぼすか……………それは、誰にも予想できない。
圧倒的駄文、でも面白けりゃいいと思うこの頃。