シブリング・オブ・アンレイス(凍結)   作:嵐川隼人

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2話目、どうぞ


転生後の世界
転生しました、俺達の世界に


「「「………………」」」

 

 薄紫色のケモ耳少女、黒い角の生えた赤髪の女性を前に、尻尾と羽を生やした白髪の男、つまり俺が向かい合った状態で沈黙が続く。

 そりゃそうだ。この状況を一体誰が理解できると言えようか。

 まず俺達はさっき鉄骨に潰されて死んだ。それは実際に体感した、紛れもない事実だ。

 ここまではいい。問題はその後だ。

 死んだはずの俺達は、再び意識を取り戻した。

 最初は死後の世界かな、と思ったよ。でも違った。

 目を覚ました俺達が次にいたのは、どっかのファンタジーゲームでありそうな巨大な森のど真ん中。

 風の流れも感じるし、空気もうまい。

 木がガサガサと揺れる音も聞こえる。

 どう考えてもあの世とは思えないぐらい色々とリアルすぎる。

 そして体を起こして状況を確認しようとしたとき、目の前に湖の水面があった。そこに写っていたものを見て固まった。

 左にいた少女は薄紫色の短髪で、頭から猫のような耳が生えている。瞳は青く、紫のワンピースの上にウサ耳の黒いフードを着用している。身長は150㎝前後と小柄で、猫の尻尾が生えている。

 右にいた女性は真っ赤なポニーテールで、額から黒い角が生えている。瞳も真っ赤で、白いTシャツと黒いジーパンの上に赤いコートを羽織っている。身長は170㎝前後で、少し細身。

 そして最後に俺の目の前に写った人物。白髪の短髪で、頭部の側頭部からねじれた角っぽいものが前から後ろにかけて生えている。瞳は黄色く、服装は……………何といえばいいだろうか。『どこかの王国の王子が戦に参加する際、鎧の下に着ていそうな白黒の騎士団長を思わせる見た目』と表現すれば分かってくれるだろうか。身長は180㎝前後とこの三人の中では一番背が高く、もうドラゴンだろこれ、としか言いようのない巨大な翼と尻尾が生えている。

 状況が混乱しそうになったのでとりあえず三人集まって整理しようと考え、今に至る。

 

「……………あー、一応確認のため自己紹介するぞ。俺は天道勇人、ゲーム会社で働いている26歳独身。さっき鉄骨に潰されて死んだ。そっちの角を生やした女性は?」

「えーっと、私は天道美香、義理の兄である天道勇人と同じゲーム会社で働いている24歳。私も鉄骨に潰されて死んだ。次は、猫っぽい人」

「……………天道朱音、勇人の義妹で22歳。以下同文」

 

 予想はしていたが、やっぱり朱音と美香だった。

 三人同時にため息をつく。

 そして同時に理解した。

 いや、正確にはすべてを理解したわけではない。他にもわからないことは沢山ある。

 ただこの状況で理解できることは一つだけある。

 

 “転生”

 

 どうやら鉄骨でつぶされた俺達は、不幸中の幸いと言えるのか、その“転生”を果たしてしまったらしい。

 しかも、前とは全く違う姿として。

 それにしてもこの二人(俺を含めると三人)、何か既視感があるんだよな。

 

「なぁ、美香。俺、この姿達をどこかで見たことがあるような気がするんだが…………」

「それはそうよ。だってさっき見せてたし」

「見せてた……………あぁ、あれか」

 

 思い出した。

 そうだ、地震が起きる前に美香が見せてくれた試作キャラの三人に似てる、というかほぼ一緒だ。

 

「ちなみに私が≪鬼人族(オーガ)≫で朱音が≪獣人族(ワービースト)≫、勇人が≪竜人族(ドラゴノイド)≫っていう種族だよ」

「ふぅん……………」

 

 何となく手を握ったり開いたりしてみる。

 見た瞬間は驚いたが、実際に動かしてみると妙に馴染んでいる。

 背中の翼や尻尾だってそうだ。

 人間だった前世にはなかった器官。しかしそこに大きな違和感を感じない。

 動かし方だって何となくわかる。

 朱音も同じことを考えているようで、顔の側面に手を当てては頭の耳に添えるを繰り返している。側面は髪の毛で覆われておりよく見えないが、彼女の動きから推察して、そこに耳は存在しておらず、頭の上に移動しているようだ。

 何とも不思議な感覚だ。

 美香はぶっちゃけ角が生えていること以外人間と同じ構造をしているから、馴染むのはすぐわかる。

 しかし人間とはかなり異なる構造をした姿になった俺達でも同じように馴染むことができるのは、前世の俺ならおそらく考えられないだろう。

 やはり転生した際、身体の変化と共に感覚も変化するからだろうか。

 転生した主人公達が、新しい姿になっても不自由なく体を動かせる理由が分かった気がする。

 ……………転生した主人公達で思い出したが、その転生者の中には確かゲームにおける自分の設定が実際に反映された人もいたな。

 

「そういえば、美香が種族の設定を作ったんだよな?」

「うん、そうだよ」

「じゃあさ、俺達の種族の設定を色々教えてくれないか?」

「いいけど……………なんで?」

「いやさ、よくゲームの世界に転生した主人公とかで、ゲームの設定が実際に反映されたって人とかいたじゃん?もしかして俺達も……………なんて」

「そんなうまい話があるとは思えないけど……………わかった。それじゃあ軽く説明するね。

 

 まずは勇人の竜人族(ドラゴノイド)から。竜人族は、人間と竜の二つの特徴を持った種族。成長の個体差が激しく、魔法に特化した者もいれば物理攻撃に特化した者もいる。竜人族同士で集団行動をすることは極めて少なく、基本単独行動。

 次に私の鬼人族(オーガ)。鬼人族は、額から1本または2本の角が生えているのが特徴の種族。力強く、破格の戦闘能力を持つ個体が多い。とても仲間思いで、裏切りを誰よりも嫌う。また上下関係を大切に重んじる。

 最後に朱音の獣人族(ワービースト)。獣人族は、猫や犬等の動物に見られる特徴を持った人型種族。五感の内視覚・聴覚・嗅覚がずば抜けて高く、足の速さではどの種族にも負けない。基本集団行動で、中には夜行性の者と昼行性の者がいる。

 

 こんな感じかな。もっとわかりやすく説明するなら、龍人族はステータスが運試しのソロプレイヤー向け、鬼人族はバリバリの前衛戦闘派、獣人族は索敵による奇襲・偵察タイプだね」

「へぇ。ちなみに鬼人族の力ってどれぐらいだ?」

「うーん、そうだね……………一応、あそこの木くらいなら蹴りで折れるくらいかな?」

 

 美香が例として指さした木を見てみる。

 ビル5階分はある立派な木だ。

 幹の直径は約150cmと言ったところか。

 

「蹴り方は?」

「えっとね、こんな感じ」

 

 さらっと聞くと、美香が何の疑問もなく『えいっ』と空手の要領でその木に後ろ回し蹴りをぶつけた。

 ドンッ、という物が物に当たったような音はならず、バキィ、という明らかに何か太い物が折れたような音が鳴った。

 えっ?と思った瞬間、美香が蹴った部分から凄まじい速度でひびが入り始め、木が勢いよく折れた。

 本人は軽い気持ちで蹴ったのだろう、まさかの出来事に放心状態となり、口をあんぐり開けてポカーンとしている。

 折れた木はそのまま大地に倒れ、森全体に地響きを発生させた。

 しばらくその状況に俺達が呆然としていると、美香が何事もなかったかのような表情でこちらに顔を向けた。

 

「……………ね?こんな感じで折れるよ?」

「うん、とりあえず美香の力が凄まじいってことはよくわかったよ」

 

 多分鬼の力に空手の技術が加わったことで威力が倍増したのが原因だと思うが、何にせよ蹴り一発で大木を折ったのは驚きだ。流石は異世界。

 まぁ、やった本人が一番驚いていると思うが。

 しかし、この折れた木どうしよう。

 さっき大きな音を立てて倒れたからな、この森にいるかもしれないモンスターが聞きつけて俺達を襲いに来る可能性がある。

 来たところで美香が馬鹿力で折れた木をぶん回せば何とかできそうな気もしなくはないが、この世界について知らないことが多すぎる今、可能なら戦闘は避けたい。

 けどこういう時に限って何かしら起きるのが世の常なわけで、

 

「……………何か、来てる」

 

 朱音が頭部の耳をピクピクと動かし、何かが近づいていることを俺達に伝える。

 これがフラグというものか。

 そしてどうやら美香の設定は、朱音にも反映されているようだ。

 現に俺達には何かが来ている気配すら全く感じない。

 しかし彼女はしきりに耳を澄ませて、森のある一点を見つめていた。

 

「朱音、何か聞こえるのか?」

「うん……………何かが、二足歩行で走ってる……………二人?一人はとても必死に走っていて、その後ろをもう一人が走っているみたい……………追いかけられてる?」

「追いかけられてる?もしかしてそれ、誰かが誰かに襲われているってことなのかな?」

「多分……………逃げている人が何かしゃべってる……………女性?『捕まりたくない、助けて』って」

「声もわかるのか……………それにしても助けて、か。これで完全に襲われていることは確定したな」

「だね……………あ、見えてきた……………っ⁈」

 

 俺達の耳にも何かがガサガサと音をたてながら近づいてきているのを感じた時、朱音にはその姿が見えてきたようだ。かなり青ざめていることから、状況は思わしくないことがうかがえる。音がだんだん大きくなってきた。

 

「ひどい怪我……………逃げているのは、エルフ?。そして追いかけているのは、人間っぽい」

「……………ちなみにここに着くまではあとどれくらいだ?」

「…………………………今!」

 

 朱音が叫んだのと同時に、茂みから何かが飛び出してきた。

 人のようだが、耳がとがっている。朱音の言う通り、エルフのようだ。

 髪は黄色く無造作に伸びきっている。

 服はその原形を留めておらず、ボロボロになっている。

 身長は160cm前後。

 全身が傷だらけで、足からは血が流れていた。

 グリーンアイの瞳が必死にこちらを見つめている。

 

「君、大丈夫か?」

「………………………っ⁈」

 

 状態を確認しようとすると、何かに気付いた彼女は俺達の後ろに隠れた。

 すると今度はその茂みから、見るからに悪役系モブの顔をした汚い禿げのおっさんが現れた。

 おっさんは俺達の後ろに隠れたエルフを見て、俺達に話しかけてきた。

 

「おい魔物共!今お前らの後ろに隠れたエルフをこっちに渡せ。そうすれば命だけは助けてやる」

 

 うわぁー、完全にモブキャラの発言だよこれ。

 俺達めっちゃなめられてるよ。

 ふと、何か殺気のようなものを感じる。二人に目を向けると、お怒り状態だった。

 そりゃそうだ。今俺達の後ろに隠れたエルフの状態を見て、このおっさんの発言を聞いて、腹が立たない方がおかしい。

 なので、俺が先陣を切って、

 

「エルフよりもおっさん、俺はあんたの将来が心配だぜ」

「俺の将来だと?」

「あぁ、だってお前あれだろ?()()()()()だけじゃなく、()()()()()()、ってやつ」

「なっ⁈」

「「ぶっ‼」」

 

 頭を指さして挑発した。

 おっさんは突然のおやじギャグ兼罵言に驚く。

 両隣にいた二人は俺のギャグがツボになったのか吹き出して笑っている。美香に関しては腹を抱えている。

 後ろのエルフはきょとんとしている。

 

「……………て、てめぇ……………魔物の分際で調子に乗るなよ!」

 

 怒りが頂点に達したおっさんは、腰に掛けていた剣を抜き、矛先を俺達に向けた。

 いや、あれは剣と言っていいのか?

 確かにあれを収納している鞘は紛れもなく剣の形をしている。

 しかしそこから抜かれたのは、剣のような刃をいくつも持った鞭だ。

 あんな特殊な鞭……………いや剣?やっぱ鞭?あーもうわからん、とにかくへんてこりんな武器を俺達に向けた。

 

「驚いただろ?この剣はそこらの剣とは一味違うぜ。こいつの名は」

鞭剣(ウィップソード)。剣形態と鞭形態の二つの姿を持つ武器。近くの敵は剣で、遠くの敵は鞭で攻撃と臨機応変に戦うことができる。しかしその構造の難しさから扱えるものは少ない。ジャンルは剣」

「そうそう、鞭剣といってな……………って、おい!俺の説明を横取りするんじゃねぇ!」

 

 おっさんが説明する前に朱音が解説をする。

 というかやっぱり剣なのね、あれ。

 

「というか朱音、知ってるの?」

「うん。なんか見たことがあったから」

 

 見たことがある?

 転生してからあんなの見たことあったか?いや、俺はない。

 とすると、前世でか?でも前世であんなの見る機会なんて一度も……………

 いや、まて、まさか。

 

「ちぃ、さっきから鬱陶しい奴らだ。この一撃で灰にしてやる!【縛炎陣(フレイムサークル)】!」

 

 おっさんが鞭をグルグルと回しながら魔法を唱える。すると鞭に炎が纏い始め、渦になった炎が俺達に方向を向ける。

 けど俺はおっさんの魔法を聞いた途端、ある仮説にたどり着いた。

 そして俺は気付いた。この世界の概念について。

 炎が襲ってくる直前、俺は後ろのエルフの子に質問した。

 

「……………一つ質問なんだけどさ、君って“転生者”に、会ったことある?」

「……………⁈(コクッ)」

 

 言葉は出なくとも、首を上下に振って肯定する。

 俺の質問と彼女の反応を確認した美香と朱音は、その意図をすぐに理解した。

 やはりそうか。

 転生者をこの子が知っている。

 それが分かっただけで、俺達はこの世界の構造をおおよそ予想できた。

 美香が設定した種族の能力の反映。

 朱音が前世で見たことがあるという武器。

 転生者の存在。

 そして俺達がこの姿になっていること。

 それらは全て、ある一つの仮説を成り立たせるのには十分だった。

 

「なら話は早い。美香、朱音、今からちょっとあのおっさんにとっておきをお見舞いするから、その子と一緒に少し離れておいて」

「あいあいさー。派手にやっちゃって!」

「うん、了解。エルフさん、こっち」

 

 朱音と美香がエルフの子と一緒に先ほど倒した木の陰に隠れる。

 おっさんの炎の渦がこちらに迫ってくる。

 

「隠れたって無駄だ!なんせ【縛炎陣】は」

「視界に入るもの全てを焼き払う火属性の広範囲攻撃スキル、だろ?」

「っ⁈ふ、ふん、魔物のくせによく知ってるじゃねえか」

「まぁな。でもなおっさん、それで俺達に勝てると思ったら大間違いだ」

「いちいちむかつく言葉を並べるんじゃねぇ!」

「事実を言ったんだけどなぁ……………仕方ない」

 

 体を横に向け、右手をおっさんに向ける。

 脳内で発動したい魔法(スキル)を想像し、キーボードを打つ要領で詠唱(コマンド入力)する。

 すると右手からバチバチと炎が発生し始め、やがて手のひらサイズの大きさに変化した。

 不思議とそれからは熱さを感じない。これが魔法か。

 おっさんが「死ねぇ」とか「くたばれぇ」などとほざいているが、その言葉そのまま返してやるよ。

 

「一発しか撃たねえから、死ぬなよおっさん?」

「うるせぇ!死ぬのはてめぇだ!」

「やれやれ、じゃあ行くぜ」

 

 炎の渦が俺を包む直前で右手を大きく後ろにさげる。

 そして当たる直前に魔法の名前を叫び突き出した。

 

 

 

「エクストラスキル【爆炎砲(ブラストバァン)】」

 

 

 

 次の瞬間、俺の右手が眩しいぐらいに光り、直後おっさんの魔法を打ち消し、そのままおっさんに直撃。

 その後どうなったかはもう想像できるだろう。

 俺の予想をはるかに上回る威力の爆炎を起こしたそれは、おっさんを黒こげにし、森の一部を文字通り消滅させた。

 おっさんの魔法の威力を手榴弾並と仮定するなら、俺の魔法はおそらくダイナマイト並だ。

 このとき俺の心にあったのは、やっべやりすぎた、という感情だけだった。

 けれどこれで仮説は立証された。

 俺達はこの世界の概念を知っている。

 この世界に存在する魔法やスキルは俺が作ったもの。

 この世界に存在する種族の設定、つまり種族ごとの能力は美香が作ったもの。

 この世界に存在する道具は朱音が作ったもの。

 そう……………俺達が考えたゲーム【シブリング・オブ・アンレイス】の設定が、そのままこの世界の概念として反映されている。

 何故そんなことが起こったのかはわからない。ただ、その事実だけははっきりとしていた。

 『第二の人生』をコンセプトにした世界、俺達が望んだ世界。

 その世界が今、現実として目の前に存在している。

 俺は心の中で転生させてくれた神に感謝していた。

 俺達は転生者。転生先は、俺達の世界。俺達は、俺達が望んだ世界で、第二の人生を迎えることになった。

 

「……………まぁそれはさておき、これどうしよう」

 

 先程の魔法で黒焦げになって気絶しているおっさんとその後ろに広がった元森の部分を見ながら、俺はこれの後始末をどうしようか考えることにした。

 ……………とりあえずおっさんはそこら辺のツルで縛って吊るしとくか。




どうしても展開がはやくなってしまいます。
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