モブのおっさんと戦闘(一方的)で勝利した後、おっさんをツルで吊るしあげた俺は大木の陰に隠れている朱音と美香のところに向かった。
彼女と一緒に隠れていたエルフの子の状態はというと、意識を失ったのか美香に膝枕されていた。
朱音が確認したところ命に別状はないようだ。
安心して大木に腰掛ける。するとカランという瓶に当たった音が聞こえた。何だろうと思ってみてみると、そこには綺麗な色をした液体が入った手のひらサイズの瓶が沢山置かれていて……………って、ちょっと待て!
「えっ?はっ?ちょ、これってまさか、ポーション⁈」
「うん、当たり」
「当たり、じゃねぇよ!一体どうしてここにポーションがあるんだ!しかも大量に!」
「……………なんか、出来ちゃった」
「は?」
俺がエクストラスキル放った時に何があったのかは、美香が話してくれた。
何でも俺の指示に従って隠れた場所に偶然『ヤエグラ
そしてそれを見つけた朱音が、エルフの子の傷を治せるんじゃないかと思い掴んだ瞬間、何かのスキルが発現したような声が脳に響いたという。
んで、俺が放った【爆炎砲】の爆風に目をつぶり、収まったころに目を開けたらなんと掴んでいたヤエグラ草を含めた周辺の薬草が全部ポーションに変化していて、理由はともかくこれだけあれば十分だと思い使ったところ、まさかの一本だけで事足りるという結果に。
確かによく見てみると、さっきあったエルフの子の傷が完全になくなっている。
「で、その余りがこれ全部、と?」
「うん」
「……………なぁ朱音。ちなみにスキルの名前は何て言ってた?」
「えっと………ユニークスキル【
「マジかよ」
朗報、朱音はチートスキルを手に入れた!
あの状況でこの子、しかもそのスキルを手にするとは………やはり天才か!
「えっと勇人?朱音が手に入れたスキルって、何なの?」
「ユニークスキル【
「うん。正確には、プレイヤーが手に入れた錬金のレシピに書かれた特定の材料を組み合わせて、レシピの道具を作り出す機能」
「そうそう。そして朱音、その錬金で作り出せるものはある程度決まってるだろ?武器の形とか、道具の能力とか」
「もちろん、というか当たり前」
「そう、当たり前だ。けど【創造】は違う。簡単に言えば【創造】は、【シブリング・オブ・アンレイス】のアイテムクリエイターそのものになれるスキルだ。ゲーム内にはない新たな武器や道具の生成、更にスキルで作ったものにはある程度自由に能力を付け加えるだって可能。つまり、『即死効果を持つ必中のレールガン』なんていう小学生が考えそうな『俺最強』武器とか、『一回使えばあらゆる攻撃を受け付けなくなる無敵状態になるチートアイテム』とかも材料次第で作れるってことだ」
「「何そのありえないぐらいぶっ壊れ性能のチートスキル」」
「そんなスキル作ってたの勇人⁈ダメでしょそれ‼」
「ゲームバランス崩壊、免れない」
「そういわれると思ったから俺は没にしたんだよ!絶対に黒歴史になるって思ってさ!それがなんで、よりによってリアルアイテムクリエイターである朱音に発現してるんだよ⁈」
「そんなの勇人が作ったからでしょ⁈」
「だから没にしたって言っただろ!存在しないはずのスキルなんだよ!」
「でも実際に発現した……………何で?」
「俺が聞きてぇよ!」
さっきも言ったように、このユニークスキル【創造】は、本来【シブリング・オブ・アンレイス】には存在しないはずのスキルだ。
その破格の自由度によるバランス崩壊が起きると思って、作ってすぐに破ってゴミ箱にダンクシュートした。それは確実だ。
なのになぜその黒歴史が今、この世界で存在して……………
は!まさかこの世界には、俺が作った没ネタのスキルが他にも存在しているのでは?
もしそうだとすれば、色々やばいぞ!
その没スキル、全部ぶっ壊れ性能だし!
あ、でも全部ユニークスキルだから、世界でたった一人しか持たない能力っていう設定だし、複数いないだけマシか?
そしてその中でもかなりやばい【創造】が朱音に発動したのが幸いか?おかげで世界中に核爆弾の雨がふる、なんてことにはならないと思うし!
そうだ。そういうことにしよう!
考えをポシティブにするんだ!
「……………まぁ、出てしまったものは仕方がない。本職クリエイターの朱音以外にこのスキルが発動していないってことだけでもラッキーってことにしよう」
「……………そうだね。朱音なら【創造】ってスキル使いこなせそうだし。それに、あまり悪いこともし無さそうだし」
「悪いこと……………うん、しない」
「おい、なんだ今の間は?」
「気のせい気のせい」
なんか企んでそうな気がしたが、まぁいいか。
朱音は頭もいいし、真面目だから。
「ところで勇人、あの森どうするの?」
「森?……………あぁ、すっかり忘れてた」
朱音のポーションの話で夢中になり、エクストラスキルぶちかまして焦土になった森のことをすっかり忘れていた。
エルフの子の状態も確認できたし、おっさんも捕縛できたし、後はこれをどうするかだな。
本当は今すぐエクストラスキルで元に戻せなくもないが、魔力が心配だ。
ぶっちゃけさっきの【爆炎砲】で、魔力っぽい何かが一気に体から無くなった感覚があった。量でいえば多分5割強ぐらいか?もしエクストラスキルで使用する魔力が全部それぐらいだとして、次発動したら多分俺ぶっ倒れる。できればそれは避けたい気持ちだ。
「かといって、このままの状態にするのはなぁ………なんか申し訳ない」
「なんかって………でも確かに、こんな爆炎で森を消滅させたのはまずいと思う」
「うん。もしかしたら、このエルフの人達が怒ってこっちに来たりして」
「エルフ……………そういや美香、エルフってどんな種族なんだ?」
「うーん………簡単に言えば、『森の守護者』ってところかな?」
「森の守護者って、完全に俺がやばいやつじゃねえか」
「かもね。でもまぁ、基本的には話が分かる種族だし、真実を言えば許してもらえると思うよ」
「だといいんだが。最悪この子を守るためにしましたって言えば済むか?」
「多分ね。ちなみにエルフ族は比較的女性が多い種族で、森のことなら何でも知ってることから『森のレンジャー』とも呼ばれてるよ。とがった耳を持っているのが特徴で、動物たちの必要以上の無駄な殺生を嫌ってる」
「必要以上って、どんな時に必要なんだ?」
「大体は食事の時。ほらエルフって木の実しか食べないイメージがあるじゃない?あれ、私どう考えても栄養偏るじゃんって思ったのよ。だからさ、どうやったら『森の守護者』というイメージを崩さずにバランスよく栄養を取るように出来るかなって悩んだのよ」
「いや、めっちゃどうでもいいところで悩んだなお前」
「何言ってるのよ、こういう細かい設定を考えるのが楽しいんじゃない♪それで私は考えた。『動物や植物たちがもたらす恩恵をものすごく大事にする種族ってすればいいじゃん!』てね。そうして出来たのがさっきの『必要以上殺さない』って設定。結構上手くできてるでしょ?あとは、自分の命にかかわる状況になったりとか、どうしても殺さざるを得ない時とかぐらいかな」
「まぁ、上手か下手かでいえば、上手だな。ゲームになってたら多分ものすごくいらない設定になりそうだけど」
「まあまあ、そこは気分の問題だし、いいじゃない」
「ところで美香、エルフ族って強いのか?」
「どうだろう。エルフ族は基本弓を使った遠距離戦闘や回復魔法を得意とした支援タイプだから、ソロには向いてないと思う。あ、でも集団になると結構強いかも。あとフィールドが森だったら尚更強くなるかと」
「フィールドって……………俺達地形の設定なんてまだしてなかったぞ?」
「だから、そこは気分の問題だって!あぁ、あともう一つ。勇人と朱音ってさ、エルフといえばこの子みたいなカラーリングをイメージしてるでしょ?」
「あぁ、髪は黄色で目が緑、服も緑っていうのがセオリーだな」
「うん……………違うの?」
「頭が固いなぁ、二人とも。エルフていうのは基本的に『耳がとがっている』のが一番の特徴なの。つまりカラーリングとかに決まりはない、だから私はキャラメイクの設定で色んなカラーリングのエルフ族を作ったの。そしたらみんなすごく綺麗で可愛くなっちゃって!もう興奮が止まらなかったわ!思い出しただけで……………フヘヘヘ」
美香が自分の世界に入ってしまう。
そういえば美香って可愛い人形がものすごく好きだったな。
キャラメイクの時、人形に似たものを感じたのだろう。
顔はめっちゃダメな状態になってるけど。
というかフヘヘヘって、不気味な笑い方だな、おい。
気を付けないと変質者と思われるぞ?
「動くな、静かに手をあげろ」
そうそう、こんな風に後ろから首元に剣を近づけられて動くなって言われて警察みたいなのに捕まってしまうぞー……………って、うん?
「「「え?」」」
突然の女の声に間抜けな声を出してしまう。
さっきまで誰もいなかったはずなのに、気が付いたらエルフ族と思しき集団に囲まれてしまっていた。全員こちらに弓を構えている。
さすがの美香も現実に戻ってきたらしく、今の状況に混乱している。
二人に視線を向けて、とりあえず言われた通りにしようと俺達は手をあげた。
「……………やけに素直だな。少しは抵抗するものだと思っていたが」
「えっ、抵抗したほうが良かった?」
「いや、我々としてはそのほうが助かるのだが……………まあいい」
リーダーと思われる女性エルフが指を鳴らす。
すると何人かエルフが俺達に近づき、本当の警察っぽく後ろに腕を回され手錠らしきものを掛けられた。
そして美香の膝の上で眠っているエルフの子を彼女たちが回収し、俺達はその場で立たされた。
「
「「「はーい」」」
「この後お前達には我々の国に来てもらい、この惨状となった森や彼女と出会った経緯などについて詳細に話してもらう」
「「「了解でーす」」」
「それと、この大量のポーションは全て没収するが、構わんな?」
「「「どうぞどうぞ」」」
「あと、まさかとは思うが、あの吊るされた人間はお前達のな」
「「「エルフを襲って楽しんでそうな奴が仲間な訳ありません。むしろ敵です、あんなクソザコハゲ頭腐れ外道」」」
「そ、そうか。ならいいんだ」
あのおっさんをエルフたちが拘束しようとする際、リーダーエルフが仲間かと聞いてきたので、きっぱりと否定させてもらった。
他は別に疑われても仕方がないと思うけど、それだけは絶対認めない。
あんなやつが仲間とか人間失格、というより生物失格だろ。
「……………本当に抵抗どころか口答えすらしないな。ここまでくると、逆に何かされそうで怖くなってきたぞ」
「それは…………なんかごめん」
「別に謝る必要はないのだが……………全く、不思議な奴らだ。ではついて来い」
リーダーエルフが歩き始めたので、俺達もその後を追うようについて行った。
一応俺達に掛けられた手錠は繋がっているようで、一人のエルフがその末端と思われる縄を掴んで俺達の横を歩いていた。本来なら彼女が俺達を引っ張って連れて行くはずだったのだろう、あまりにも素直について行く俺達を見て複雑そうな表情をしていた。
今度からは少し反抗してみようかな、そんなことを思いながら俺達はエルフたちの国へと向かったのだった。
スキルなどの設定を1から作る小説家の皆さんを尊敬します。