駆逐艦響戦闘詳報   作:Вер提督

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今日はイベント最終日ですね。私はこれが投稿される少し前にようやくE4を突破したところです。マエストローエ欲しかったのでこれで満足。
ゴトランド?すまねぇ、亜米利加語はさっぱりなんだ。


第七報告:昭和二〇年 三月二九日 日本/瀬戸内海周防灘

第七報告

 

昭和二〇年 三月二九日

日本/瀬戸内海周防灘

 

 三日前、天一号作戦が発令された。

 

 天号作戦。

 発動される事のなかった捷号作戦を練り直したものである。

 沖縄方面に迫った米艦隊を食い止める最後の戦いだ。

 

 響は25mm単装機銃などの増備工事の途中であったが、それは打ち切られ呉を出港した。

 つまり、漸く響にもお呼びがかかったのである。

 

 戦艦大和(やまと)

 それを護衛する、旗艦矢矧(やはぎ)七駆(潮、響)一七駆(磯風、浜風、雪風)二一駆(朝霜、初霜、霞)四一駆(冬月、涼月)から成る第二水雷戦隊。

 大戦を生き延びてきた歴戦の兵で構成された部隊だ。

 

 正しく最終決戦。

 不謹慎ながら、響は久方ぶりに昂揚していた。

 これは艦隊決戦だ。

 敵には空母も戦艦もいる。

 あの回天のように、自分たちも特攻を仕掛けるのだ。

 聯合艦隊の誇りを胸に、突撃するのだ。

 

 大和をちらりと盗み見る。

 その面持ちを見ずとも判る気迫溢れる気配。

 彼女は今まで活躍の場が無かった。

 大艦巨砲主義は終焉を迎え、余りにも燃料効率が悪い大和が運用される筈が無かったのである。

 

 この上ない晴れ(散り)舞台、焦がれ続けた死に場所(最期の海)

 

 やっと望みが果たせそうだ。

 皆、生きて戻れるとは思っていないだろう。

 我らの死は歴史に刻まれ、日本国の礎とならん。

 

 この戦いが戦局に与える影響は微々たるものだ。

 無いと言っても過言ではないかもしれない。

 だが、これは無意味なものではない。無価値では、ない。

 

 大和たちは聯合艦隊が持つ最後の力だ。

 長門や伊勢は動けず、雲竜型の空母も艦載機が無く無力。

 駆逐艦や海防艦、哨戒艇などは若干残存しているが、それも米国の大艦隊の前には無力だ。

 それでも、水雷戦隊の旗艦能力を持つ最後の艦として、矢矧の妹である軽巡洋艦酒匂(さかわ)は最も敵襲されづらい舞鶴基地にて待機を命じられていた。

 酒匂にとってそれは意に反するものであったようだ。矢矧に縋り諭され、大和に一喝され、ようやっと後ろ髪を引かれる思いで絞り出したであろう「御武運を」で彼女は通信を切った。

 彼女も響と同じように、〈出撃できない〉側だったようだ。

 

 だが響は今回出撃する。今度こそ、出撃する。

 二水戦の一員として、旭日旗に恥じぬ戦いをご覧に入れよう。

 響の意気込みは、今まで参戦できなかった鬱憤を晴らすかのように鬼気迫るものがあった。

 

「ひ、響ちゃん」

 

 潮が躊躇しながら響に声をかけた。

 

「何」

 

 響は言葉少なく返答。

 

「あの、ちょっと……殺気立ちすぎというか……少し落ち着いた方が……」

 

「そうか。気をつける」

 

 ぶっきらぼうに返事をしたが、響は潮を悪く思っている訳ではない。

 潮はレイテ沖海戦で壊滅した一水戦の生き残り。

 響に砲塔を提供し、居なくなった姉たちの席(第七駆逐隊)を響に貸してくれた。

 感謝はすれど、という奴だ。思えば、響の仲間にはそういう人しかいない。皆、優しく微笑んで響を暖かく包んでくれた。

 

 潮は何かと響に気を配っていた。

 同じ特型である事も一因なのだろうが、彼女の思いを無下にしたくなかった。

 

 何より、電に似ているのだ。言動も、心の優しさも。

 

 この特攻作戦で、死なせたくなかった。

 ()はこんな戦争で死んで良い人間じゃない。

 だが、彼女も響と同じく誇りを胸に戦う軍人なのだ。その覚悟を穢す事は能わず、止める事など出来ようもない。

 

 潮の目は疲れていた。

 雷轟沈の報せより後、響がふと電を見やると浮かべていた表情と同じ。そして響が見ている事に気づくと、僅かに間を置いて笑ってみせるのだ。その姿は弱々しく、今にも折れそうで、響は自らに怒りを覚えずにはいられない。

 電に、潮に。彼女たちにそんな顔をさせる自分が許せない。

 何よりも、姉妹たちを、仲間たちを殺した敵が許せない。

 

 ……嗚呼。赦せる筈が無い。

 

 特攻だ。

 どうせもう戦争には()()()()

 

 そう考えた途端、響は真っ()になった。

 嗚呼、特攻。いいじゃあないか。

 私たちを殺した鬼畜米英を、少しでも。

 

 潮は「殺気立ちすぎ」と言った。

 確かにそうかもしれない。

 今までが自堕落だったのか解らないが、項垂れ罪悪感を吐き出しながら謝罪を念ずるしかなかった。

 だが今は。敵意を抱きこそすれ、ここまで明確な殺意を燃やした事は無かった。

 沸騰した血で脳が沸き立つ。

 

 故人は戻らない。

 否、戻す事も場合によってはできなくもないが、かの米国と違って日帝にその力はない。

 ならば。この鬱憤を、悲憤を、私憤を。少しくらい敵兵に向けても許されるだろう。

 いや、赦されないだろう。当然だ。その刃は自分に向けて跳び還ってくる。

 素晴らしい。

 巡洋艦を、駆逐艦を、潜水艦を、航空機を。

 魚雷で、艦砲で、爆雷で、機銃で。

 墜とそう。沈めよう。殺そう。

 

 既に呉を出撃して幾許か経つ。

 元は潮の手にあった艤装(砲塔)を強く握りしめ白い眼を紅く滾らせる響を、潮は哀感の目で見る事しかできない。

 しかし、大和も、矢矧も、他の駆逐艦たちも何も言葉を発しない。

 航行中なのだから当然と言えばそうなのだが、余裕が極端に失われている。無理からぬ話だが他人を慮る程の余力が無い。

 皆、姉妹の全て、或いは殆どが英霊となったのだ。

 

 姉妹が、戦友が、僚艦が。

 死に逝くのを目の当たりにし、無力を噛みしめてきた。

 脳裡にちらつく惨劇を、悲鳴から目を逸らしながら今まで戦ってきた。

 

 だが、それも今日までだ。

 この艦隊は、死地に赴いているのでは無い。

 更にその先。亡き者たちの元へ、靖國に向かっている。

 

 御国の為にと敢闘し奮闘し力闘し。

 そして最期に華々しく散る。

 

 軍艇として、聯合艦隊最後の力として()めを果たしながらも、この呪縛から解放される事ができるのだ。

 敵艦隊も大戦力で我らを攻めてくるだろう。

 大日本帝国海軍聯合艦隊の落日に相応しい舞台を米海軍(ネイビー)どもに見せつけてやる。

 我らの死、沖縄諸島の陥落を以て米軍は本土に侵攻してくる。

 そして日帝にはそれに抗う力は無い。敗戦濃厚、然し只で死んではやらぬ。

 我らは最後の刃となり、敵に切り傷を残してやろう。

 意気込みは十二分、戦意は揚々、弾薬燃料も戦闘に支障がない程度にある。

 これで戦果を挙げられぬようでは、戦士を名乗れない。

 母港に別れを告げいざゆかん、目指すは南西。

 

 

 そして。

 血走った眼を滾らせる響を災難が襲った。

 本人の油断と言えばそうなのかもしれない。注意不足と言われても反論できない。

 そう、災難だ。

 

 端的に言うと、響は触雷した。

 後ろの(ほばしら)直下付近にそれは当たり。

 しまった、そう感じる時間すら無かった。

 機雷だったのか、潜水艦の魚雷だったのかは判らない。

 しかし、米国の魔の手は無慈悲に響の意識を刈り取った。

 

 駆逐艦響、自力航行不能。艦電源切断。

 

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