呪腕先生は人理修復後、ハルケギニアに呼ばれたようです 作:海棠
まぁ確かに自分も以蔵さん好きだけど土佐弁難しいんじゃあ・・・。
それに以蔵さんはすぐにボロだしそう。
夢を見た。
夢を見た。
眠る必要などない己が夢を見た。
それは絶望に抗うものだった。
それは希望に願うものだった。
己はおちこぼれではないと必死にあがき、努力する美しき無垢な魂だった。
しかし神様は、運命は残酷だ。彼女にあまりにも恐ろしい牙をむいた。
彼女は烙印を押された。
あまりにも屈辱。
あまりにも無様。
あまりにも、あまりにも・・・
「これではあんまりではないか…!」
思わず内心を口にした。
だが彼女は恨まなかった。世界を恨まなかった。
すべて己の未熟さが悪いのだと。嘆いた。
さらに、さらに自分に磨きをかけた。
そして・・・
『サーヴァント、アサシン。陰より貴殿の呼び声を聞き届けた。―――問おう。貴方が私を求めしマスターか?』
「・・・あぁ、そうか」
彼は意識を取り戻しながらつぶやいた。
「・・・彼女は、似ているのだ。生前の私の生き様と。だからか。だからこんな未熟者を呼び出したのかもしれませぬなぁ」
そう独白すると彼は下着をつかんで廊下に出た。
まだ生徒の子供たちが誰も起きていない中、廊下にその姿はあった。
まるでそこにいないかのような存在感の薄さ、それとは対称的に大柄な肉体。それを覆う黒い布。白い骸骨を模した仮面。
そんな彼の名は『アサシン』。彼は何かを探すようにふらふらと廊下を歩いていた。
「かなり広いな…。ここの間取りもいずれ把握しなければ・・・」
そんなことをつぶやいているとすると背中に何かぶつかったような感覚がした。それと同時に何かが床に落ちる音がした。
「・・・・む?」
彼が後ろを向くとそこにはタオルに埋もれている誰かがいた。
「大丈夫ですかな?」
とりあえず例文のような言葉をかけながら彼は埋もれている人の手をつかんでタオルの山から引きあげる。
出てきたのはメイドだった。黒い髪にそばかす。綺麗というよりは可愛い系の子だ。どことなく極東系の顔つきをしているように見える。
「え、あ、ありがとうございまs・・・ぴゃっ?!」
そんなことを考えているアサシンに対して彼女はお礼を言おうとしたが彼の顔を見た瞬間悲鳴に変わった。顔には恐怖がうつる。
そんなに怖いだろうかと彼が少しナイーブな気持ちになっているとメイドが話しかけてきた。
「あの、あなたは・・・?」
「あぁ、すまない。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢の
「あ、えっと、私はシエスタと申します。・・・・あの、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔の方、ですか?」
「ご存じで?」
「はい、少し有名になっていましたから」
すると彼は少し不機嫌になった。サーヴァント、特にアサシンのクラスは一部を除いて隠密を常とするクラス。それが有名になることはあまりにも己にとって不都合なことだった。
(まぁ、今更か)
「ところで、その・・・」
「ん?あぁ、これですか。魔術師殿に頼まれましてな。しかしどこに洗い場があるのかわからず困っていたところなのです」
「あの・・・、それなら私が代わりにしましょうか?」
「かまわないのですか?構わないのならうれしいのですが」
「かまいませんよ。ささ、私に任せてくださいな♪」
「ではお言葉に甘えて。あとはよろしくお願いします」
そう言って下着を手渡すと彼はその場から姿をかき消した。またシエスタはびっくりした。
ところかわってルイズの私室。戻ってきたアサシンは己を霊体化してドアをすり抜けると彼女を起こすためベッドによる。
「むにゃむにゃ・・・くらいなさい、キュルケ」
「・・・」
「フフフ…いい気味ね」
「・・・コホン。朝ですよ、魔術師殿」
「んん・・・?」
ルイズはゆさゆさと体をゆすられて夢から徐々に覚醒する。
そして目を開くとそこには仮面をつけた大男が立っていた。
「ぴゃあっ?!」
彼女はびっくりして飛び起きた。その拍子にベッドから落ちるとそのままゴロゴロと転がって距離を取る。
「いてて・・・あんた誰よ?!」
「もう忘れでおいでですかな?!」
「・・・あぁ、そうだったわ。私が召喚したんだったわ」
「着替えはこちらにありますぞ」
「あぁ、うん。・・・ん?」
「どうかいたしましたか?」
「え、いや、右手・・・」
彼女の右手を見るとそこには赤い模様が刻まれていた。
「む・・・それは令呪ですな」
「れいじゅ?」
「えぇ。我々サーヴァントと契約した時に出る、絶対命令権のようなものです。昨日は手袋をつけておりましたし、すぐに寝たので気づかなかったのでしょう」
「へぇ・・・」
「ちなみにそれは3回までしか行使できませんので慎重にお使いください」
「え・・・、あ・・・、・・・えぇ」
「・・・使おうとしましたね?」
「・・・」
「・・・再度申しますが慎重にお使いください」
「わ、わかったわよ!何度も言わなくてもいいじゃない!」
「失礼いたしました。では私は外で待っておりますので」
「え?着替えさせてくれないの?」
「・・・あなたは好きでもない男に肌を触られたいですかな?」
「いや、いやだけど」
「そういうことでございます。ではごゆるりと」
そういうとアサシンは部屋から出る。それと同時に隣の部屋の扉が開いた。出てきたのは赤い髪に褐色肌の豊満な女性だった。ルイズを人形と例えるなら彼女はいかにも人間の女性らしい体つきというべきだろうか。
「あら」
「む」
二人はばったりと遭遇した。そしてお互いがお互いの特徴をつかむように眺める。まぁ、彼女の方からしてみれば仮面に覆われている彼の視線や表情などうかがうことなどできないのだが。
「あら、あなた・・・ルイズの使い魔よね?」
「そうでございますが?」
「・・・ローブ越しでよくわからないけれど、なかなかいい体してるわね。・・・そういえば自己紹介がまだでしたね。私の名前はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。代々伝わる由緒正しきツェルプストー家の娘です」
「ならばこちらも。私の名はアサシン。この度はルイズ殿のサーヴァントとして召喚された身でございます」
そう言いながらアサシンは一礼した。
「なかなか礼儀正しいですわね。ところで・・・もしよろしければ私の熱くたぎる劣情を受け止めてくださらないかしら?」
「(・・・何を言っておるのだ?こやつは)・・・いえ、私にとって今仕えるべき主はルイズ殿一人でありますゆえ、あなたのお誘いには乗れませぬ」
「あら、つれないわねぇ」
「それに」
「?」
「自分の体は大事になされよ。見ず知らずの男に自身の純潔を売るなどあまりにも無用心ですし、何よりあなたが後々後悔することになりますぞ?」
「・・・あぁ、そう。そこまで言われたら別に悪い気分はしないわね。でも、あなたは少し勘違いをしているわ」
「・・・?」
「私は情熱と欲望に生きる女なの。情熱はたぎればたぎるほど燃えるし燃えれば燃えるほどたぎるの。それに私は欲望をあまり隠さないようにしているわ。だから、さっきのは本音よ?」
「・・・なぜそのような生き方を?」
「簡単よ。欲のない、情熱もない人生なんて、あまりにもつまらないじゃない」
それを聞いた彼は仮面の下で眉間にしわを寄せる。彼女の言い分は正しい。人生には何かのアクセントが必要だ。強弱もない人生なぞ、つまらないに決まっている。
実際彼もそうだった。彼は暗殺教団の長になるために必死に努力していた時期があった。しかし、彼はすべてそつなくこなせたが特筆すべき”業”がなかった。寿命という期限があるが故焦った彼は外に手を出し、見事山の翁に襲名した。だがそれでも確かに高揚感と満足感はあった。しかしそれは彼が全てを失い、歴史に埋もれることになる羽目になるとはその時の彼は思いもしなかった。
これらすべては彼の大きな欲望が招いた結果である。だからこそ彼は欲望の危険さを人一倍よく知っているという自負があった。
そのことを話そうかと迷っていると再び部屋の扉が開いた。
「ちょっとキュルケ!何人の使い魔に粉掛けようとしてんのよ!さっさと散りなさい!」
「あら、ルイズじゃない。おはよう」
「おはよう。じゃなくってね!」
「この人、ルイズの使い魔よね」
「えぇ、それが?」
「見たこともない亜人よねぇ」
「それについては同意するわ」
「これでも元人間ですが」
「あんたみたいな人間がいてたまるか!」
「でも、私の使い魔には劣るわよねぇ。おいで、フレイム」
すると部屋からキュルキュルと鳴きながら尾の先端に火のついた竜が出てきた。その姿を見たアサシンは布の下でこっそりと短刀を構えた。対してルイズはどこか悔しそうな表情をしていた。やはりうらやましいのだろう。
そんなルイズを見た彼女は満足そうに微笑むと「ごめんあそばせ」とその場を離れていった。その後姿を彼はずっと注視するように睨んでいた。
「ところで!」
するとルイズから話を切り出した。彼はスッと顔を彼女に向ける。
「なんでございましょう?」
「あなたキュルケに話しかけられていたけど、まさか鼻の下とか伸ばしてないでしょうねぇ?!!」
「伸ばすもなにも・・・そもそも鼻がありませぬ」
「えぇ?!!!」
「それよりも魔術師殿、授業は急がなくてもよろしいのですか?」
「そ、それより先に朝食よ。・・・アサシン、運んでくれる?」
「喜んで」
彼は昨日と同じように彼女を抱えるとそのまま廊下を疾走した。
「貴方なかなか速いわね」
「恐縮の極み。我々サーヴァントにとってあなたのような娘を一人抱えて走ることくらい造作もない事でございます」
「さーヴぁんとというのは貴方みたいに全員力持ちなわけ?」
「いえ、我々の中でも強弱大小男女さまざまなサーヴァントがおりますが筋力もまた人それぞれ。ですがそれでもどれだけ低くても人間を圧倒できる程度の筋力はあります」
「へぇ、皆力持ちなのね」
「まぁ確かに一般人と比べたら皆そうなるでしょう」
一部のサーヴァントにケンカを売るような会話をしながら食堂に入ってくる二人。周りの生徒はみな食事をとり始めており、彼女らは一番最後に入ってきたことがわかる。
そして彼女が席に着こうとしたとき彼がさりげなく席を引くと彼女は少しうれしそうな顔をした。
「あら、なかなか気が利くじゃない。あなたにはこの床に置いてあるスープで済まさせようと思ったけど、気が変わったわ。これもあげちゃう」
そう言って彼女は鶏肉を彼に手渡す。しかし彼は手に取って少し眺めるように見つめるとそのままルイズのお皿に置き返した。
「あら、食べないの?」
「えぇ、私はとある事情で人の食事を受け付けない体になっておりますゆえ」
『『『・・・?!!』』』
さらっと彼が言ったことに周りの生徒も驚愕が隠せない。
何より一番動揺を隠せないのはルイズ本人である。あわあわと口をパクパクさせている。
(え?え?受け付けないってどういうこと?こいつ自己申告だけど一応元人間よね?なんで受け付けないの?人間食べなきゃ死んじゃうのよ?それなのに受け付けないってどういうこと?病気なの?)
「それに魔力さえ補給できれば私は現界できます。お気遣いなく」
「うん、あぁ、そう・・・そうなのね」
「そうでございます」
~しばらくして~
朝食を周りより少し遅く終えたルイズとアサシンが教室に入ると全員がこっちを見ながらひそひそ話をしていた。
耳をそばだてるとどうやら侮蔑の声が多いようである。
少しムッとしながらルイズは席に着く。もちろん彼は彼女のそばにたたずんでいる。
まるでそれは亡霊のように、まるでそれは騎士のように、まるでそれは従者のように周りからは見えたことだろう。
「おはようございます」
そんな中教室に入ってくる少し年を取った女性。彼女の名前はミス.シュヴルーズ。二つ名は「赤土」。ここの教師であり、温厚な性格と生徒からはもっぱら評判がいい。
「皆さん、春の使い魔召喚は成功したようですね。皆さんの姿が見られて私はとてもうれしいです」
そしてルイズの方を向いておや、という風な顔をして言った。
「あら、ミス・ヴァリエールは見たこともない亜人を召喚したのですね」
するとマルコリヌが騒ぎ始めた。
「おいおい、ルイズ! そんな使い魔を召喚してどうするんだ! 手伝いさせることしかできねぇじゃねぇか!!」
するとクラス全員が笑い出す。
言われた本人はとても悔しそうな顔をしたがそれを見たアサシンはすぐに彼女に耳打ちをする。
ボソッ「魔術師殿、こ奴らの言葉に耳を貸すな」
「え・・・?」
「こ奴らはこうして人を馬鹿にしなければ己を確立させられぬ身。それと比べたらあなたの方がよほど己を確立させられておられる。魔術師殿、気にすることはありませぬぞ」
「え、あ、うん・・・そうね、そうよね」
「それに言われるならば言い返してしまえばよいのです。言うということは言われる覚悟があるということ。そしてあなたは私とほかの使い魔との違いをすでに理解なさられているはず。ハッタリでも勢いよく言えば案外状況をひっくり返せますぞ?」
するとルイズはフンスと意気込み、スッと背筋を伸ばした。そして周りの奴らを見てハンッと笑い、堂々と言い切った。
「あら、じゃああなたたちの使い魔はしゃべれるのかしら?アサシンみたいにしゃべって身の回りをいろいろとサポートしてくれるわけじゃないのに、どうしてそうあたかも自分の使い魔は優秀だと思ってるの?」
するとクラスがシィン…となる。あるものは気まずそうに視線を背け、あるものは悔しそうに彼女をにらみつける。
「はいはい、皆さん口論はそこまでにして授業を始めますよ」
そう言いながらシュヴルーズは手をパンパンと叩くと黒板にカッとチョークを押し付ける。
彼女の授業はとても分かりやすかった。もともと聡明なルイズは当然として前回の職場の関係で知識を一部かじったことしかないアサシンでも内容を理解できた。
曰くこの世界の魔法の属性は【火】、【水】、【土】、【風】、そして過去に失われたとされている【虚無】の5つに分かれている。
曰くこの世界の
そして授業は流れ錬金の話になった。ミス・シュルヴルーズが石に唱えると金色の何かに変えた。
「それって金ですか?!」
キュルケが身を乗り出して訊く。欲望に忠実と豪語しているだけのことはある。金目のものには食らいつくのだろう。
「いえ、真鍮です」
先生がそう答えると彼女はつまらなさそうに席に着いた。
「ではこの『錬金』を…ミス・ヴァリエール、貴方にやってもらいましょう」
すると教室の雰囲気が凍り付いた。
「わかりました」
ルイズは何か問題でもあるの?みたいな感じで席を立ちあがった。
クラスから反対の声が上がる。
「先生、やめといた方がいいと思いますけど」
「そうです。無茶です、先生!」
「『ゼロ』に魔法を使わせるなんて!」
「危険です!」
アサシンは少しムッとした。自分の主人を悪く言われていい気分はしないのだ。しかし一つ気になることがあった。
("ゼロ"とはなんだ?なぜこ奴らはマスターを”ゼロ”と呼ぶ?)
「大丈夫です。ミス・ヴァリエールは授業の態度がよく成績もいいと先生の中でも評判です。彼女ならやってくれると私は信じています」
ミス・シュヴルーズの言葉を聞いたルイズは目に見えて歩みをさらに進めた。どうやらプライドと自信的な何かを刺激されたらしい。
「おい、そこの使い魔!」
するとマリコリヌがアサシンに声をかけた。
「私ですかな?」
「お前止めろよ!あのゼロのルイズの使い魔なんだろ?!」
「いえ、私は確かにマスターのサーヴァントでございますが今の私にはマスターを止める理由など存在しませぬ」
「くそが!」
「やめて!お願い!」
キュルケの悲鳴か嘆願にも思える叫び声も無視してルイズはずかずかと壇上に上がる。
全員が机の下に避難する。それを見たアサシンもようやくなにかを察知したのか、いつでも動き出せるように少し前かがみの態勢に入る。
「ふぅ・・・」
ルイズは少し深呼吸をする。
「『錬金』!!」
彼女は杖を石に向けてそう唱えた。すると石がカッと光り、爆風が起こった。次の瞬間、アサシンは思わず己のスキル「風除けの加護」を使ってするっとよけるとそのまま窓ガラスを割って外に脱出し、とととっと勢いを殺しながらステップを踏むように着陸する。そして教室の方へ向き直ると窓からはもくもくと煙が上がっており、嫌でも惨事が起こったのだとわからせてくれる。しまったと彼は思ったがパスはまだ切れていないからまだ生きているのだろう。大けがしているかもしれないと彼は慌てて再び中へ入っていった。
そこは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。使い魔たちは暴れまわり、ルイズには非難の声が飛ぶ。そして非難を浴びているルイズ本人は爆心地の中心にいたはずなのに傷一つついていなかった。ついているならすすくらいであろうか。だが彼女は今にも泣きそうな表情をしていた。
~しばらくして~
「ねぇ」
教室をアサシンが掃除しているとルイズは話しかけてきた。
「なんでございましょう?」
彼は掃除している手を止めると彼女の方に向き直った。
「なんか言わないの?」
「なぜ言う必要がございましょう?・・・しかし、そうですな。言うとするならば、あの爆発とあの威力…なかなか見事なものでした」
「なによ、それ。皮肉のつもり?」
「いえいえ、滅相もない。私は別に魔術師殿をとがめているわけではございませぬ。あの威力はいざ戦うときにとても有利になると思った次第です」
「でも・・・、皆のできることをできないのはアレじゃない?」
「アレ、とは?」
「・・・恥ずかしいってことよ。私って小さい頃から馬鹿みたいに努力してたのよ。でも無理だった。全然成功しなかった。・・・これが落ちこぼれ以外のなんだというの?」
「・・・」
「あなただって本当は分かっているんでしょう?私の肩書の意味。何もかも成功する確率0のゼロよ?笑いなさいよ」
「・・・」
「・・・失望したのなら笑いなさいよ!どうせあんたも私を見下してるんでしょ?!!」
「・・・魔術師殿」
「なによ!」
「質問を質問で返すようで大変申し訳ありませんが、なぜ見下す必要がありましょう?」
「え・・・?」
「私はただあなたに従うのみ。落ちこぼれかどうかなど私にはよくわかりませぬ。なぜなら、私は魔術師ではないのだから。ですが、あなたが頭脳明晰で人情に厚いということは何となくではありますが理解しているつもりです。私はこれに不満なぞありません。笑う必要も見下す必要もない。それに」
「?」
「私も生前は落ちこぼれだったのです」
「え・・・?」
「歴代19人いた山の翁、その一人が私です。ですが私は他の候補とは違い、己独自の業を持っておりませんでした。だからこそ外からその業を取り入れたのです。そして生まれたのが今の私だ」
「・・・っ」
「おそらく今の私はあなたに己自身を映しているのかもしれませぬなぁ。ですがこの忠義は本物だと、間違いなく言えるのです」
それは絵画だった。見た人は確実にそう言えるだろう。黒塗りの暗殺者と可憐な魔術師。あまりにも正反対。あまりにも対極。だがそれは違和感なく風景に溶け込んでいた。
「それはそうと魔術師殿」
「?」
「話は変わりますが実をいうと私、以前
「・・・何が言いたいの?」
「・・・あくまで個人的な感想ですが、あなたには何か才能がある。他にはない、何かの才能が。爆発だけを起こすなど、それは魔法そのものです。我々の世界では禁忌とされるほどには」
「私が…才能を?」
「えぇ、これでも多少は魔術をかじっている身。断言はしかねますが可能性としては」
見る見るうちに彼女は笑顔になった。自分にも希望があると思ったのだろう。
「ところで、あの・・・」
しかしすぐにそれは消えた。どうやらその希望以上に気になることがあったらしい。
「なんでしょう?」
「あなたの仮面の下ってさ、どうなってるの?」
「・・・気になりますかな?」
「ならないっていえばうそになるわね」
「わかりました。では、後悔しませんね?」
「(・・・?)えぇ、後悔しないわ。それに使い魔の責任は主の責任でもあるし」
「わかりました。ではお見せしましょう」
アサシンは懐から短剣を取り出すと仮面と顔の間に差し込んで縫い付けている糸を切り始めた。
「・・・なんで縫い付けてるの?」
「先ほど申しましたように私は山の翁を襲名するにあたりそれまで持っていたすべてを捨て去りました。(プツンッ)名前、家族、思い人、故郷。そして自分の顔も。多分あの時の私は死に物狂いだったのでしょうなぁ。(プツンッ)・・・まぁ、結果として私は歴史に埋もれてしまいましたが(プツンッ」
「えっと、つまり・・・?」
「つまりこういうことです」プツンッ
そういうとアサシンはすべての糸を切り終え、ぱかっと仮面を外す。
そこにあるのは無貌だった。あるべきところに
「・・・」
「・・・」
「・・・きゅ~~~」バタンッ
「・・・やはり無理だったか」
そう言いながら彼は再び仮面を顔に縫い付け始めた。チクチクと見えないはずなのに器用に縫い付けていく。まるで以前それをこなしてきたかのように。
「・・・むしろこの顔を見せても引かなかったあのお方がおかしかったのかもしれませんなぁ」
彼は仮面を縫いあわせ終わると彼女を抱えて保健室まで疾走した。
続く
キャスター編
「・・・」
「・・・」
「その・・・キャスター殿。なぜ私をにらんだまま仁王立ちを…?」
「あら、わからないのかしら?」
「わからないゆえこうして失礼ながら質問しておるのですが・・・」
「ふん、あの時私にあんなことしておいてよくそんなことが言えるわね?」
「???」
「あ、あわわ・・・」
「「?!」」
「め、メディアさんとハ、ハサン先生がお、大人の関係だったなんて…」
「重大な勘違いをされておられますぞ、魔術師殿。私とメディア殿はそういう関係では断じてとは言い切れませんがとにかくそういう関係ではございませぬ」
「そこは断じなさいよ!なんだ言わないのよ!」
「どうしてと言われましても…私はあなたとの面識はないのですが…」
「嘘おっしゃい!宗一郎様も殺しておいてよくそんなことが言えるわね?!」ビリビリー
「だ、誰でございますかー?!」シビレレレ