呪腕先生は人理修復後、ハルケギニアに呼ばれたようです 作:海棠
今年もよろしくお願いします。
「僕の2千円が!」
いつもの用水路
「はぁい、ジョージィ。冬見る映画決めた?俺さっきボヘミアン・ラブソティー見てきたけど」
「あぁ、あれすごくいいよね。あと冬映画はブロリーでも見ようかなって」
「Oh!そりゃあいい判断だな!ところで今お勧めしたいものがあるんだけど聞いとく?」
「そんなこと言ってクソ映画お勧めしてくるんやろ。騙されんぞ」
「ンン、まぁ、確かに並行世界の俺はそうだな。だが俺は違うぜ?お前におすすめしたのはすべて得したが害はなかったろ?これからも得しかないものをお勧めするぜ?どうよ?」
「あぁ、そうかい!平成ジェネレーションズFOREVERも見てくるわ「ちょっと待て!!」
「それも確かに面白いがこの予告編を見ろ」
「Heaven's_Feel第二章の?!」
「そうだ!第一章であれだけすごかったんだ!第二章もすごいだろうぜ?これを見ない手はない!ていうか見よう」
「・・・」
「Oh...もしかしてハサン先生が活躍しないんじゃないかって心配?」
「オホッ、図星って顔してら。わかった、じゃあ視点を変えよう。サーヴァントではなくマスターたちを見るんだ。そもそもこのルートの神髄はサーヴァントじゃなくてマスター、特に衛宮士郎だ。彼がどんな判断をするか、どんなことになるのか。それがこのルートの一番重要点なんだぜ?」
「ほんとに?」
「あぁ、本当さ。ネタバレになるから言えねぇけどすごいぞ(語彙力不足)ちなみに俺は原作の時点でボロ泣きした(実話)さぁ、映画を見ようぜジョージィ。第二章も絶対面白いぞ、ジョージィ・・・」
「・・・」スッ
「あぁ、あと車とお金はこっちから出すからさ…」
ガチッ
「予約チケット買いに行くぞ!!」
「キャァアアアアアア(歓喜)」
「ジョージとペニーワイズはうきうきした。予約特典は手に入れられなかったがチケットを己の手で握りしめられただけで満足したのだ」
「んぁ・・・?」
ルイズは目覚めた。そしてゆっくりと起き上がって背伸びをするとあたりをきょろきょろと見渡す。するとベッドのわきにある椅子に二つの人影があった。一人はライバルだと噛みついているキュルケ、もう一人はたまーに話したりするが別にそこまで悪い仲じゃないタバサだった。
「やっと起きたの?まるで眠り姫みたいだったわよ?」
「うっさいわね・・・。というよりあなたなんでここにいるのよ」
「先生に頼まれちゃったら、ね?」
「ああ、そういうこと。・・・それで私、どのぐらいここに?」
「丸一日」
「ゑ。じゅ、授業は…?」
「・・・とあることがあって中止」
「ゑ?なにがあったの?」
「・・・決闘」
「誰と誰が?」
「・・・あなたの使い魔とギーシュ」
「…え?」
「だから、あなたの使い魔とギーシュ」
「・・・な」
「「な?」」
「なんですってえええ?!!」
ルイズは思わず跳び上がってベッドに落ちるとバウンドして地面にしりもちをついた。
「いてて・・・で、結果は?!!」
「あ、うん、落ち着いて聞きなさいルイズ。あまり言いたくないんだけど…」
少し渋るキュルケの代わりにタバサが途中から口を挟む。
「…死亡確認」
次の瞬間、落雷が落ちたかのようにルイズの動きが止まった。
「あ、あの、ルイズ…?」
キュルケが手を目の前で振ってみたりして意識の有無を確認する。
「はッ?!!!」
すぐに意識を覚醒したルイズはどたどたと何故か自室に疾走した。
そしてたどり着いてバンッと大きな音をたてて扉をたたきつけるように開ける。
「ん?あぁ、お帰りなさいませ。マスター殿」
しかし彼女の予想に反してアサシンはごく普通に返事をした。しかも左手にははたきを持っている。
「・・・あれ?」
「いかがしましたマスター殿?」
「貴方、生きてるわよね…?」
「えぇ、少なくとも今はまだここに現界していますが…それがどうかいたしましたか?」
「・・・あいつ騙したわねぇ?!!」
次の瞬間、彼女は部屋に来る時以上の速度で保健室に走り出し、ドアを勢いよく開ける。なんか来る途中に怒られた気がしたが気のせいである。
「急に飛び出してどこ行ってたのよ」
キュルケが半ば呆れ気味に言い放つ。だが当のルイズはそれを無視してタバサに詰め寄る。その勢いは胸ぐらをつかみかからんとするほどだった。
「タバサ!あんた騙したわね?!何が『…死亡確認』よ! 生きてるじゃない!生きてるじゃない!しかも丁寧に掃除までしてたわよ?!! なんなの!?私何かあなたに悪いことしたかしら?!?!」
「最後まで話聞かないあなたが悪い」
「え、あ、うん・・・。確かに最後まで聞かなかった私も悪いけど…何で『死亡確認』なんて言ったのよ」
「だから、その、ほら…ギーシュが、ね?」
「ギーシュが?」
「死んだ。正確に言えばあの使い魔が殺した」
次の瞬間、本当に停止した。まるでルイズの中だけ時が停止したかのように周りは感じた。そしてそこにやってくる人が一人。
「マスター殿、いったいどうしたのですか?先程から様子がおかしいようですが・・・」
そう、我らがアサシンその人である。
するとルイズはギギギと音が鳴りそうな動きで彼の方に顔と身体を向ける。
「・・あ」
「あ?」
「あ、あああああああああああなたぁ?!!!」
そして結界が壊れたかのように大声を出した。いや、出たといった方が正しいか。
「どうしましたマスター殿?!」
「あ、あなたぎ、ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎギーシュを殺したそうじゃないの?!!」
「ぎーしゅ?・・・あぁ、あの方ですか。えぇ、確かにこの手で殺めましたが…」
「あなた殺されるわよ?!!貴族を殺すなんて論外もいいところじゃない!!!」
「臨むところです」
「あらイケメン、じゃなくってねぇ!!」
「少しよろしいですかな?」
二人が話をしているとコルベール先生が保健室に入ってきた。生徒の3人は思わず「ヒエッ」と悲鳴を上げ、アサシンは思わず懐の短剣に手を伸ばす。
「ヴァリエール嬢に使い魔殿、オールドオスマンがお呼びです」
「え」
「できるだけ早くとのことです。では私はこれで」
そう言ってコルベールは保健室から出て行った。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「「「「・・・」」」」
部屋には静寂が訪れる。
「ど、どどどっどどどどうしよう?!!!!」
その静寂をいち早く突き破ったのはルイズだった。
「・・・骨は拾ってあげるわ」
「・・・
「勝手に殺さないでくれるかしら?!!!!!」
「そうですぞお二人方。不謹慎にもほどがあります」
「もとはといえばあんたのせいよ!!」ゲシッゲシッ
「ハハハ、向こう脛をけるのは痛いのでやめていただきたいですなマスター殿」
するとルイズは顔を覆いながらつぶやいた。
「ゎたしもぅまぢむり。。。ぢさっしたぃ。。。」
「気をしっかり持ちましょうマスター殿。大丈夫です。私もいますから」
「あ"な"た"の"せ"い"て"こ"う"な"っ"て"ん"の"よ"!!!」ドゴッ
「ぐぉっ」(ダメージボイス)
思い切り腹パンされてアサシンは思わずうめいた。
「では、話を聞かせてもらえるかのう?」
ところ変わってここは学園長室。そこには学園長であるオールド・オスマン。火の魔術を専門とするミスタ・コルベール。ヴァリエール家の麗しき三女、ミス・ヴァリエール。そして彼女の使い魔であるアサシン。どうやらオスマンの秘書であるミス・ロングビルはどこかへ出かけているようである。
あの後いやだいやだと泣き喚いたルイズだったが10分くらい泣くと覚悟が決まったのかアサシンの布のすそを引っ張ってここにやってきたのだ。しかしその覚悟も今や風前の灯火。ガチガチと歯が鳴り、がくがくと体が震える。眼からは涙があふれそうになる。汗がだらだらと垂れて止まらない。しかし、そこにふわりと布がおおいかぶさった。
それは黒かった。思わずアサシンを見るとどうやら自分にかけてくれたらしい。ありがとうと言おうとしたが彼の体格を見て言葉が詰まった。
彼の体格は確かに布越しでもわかるくらいの大柄だった。しかし肉は削げ落ち、骨は浮かび、肌は漆黒と言っても差し支えないほどに黒かった。そしてひときわ異彩を放つのはその顔に縫い付けられた骸骨を模した仮面だった。まぁ、彼女はその下の顔を知っているのだが。
その彼のあらわになった姿にその場にいた全員が息をのんだ。あるものは思わず呪いの類かと、あるものはやせぎすだと、あるものは彼の右腕を注視した。
「話と言われましても、まずどこから話せばいいでしょうか」
「おぬしの名と経歴を」
「ふむ・・・」
するとアサシンは顎に手を当てて少し思案すると顔を上げた。
「・・・かまいませんよ。言いましょう。サーヴァント・アサシン。真名はハサン・サッバーハ。暗殺教団の長である歴代19人いた山の翁。その一人でございます」
「暗殺教団・・・?」
「えぇ。とある宗教団体の発展型と呼べますな。ですがこれ以上は機密事項というもの。語ることはありませぬ」
「しかし・・・、その、暗殺教団?じゃったかのう。おぬしがその頭領だったとしてもその腕、ただの腕ではなかろう?いったい何なのじゃ?」
「この腕ですか?これはシャイターンから奪った右腕です」
「しゃいたーん?なによそれ?」
「・・・まぁ、あれですな。わかりやすく言えば悪魔から奪った腕を己に移植しただけのこと。それ以上もそれ以下もありませぬ」
「「はぁ?!!!」」「むぅ…」
それが何か?というような雰囲気で言ってのけたアサシンにその場の面々は様々な反応を示す。あるものは驚愕を、あるものは恐怖を、あるものは危機感を抱いた。
「あ、あああああなたそれ下手したら死んじゃうんじゃないの?!!」
「えぇ、最悪なじむ前に己が食い殺されていたかもしれませぬ。ですが私は非常に運がよかった。なんとか食い殺される前に完全に自分のものといたしました。ですがその代わりに私はこの右腕に侵食され、人間としてはまともではなくなりましたが」
「もしかして、肌が黒いのって…」
「いえ、これは生前からです」
「あ、うん、そうなの...。・・・もしかして食事を受け付けないって…」
「それはこれのせいですな。まぁ、これのおかげで私は英霊の座に登録されここに召喚されているわけですから損得としてはたぶん、得の方が高いかなぁと」
「そんなとんでもない腕切り落としなさいよ!」
「別に構いませんが切り落としたらもっと大変なことになる可能性がありますがよろしいのですか?」
「・・・ゑ?」
「これ以上言うのは無粋というもの。ですが覚えておいてください。この腕を制御できたのは歴代でも私と候補生の二人だけだということを」
するとオールド・オスマンが口を開いた。
「しかし・・・わしらはおぬしのその腕を危険視しとるんじゃ」
「・・・というと?」
「おぬしが何かの間違いで・・・いや、率直に言うわい。悪意をもって人を殺すとも限らまい?それを防ぐためにわしらはその腕を切り離して管理したいんじゃが…」
「・・・」
「もちろん魔術による重ね掛けはするわい。・・・無理じゃろうか?」
するとアサシンから一陣の風が吹いた。いわゆる魔力放出だが周りには彼が殺気立ったように見えた。実際殺意を彼は抱いたのだが。
「…仕事とはいえ殺人は許されぬこと。それを受け入れたうえで我ら代々19人は任務に殉じてきた。我らを犯罪者だ卑怯者だと馬鹿にし、
「し、しかし・・・」
「それにあなた方がいくら魔術を重ねようともこれは悪魔の腕。私の制御下を離れたらどうなるかは保証できませぬぞ?」
「う、ううむ・・・」
「それに私は主殿に背くつもりはありませぬ。・・・ルイズ殿」
するとアサシンは彼女の方に体をむきなおした。
「な、なによ」
「貴方が殺すなというのであれば私は必ずや殺しはしないでしょう。・・・ただし主殿に危険が迫らなければに限りますがな」
「・・・」
「私に命令したいのであればその令呪を使うとよいでしょう」
そう言いながら彼は彼女の右手袋をやさしく外してその令呪を見せる。教諭二人はその手の甲に刻まれた模様を見て少し場から驚いた。
「・・・どう使うの?」
「強く念じて声に出せば使えるはずですよ。さぁ、その令呪を使って自害しろと」
「じ、自害?!!」
「えぇ。あなたは私を自害させる権利があります。・・・独断で行動したうえでこのようなことに巻き込んでしまった。私はあなたに首を差し出さなければなりませぬ」
「・・・命令よ。この学校で決闘するのを今後一切禁止するわ」
すると左手の令呪が紅く鮮やかに光り、模様が一つ消える。
「・・・拝命いたしました。これからも貴方のために尽くすことを誓いましょう」
そう言いながら彼はスッとひざを曲げ忠誠の態度をとる。その姿、声、態度に一切の偽りはなく、ただ純粋な誓いがあるだけだった。
「・・・なぜだ」
するとコルベールが震えるような声でつぶやいた。アサシンとルイズはスッと姿勢を正して彼の方に体を向ける。
「?」
「なぜだ!なぜなのだ!なぜ彼を殺した?!
見ていればあなたはかなりの人格者だ!そこまでまっとうな人格者ならば彼、ギーシュ・ド・グラモンはまだ未熟だとわかっただろう?!なのになぜその腕を使ってまで彼の命を殺めたのだ?!!」
「・・・確かに彼は未熟でした。生きていたら成長もしたでしょう。しかし、彼は私に決闘を申し込んできました。決闘とはどちらかが殺されるまで戦わなければなりませぬ。私はそれにのっとり彼を殺めたのです」
「・・・ッ」
「それにこの腕を使ったのは確実に彼を殺めるためでした。言ってしまえば別に短剣で始末しても良かった。だが当たり所が悪ければ余計に苦しませることになります。それはあまりにも酷ですし、我らのやり方に反すること。ならば確実に殺めることができる手を使うのは当然でございましょう」
「しかし…」
「それに私は決闘を止めるよう勧告しました。しかし彼はそれで止まらなかったのです」
「そんな・・・」
「彼は果し合いを望みました。その結果がこれです。私を罰するなら罰するがいい。だが主殿を罰するのはやめていただきたい」
「な、なんでよ!使い魔の責任は主の責任でもあるのよ?!!」
「では主殿は彼を殺したかったですか?」
「え・・・」
「貴方のような子供にはまだこれを背負わせるのは重すぎます。だからこれは私だけの責任でいい」
「・・・っ」
「・・・」
「・・・そ」
「・・・?」
「そ、そ、そういうわけにはいかないわ」
その声は震えていた。
「…なぜですか?」
「ち、小さいころからお母さまから教えられてきたわ。貴族は背中を見せちゃいけないのよ。逃げるなんてもってのほかだわ。それは恥だもの」
「別に逃げることは恥ではないでしょう」
「え・・・?」
「暗殺者である私に貴族の矜持というものはあまり理解に乏しいですが、逃げること自体は恥ではありませぬ。もし逃げることが恥だというならそれは後々挑戦しなおさないことでしょう。確かに一回でやれたらそれに越したことはありません。ですが物事とはそううまくはいかないもの。再びやらなければならぬ時もあるのです」
「貴方も…失敗とかしたの?」
「えぇ。100回やったなら最低1,2回は失敗しましたよ。というより私の生前の生き方そのものが失敗と言えるでしょうな」
「え・・・」
「・・・いえ、しゃべり過ぎました。これ以上語ることはありませぬ」
そう言いながらアサシンは学園長の方に視線を向ける。
すると二人の間だけで何かしらの会話が成立したのか学園長はコクリとうなずいた。彼もまたコクリとうなずき返すとギィッと校長室の扉を開ける。
「え・・・?」
「マスター殿、帰りますよ。明日も授業がありますからな」
「いえ、あなた方はしばらく謹慎ですよ」
「あ、はい・・・」「・・・委細承知」
「後日ヴァリエール家とグラモン家、そして学園の3方で会議をします。そこであなた方の処罰が決まるものだと思っていてください」
「え」
「かしこまりました。ではわたくしたちはこれで。ささ、マスター殿、しっかり」
彼は話しかけても反応のないルイズを軽々と抱え上げるとそのまま部屋から出て行った。
続く
「・・・どう思われますか?オールド・オスマン」
「・・・今後しばらくは大丈夫じゃろう。それよりもあのミス・ヴァリエール上の右手にある模様、れいじゅ・・・といったかのう」
「えぇ…あれはかなりの魔力を有しています。並大抵の使い魔なら話すことすらできないような強制力を感じました」
「「・・・」」
あとがき
期間を置いてしまい大変申し訳ありません。今回はかなりの難産でした。プロットそのものはできていたのですがそれをどう肉付けしていくかになるとかなりの労力を使いましたね。
今回のポイントは大きく分けて3つ。
①妄想心音を発動した理由
②学園長との会話シーン
③決闘後の処理
この3つです。
①は割とすぐに思いつきました。もともとは演出の方を優先したかったというのが本音ですが劇中内でそれを書くわけにはいきません。そして今回みたいな理由になりました。
②は中身ではなくまず外殻を書いていくことで段々と中身を詰め込むことができました。
③に関しては書いている途中で思いついたので3方会議という形に落ち着きました。
ではまた次回。