Twin tale   作:天ノ川遥

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タイム
花言葉は『勇気』


今回は主にスイハ視点でお送りします。


5.Thyme

1.

初めてだった。彼女が昼休みに図書室に来なかったのは。

一人で過ごす昼休み。少し前までは当たり前だった筈なのに、妙に寂しくて落ち着かなかった。

遅れてくるかもしれない。少しだけ顔を出してくれるかもしれない。そう思いながらページをペラペラと捲る。内容は全く頭に入ってこなかった。

(…少しだけ、見に行ってみようかな)

そう、少しだけ。なんとなくだが彼女の顔を見たい。

そう思いながら、彼女のいるはずの教室の近くまで来た。

(確かここを左に…)

廊下を曲がると同時に、見覚えのある生徒が教室を飛び出していくのが見えた。というか、彼女だった。

(もうすぐ昼休みも終わるというのに、一体どこに…?)

なんだか嫌な予感がする。ここで追わなければ…

彼女と、エンヴィと二度と会えないような気すらした。

 

 

2.

居場所が欲しかった。安心して居られる場所が。

それは『私』の性質であり、共通の願い。

故に『ワタシ』は嫉妬する。

自分の居場所を奪われてしまいそうで。

どうしようもなく不安で。

ああ。背中を這う悪寒。抑えきれない感情。自分が自分でなくなっていくような感覚。

奪われるくらいなら、無理矢理自分のモノに。

囁くのは悪魔か、死神か。

せめて彼女を傷つけないといいな。

薄れる理性の片隅で、ふとそんな事を思った。

 

 

3.

結局、追いかけてきてしまった。

このぶんだと授業には遅刻するだろうが、彼女を放っておく訳にもいかない。

(確かこっちの方に…)

彼女の足取りは心配になるほどふらついていたのだが、それに反して追うのが大変なほど速かった。

校舎裏。こんな誰もいない場所で…

(…泣いてる?)

おそらく彼女のものであろう、すすり泣くような声が聞こえてくる。

何か辛いことでもあったのだろうか?…私にも言えないような。そこまで考えて思い直す。自分では随分仲良くなったつもりだったが、彼女からしたらどうなのか分からないだろう。『ワタシにも』なんて…

いつの間にか、泣き声は止んでいた。

ここは先輩として、何より友人として何か言ってあげるべきだろう。そう思いながら、先ほどまで声のしていた方へ…

向かうまでもなく、彼女が歩いてくる。とりあえず声をかけようとしたが…何かがおかしい。

確かに、彼女は私の知るエンヴィのはずだ。

だが、纏う雰囲気はなんだか、淀んでいるというか、暗いというか…

彼女もこちらに気づいたのか、ゆっくりとこちらを見る。

その目に光は無く、ぞっとするほど無表情だった。

「エンヴィ…さん?」

恐る恐る声をかける。返事はない。

息の詰まりそうな沈黙と緊張。

始業時間になったのか、間の抜けたチャイムの音が鳴る。その時。

「…ッ!?」

咄嗟に後ろに飛び退く。コンマ1秒前まで自分がいた場所を槍の先が通りすぎていく。

どこから取り出したのか、黒い槍を構え、黒い衣装に身を包んだその少女は。

もう私の知る彼女ではなかった。

 

 

3.

右、左、薙ぎ、薙ぎ……

彼女の槍を直感だけで避けていく。

武道経験者ではないと思っていたのだが、彼女はまるで体の一部のように槍を振るう。

そんな彼女についていくのも限界がある。

「あっ…」

足がもつれ、バランスを崩してしまう。

彼女は笑っていた。歪に。恍惚と。

ああ、やられる。そう思った、その時。

 

「よっ…と」

誰かに腕を引っ張られる。

彼女の槍は宙を薙ぎ、彼女は無表情に戻る。

「間に合って…はないか」

「……マスター?」

いつの間に?と聞く暇はなさそうだ。

彼女はこちらを睨み付け、じりじりと機会を伺っている。

「黒い霧も発生してないのにこの状態とは…あの時を思い出すな」

「何の話で…」

再び彼女が詰めてくる。

「って、何で私だけ!?」

マスターには見向きもせずに。

「…随分と熱烈なアタックですね」

「言ってる場合ですか!」

「モテる人は辛いですね」

「この状況で何を…」

ビクリ、と彼女の動きが止まる。

「え…?」

すかさず距離をとる。

「あー…そういう…」

マスターが気まずそうな表情を浮かべる。

「一体…」

「ァアアアア!!」

彼女が突如叫ぶ。それと同時に、今までとは比べ物にならないほどの勢いでこちらに突進してくる。

「図星か…」

マスターがボソッと呟いた。

 

 

4.

先程よりも勢いこそ強くなったが、一つ一つの動作は雑になった気がする。

とはいえ、このまま彼女とダンスを続ける訳にもいかない。流石にバテたのか、彼女が動きを止めたところで一旦離れる。

「マスター、何か…」

「いやー、魔法少女には魔法少女をぶつけるのが一番なんだけど…」

「ま、魔法少女?」

言われてみれば、彼女の衣装はどことなく女児向けアニメにでも出てきそうなソレだ。ただし…

「闇堕ち魔法少女とは、またベタな」

「うん、原因おそらく君だけどね」

そんなコントをしているうちに、体勢を立て直した彼女が、今度は槍を投擲してくる。

しかも、槍を何本も出現させている。投擲の間隔に余裕はあるが、キリがない。

「原因が、私…?」

「多分だけどね」

槍を避けながらマスターと話す。

「この手の闇堕ちは愛のぱわーでなんとかなると相場が決まってる」

「アニメの観すぎでは…?」

「アニメみたいなことが現実で起こってるのにそれを言うの?」

…確かに。

愛のぱわー…まるでダモクレスみたいだ。

愛を伝える手段…ハグだろうか?フライシュッツはよく色々な人にハグをしている。度々呼吸困難になっている人もいるが。

一旦動きを止めれば、もしかしたら対話も可能かもしれない。

「…何か策があるみたいだね」

「ええ……無謀な気もしますが」

無謀と勇気は紙一重。それでも、彼女の、エンヴィの為ならば。

「…行きます!」

彼女に向かって走り出す。飛んで来る槍を避け進む。槍が髪を掠める。すくみそうになる足を無理矢理前へ。

彼女が再び槍を構える、その直前。

「エンヴィさん…っ!」

飛びかかるように彼女に抱きつく。勢い余って、押し倒すような形になった。

暴れるかと思ったが、彼女はおとなしかった。

そのまま、彼女に語りかける。

「今日の昼休み、エンヴィさんがいなくて…その…寂しかったんですよ?」

「……」

「エンヴィさんと過ごす時間…とっても楽しくて…」

彼女を再びぎゅっと抱きしめる。

「……でも、私とじゃなくてもいいんじゃないですか?」

彼女が、絞り出したような細い声で問う。

「エンヴィさんとじゃなきゃ、駄目です」

「…え?」

「エンヴィさんほど話の合う人もいませんし、何よりエンヴィさんと話してる時が一番楽しいです」

嘘偽りのない本音。若干恥ずかしい。

「―――エンヴィさん」

上手く言葉が出てこない。伝えたいこと、沢山あるのに。

彼女を抱きしめたまま、時間が過ぎて行く。

「……スイハ、さん」

「はい」

いつもは先輩としか呼ばない彼女が、名前で呼んでくれる。

「…私もスイハさんとお話するの、いつも楽しみで…」

ぽつり、ぽつりと話す彼女の声に耳を傾ける。

「スイハさんの笑顔、とっても素敵で…」

トクン、トクンと彼女の鼓動が速くなる。

「いつの間にか…その―――」

至近距離で、彼女の目を見つめる。

不安そうに震える瞳が、とても愛しくて。

ああ、そうか。私も―――

「私も、好きですよ。エンヴィ」

 

 

5.

ゆうやけこやけで ひがくれて

「すぅ…すぅ…」

やまのおてらの かねがなる

「よく寝てますね…」

おててつないで みなかえろ

「ん…先輩…?」

からすといっしょに かえりましょ

「…起こしてしまいましたか?」

放課後。保健室。

あの後、安心したように眠った彼女を保健室に連れてきた。マスターはいつの間にかいなくなっていて、一人で連れてきたのだが。

そのまま付き添いということで彼女の側にいた。

「……その、ご迷惑をおかけしました」

どうやら昼間のことは覚えているらしい。

「いいんですよ」

そう言って、彼女を撫でる。

「あなたの気持ちをちゃんと知ることができましたから」

彼女の顔がみるみるうちに赤くなる。

「――あれは、その…」

何か言いたげな彼女をそっと抱きよせる。

彼女の体温、鼓動、匂い――今は私が独り占め。

彼女も甘えるように体を寄せてくる。

「――大好きです、エンヴィ」

「私も、大好きです。スイハさん」

蕩けるように甘い時間。一瞬すら永遠に感じるほど長くて。

瞳の奥に飲み込まれ、ゆっくり彼女に満たされる。

夕陽に照らされ見つめあう。微笑む彼女は、何よりも――。

 

 

 

 




中途半端な終わり方ですが、次でちゃんと収拾つけます、多分。
しかしスイハさんを積極的にさせすぎたな…と。
あ、次回で一旦このシリーズは〆です。
また期間は開きますが、投稿した時はよろしくお願いします。
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