1.
数日後。昼休み、図書室。
ゆったりとした空気の中、そこだけはほんのり甘い雰囲気が漂っていた。
「…あの、先輩」
「どうしました、エンヴィさん」
「やっぱり、その、少し恥ずかしいというか……」
スイハに膝枕され頭を撫でられるエンヴィ。図書室には彼女らの他には、絶賛居眠り中の図書委員しか居ないのだが、それでもやはり恥ずかしいらしい。
「前は特に何も言ってなかったでしょう?」
「あ、あの時はその……」
顔を真っ赤にし、口ごもるエンヴィ。
あの時と同じ状況ではあるが、眠気がないだけで意識してしまうことが多い。彼女の体温とか、感触とか、匂いとか…
しばらく二人とも黙ったまま、時間が過ぎる。
ふと時計を見ると、昼休みも終わりが近づいていた。
「もう、こんな時間ですか」
「本当――あなたといると、あっという間ですね」
エンヴィが体を起こすと、スイハは名残惜しげに頭から手を離す。
「今日もいつもの時間でいいですか?」
「ええ……では、また放課後に」
「はい、では」
2.
あれから数日。エンヴィとスイハは一緒に帰るようになっていた。一部では既に噂になっているらしく、コソコソと校門付近で二人を見ている生徒がいるとかいないとか。それでも嫌がらせがないのは生徒の心掛けか、エンヴィの威圧か、はたまた名家の出身であるロンギヌスの妹だからか。何にせよ、実に平和であった。
……なぜ過去形なのか。
「おーい、スイハー!」
二人の帰宅中、駆け寄ってきたその人物のおかげ(せい)である。
背丈はエンヴィと同じ。流れる金髪、サファイアのような眼、そして背丈に似合わぬ……エンヴィは思わず舌打ちしそうになったが、スイハの手前なんとか抑えた。
エンヴィが舌打ちしそうになったのは、何も彼女の嫉妬ゆえのみ、という訳ではない。
あの日、スイハと一緒にいた生徒。エンヴィの暴走のきっかけとなった、その人と特徴が一致するからだ。
自然と身構えてしまうエンヴィだったが、
「あ、姉様」
「ね、姉……様?」
スイハの一言で、力が抜ける。
「おー、スイハがだれかといっしょなんて珍しいな!」
「エンヴィ、こちらはグラーシーザ。私の姉です」
「血のつながりはないけどな!」
「姉様、前にお話したエンヴィです」
「グラーシーザだ。よろしくな!」
「ど、どうも…」
トントン拍子に進む話についていけないエンヴィ。
どうにも年上には見えないグラーシーザだが、ハキハキした口調や明るい表情を見るに悪い人ではなさそうだ。
「それにしても……」
エンヴィとスイハを交互に見るグラーシーザ。
「そうやってると、まるでこいびとどうしみたいだな!」
「――――!?」
「ね、姉様……」
いや、事実なのだが、ストレートすぎる。
グラーシーザが鋭いのか、二人が分かりやすすぎるのか。
いや、今は二人が分かりやすく慌てているのだが。
「じゃましてしまったみたいだな!それじゃあスイハ、遅くなるようなられんらくしてくれ!」
二人が何か言う前に走り去っていくグラーシーザ。
後には静寂と、微妙に気恥ずかしいような雰囲気が残る。
『恋人』関係。
改めて自覚すると嬉しいような、恥ずかしいような……。
「……私達も、行きましょうか」
「そ、そうですね」
そっと手をのべるスイハ。少し迷って、エンヴィはその手を握る。寄り添う二人を、一番星が見守っていた。
星の輝き、月の煌めき。
並んだ影がそっと重なる。
この優しい時間が、明日も、明後日も、ずっと……
ずっと、続きますように。
これで一旦、このシリーズは終了となります。
パッとしない終わりでごめんね。
最後に一言。エンスイをすこれ。