「あいててててて……」
「ありゃりゃ、ずいぶんやられたね~」
「なにやってんだか……」
場所は篠ノ之束の拠点。
対抗戦に乱入した2人は当初の予定通り、ここに転移してきていた。
だが到着して早々、ナイトローグの変身者――玄乃が体の痛みを訴えていた……。
「だ、大丈夫ですか? 玄乃様」
「え、ええ……なんとかね」
「いや~こっちで見てたけど、りゅーちゃんに大分やられてたね~。せーくんのことはあんなに圧倒してたのにさ~」
「なにかあったのですか?」
「私が聞きたいわよ……まったく、ひどい目にあったわ……」
そのときを思い出し、思わず苦い顔をしてしまう。
「俺にグリスを押し付けたからそうなったんだろ」
同時に近くに座っていた今回の計画の発案者から呆れ気味に言われてしまう。
「あのシステムでグリスを相手にするのはキツイからね。お任せしたわ」
「……俺も同じシステムだったんだが?」
「私とアナタをいっしょにしないで」
「……やれやれ」
そうハッキリ言われてしまうと何も言えず、肩を竦めるしかなかった。
「しっかしさ~」
創一の方を見ながら束が唐突に切り出す。
「なんだ?」
「その姿・声でいられると、本当にそうくんなのかどうかわかんなくなるね」
今、創一は簪に憑依している状態。
声は変えられるが、めんどくさいからそのまま話していた。
「わかる! わかるわ!! 私も最初、誰!? ってなったし」
「お前らな……」
(大きな作戦の後のはずなのですが……これでいいのでしょうか?)
――と今後が少しばかり心配になった従者がいたとか。
IS学園・生徒会室。
ここでは現在、生徒会長である楯無と会計で本音の姉である虚が事後処理などを行っていた。
「しっかし、今日のあの子たちはお手柄だったわね」
「そうですね。さすがは専用機持ちと国を代表する候補生といったところでしょうか」
「それもそうだけど……」
パソコンを操作していた手が止まる。
「桐生征兎さんと猿渡和海さん……ですね?」
無言でうなずき、楯無が続ける。
「身を挺して他者を守る。口で言うのは簡単だけど、とっさのときにできるかと言われるとそうはいかないわ」
「専用機を所持しているといっても、危険なことには変わりありませんからね」
「彼らは文字通り人命を救った。本当に素晴らしいわ。――あとは……」
「これ……ですね」
虚が楯無の前に1枚の書類を置く。
それを見て楯無が頭を抱える。
それはアリーナの扉――その修理に関するものだった。
「いやね……わかっているのよ。そうしなきゃいけなかったっていうのは」
頭では理解している。
それがなければ桐生征兎はやられていたかも知れないのだから。
しかし、納得できるかと言われればそうはいかない。
「でも……それでもよ!!」
「落ち着いてください」
「……はい」
熱くなりそうなところでピシャリと戒められてしまった。
「でもまさかあの扉を壊しちゃうなんてね」
「いちおうISの攻撃にも耐えられるはずなんですが……」
「まさか素手で壊しちゃうなんてね……」
カメラの映像も何度も見直した。
しかし、事実は変わらなかった。
「本当、どんな力してんのよ……」
「本音の話を聞く限りでは、悪い人ではないかと。まぁ学力がちょっとアレのようですが」
どんなに嘆いても書類は減らない。
遅くまで生徒会室の明かりは点いていた。
IS学園・地下50メートル。
そこにレベル4の権限を持つ者しか入れない場所がある。
その場所で、千冬と真耶は無人機の解析作業を行っていた。
「やはり、これは無人機で間違いないですね」
「そうか……」
動きを見た時点で予想していた千冬だが、解析結果をみて改めて納得する。
「これがどのようにして動いていたかは不明です。最後の皆さんの連携攻撃で中枢機能が破壊されたみたいですね」
「だろうな。しかも足は別の物質に変えられたうえ粉々に砕かれ、腕も……特に右腕は完全に破壊されてるからな」
目の前の残骸となった無人機を見ながらそう言う。
「しかし、別の物質に変える……ですか。すごいですね。さすがnascitaということでしょうか?」
「一概にはなんとも言えんが、あのフルボトルとかいうものが関係してるんだろう。まったく、あのバカも面倒なものを開発してくれたな」
誰のことを言っているのかわかっているだけに、真耶は苦笑いを返すことしかできない。
「コアの方はどうだ?」
「未登録のコアでした。念のためコアナンバーから調べてみたんですが、該当するものはありませんでした」
そのときの千冬の頭にはある人物が浮かんでいたが、確証がなかったため口に出すことはしなかった。
「それにしても……」
「あぁ……」
2人が見ているモニターに映っているのは、無人機を倒した後に現れた2人。
「ブラッドスタークにナイトローグか」
「一体何者なんでしょうか?」
「わからん。だが、実力が確かなのは間違いない」
「そう……ですね」
映像はちょうどスタークが3人を倒すところ。
「専用機持ちをこんなにあっさり……しかも――」
「あぁ、コイツが使っているのは――」
フルボトル――しかし、これはnascitaしか開発できていないもの。
「nascitaと何か関係あるのでしょうか?」
「それに関しては、あとでアイツに聞いてみるさ」
それぞれの見解を述べながらも映像は進んでいく。
「しかし、これは向こうも予想外だったようですね」
ちょうど龍華が征兎のもとへ来たところだったのだが、端に壊された扉が見える。
「まったくアイツは……」
昔から龍華を知っているだけに千冬は頭を抱えてしまう。
「ま、まぁまぁ。あそこで万丈さんが来なかったら桐生くんもどうなってたかわかりませんし」
「わかってはいるがな」
やるせない気持ちを抱えながらも映像は進んでいく。
「このブラッドスタークというヤツ、最後まで本気じゃなかったように見えるな」
映像が終わり、千冬が開口一番そう言った。
「確かに、なんだか遊んでるという感じでしたね」
「性能は恐らくこのナイトローグというヤツと同じだろうから、中の搭乗者の腕がかなりのものなんだろう」
「今後、かなりの警戒が必要になりますね」
「まったく厄介な……政府といい、コイツらといい学園をなんだと思っているのか」
そうぼやき、別の場所に目を向ける。
そこには厳重に保管されている黒い箱のようなものがあった。
「この箱も本来ならここに保管するものではないだろう」
「それはそうなんですけど……でも、これ一体何なんでしょうね?」
「さぁな」
「解析したところかなりのエネルギーが内部にあることは間違いないと。しかも国どころか地球のパワーバランスを崩してしまうほどの……」
「だが、誰も開けられない。それで国同士の取り合いになるまえに中立であるIS学園に保管すると。バカバカしい。このようなところではなく、もっとキチンとしたところで預かってほしいものだ」
「そ、そうですね」
そう話す後ろで残骸の中のカメラがそれを映していたことに2人は気づくことはなかった。
「ハハハハハ! 見つけたぁ!」
「おぉ~ホントにあったよ」
「さすがですね。玄乃様」
「いや……まぁそうなんだけどさ」
無人機のカメラから送られてきた映像にパンドラボックスが映ったことで作戦が成功したと言える。
反応はそれぞれ違うが……
「確かに、ここに保管されてるって調べたよ。そして、保管されてるならその場所だって思ったよ。けど、実際そこにあるのを見るとねぇ……」
「まぁそうだよね。いくらちーちゃんがいると言っても結局は学校だもんね~」
「守ってくれそうな中立の立場がいればどこでもよかったんだろ。保身しか考えられない能無しのゴミクズなんてそんなもんだ」
「否定できないのが今の世界の悲しいところよね」
「おい!!!」
あの後、創一が学園に戻って少し経ったとき、一人の少女が怒鳴りこんで来た。
「あら、マドカちゃん」
「どうかした~?」
「……アイツはどこ行った?」
マドカと呼ばれた少女は部屋を見渡し、創一がいないことに気づき、そう聞いた。
「彼ならもう帰ったわよ」
「――チッ。ならいい」
「なんか用があったの? 伝えておきましょうか?」
「……必要ない」
そう言い、部屋から出ていってしまった。
「クーちゃん。ちょっと様子見といて」
「はい。束様」
言われた後、クロエが少女の後を追った。
「かまってちゃんなのかしら?」
「最近、相手してもらってないからね」
「ちゃんと相手してやれって言っとかないとね」
「まったくだよ、もう~。こっちが大変なんだからね~」
そう言いながら続く束の愚痴を聞き流しながら、玄乃はそっとその場から撤退した。
(彼女が幸せになれるならこのままでもいいんだけど、アイツがそうさせないでしょう。なら、私なりに手を打たせてもらおうかな)