征兎side
「――って考えているんですけど、どう思いますか?」
『そうね……本人たちじゃないから断言はできないけど、間違ってはいないと思うわ』
あれからなんとかならないかと考えた俺だが、和海と2人ではどうしようもないというわけで、あのときちゃっかり番号を登録してしまった痴女会長に相談してみた。
『もしかしたら緊急用の連絡手段くらいは持ってるはずだし、いざとなったらそれを使ってもらうのもありかも知れないわね』
「結局、なにかアクションを起こしてくれるのを待つしかないと……」
『まぁそうなるわね』
うげぇ……めんどくさ。
『そういうわけで何か進展があったら教えてちょうだい』
「どうせ教える前にすでに知ってるくせに」
『フフ……どうかしら』
「はぁ……別にいいですけど。とりあえず、ありがとうございました。痴女会長」
『ちょっと!? 前も言ったけど私は痴女じゃ――』
最後、なんか言いかけてたけど気にせず切った。
「で、どうすんだ? これから」
「う~ん……そうだなぁ」
――ドンドンドンドン
「ん?」
「誰だ?」
こんな時間にドアを乱暴に叩くなよ。
『征兎! 和海! いるか!?』
一夏? どうしたんだ? やけに慌てているみたいだけど。
とりあえず、ドアの近くにいた俺が開けてやることに。
「なんだよ、こんな時間に。つーか近所迷惑になるだろ」
「あぁ……悪い。……じゃなくて! 頼む! 今だけ何も聞かず俺の部屋まで来てくれないか!」
え~……めんどくさ。
「すまん一夏。俺にはそういう趣味はない。誘うなら和海だけに――」
「少し黙ってろ」
「――ごはっ」
和海に思いっきり脇腹を殴られた……。
和海といい、万丈といい最近ひどくない?
「――で、なにがあったんだ?」
「すまん! 訳はあとで話す。だから今は俺の部屋にきてくれないか?」
「……わかった」
「助かる!」
「おら、行くぞ! さっさとしろ」
「……へい」
ホント、最近ひどいよみんな……。
「あ……桐生くんに猿渡くん?」
一夏たちの部屋に行くと、ベッドに座ったデュノアがいた。
服装はジャージだが……今まで出ていなかったはずの胸が出ていた。
ふーん……鈴や万丈よりは全然あるんだな……。
じゃなくて! そんな状態ってことは一夏にバレたのか……。
「なんで2人を?」
「あぁ……征兎たちならなんかいい知恵を貸してくれるかもって思ってそれで……」
一夏……お前わかってるじゃねぇか!!
「任せろ! この天才物理学者、桐生征兎がお前たちでもあっと驚くような――」
「黙れ」
「――へぶっ」
こ、今度は顔面パンチですか……。
容赦ないっすね……和海さん。
「えっと……」
「気にするな。いつものことだ」
「そ、そうなんだ」
こんなことがいつもであってたまるか! 俺の体が砕けるわ!
「で、どうして俺たちを呼んだんだ?」
「あ……えっと……」
俺の心情なぞガン無視で話を進める和海さん。
体を起こしながら、俺も会話に入る。
「てて……まぁ大方、一夏の変態行動でデュノアの正体がバレたってところじゃねぇか?」
「え……正体って……じゃあ」
この反応……マジか。
そんなに自分の男装(笑)に自信あったのか。
「俺も征兎も最初から知ってたぞ。お前が本当は女だって」
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」
和海のカミングアウトに一夏とデュノアが大きな声を上げる。
つーか、うるさいよ。
「し、知ってたって……いつから!?」
「いや、だから最初からだって」
「ということはつまり?」
「お前が転入してきたそのときからだ」
「そんな……」
けっこうショックだったのかデュノアはうなだれてしまった。
「で……でもどうして」
「う~ん……とりあえず、仕草、体型、声、それから……ここ」
そう言って俺は自分の喉……正確には喉仏を指さす。
「よく見てみるとお前には喉仏がなかったからな。それで疑惑が確証に変わったわけだ」
「でも、男性でも喉仏がない人だっているんじゃ……?」
「それはないんじゃなくて見えにくくなっているだけだ。ちゃんとある」
あ……あとこれも言っておかんと。
「ちなみに俺たちに最初に教えてくれたのは、玄乃さんだ」
「え……? その人ってnascitaの社長さん……だよね」
「そうだが……」
「そんな人にまで……」
まぁnascita所属の俺たちにはまだ何もしてないから大丈夫だろ……多分。
「っていうか玄乃さん、どうやってそんな情報掴んだんだ?」
「知らん。そもそも俺たちに伝えてくれたのだってデュノアが転入してきた日の朝だぞ?」
そういえばそうだったな。
「マジかよ……玄乃さん、スゲェな」
「本当だね……」
ホントあの人を含め、その親友? たちはヤバイ人たちだからな。
デュノアが手を出してきたときに半殺しにしろとか言われていたことは言わないほうがいいな。
「とにかく、まずは……デュノア。事情……話してもらえるな?」
「うん。もうここまできて隠す必要はないからね」
そして、デュノアは自分の事情を語ってくれた。
自分の父親がデュノア社の社長で、その命令でIS学園に来たこと。
愛人の娘で良い扱いを受けなかったこと。
経営危機のデュノア社を立て直すために、白式のデータを盗む。そのために男装し、一夏に近づきやすくしたことなどを。
「…………」
その話を俺たちは黙って聞いていた。
さすがに茶々を入れる気にはならなかった。
「そういや、なんで征兎たちじゃなくて、俺だったんだ?」
変なところに目ざとく気づいた一夏がそんなことを聞いてくる。
お前は知らんのか? nascitaの影響力を。
「多分、nascitaを敵に回したくなかったんだと思うよ。あそこを敵にすることはほとんど倒産することと同じだから」
「まぁ……間違ちゃいない……かな?」
「マジかよ……」
敵に回した者の末路は倉持技研が見せてくれたからな。
「とにかく、これからどうするかだが」
と言いつつ、実は俺の中ではほぼ決まっていたりする。
そういうのもさっきのデュノアの話で俺の考えが7~8割合ってると確信したからだ。
「とりあえず千冬さんを交えて相談しよう」
「だな」
だが、一夏はそうしたくないのか渋った。
「え……いや……千冬姉には……」
「一夏?」
「そのさ……千冬姉には迷惑かけたくないっていうか……」
なるほどな。
気持ちはわかるけどな……。
「一夏……」
「……和海」
「それは千冬さんをバカにしてんのか?」
和海……。
ふ……ここはお前に任せるわ。
「なんでそうなるんだよ!? 家族に迷惑かけたくないっていうだけだろ!」
「それをバカにしてるって言うんだ。“迷惑をかける”と“困ったときに相談”は全然違うんだ」
「どこが違うっていうんだよ」
「……一夏、もし千冬さんが家のことで困ったことになり、色々決めて、解決した。しかしお前にはなんの相談も無く、全部勝手にそれは行われていた。……そうなったらお前はどう思う?」
「…………」
言葉はなくとも、表情が雄弁に語っているってか?
「今のお前はそれと同じことをやろうとしていたんだ」
「俺は……」
「それに家族には迷惑かけたくないって言って、俺たちには迷惑をかけるのか?」
「違う! 俺は……」
「俺たちもそうだが、親友や家族に頼られて迷惑に思うヤツはいないはずだ。お前は千冬さんに頼られて迷惑に思うのか?」
「いや……思わない」
「だろ」
いやぁやっぱこういうことは和海くんに任せるに限るね!
「……まぁ征兎はわからないがな」
「おい!?」
俺だってやるよ!? ホントだよ!?
「和海……」
「ん?」
「ありがとな」
「……気にすんな」
ハッ!? こういうことを任せてばっかいるから主人公感が薄れていくのでは!?
なんてこった!? このままじゃ主人公はおろかモブを超え空気になってしまう!?
させるか!!
「よし! 話はまとまったな! なら千冬さんのところに行くぞ!!」
「なんだ? 急に張り切りやがって」
ハイハイ……行くよ!
俺、和海、一夏、デュノアは部屋を出て、千冬さんのところに向かう。
その際、デュノアを見られないように気を付けながら。
……あれ?
そういえば、昔見た千冬さんの部屋って……。
そのときは一夏に掃除させればいいか。