征兎side
そんなこんなで千冬さんの部屋――もとい寮長室に到着。
「千冬姉……大丈夫なのか?」
「やっぱり相変わらずなのか?」
「あぁ……アレはもう一種の才能だな」
マジか~。
やっぱり汚部屋なの?
なんのことかよくわかってないデュノアはしきりに首をかしげているが、わからないままでいいと思う。
とにもかくにもノックだな。
「もしも~し。千冬さん? いらっしゃいます?」
「征兎……勇者だな」
え? なにが?
数秒後、ドアが開かれ、千冬さんが出てきてくれた。
「一夏に征兎に和海、それに……デュノア。こんな時間にどうした?」
デュノアの胸の部分を見て察したみたいだったが、あえてそう聞いてきた。
今がプライベートの時間だからか俺たちのことを名前で呼んでいたけどな。
「実は千冬さんにちょっと相談したいことがあって……」
「……なにかあったみたいだな。いいだろう。ここではなんだから中で――」
俺たちの雰囲気を感じ、部屋の中に入るよう促す途中で急に言葉が途切れた。
自分の部屋を見てそうなったということはやっぱり……。
「この部屋じゃなんだから、やはり征兎たちの部屋で――」
「千冬姉」
「ぐ……」
一夏がジト目で千冬さんを見る。
千冬さんが珍しくたじろぐ。
俺たちは察する。
「征兎、シャルル」
「一夏、どうしたの?」
「少しだけ待っててくれ」
やっぱり汚部屋だったか……。
「和海、手伝ってくれ」
「しゃーねぇ」
……ん?
「あれ? 俺は?」
「そこでおとなしくしててくれ」
ヒドッ!?
「お前の家のあの部屋の惨状を知ってる俺たちが掃除に参加させるわけないだろ」
「寮の部屋は片付けてるだろ!」
「俺がな」
…………。
「なら、これ使うか?」
そう言って出したのは手のひらサイズの機械。
「なんだこれ?」
「これは小型自動掃除マシーン! こんな大きさだが侮るなかれ! なんとこの中に組み込んだとある部品により竜巻サイクロン? を再現! さらにこの掃除機フルボトルを使えば同等の吸引力を発揮! この寮の部屋1つくらいな余裕で――」
――と、説明していたところでデュノアに肩をつつかれた。
「どうした?」
すると、無言でドアの方を指さした。
そちらに目を向けると……ドアは閉じられ、誰も聞いてくれていなかった。
「…………」
「アハハ……」
「それで、何の用で私のところに来たんだ?」
あれからしばらく。
無事に汚部屋の掃除も終わり、改めてここに来た要件を聞かれる。
「えっと……実は――」
さっきまでのことを千冬さんに説明する。
聞き終えた千冬さんはここに来た理由に納得しながら言葉を発した。
「なるほどな……。実を言うと私もデュノアが女であることは最初からわかっていた」
ですよね。
俺たちでもわかったんだもん。千冬さんがわからないはずないか。
「おそらくだが、山田先生も気づいている」
「あの人も見かけによらず、実力者みたいですからね」
「そうなん?」
「……そういや、お前はあの摸擬戦のときいなかったな」
大変不本意なことにね!
「デュノアが明確な行動を起こさなかったからこちらも動きはしなかったんだが……」
まぁそれはしゃーないですね。
下手にやらかして各方面に付け入るスキを与えることもないからな。
「いつか誰かにバレるとは思っていたが、まさかこのバカがやらかすとは……」
ちなみにデュノアの正体が一夏にバレたのは、シャワーを浴びてるときに一夏がボディーソープが切れてるとかで、遠慮なく浴室の扉を開けたから。
ケッ……相変わらずのラッキースケベですこと。
「とりあえず、警察に連絡か?」
「おい!? 怖いこと言うなよ!」
「話を戻すぞ」
「「はい……」」
千冬さんの一言により、空気が引き締まる。
「そうだな……征兎」
「はい?」
「お前のことだ。このことに関して何かしらの推測を立てているだろう。それを話してみてくれないか?」
いきなりご指名をされたかと思ったら、俺が推測立てていたことを見抜かれていた。
これもなんだかんだで付き合いが長いからなのかね。
「……わかりました。でも、あくまでも俺の推測であって、間違っているかもしれないことだけは言っておきます」
「別に間違っていたからといって責めたりはしない。安心しろ」
「ありがとうございます」
大事な前置きを言い、俺は自分が推測した今回のこのことについてを話す。
「まず、親父さんがデュノアに命じた白式のデータを手に入れるってところがそもそもおかしいと思ったことがきっかけだったんだ」
「どういうこと?」
「例えデータを手に入れたとしても会社の経営状況がそう簡単に好転するとは思えない」
「そうなのか?」
「あぁ。データの解析をするだけでも時間がかかるのに、その後の設計、製造、下手すりゃ年単位でかかる作業だ。しかもその間も会社の経営は傾いたまま。ハッキリ言って意味がない」
みんな俺の言うことを真剣に聞いてくれている。
「次にデュノアの男装だ」
「……え?」
「ぶっちゃけお粗末」
「うう……」
「経営が傾いたと言ってもデュノア社は有名な会社だ。そこが社運を賭けてスパイをさせるなら、もっと入念に準備をするはずだ。最低でも1~2年前から情報を集め、そのころから男装や仕草も徹底的に叩き込むぐらいはしないと。なのに実際は……」
デュノアの方を見るとシュン……という感じになっていた。
「ちなみにどうやって男装してたんだ?」
「えっと、コルセットで胸を隠して、男物の服を着てただけ……」
「ないだろ……街でやる仮装かよ」
「うん……今更ながら僕もそう思うよ……」
もっと早くにそう思ってほしかった……。
「いくら会社のピンチで焦っていたとしても、こんなお粗末な男装でスパイ行為なんて普通はさせない。会社がピンチだからこそスキャンダルを起こさないように変装には細心の注意を払うはずだ」
「お粗末お粗末、言い過ぎだぞ? デュノアのライフが早くも尽きかけてるぞ」
だってお粗末なんだもの……仕方ないじゃない。
「そして何よりデュノアの親だ」
「親?」
「そうだ。デュノア、お前の親……母親の方はお前を憎んでいるんだったな?」
「うん……お父さんの本妻の人なんだけどね。思いっきりビンタされたよ」
「それがどうしたっていうんだ?」
一夏の疑問はごもっともだ。普通に生活している分には考えつかないことかも知れないからな。
じゃあなんで俺は知ってるのかって?
気になりすぎて色々と調べまくったのよ。
「ハッキリ言うと、社長夫人がデュノアのことをホントに憎み疎ましく思っていたなら、間違いなくデュノアを殺害しているはずだ」
「「殺害!?」」
一夏とデュノアが驚き、顔を青くしてしまった。
和海と千冬さんは黙って聞いていてくれてる。
「デュノア社のような世界的企業の夫人ならなおのことそうするはずだ。事故に見せかけて殺す、自殺に見せかけて殺す、殺し屋を雇い殺す。いくらでもやりようはある」
「そ……そんな……」
デュノアは顔を青くしたまま俯いてしまった。
なんかすまん……。
「だけど……本当にそんなヤツいるのかよ!? 自分の子供を殺すなんて……」
「いる。今の世の中、自分の子供が男っていうだけで殺す親がいるんだ。残念なことにな……」
なんか空気がかなり重たくなってしまった……。
どうしよう……。
チラッと和海を見ると、自分でなんとかしろと言わんばかりの視線だった。
「だ、だけどそうやってデュノアをいつでも殺せたはずなのにそうはしなかった。やったことといえば、ビンタをして、お粗末な男装をさせ、やったところで意味をなさないデータを盗めと命じてのIS学園への転入。それらをおかしいと思ったときに別の推測も立てられた」
「別の推測?」
「なんなんだ、それって?」
君たち……わかってくれよ……。
現にそこの2人はわかっているみたいだぞ?
そのうちの1人、千冬さんを見ると、続けろと目で訴えられた気がした。
はぁ……仕方ないな。
「デュノア……これから言うこともあくまで俺が立てた推測だ。それでも聞くか?」
「……うん。例え君が立てた推測でも……僕はあの人たちの真意が知りたい」
とても決意した強い目を向けられて、そう言われてしまった。
それならいい……かな。
再び、ピーンと空気が張り詰めてしまった中、俺は口を開く。
「おそらくだが、デュノアは親じゃない何者かに狙われていた」
「狙われて……!?」
「そうだ。それで社長と夫人はデュノアの安全を確保するためにあえてIS学園に転入させた」
「それならなんで男装させてスパイなんか」
「普通に転入させただけじゃソイツ――いやソイツらだろうな。それもデュノアを捕らえるために女の構成員を送り込んでくる。だから転入させる“大義名分”が必要だった」
「それって……」
ようやく理解し始めたか……まったく。
「デュノア社のために織斑一夏の専用機、または当人のデータを入手すること。まぁ企業スパイだな」
みんなを見ると、早く続きを! と言わんばかりだった。……はぁ。
「デュノアを狙っていたヤツらの目的はデュノア社を手に入れること」
「デュノア社を!?」
「そのためにデュノアを人質のようにして社長たちを脅迫しようとした」
「そ……そんな」
「だが、デュノアはソイツらが手に入れようとしている会社のためという名目でIS学園にいるから容易に手を出せない」
「なるほどな。あんな男装をさせていたのはバレることが前提だったってわけか」
和海……急に入ってくんなよ。ちょっとビックリしちまったわ。
確かにそこまで詳しく言わなかったけどさ。
「ビンタかましたのもそのためか。デュノアの口から自分たちの行いを話させ、必要悪となるために」
和海が俺が言いたかったことを代わりに言ってくれてる。
デュノアは驚愕といった表情で話しを聞いている。
「ふむ……両親から虐待を受け、無理矢理男装さられせ、さらにスパイをさせられた。学園側もそんな事情の生徒を無下にできず、なんとかして保護しようとする……か」
千冬さんも教師観点から意見を述べてくれる。
「さらにデュノアにキツくあたってたのは、両親との仲が悪いとなればデュノアに人質としての価値はないとソイツらが思うかも知れないと考えてだろうな」
だろうね。
さすが千冬さん。
「そうやってデュノアの安全を確保しつつ、会社を狙っているヤツらをなんとかしようとしたんだろう。恐らく……自分たちの命を賭けて」
最後は俺が締めた。
ハァ~……。
話し終わった。
「そんな……僕はなにも知らずに……」
デュノアは泣いていた。
まぁ仕方ないっちゃそうなのかな。
「最初に言ったが、あくまでもこれは推測だ。だけど俺はこれが正解であってほしいと思ってる」
「そうだな。それが本当なら――」
「シャルルは両親にとても愛されている」
気持ち悪いが、顔を見合わせた俺たちは互いに笑顔だった。
デュノアが泣き止むまで俺たちは静かに待っていた。