征兎side
あれから少し日にちが経った日の休み時間。
デュノアも元気を多少は取り戻し、まだ男子として生活している。
そんな中、俺と一夏は――
「はぁ……この距離、なんとかならないのかな……」
「だな。これじゃ究極まで我慢してたら間に合わなくなっちまう」
「いや……わざわざそこまで我慢しないけど」
――トイレに行った帰りなだけでした。
しょうがないじゃん。研究してるとさ~どうしても我慢しちゃうんだって。
「なぜです、教官! なぜこんなところで教師など!」
……ん?
「なぁ征兎……今の声って」
「あぁ……」
次の角を曲がると目的の人物たちの姿が――って……。
「隠れろ!」
「わぷっ」
一夏の頭を押さえつけ、自分も茂みに隠れる。
すぐそこにはドイツの銀髪と……教官って言ってたからもしやと思ってたけど、やっぱり千冬さんがいて、向かい合っていた。
「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」
「このようなところで何の役目があるというのですか!」
このようなって……。
入学時のセシリアといい、ヨーロッパの方では日本ってこのような場所扱いなの?
「お願いです、教官。我がドイツ軍で再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も生かされません」
いやいや、それを決めるのはキミではないでしょう?
「大体、この学園の生徒など教官が教えるに値する人間ではありません」
……あん?
「意識が甘く、危機感が疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。そのような程度の低い者たちに教官が時間を割く必要など――」
アイツ……後でぶっ飛ばすか。
隣でも一夏が拳に力を入れて耐えてるのがわかる。
「そこまでにしておけよ小娘」
――!?
怖えぇ~! ヤベーよ、アレ! さっきまでの怒りが一気に冷めたよ……。
銀髪も心なしかすくんでいるように見えるし……。
「少し見ない間にずいぶん偉くなったな。15歳でもう選ばれた人間気どりとは恐れ入る」
「わ、私は――」
「そろそろ授業が始まる。さっさと教室に戻れよ」
多少はいつもの声色に戻った千冬さんにそう言われ、銀髪はその場を離れていった。
「おい、どうすんだよ征兎。出て行きにくいぞ」
「わかってる。だからここは千冬さんがどっか行くのを待って――」
ん? なんか千冬さん、こっち見てね?
「そこの男子共。盗み聞きとは感心しないな」
バレていました。
しかも、男子“共”って言ったよ。複数いるのがわかるならまだしも、性別まで見抜くなんて……。
「千冬姉」
――パァァァン!!
「織斑先生だ」
「はい……」
観念して出て行ったはいいが、一夏がいつも通り出席簿の一撃を受けた。
「それで? 何か用なのか?」
「アイツの……ラウラのことなんだけど」
あ……あの銀髪、ラウラっていうんだ。やっと知れたよ。
「アイツが俺を憎んでいるのって……やっぱあの誘拐事件の……」
「終わったことだ。お前が気にすることではない」
あの事件か……。
一夏を恨むのはお門違いだと思うけどな。
そもそも、誘拐犯を簡単に会場に入れたドイツ軍の落ち度だろ?
言ったらまた余計なトラブルになるだろうから言わんけど。
「アイツもまた複雑な過去を持ったヤツだ。それをわかってはいるのだが……どうにも上手くいかんな、人に教えるというのは」
なんだか儚げな表情で空を見上げる千冬さん。
まぁ教育ってそんなもんなんだろうな。俺、まだ学生だけど。
「さて、もうすぐ授業だ。今なら少し廊下を走っても見逃してやるから、さっさと教室に戻るんだな」
そう言って、千冬さんは行ってしまった。
「一夏、とりあえず戻るぞ」
「わかってるって。これ以上出席簿の餌食にはなりたくないからな」
俺たちは走り出す。残念ながら授業に遅れないためだけど……。
しかし、また何かロクでもないことが起こりそうだな……。