征兎side
それはその日、食堂での夕食を終えた後のこと。
なんだか急に炭酸飲料が飲みたくなり、自販機で購入し、部屋に戻る途中、それは聞こえた。
「一夏!」
「ん? 箒、どうした?」
声の主は一夏と箒。
ちょっと気になるな・・・・・・。
ゲスいとは思いつつも聞き耳を立ててしまう俺。
「今度、学年別トーナメントがあるのは知っているな」
「あぁ……あの全員参加型っていうアレだよな」
「そうだ。それでだな……」
ちなみにこのやり取りが行われているのは一夏たちの部屋の前の通路。
今のところ誰もいないように見えるけど……。
そういえば、デュノアはどうしたんだ? トーナメントが終わるまでは部屋はそのままだって聞いたけど。中にいるのか?
「少しでも勝ち残れるように頑張らないとだよな。鈴にセシリア、シャルルにあのラウラ、それに箒だっているし、征兎に和海、龍華もいるもんな」
一夏が挙げたのはすべて専用機持ちないし、それに準ずる人物たちだが……。
ふっふっふ。一夏よ、この俺を強敵と思うとはわかってるじゃないか。
あと、箒が何か言いたそうにしてるから聞いてやれよ。
「それでなんだが……もしそのトーナメントで私が優勝したら……」
「お……おう」
箒が優勝したら……?
「私と付き合ってくれ!!」
…………え?
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
まさかの告白!? こんなところで!?
ヤッベー、ちょっとテンション上がってきちゃったよ!
「おう、いいぞ」
箒の告白?に一夏はなんともないようにそう答えた。
…………。
マジで?
「本当にいいのか! 後から取り消そうとしてももう無理だからな!」
「お、おう」
「そ、そうか……いいのか……フフフフフ」
なんか箒がブツブツ言ってるが、ハッキリ言ってちょっと怖い。
「んん! では、私はトーナメントまでにコンディションを整えなければいけないのでな! 失礼する! 一夏、約束は絶対に守ってもらうぞ!」
「お、おぉ。頑張ってな……」
照れ隠しなのか、一気にまくし立てるように言って箒はその場から歩いていった。
「なんだったんだろうな箒のヤツ? 買い物なら別にいつでも付き合ってやるのに」
……コイツはいっぺん死んだほうがいいかも知れない。
しかし、このときの俺は失念していた。
ここが寮で、箒たちが話していたのが部屋の中ではなく通路だったことを。
自分以外に聞き耳を立てていた人物がいた可能性を。
それが、とある噂となって生徒たちに広まるのだが、俺たち男子生徒(男装中のデュノア含む)の耳に入ることはなかった。
翌日……。
あんな事を目撃してしまった俺だが、言いふらすわけにもいかず、まぁいつも通りに教室に向かっていた。
――のだが、
「なんというか……」
「みんなソワソワしてるな」
「ここに来るまでもなんかひそひそと話してたね」
「なんなんだいったい?」
そう、なんか女子たちがなんか落ち着きがないというか、なんかそんな感じなのだ。
しかも、俺たちが近づくとハッとなって話を止めるし。
ホントになんなんだか。
不思議に思いながらも、教室にたどり着く。
「ここもなんか騒がしいね……」
「だな」
「とりあえず入るぞ」
教室の扉を開けると、いかにも女子! って感じが視界に広がってきた。
なんかみんな集まって話してるのだ。あの万丈まで。まぁヤツはあんな身体スペックだけどいちおう女だからな。
「そ、その情報は本当ですの!?」
「ふ~ん。あたしはあんま興味ないかな~」
なんかみんな興奮してるなー。
鈴はそうでもなさそうだけど。
「本当だって! 今じゃ学園中この噂で持ちきりなんだって! 今度の学年別トーナメントで優勝したら織斑くん、デュノアくん、猿渡くんの誰かと付き合えるって……」
ん? なんか聞いたことのある名前が聞こえてきたような……?
「あれ? 征兎はなんでそん中に入ってないわけ?」
「あ~……それ? だって桐生くんは……ねぇ~」
「うんうん! だって桐生くんには万丈さんがいるし!」
「その2人を引き裂くなんて私たちにはできないよ!」
「ふきゅっ!?」
お? 今度は俺の名前も聞こえてきたぞ!
やっぱり主役の話は欠かせないからな。
なんの話をしてるかはサッパリだけど……。
後、なんで万丈はあんなに顔を真っ赤にしてるんだ?
「ななななな!? べべ、別に私は征兎のことなんて……」
「ハイハイ。大丈夫大丈夫。わかってるから」
「そうそう、みんなちゃーんとわかってるから」
「うううう……絶対わかってないでしょ……」
なんなんだ? ホントに。
その後、始業のチャイムが鳴り、女子たちは解散した。
そういえば、箒がずっと小難しいような真剣な顔をしてたな。
まぁ一夏にあんなこと言った手前、どうやって優勝するかみたいなことを考えていたと思うけどな。
なんかやる気に満ちてるというか、炎のエフェクトが見えたような気もするし、きっとそうだろ。