征兎side
「一夏、ラウラは……?」
「大丈夫だ。気を失ってるだけみたいだな」
ったく世話かけさせやがって、と言いながらもどこか満足そうな顔をしている一夏。
おまえも和海に殴られてたよな? と思ったが口には出さなかった。
「さてと……とりあえず戻ろうぜ。いつまでもここにいてもしょうがないし」
「そうだね」
「だな。俺とシャルルと箒はSEもないしな」
「SEといえば……和海、いつまでそのままなんだ?」
「ぁん? あぁ、そういえばそうだったな……」
一夏を殴り飛ばしてからずっとグリスになったままの和海にそう声をかけると、いかにも忘れてたと言わんばかりにそう答えられた。
いや、忘れんなよ。そのまま戻ったら大変なことになってたわ。主に千冬さんからの制裁とかさ。
はぁ……そういえばこの後、おそらくだが、反省文というものが待っているんだろうと思うと気が重い。このドタバタで忘れてくれてたりしないかな……。
それに、なんかまた和海にいいとこ持ってかれて、オレの主人公感がまた薄れた気がするし、なんとかしないとな……。
そして何より、万丈のヤツこんなときにどこ行ったんだ? アイツのことだからどこかで吞気にしてるんだろうけどさ。
「なぁ、和海……征兎のヤツ、なんか急にブツブツ言いだし始めたんだけどさ」
「……気にするだけ無駄だ。いつものアレだろ」
「いつもの……あぁ! 天才がどうとか主人公感がどうとか言ってるアレか」
「多分そんなとこだろ」
なんか言われてる気がするけどこの際スルー。
とりあえず、和海が変身解除したら戻るか。
そう考えていた和やかな時間は、唐突に聞こえた指をパチンと鳴らしたような音によって終わりを告げた。
――え? なんだ?
「ん? なんだ――って!?」
「これって!?」
「なにが起こってるんだ!?」
みんなが驚くのもわかる。
さっきの音とともに、アリーナから出るすべての扉が閉じられ、シールドバリアーも展開された。
「おい……この状況、前にも……」
「あったな。ってことは、アイツらがいるのか……!?」
この前のクラス対抗戦のときと同じ状況。
つまり、それをやってくれやがったアイツらが今回も……と嫌な考えが――。
「【残念。今回は俺しか来てないんだよなぁ】」
――当たってしまった……。
「ブラッドスターク……!」
「あのときの……!」
煙とともに姿を現したスタークを見て、一夏はヤツを睨み付け、デュノアは一夏ほどではないが、ヤツに厳しい目を向ける。もちろん俺と和海も(顔が見えないから多分だが)。
「【なんだ? みんなしてそんな怖い顔すんなよ。せっかくこうしてきてやったのによ】」
「どの口が言うんだ、テメェ!」
まだ2回しかコイツと関わってないけど、それでもコイツがロクでもないヤツだというのはわかる。ロクでもないという表現でも控え目に思えるほどに……!
「征兎……コイツはいったい? なぜ、みんなこんなにも怒りをあらわにしてるんだ?」
この中で唯一、スタークと関わったことのない箒が困惑気味にそう聞いてくる。
いや……厳密には多少なりとも関わってはいるけど、箝口令を敷かれているため――おまえにビームを撃った無人機をけしかけたヤツなんだ! とは言えないし……。
「【ん? おまえは……あぁ、篠ノ之束の妹か! いやぁこうも立て続けにIS界の重要人物たちに会えるなんてな】」
スタークがオレのほうを――正確には箒を見ながらそう言い放つ。
「くっ……」
悔しそうに箒が声を漏らす。
そりゃそうだ。本人を見ず、有名人の身内としてしか見ていないような言い方をされたんだから。そういう意味では一夏も千冬さん関連で大変だった時期があったな。
しかし、スタークはわざとそういう言葉を選んで言ったように思える。あんなヤツのことなんて理解したくもないけどな。
「つまりおまえは、俺たちをイラつかせて、ボコられるためにわざわざ来たわけだな」
和海が、ツインブレイカー・ビームモードの銃口を言葉通りイラつきながらスタークに向ける。
そういえば、まだ変身解除してなかったね。
「【おいおい、勘違いすんなよ。俺は前回の約束を果たしに来ただけだぜ?】」
約束? コイツとそんなんしたっけ? いや、するはずない。
「なんのことだ? 俺たちには覚えがないんだがな」
「【やれやれ……ちゃんと言っただろ?】」
肩をすくめるようないかにもなジェスチャーをしながらそう言われたんだけど、コイツに言われるとなぜか釈然としない。
「【『次に会うときはもっと面白いイベントを用意しておいてやる』ってな】」
「……! 確かに言ってたかもだけど」
そんなこと律儀に守ってくれなくていい!
「俺は次なんてあってほしくないって言ったはずだけどな」
「【そい言うなよ。せっかくこうして用意してやったんだから……な!】」
なにをと聞く前に、ヤツの胸のバイザーからコブラ? が出てきた。
「――!? 和海!」
「わかってる!」
すぐさま臨戦態勢。
ヤベッ!? まだ俺、変身してない!
「【慌てるな……楽しみはここからだ】」
「は?」
これ以上なにがあるんだ?
そんなこと知らんとばかりにコブラが何かを吐き出した。
――って……え? 人? 人を吐き出した!?
うぅ……と唸っているから生きてはいるみたいだけど……。
「お、お父さん!」
「「「「――っ!?」」」
だが、デュノアがその人物を見て叫んだことで一変。
お父さんってことは……。
「あの人がデュノア社の社長か」
「だけど、なんでわざわざここに連れてきたんだ?」
人質か……? この状況で何のためのだ?
わからない……ヤツはなにをしたいんだ?
「【感動の親子の再会だな】」
「うぅぅぅ……」
「お父さん! しっかりして! お父さん!」
「シャルル、ダメだ!」
予想外のことに取り乱してしまったデュノアを、今度は一夏が止める。
さっきと逆だな。
クソ……! 何が感動の再会だ!
「【さて、今からいいものを見せてやる】」
そう言ったスタークはヤツが使っているボトルと同じ紫のクリア素材で出来ているようなボトルを取り出した。何の成分が入っているか表すエングレーブは銀色だ。今、ヤツが持っているのには城? があしらわれている。
そういえばあれって、俺たちが使っているボトルと違うのか? 少なくとも俺の持ってるボトルにあんなのはない。
それをヤツは躊躇いなく、デュノアの親父さんの胸に押し当てた。
すると、ボトルはそのまま体内に取り込まれていった。
「なっ……!?」
いったい何をやってんだ、ヤロウは……。
「うぅぅぅ……あぁぁぁぁ……!」
デュノアの親父さんが、急に苦しそうな声を出し始めた。けど、そこからは何にも変化は現れない。
「【ほぅ……娘を危険な目に遭わせないように耐えているのか】」
親父さん……。
「お父さん……!」
そんなスタークの言葉に俺たちは嬉しくなる。
親父さん……あんた、そこまで娘のことを……。
このまま親父さんをなんとか救えるかも知れない!
「【なら仕方ない】」
しかし、そんな希望をぶち壊すように、ヤツがブレードを取り出して告げる。
「【俺が最後のひと押しをしてやるよ!】」
『デビルスチーム!』
ヤツがブレードのバルブを回すと、今回は前回とはまた違った音声が聞こえる。
その切っ先からは、いかにもヤバそうな青白い煙が出始めた。
その気体を、ヤツはまたもや躊躇いもなくブレードを振るい、親父さんに浴びせた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そのヤバそうな煙に包まれてしまった親父さんの叫び声が辺りに響く。
だが、さっきから続く頭の許容範囲外の出来事に俺たちの体が動かない。
「お父さん……お父さん!」
「な……何が起こってるんだ……?」
そう呟いたのは誰か。
そして、煙は晴れる……。
「【さて……どうなっているかな?】」
そこにいたのはまさしく異形というものだった。
上半身が赤、下半身が青のゴツイ体。
「【ハハハハハ!! 成功だ! 今、この瞬間このときをもってここに“スマッシュ”が誕生した! ハハハハハハハ!!】」