征兎side
あの日から少し経ったある日の放課後。
俺は、例の強化アイテムを完成させるための最後のステップのために、整備室の一つを貸し切り、ある装置を組み立てている。
スタークたちがいなくなったあの後、教員部隊が来て、当然だが俺たちはお役御免となった。
部屋に帰ってからも無力感に苛まれ続けていた俺に対し、珍しく和海が優しかったことからも相当だったんだろう。
つまり、そんなときに男子の大浴場使用がOKだと言われても行く気になるはずがない。まぁ、一夏は喜んで行ったらしいが……。
しかし、そこで事件は起こっていた。
なんとあの野郎、まだ女子として転入していなかったからといって、同じく山田先生に声をかけられていたシャルロット・デュノアといっしょに入ってやがったのだ。
そのことをどこから嗅ぎつけたのか、とある女子がSHR中のシャルロットの自己紹介直後に暴露したからさあ大変。阿鼻叫喚の騒ぎになり、我らが担任が騒ぎの当事者たちを沈める――じゃなかった鎮めるまで続いたらしい。
なんか、ラウラが一夏にキスしたとかどうとか言ってたが……とりあえず一夏、マジで爆発してしまえ!
そうそう、俺たちはデュノアのことをシャルロットと呼ぶようにした。本人からもOKもらったしな。
そしてなにより、この一連の出来事を俺は見ていない。
風呂の件はともかく、教室の出来事は知っていてもおかしくないのだが、そういうときに限って寝坊し、大遅刻した。
いやさ……前日あんなことがあったんだよ? 中々寝付けなくてもしょうがないじゃん? 次の日、起きれなくてもしょうがないじゃん! ていうか、みんな切り替え早くない?
そして何より、和海も俺を起こすのを颯爽と諦め、見捨てて行きやがった。薄情者め!
起きたときには、とっくに1限目が開始されていた。いや~時計を何度も見直したね。
もちろん、大遅刻をかました俺に慈悲は無く、担任の鬼教官から罰を言い渡された。内容は割愛。ひたすらにキツかったとだけ言っておく。
ちなみに、万丈のヤツ、あのときどこ行ったかと思いきや、なんと地下でナイトローグと戦ってたらしい。……なぜか痴女会長といっしょに。
どういうこと? と思いはしたが、当の本人すら、よくわかんないけどそこにいたから、と言っていたのでバカには色々と理解できない事情があったんだと納得しておいた。
「……で、なんのようだ?」
と、協力を要請しておいた助手の和海くんが来たようだ。
そして、いっしょになぜか鈴と万丈がいた。
「一夏たちが、どっか出かけちゃってヒマなのよ」
「なんかおもしろそうだからついてきた!」
いや、別にいいんだけどさ……でもなんていうか。
「鈴……お前、俺たち以外に友達いないのか?」
「ちゃんといるわよ! 失礼ね!」
「いや、だってさ……」
「そういうあんたこそ、あたしたち以外に友達いないでしょうが!」
「な!? んなわけないでしょうが!」
「どうかしら? あんたが和海や龍華以外と話してるの見たことないんだけど?」
「そんなこと――」
……あれ? そういえば、ここに入学して早数ヶ月。なにかをするときは、和海や万丈ぐらいしかいっしょに行動してないような……。
一夏は常に女子にまとわりつかれているのに……。
「……バカな」
突きつけられた事実に崩れ落ちる。
「ごめん……なんか……悪かったわ」
「今まで他者との交流よりも発明だなんだとやってたツケがきたな」
「大丈夫! 征兎のそばにはちゃんと私がいるから!」
よりによって万丈に慰められるなんて……!
ちくしょうーーー!!
「(さすが龍華。露骨なアピールね……)」
「(……どうせまともに聞いてないだろうけどな)――で、結局のところなんの用なんだ?」
そうだった、当初の目的を忘れるとこだったぜ。
「これを見ろ!」
さっきまで組み立てていた装置を見せる。
「これは、ビルドの強化アイテム製造最終過程に必要な装置だ。このアイテムと相性の良いベストマッチのボトルをここに挿すと、装置が光る仕組みだ」
装置について説明したが、なぜか鈴と和海は胡散臭いものを見るような目を向けている。
「じゃ、後は任せた」
まぁいいか、とボトルの選択と装填を任せ、俺は特殊部隊が使うような楯の後ろへ。
「……しょうがねぇ、さっさと終わらせるか」
ため息をつきながらもボトルを選ぶ和海。
「じゃあ……パンダ・ロケット……っと」
2つのボトルが装填され、装置が反応する。
ピーピーピーピーといかにもヤバそうな音を出しながら。
「ぐおぉぉぉぉぉっ!?」
そして、爆発音とともに和海が吹っ飛んだ。
あ、壁にぶつかった。……痛そう。
「ちょ!? なによ、今の!?」
「パンダ・ロケットはダメ……っと」
「そんな吞気に結果をメモしてる場合!?」
大丈夫、大丈夫……死にはしないって。
なんだかんだ言いつつ、鈴がチャレンジを始める。
「なら、これね」
鈴が挿したのは、ライオンと掃除機。
だが、残念かな。さっきと同じ、ヤバめの音が鳴り響く。
「あんぎゃぁぁぁぁぁ!?」
あーあ……。
鈴の体を電流が流れる。地味に効きそうだ。
つーか、ぷっ……思わず笑っちまいそうだ。
「ライオンと掃除機もダメ、と」
さて、順番的に次は万丈か?
「う、く、よーし、じゃあ……」
万丈のヤツ、笑いこらえてね?
「待て、龍華! 俺がリベンジする」
ボトルを選ぼうとした万丈を制止し、復活していた和海が再チャレンジするようだ。
「よし……これだ!」
なんか、自棄になってない?
挿したボトルは、ゴリラとダイヤモンド。
結果は……。
「つぅ~~~……」
ハズレ。
大量のダイヤモンド? が飛び出して和海の顔面を直撃。あれは痛いわ……。
「次はあたしにやらせなさい!」
次は、もう完全に自棄になってるであろう鈴。
選んだボトルは、ハリネズミと消防車。
「…………」
結果は……まぁ残念。
噴水のように出てきた水を見事に被り、ずぶ濡れになった。
「ぷ、く、フフフ」
「く、く、く」
ヤベぇ……笑いがこらえきれねぇ。
しかし、水も滴るいい男ならぬいい女だな。
「……」
思わず笑いがこぼれてしまったところで、ギロリと聞こえてきそうなものすごい顔で鈴に睨まれた。
お~こわ……女の子がしていい顔じゃないだろ、それ。
「よ、よ~し。今度こそ私がいくよ」
鈴に気圧されながらも、ようやく万丈がいくようだ。
「う~ん……よし! これだね」
そう言いボトルを挿し込むと、さっきまでと違う雰囲気があり、そしてなんと、装置が光った。
「おぉ……光った!」
挿し込まれたボトルは、ラビット・タンク。
なんだかんだ言っても、最初のベストマッチだったか。
やったね! と言わんばかりに万丈と珍しくもハイタッチ。
和海と鈴はなんとも言えないような顔をしている。まぁ、あれだけ被害を受けたのにコレだからね。しょうがないわ。
しかし、やっぱり素晴らしい!
「「さすが、俺/私 の発明品/第六感!!」」
ん? と再び声が被る。
さっき聞き捨てならないことが聞こえたような?
「ハハハハハ」
「フフフフフ」
互いに笑いがこぼれる。
こうなったらもう、互いに譲る気はない。
「「今日こそ決着つけてやる!!」」
こんな脳筋に負けてたまるか!!
「……はぁ、また始まった」
「付き合ってられん。片付け手伝わされる前に帰るか」
「それもそうね」
その後、不審な音が響きまくっていたのを聞きつけ様子を見に来た我らが担任によって、俺らは見事に沈められた。
しかも、いつのまにか和海と鈴がいなくなっていたため、あの惨状を2人で片付ける羽目になった。
脳筋万丈は大雑把だしホント勘弁だよ。
あの裏切り者どもめ……覚えてろよ!!
「桐生、手が止まってるぞ。私も暇ではないんだ。さっさと! キレイに! 片付けろ」
「……はい」
汚部屋の創造主のその言葉に釈然としないものを感じながらも、早くこの地獄から抜け出すため、俺は必死に手を動かすしかなかった。