征兎side
「あぢぃ~……」
ようやく強化アイテム完成の目途がたった今日この頃、なぜか俺はこの灼熱地獄の中、ショッピングモールなるところへ来ていた。
「なんでわざわざこんな暑い中来なきゃなんないんだよ……」
「別にいいでしょ。どうせ部屋でヒマしてたんだから」
そんなことを言いやがるのは、俺を半ば無理矢理ここに連れ出しやがった万丈。
ヒマじゃないよ。強化アイテム作ってたんだよ。
「なぁ……俺、来なくてもよかったんじゃないか? 帰っていいか?」
ここにきて未だにそんなことを言ってるのは、俺が強引に連れ出した和海。
俺が暑い中連れ出されるのに、コイツだけ部屋で涼んでいるとか許せん!
「……」
なんか、万丈が和海のほうを複雑怪奇な顔で見てるけど……まぁいいか。
さっさと用を済ませて帰りたい。
「(すまん、龍華)」
「(――!? な、なんのこと?)」
「(いやなに、二人きりにしてやれなくて悪いな、と)」
「(べ、べべべ別に私はそ、そんな……)」
「(はいはい)」
「んで、どこに行くんだ? さっさと済ませようぜ」
いつのまにか俺が先頭で歩いていたが、目的地がわからないためそう問いかけた。
「ん~? 特にコレといった用はないよ。そこら辺ぶらぶらしようかな、ぐらいで」
「……は?」
なん……だと……。
こんな暑い中出てきたっていうのに……マジかよ。
「はいはい、じゃあ行くよ!」
渋々……本当に渋々、歩きだした万丈に着いて行く。
もう、気分がゲンナリして文句言う気も起きないよ。
「もういいや。行こうぜ、和海」
「ああ」
はぁ……とため息をつき、もうここまで来たんだからと腹をくくり歩を進める。
「――おっと」
いきなり和海がそう声を漏らしたから自然とそっちを見ると、誰かが和海の背中にぶつかったみたいだった。
「あ……す、すみません!」
「あ、いや、大丈夫です」
「本当にすいません! 治療費のほうはキチンと払わせていただきますから、どうか何卒!」
「いや、ケガとか全然してないから!?」
和海の内側のヤンキーを察したのか、相手めっちゃ必死に謝ってるんですけど。
腰のあたりまで伸ばしているストレートの銀髪の女の子。見た目だけなら、どことなくラウラに似ているような気がするな。
ただ、全体の雰囲気というか……こうして和海に必死に謝っているとこを見ると、性格とかは全然違うんだろうなって思える。
というか、珍しく和海からSOSの視線が飛んできてるが、おもしろいからこのままにしておくか。
後で覚えておけ、と言わんばかりに睨まれている気がするけど気にしなーい。
しかし……この相手の子、どっかで見たことあるような……?
「う~~ん」
「なんだ、裏切りのクソ野郎」
「……もうちょっとソフトな言葉にしてくれないかな?」
「黙れ、クソが」
さっき助けなかっただけで、そこまで言う?
俺じゃなかったら泣いてるよ?
「それよりこの子、どっかで見たことあるような気がすんだけど……?」
「なに?」
そうして、女の子をまじまじと見る和海。
傍から見れば完全にヤバイ人だな。相手の子もどうしていいかわからなそうにしてんぞ。
「……だ」
「ん?」
なんだって?
「ユーたんだ」
ゆーたん? ……はて? どっかで聞いたことがあるような……?
「あ、あの! ユーたん――じゃなくて……ユウナ、さん……ですか?」
ゆうな? ……ってユウナ!? 和海が大ファンの、あのネットアイドルの!?
「え? あ、はい。そうですけど……」
マジで!? 本物!? 普通のアイドルならともかく、ネットアイドルの彼女がなぜここに!?
「猿渡和海、15歳、彼女無し! ネットで初めてあなたを見たときから、心火を燃やしてフォーリンラブです!」
驚愕している俺をよそに、背筋をこれでもかと伸ばして自己紹介を始めるバカ。
そろそろ警備員とか呼ばれないか、本気で心配になってきた。
「えっと……猿渡……さん?」
「いえ、俺のことはカズミンと呼んでください!」
コイツ、マジ何言ってんの?
あんたら初対面でしょ?
「じゃ、じゃあ……カズミンさん?」
「敬語も要りません!」
もうダメだ……。
完全に頭のネジが吹っ飛んでるわ。
「なら……私にも敬語使わないでください。歳、同じみたいなので」
こっちもこっちで何言ってんの?
つーか、同い年すか。
「わかり――いや、わかったよ、ユーたん。それと握手……してもらっていい?」
図々しいな、おまえ!
おずおずと手を出す和海に内心ツッコむ。
いや、それよりも心配なことが一つ。
「お、おい……和海? いちおう彼女、アイドルなんだし、気軽にそういうのを頼むのは……。それに、そろそろお前がただの変態にしか見えな――げふぅっ!?」
せっかく忠告してやろうとしたのに、なんの躊躇いもなく殴ってきやがった!?
しかも、まったく見えなかっただと……!?
「うん! 私なんかでよければ喜んで!」
マジかい。
どことなく嬉しそうに和海の手を取るユウナさん。
いいの? アイドルがそんなに気軽にさ。
和海はあまりの興奮でショートして動かなくなった。
「それより……彼は大丈夫なの? なんか急に倒れちゃったみたいだけど……」
「大丈夫、大丈夫。アイツ時々意味もなく倒れるんだ」
「あ、そうなんだ。なんか変な人なんだね」
んなわけあるかーい!!
時々意味もなく倒れるってなに!? 今の今までそんなことなかったはずでしょ、幼馴染!!
そして、ユウナさんも納得しないで!?
「あ……もう行かないと」
俺の頭ではもう色々と理解できない展開の中、携帯にきていたメッセージを見て、彼女がそう言った。
「じゃあまたね! 今度会ったらいっしょにお茶でもしようね、カズミンくん」
「あ、うん」
そう言い、彼女は去っていった。
和海のヤツはその場に呆然と突っ立っている。
最後まで俺、空気だったな。いつもと違い、なんか只々むなしかった。
もういいや……帰ろう。
「あれ? なんか忘れてるような……」
いったいなんだ?
「……随分楽しそうだったみたいだね」
……あ、万丈。
「私のことを忘れて、他の女と随分と楽しそうにしてたね」
ヤベー……なんかわかんねえけど、怖え……。
逆らったら、ヤラレル。
その後は、心を無にして万丈のご機嫌取りに努めた。
アホの和海は、もちろんそのまま置いてきた。
俺の心の負担が軽くなったと同じく、財布の中身も軽くなった。
ドイツ某所、VTS違法研究所。
侵入者を知らせる警報が鳴り響いているここの床には、色々なものが散乱していた。
書類であろう紙類、機械類やドアであったものの破片、そして人。
動いているのは、この惨状を作った人物たちだけ。
「まったく、私たち二人だけで充分なのに、なんでマスターはアイツまで……」
「……ん」
「そう言うのなら、少しは手伝ったらどうなのですか」
その場で佇み愚痴を言う二人に対し、唯一作業をしている人物がそう言う。
「イヤ……」
「イヤです」
「……即答ですか」
思わずため息をついてしまう。それでも、作業の手を止めないあたりはさすがというところか。
「問題ないでしょ。レイさんはこの前、マスターとお会いしたのだから」
「……確かに」
レイと呼ばれた女――前にスタークにデュノア社で会っていた彼女は再びため息をつく。
「どんな理由ですか。それに私だってそれ以来会っていません」
そして、さっきから文句ばかりの彼女たちに振り返る。
「あなたたちだって、今度の任務でマスターに会うではないですか」
「だって、私たちはまだ会ってないから」
「……うん」
「なんですか、それ……」
三度目のため息。
それから、手に持ったUSBを見せる。
「とにかく、終わりました」
「じゃあ帰ろう」
「……うん」
そして一人が、トランスチームガンに似た紫の銃を取り出し、銃口から出した煙で三人を包む。
「しかし……マスターはVTSのデータなんかを何に使うのか」
その場から転移する前に、最後にレイはそうポツリとこぼしたが、二人には聞こえていなかった。
IS学園での一件を受け、委員会の機関が乗り込んだのは、すべてが終わった後だった。