征兎side
窓の外を景色が流れて行く。
外は文句のつけようがない晴天だ。
これから行われる臨海学校にふさわしい天気だろう。
そう、バスに揺られながら思いたかった……。
しかし、今はそれどころじゃなくなってしまっていた。
それは――。
「うぷ……」
「……」
まさかまさかのバス酔い。
なぜだ、なぜこうなった。
「ヤバイ……出すかも」
「今やらかしたら、その窓から外に放り出すぞ」
緊急事態宣言にもこの言いよう。
和海くんはもっと俺にやさしくしてもいいと思うんだ。
「だいたい、投影型だから大丈夫だとかわけわかんねえこと言って、いつまでも画面を凝視してたからだろうが」
……うっ。
大丈夫だと思ったんだ。
だって、投影型だよ? 最新型だぜ?
そうこうしてるうちに、海が見えてきた。
「ああ……あの海の青と同じ、俺の今の気分もまさしくブルーだ……」
「ふざけたこと言ってねえで、おとなしくしてろ。青い海の前にアスファルトの海に沈めんぞ」
そんな殺生な……。
しかし、もうすぐ到着とはいえリバースしそうでヤバいのも事実。
ここは、おとなしくして無事に宿まで行こうではないか。
やらかしたら、本当に窓から捨てられそうだしな。
それから少しして、無事にバスは旅館っぽいところに着いた。
俺もリバースすることなく、アスファルトの海にダイブさせられることもなかった。よかったよかった。
「チッ」
おいそこの、この前大ファンのネットアイドルに会えて浮かれまくってた猿渡和海! 舌打ちしたのハッキリ聞こえてんだよ!
そんなに俺をアスファルトの海に落としたかったの!?
その後、旅館の方々に挨拶し、男子の浴場の時間を作ってもらったことに一言お礼を言い、それぞれ部屋に向かう。
この後は、自由時間となっているからみんな着替えて海に行くようだ。
「あれ? そういや、俺らの部屋ってどこだ?」
「そういえば、載ってないな……」
一夏と和海もわかんないのかよ。
もしかして……野宿!? いや、夏だから一日ぐらいならなんとかなる……かもだけどさ。
いざとなったら、万丈の部屋で泊めてもらうか? いやダメだ。同室のヤツらにまたベストカップルだのなんだのと言われるに決まってる。そういう風に見られるのが嫌とかじゃなくて、俺とアイツは頭脳派と肉体派。相容れないのだよ。
「おいバカ。行くぞ」
「え? どこに?」
「お前……今、織斑先生がついてこいって言っただろ」
ヤベ……どうでもいいこと考えてて聞いてませんでした。
ちなみに、部屋は千冬さんと同じだそうです。夜中、女子が遊びに来るのを防ぐためとか。
まぁ別にどうでもいいけど、千冬さんと同じ部屋とか……精神的にやられそうなんだけど。
そんなこんなで、着替えて砂浜に出てきた俺たち。
しかし、やっぱり季節は夏。
「暑い!」
「うるせえ!」
だって、暑いんだもんよ。
「んなわかりきってること叫ぶな。だいたいなんだ、その恰好は?」
「ん? なんか変か?」
「ああ、悪い意味で目立ってるな」
うそーん。
ちなみに、俺の恰好は海パン、パーカー、白衣である。
どこもおかしくないと思うけど。
「俺、時々お前が龍華よりバカなんじゃないかって思えるわ」
「なに!?」
よりにもよって、万丈以下だと!? そんな非現実的なことありえない!
「征兎……!」
ん?
声をかけられそっちを向くと、そこに水着の鈴と万丈。
なんというか……色々と残念な二人組だな。
「なんか失礼なこと考えてない?」
「いやいやまさかー」
こういうことに対する鈴は相変わらず鋭いな。
「鈴、吹っ飛ばすならあっちがいいぞ」
そう言い、和海が指した方向は海と反対側。
灰色のコンクリートの塀がそびえ立っている。
「――って、お前どんだけ俺をコンクリートに沈めたいの!?」
なに、何なの?
ケラケラと笑う和海を見てそう思う。
今日のお前怖いよ!?
「しっかし、あんたのその恰好なによそれ? 悪い意味で目立つわよ」
「お前もか。そんなに変か?」
和海に続き、鈴にもそう言われてしまった。
そんなに変? そう思い、自分の体を見渡していると、不意に白衣の袖を弱々しく引っ張られた。
「その……どうかな?」
暑さのせいか、顔を少し赤くして、万丈がそんなことを聞いてきた。
どうって……その、水着のことだよな。
「…………」
思わずジッと見てしまう。
いやさ……中学時代に見たあのスクール水着? みたいな感じのやつじゃなくて、ビキニタイプの水着。
如何せん色々と残念だが、キチンと引き締まっていて、そこはかとなく色気を感じるような……――って、何を考えてんだ俺はーーー!?
違うそうじゃない。
でも、いくら脳筋とはいえ、ムキムキというわけじゃないんだよな。この体でなんであんな身体能力が発揮されるのか。見た感じ、硬いわけじゃなく、むしろ柔らかそう……――って、だから~~~~!
「……」
ヤベ!? いつまで経っても何も言わないからか、なんとなく不安そうな顔をしてるように見える。
クソ……万丈のくせにナマイキな……!
「あ~……その~……」
くっ……なんでこんな恥ずかしいんだ。
「に、似合ってる……カワイイ……んじゃないか?」
「そ、そう? えへへ、ありがと」
「「!?」」
あーーー! 顔が熱い!
なんでこんなことになってんだ!?
なんかとてもじゃないけど、万丈のほうも見れないし。
「(ウソでしょ!? 征兎が龍華にカワイイって!? カワイイって言ったわよ!?)」
「(あ、ああ。俺もビックリだ。この暑さで思考回路がおかしくなったのか?)」
あーあーあーあー。
何なんだよ、まったくさ。
しばらく顔の熱はとれなかったが、その後は、まぁそれなりに青い海を満喫したと思う。
「――で、あなたは参加しなくてよかったの?」
IS学園の生徒たちが海で遊んでいる光景を見ながら、玄乃は隣にいる人物に問いかけた。
「参加する意味を見出せないからな」
隣にいた人物――更識簪はめんどくさそうに答える。
「そんなもんか。ところで、今回はあの二人を組み込むんでしょ?」
「まぁな。今後のことを考えて、ここらでお披露目しとかないとな」
「まったく……そのために例の紫の銃を三丁。地味にめんどくさかったんだけど」
「ちゃっかり、自分の分も作ってるじゃねぇか。一つ作るのも三つ作るのも変わんないだろ」
「知ってる? 1と3の間には大きな隔たりがあるのよ?」
皮肉を込めて言った言葉もあっさりと返される。
思わず玄乃の口からため息が漏れる。
「ところで」
「あん?」
「銀の福音……わざわざ暴走させる必要あったの? そんなことしなくてもあんたならどうとでもなるでしょ?」
「否定はしない」
「しないのかい」
再びため息。
いったい、コイツに関わってからどれだけため息をついたのか。
そんな考えが頭に浮かんだが、直ぐにやめる。結果はわかりきってると、玄乃は自分でわかってるからだ。
「今後のイベントはともかく、アレとのイベントは主人公くんにとって大事な出来事だからな。是非ともパワーアップの瞬間を俺たちで演出してやろうじゃないか」
大げさな身振り手振りでわざわざそんなことを言う。
「それに、俺は銀の福音が欲しいんじゃない」
そして、本来の簪が絶対にしない醜悪な笑みえお浮かべ、言う。
「【第二形態移行した銀の福音が欲しいんだよ】」
ふう……と一つ息をつく。
しばらくやることがないから、と先に帰ったヤツを見送り、自分はまだその場にとどまっていた。
見つめる先には、自身の企業所属の人物たち。そしてその中の一人、万丈龍華。
(龍華ちゃん……)
思い出されるのは、ヤツがいないときにした束との会話。
『これ……本当なの?』
『うん、間違いないよ』
『でも……どうして……』
『それは、まだ私にも分からない。でもこれが事実なんだ。
ーーりゅーちゃんは一部だけど、アイツの……あの地球外生命体と同じ遺伝子を持っている』
(何がどうなっているのやら。少なくとも出生に関しては、数週間出産が早まったというだけで、なにも変なところはなかった。両親も健在だし)
これ以上は考えてるだけじゃ意味ないな、と自分も戻ろうと踵を返す。
最後にもう一度振り向き、彼らの姿を見つめる。
(夏休み明けてからが勝負かな)
フルボトルとは少し違う紫のボトル、手の平の上に取り出したそれを少し見つめ、歩を進めた。