征兎side
夏休みに入り、nascitaでの例の訓練期間が迫る中、今日は9月からの学校に備えて、買い出しに行くことになっている。
なんで、8月入ってすぐに9月の準備しなきゃいけないのよ……。
こんな夏休みは初めてだよ。
「「ごちそうさまでした」」
「はい、お粗末様」
そして現在、なぜか万丈の家で朝食をご馳走になっている。
まあ、おばさまに強引に誘われたからなんだけど。
「久しぶりに食べましたけど、相変わらずおいしいごはんですね」
「あら、ありがとう。和海くんも相変わらずお上手ね」
和海がおばさまになんか言ってる……。
俺も何か言わねば……!
「いやーホントに! この味噌汁の味とかけっこう好きですよ、俺!」
変わらず微笑みながら、ありがとうと言ってくれるおばさま。
しかし、視界の端で万丈のヤツが何やらムッとしたような顔をしていた。……なぜに?
「征兎! 味噌汁好きなんでしょ? お代わり注いできてあげるよ!」
え? いやいらんよ。さっきごちそうさまって言ったじゃん。
「いや、いらな――ごふっ!?」
いらないと言おうとしたところ、なぜか横の和海から脇腹へ重い一撃が飛んできた。
なぜだ……。
当然、俺は文句を言おうとする。
「…………」
なんだ、万丈……その悲しそうな顔は……。
和海、おばさま……ニヤニヤすんな!
何なんだ、この圧は!?
そんな……そんな顔でこっちを見るなーーーーー!!
「じゃ、じゃあ悪いけど、もう一杯もらおうかな」
「――! わかった!」
「龍華、私がやろうか?」
「いいの! お母さんはそこでジッとしてて!」
2杯目か……。
「朝からよく食うな」
「うるせぇ……食いたいから食うんだよ。ほっとけ」
間もなくして、はい、どうぞ、と味噌汁が俺のもとに運ばれてきた。
ちくしょう……どいつもこいつも楽しそうにしやがって。
おばさまと和海が異様にニヤニヤしているのを横目に、お椀を受け取りズズッと口にした。
うん、美味い!
美味いんだけどさ……重いし、熱い。
万丈はニコニコ、おばさまと和海はニヤニヤ。
2種類の笑顔? に見られながら、それを極力気にしないように味噌汁をがんばって飲んだ。
そんなこんなで、レッツショッピング!
……はぁ~。
「辛気臭ぇ顔してんなよ」
キサマどの口が……!
「ねえ、あれ!」
「ん?」
「なんだ?」
いきなり万丈がそう言ってくるから、仕方なくそっちを見る。
「あれ? かずみんくん?」
「ユーたん!?」
はえ? ユウナさん!?
「ユーたんがなんでここに?」
ホントだよ!
バカもたまにはまともなことを言うんだな。
「あ、この前会った……今日は大丈夫ですか?」
「え?」
なんで会って早々、ナゾの心配されてるの、俺?
「この前も急に倒れちゃったし……」
あ~、あのときのことね。
あのときは、和海にやられただけなんですが……。
そう言えれば、楽なんだけどね……。
とりあえず、大丈夫の意を示しておく。
「(ねえ、なんのこと?)」
「(なんでもない、黙ってろ)」
「(なにそれ)」
ハイハイ。
「そうだ、ユーたんもいっしょにどう?」
和海くん、なに言ってんの?
「ホント! じゃあお願いしちゃおうかな」
そこのネットアイドルもなに言ってんの?
願いむなしく、そのままとんとん拍子でユウナさんの同行が決定した。
「……なんで女の子って買い物が好きなんだろうな」
「知~らない」
なんでそんなツンツンしてんのよ。
「それより……なに? 俺らこれからあの二人の面倒なやりとりに付き合うの?」
「そうなんじゃない?」
ホントもう、何なのよ……。
「…………」
「…………」
「なんで女の子って、買い物が好きなんだろうな?」
なぜか同じことをもう一度言う、俺。
「私が男に見える?」
「そういや、そっか!」
瞬間、体中に走る鈍い痛み。
はいそうです。万丈に殴られました。
「最っ低!」
「すいませんっした」
倒れながらもそう言う、俺。
きっと周りから見れば、かなり情けない絵面だろう。
「大丈夫ですか!? また急に倒れて……」
だから違うのよ……。
なんで今回もこの人、肝心なところ見てないの?
「大丈夫、征兎の面倒は私が見るから!」
「え、あ、はい」
「ほら征兎! いつまでも寝てないでさっさと立つ!」
俺は腕を掴まれ、無理矢理起こされる。
(´Д⊂グスン……。
みんな、もう少し俺にやさしくしてくれてもいいんじゃない?
「(ねえ! かずみんくん! この二人、もしかしてもしかする?)」
「(残念、龍華の片想い)」
「(そうなの? それにしては……)」
「(まあ……かなり前からだからね。それも小学生のときから)」
「(へ~、一途なんだ~)」
「(俺が言うのもなんだけど、趣味悪いでしょ、アイツ)」
「(いえいえ、そんなことないと思うよ)」
「ほら、行くよ!」
「わかったよ」
万丈が、俺の腕を引っ張りながら、歩き出す。
当然、俺も行くしかない。
「っていうか引っ張るなよ」
「引っ張ってないよ。征兎が遅いからそう思うだけ!」
え~……。
なぜか、さっきまでのツンツンした態度から一転、どこか機嫌良さそうな万丈。
「おい、行くぞ!」
「わかってるよ」
「今日はよろしくお願いします」
とりあえず、後ろでコソコソなんか話してた二人を呼び、本来の目的を果たすことにしよう。
それにしても、なんだったんだ万丈のヤツ?
機嫌悪いかと思えば、急に良くなったり。
俺にはサッパリですよ。
わからんわ……。
長い付き合いだが、未だにこういうところはナゾのままだ。
とりあえず、暑いから腕、離してくれないかな?
俺の腕を引っ張り、進んでいく万丈を見ながら、そう思っていた。