「うぃーん」
今日2回目のサイレンが鳴った。
この鬼ごっこでは誰1人死なせはしない。絶対に。
俺、坂本雄二は、そう心に強く誓った。
ここまで偉そうに仕切ってきたが、実は俺はかなり緊張していた。守らなきゃいけない奴らがいるからだ。
一緒に行動しているメンバーは、ムッツリーニ、工藤、そして翔子の俺を含めて計4人。
みんな身体能力だって高い。大丈夫だ。
それにいざとなったら俺が……。
いや、根本的に鬼と遭遇する確率は低いはず、1週間生き残るためにも、今は心を落ち着けることが大事だ。
俺がキャラに合わず深呼吸をしようとした瞬間、女子生徒の叫び声が廊下中に響いた。
「代表、あれってうちのクラスの森さんじゃ……」
「……うん」
どうやらAクラスの生徒だったらしく、工藤と翔子が動揺し始めた。
「じゃあ助けなきゃ」
「…………まて、今行ったら危ない」
「でも森さんが!」
今度は工藤の声が廊下中に響き渡る。
やばいぞ、このままじゃ最悪こっちに鬼が来ちまう。
こういう時はどうすればいいんだ?
俺が仕切んなきゃ始まらねえのに……。
俺は自信がなくなり俯いてしまった。
しかし、その視線の先には俺の前で屈んでいる翔子の姿があった。
「……雄二。大丈夫」
「翔子……」
「……落ち着いて」
翔子の言葉にハッとする。そうだ落ち着け俺。
こいつらを、翔子を守るんだろ。
考えろ。死ぬ気で。
「悪いな。サンキュ」
「……うん」
1つ息を吐いてから、言い争っているムッツリーニと工藤の間に入る。
「お前ら落ち着け」
「で、でもこのままじゃ森さんが、クラスメイトが死んじゃう」
「…………だがお前を危険な目には晒せない」
「ムッツリーニ君……」
え?何こいつらイチャついてんの?
いかんいかん。今はそんなこと言ってる場合じゃない。
俺は須川に言いつけてやりたい衝動を抑え、改めて説明する。
「とにかく、ムッツリーニの言う通り残念だが助けるのは無理だ。他の奴を助けてる余裕なんてないからな」
「そんな……」
「……愛子落ち着いて」
「俺たちは俺たちの身を守るんだ。とにかく近くに2-Fの教室がある。そこに行くぞ」
「…………教室は危ないんじゃないのか?」
「ああ、普通の教室はな。でも2-Fは別だ」
「……何するの?」
「着いてからのお楽しみだ」
☆
「あの木下さん?そんなに近づかれると歩きづらいんだけど。主に女性陣に足を蹴られてるから」
「でも、吉井君が守ってくれるんでしょ」
「ま、まあ……」
守ってあげたいんだけどね。
そうすると、なぜか美波と姫路さんが敵になる気がしてならない。
「はあ、姉上。いい加減にせんか。それだと明久が疲れてしまうじゃろ」
「わ、わかってるわよ。場を和ませるための冗談よ、冗談」
「和んでるのは姉上だけじゃろ」
「僕も和んでるけど」
「「ガス!」」
「痛!?」
美波と姫路さんに思いっきり足を蹴られた。
僕なんか蹴られるようなことしたかな?
やっぱり乙女心は難しいなと思いつつ、廊下の角を曲がる。
その先には鬼、……ではなくF組の面々がいた。
「あ、みんな。久しぶり」
「よお、吉井。元気だったか」
「まあ、なんとかね」
「チッ」
あれ?今、舌打ちされたような。
気のせいかな?
「にしても、みんなはなんで一緒にいるの?雄二が大勢での行動は危ないって言ってたよね?」
僕の問いを聞くと、F組の面々は馬鹿にするかのように笑い出した。
「おいおい吉井〜、冗談きついぜ。男だけのグループでこんなことやってられっか!」
「で、でも結局集まってもみんな男しかいないんじゃ……」
「黙れ吉井!元はと言えばキサマが!」
「コロス。吉井。コロス」
「吉井って炒めるのと茹でるのと蒸すのってどれが1番好き?」
「それって料理のことだよね!?」
「ああ、新作料理だ。珍しい食材が入ってるぞ」
「絶対僕だよそれ!?」
「相変わらずお主らは馬鹿じゃの」
2-Fのみんなは、こんな状況でもバカやってる。
こういうのもなんかいいなとか思ってしまう。
「吉井君。もう行きましょ」
「き、木下さん!?」
突然、木下さんが僕の手を握りながら言った。
F組のみんなが、それを見て僕を睨みつける。
ついでに、後ろからは思いっきり蹴られてるんだけど……。
「やっぱてめえは燻製だ!」
「コロス。吉井。コロス」
「今なら心臓2個で勘弁してやるよ」
やっぱり最悪だこいつら!
僕は木下さんの手を引っ張ってその場から逃げる。
「行くよ木下さん!」
「ちょっと吉井君!?みんなとはぐれちゃうわよ」
「ごめん木下さん!でもまだ燻製にされたくないから」
「燻製って……」
「うぃーん」
木下さんの声と重なるように、終わりのサイレンが鳴った。
「あ、いつの間にか鬼ごっこ終わったね」
「ええ。でも……」
木下さんは、僕たちが走ってきた道の方を振り返った。
誰の気配も感じられない。
僕たちは秀吉、美波、姫路さんとはぐれてしまっていた。