僕と優子と鬼ごっこ   作:鱸のポワレ

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第7話 俺と工藤とワイヤーと

「きゃあーー」

 

再びAクラスの森の叫び声が校舎中に響き渡る。

俺、坂本雄二はその声を聞き、罪悪感に襲われていた。

俺が見殺しにした。俺のせいで人が1人死ぬのか。

森と同じクラスの翔子と工藤は、泣きそうな顔をしている。特に工藤は………

 

「森さん。……私のせいで」

「…………お前のせいじゃない。気にするな」

「ムッツリーニ君……」

 

イチャついてやがる。どうやら工藤の心配はいらないようだ。

そんなことを考えている間に俺たちは目的地であるFクラスに到着した。

 

「よし。じゃあ始めるぞ!」

「……雄二。何をするの?」

「とりあえずムッツリーニと俺でこの壁をぶっ壊してEクラスと繋げる」

「本当に言ってるの?」

「ああ。Eクラスの方へ逃げたと思わせて窓から校庭に行く」

「…………素手じゃ無理」

 

珍しくムッツリーニが困惑した表情で言った。

 

「それは想定済みだ。だからこクラスを選んだ」

「どういうこと?」

「まずはFクラスの設備だ。このペラペラの壁なら壊しやすいからな」

「……でも」

「ああ。ムッツリーニも言ったが素手じゃ無理だ」

「…………ならどうやって」

「だからそれは……」

 

俺は黒板の裏に貼り付けられた物を取る。

 

「……この、トンカチを使う」

「トンカチ!?……ってなんでそんなものが?」

「…………明久か」

「その通りだ」

「?」

 

ムッツリーニは察したようだ。

さすがFクラス(クズ)の一員だ。

 

「ここは元々俺らの教室だ。数ヶ月前に見ちまったんだよ。須川たちが明久を消そうとしてこいつを教室に隠してるところを」

「……なんでまだあるの?」

「あいつら馬鹿だから忘れてたんだよ」

「なるほどね……」

 

翔子と工藤も納得したように頷いた。

 

「とにかく時間が惜しい。早速やるぞムッツリーニ」

「…………了解した」

「す、すごいね」

「……さすが私の夫」

「まだ結婚してないだろ!?」

「…………イチャつくな」

「どこがだ!?」

「全部だよ」

「い、いいから早く行くぞ」

 

俺とムッツリーニは壁を壊し終わり、次はこの教室からの脱出を始める。

 

「窓から出るっつっても高さがあるからな。ムッツリーニ先に下に行ってワイヤーで繋いでくれ。

「…………今日はワイヤー持ってない」

「いつもは持ってんの!?」

「……私持ってる」

 

翔子が黒いワイヤーを取り出した。

……おいおい。

 

「それって何に使う予定だったんだ翔子」

「……私と雄二の愛」

「なんで愛にワイヤーが出てくるんだよ!?」

「……ポッ」

「なんで照れたんだ……」

 

俺を縛りでもするんだろうか。

……今は考えないようにしよう。

 

「とにかくやるぞムッツリーニ」

「…………了解した」

 

紐を窓枠に結びつけ、ムッツリーニは窓の外へ飛んでいった。

やっぱりムッツリーニをこっちのグループに入れといて正解だったなとつくづく思う。

明久たち、全滅してなきゃいいんだが。

 

「よし。順番に行くぞ」

「……わかった」

 

翔子が紐を紐をつたって降りていった。

 

「工藤も行っていいぞ」

「さ、先言っていいよ坂本君」

「そうか?悪いな」

「後でね」

 

この時、俺は何も考えられていなかった。

工藤の気持ちを。

 

下に降り翔子たちと合流した。

しかし、それと同時にワイヤーが窓枠から外れてしまった。いや、工藤が自ら外した。

 

「おいこれって!」

「…………まずい」

「……まさか愛子、森さん助けるために」

「とにかく階段を登るぞ」

「…………遅い。先に行く」

「頼んだぞ」

 

ムッツリーニは今までに見たことがないような必死な顔をして走っていった。

 

「……雄二、私たちも」

「ああ」

 

俺たちもムッツリーニの後を追うように走り出した。

しかし、俺たちがFクラスに戻った頃には、工藤の姿はなく、ムッツリーニがポツリと1人で座っていた。

 

「…………もう工藤はいなかった」

「そうか」

「……愛子。ううっ」

「うぃーん」

 

翔子の涙が流れるのと同時にサイレンが鳴った。 


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