「きゃあーー」
再びAクラスの森の叫び声が校舎中に響き渡る。
俺、坂本雄二はその声を聞き、罪悪感に襲われていた。
俺が見殺しにした。俺のせいで人が1人死ぬのか。
森と同じクラスの翔子と工藤は、泣きそうな顔をしている。特に工藤は………
「森さん。……私のせいで」
「…………お前のせいじゃない。気にするな」
「ムッツリーニ君……」
イチャついてやがる。どうやら工藤の心配はいらないようだ。
そんなことを考えている間に俺たちは目的地であるFクラスに到着した。
「よし。じゃあ始めるぞ!」
「……雄二。何をするの?」
「とりあえずムッツリーニと俺でこの壁をぶっ壊してEクラスと繋げる」
「本当に言ってるの?」
「ああ。Eクラスの方へ逃げたと思わせて窓から校庭に行く」
「…………素手じゃ無理」
珍しくムッツリーニが困惑した表情で言った。
「それは想定済みだ。だからこクラスを選んだ」
「どういうこと?」
「まずはFクラスの設備だ。このペラペラの壁なら壊しやすいからな」
「……でも」
「ああ。ムッツリーニも言ったが素手じゃ無理だ」
「…………ならどうやって」
「だからそれは……」
俺は黒板の裏に貼り付けられた物を取る。
「……この、トンカチを使う」
「トンカチ!?……ってなんでそんなものが?」
「…………明久か」
「その通りだ」
「?」
ムッツリーニは察したようだ。
さすがFクラス(クズ)の一員だ。
「ここは元々俺らの教室だ。数ヶ月前に見ちまったんだよ。須川たちが明久を消そうとしてこいつを教室に隠してるところを」
「……なんでまだあるの?」
「あいつら馬鹿だから忘れてたんだよ」
「なるほどね……」
翔子と工藤も納得したように頷いた。
「とにかく時間が惜しい。早速やるぞムッツリーニ」
「…………了解した」
「す、すごいね」
「……さすが私の夫」
「まだ結婚してないだろ!?」
「…………イチャつくな」
「どこがだ!?」
「全部だよ」
「い、いいから早く行くぞ」
俺とムッツリーニは壁を壊し終わり、次はこの教室からの脱出を始める。
「窓から出るっつっても高さがあるからな。ムッツリーニ先に下に行ってワイヤーで繋いでくれ。
「…………今日はワイヤー持ってない」
「いつもは持ってんの!?」
「……私持ってる」
翔子が黒いワイヤーを取り出した。
……おいおい。
「それって何に使う予定だったんだ翔子」
「……私と雄二の愛」
「なんで愛にワイヤーが出てくるんだよ!?」
「……ポッ」
「なんで照れたんだ……」
俺を縛りでもするんだろうか。
……今は考えないようにしよう。
「とにかくやるぞムッツリーニ」
「…………了解した」
紐を窓枠に結びつけ、ムッツリーニは窓の外へ飛んでいった。
やっぱりムッツリーニをこっちのグループに入れといて正解だったなとつくづく思う。
明久たち、全滅してなきゃいいんだが。
「よし。順番に行くぞ」
「……わかった」
翔子が紐を紐をつたって降りていった。
「工藤も行っていいぞ」
「さ、先言っていいよ坂本君」
「そうか?悪いな」
「後でね」
この時、俺は何も考えられていなかった。
工藤の気持ちを。
下に降り翔子たちと合流した。
しかし、それと同時にワイヤーが窓枠から外れてしまった。いや、工藤が自ら外した。
「おいこれって!」
「…………まずい」
「……まさか愛子、森さん助けるために」
「とにかく階段を登るぞ」
「…………遅い。先に行く」
「頼んだぞ」
ムッツリーニは今までに見たことがないような必死な顔をして走っていった。
「……雄二、私たちも」
「ああ」
俺たちもムッツリーニの後を追うように走り出した。
しかし、俺たちがFクラスに戻った頃には、工藤の姿はなく、ムッツリーニがポツリと1人で座っていた。
「…………もう工藤はいなかった」
「そうか」
「……愛子。ううっ」
「うぃーん」
翔子の涙が流れるのと同時にサイレンが鳴った。