○池の近くの空き地(夜)
あかりの体から金の粒子が新たに吹き出る。
中空を舞う銀色の粒子、ヘビのような鋭さでゆかりへ躍りかかる。
結月ゆかり「無駄です」
ゆかり、パーカーに手を突っ込んだまま迎え撃つ。
あかり、見る。
ゆかりの体から、細長く煌めく糸状のものが幾つも伸びるのを。
(同居人"さんがむりや")
ゆかり、糸を壁にして防御。
蜘蛛の巣のように展開した糸の網が、銀の奔流を受け止める。
銀光、激突。
大量の銀粉、糸の表面にまとわりつく。銀糸の壁ができる。
壁を突破できた銀はひとつもない。
糸、ネットのように組み合わさって大きく広がり、銀の粒子達を絡め取っていく。
銀の細片、自分から糸に取り付く。眩く。
糸、銀の粉を大量に付けられて重くなり、地面でズサズサのたうち回る。
ゆかり、新しい糸を幾つも放出。
銀、新たな糸へ纏わり付く。
糸、暴れる。振り払う。揉みくちゃに。
金の霧、糸と銀の格闘を飛び越え、ゆかりの頭上に拡がる。
霧は濃さを増して煙に近くなる。輝く金粉を内包。
金煙の一部、くぼむ。
そこからひときわ濃い煙が一条、高速で放射される。ガスと光点の混合物。
ゆかりに向かってひた走る。
結月ゆかり「無駄と言いました」
ゆかり、先ほどよりもずっと太い糸の束を肩口から一本生やす。
(パーカーの上から生えている)
糸の束は弾けるように枝分かれし、細かい繊維状の膜を形成する。
ゆかり、その膜で全身を包む。
直後、金色の煙をしたたかに浴びる。
薄膜が煌めく。
金煙、ゆかりを包み込む。
ゆかり、平然と眺める。
結月ゆかり「捕縛用の触手と互角なのは流石ですが、同居人のエネルギー吸収皮膜を突破するほどの力はない。あなたもそれは分かってるでしょう?」
ゆかりの肩胛骨あたりから、別の触腕が伸びる。動物の内臓と植物の根の中間のような造形。
新たな触腕、鋭く伸びてしなる。鞭のように。振り回す。
目にも留まらぬ峻烈な速さでゆかりの周囲を引き裂く。
金の煙が千々に乱され、かき消される。
煙は濃さを薄め、霧状に戻る。
霧の中にいた金の光達、霧から次々と飛び出す。
さらに高い位置へ結集。
金色に輝く粒子達が一ヶ所に塊を作る。
糸と格闘していた銀の粉が上昇。
金塊の表面を銀粉が覆う。
その金と銀の核を、薄い金の霧が大きく包む。
いびつな三層の透視天球儀。
ゆかり、それを見上げる。
結月ゆかり「なぜ未だにあかりさんの中へ入っていないのかは知りませんが、その状態で同居人に勝つことは出来ません」
金銀の核から、銀の粉が一筋、糸のように伸びる。
細かい輝きを撒き散らしながら伸びるそれを芯にして、霧が細長く伸長。一本の腕を形成する。
掌も指もない霧の腕、ゆかりの触腕を掴み取ろうと試みる。
触腕、表面からぬめりのある分泌液を出して抗う。
分泌液に触れた金霧は軽さと活性を失い、重々しくゆっくり地面へ落ちる。
分泌液、霧に触れた箇所が固体化。ぼろぼろと剥がれ、散る。
触腕、失った液をさらに分泌。霧腕を叩き反撃する。
結月ゆかり「いつもと同じです。溶解用の触腕はあなたの力を上回る。攻防ともに私たちの勝ちです」
金の核と銀の粒子、その一部が輝き、規則的に瞬く。
ゆかりの触腕と皮膜、それに合わせるように淡く発光する。
ゆかり、目を細める。
結月ゆかり「おしゃべりはそこまでです」
触腕、枝分かれ。さらに素早く霧を薙ぎ払う。
金光、銀と霧の腕を増やして対抗。
叩き、ど突き、ぶつかり合う。
多腕同士の格闘。
あかり、その格闘を呆とした瞳で見やる。
紲星あかり「あ……」
あかり、自分の目の前に、金の光の一部がいることに気付く。
その金の光の中に、黒い靄が見える。
蚊柱のような、恐ろしく小さく細かいものが大量に密集し、不規則に蠕動している。
金の粒と黒の靄が、形状を変える。
金の文字。
黒い靄が下地になり、書かれた文字を見やすくする。
" い ま な ら 見 ら れ る "
紲星あかり「なに、を…?」
" あ の お ん な の か く し ご と "
紲星あかり「(はっ、と息を呑む)」
" き さ ま は つ れ て か れ な い "
紲星あかり「なんのこと……」
" き さ ま は こ こ "
" あ の お ん な は あ そ こ "
" き さ ま は つ れ て か れ な い "
紲星あかり「なんのことだってば!」
あかり、叫ぶ。
黒靄、震えながら踊り狂う。
金文字、形を変えて示す。
あかり、それを見る。
目を瞠る。
紲星あかり「―――うそ……」
突如、騒音が発生する。
羽虫の飛翔する音。
弦楽器が滅茶苦茶に掻き鳴らされる音。
空電ノイズの雑音。
それらを無理やり束ね、人間が聞こえるような領域に落とし込んだような騒音で、嗤う。
"よろうてつ"の哄笑。
ゆかりの前で格闘していた三重の球体、輝きを急速に増す。
そして唐突に、夜空へ向かって急上昇。
三日月を一瞬だけ包み、幻のように消える。
沈黙。
ただの空き地になる。
結月ゆかり「……あかりさん」
ゆかり、触手と触腕を全て体の内に納め、ゆっくりとあかりに近付いていく。
あかり、ゆかりを震えた瞳で見詰める。
結月ゆかり「ご無事ですか?」
紲星あかり「(青ざめた顔)」
結月ゆかり「もう少し早く気付けば良かったのですが、申し訳ありません」
紲星あかり「……」
結月ゆかり「さほど悪さはされていないように見受けられますが、今日のところは帰って休みましょう。そちらの、お友達も気を失われているようですし」
ゆかり、地面に横たわる葵を指さす。
葵、失神中。表情が負の激情で歪んでいる。
あかり、口をもごもごと動かし、何か言おうとし、結局は何も言わず。
ただ頷いて見せる。
ゆかり、ほっと息を吐く。
結月ゆかり「お友達は私が運びます。あかりさんは、足元に気をつけて下さい」
ゆかり、葵を無造作に抱え上げる。
あかり、その2人を眇める。
発破音。
頭上で大きな光が広がる。
花火。
赤と緑、黄色の星弾。輪になって華になって夜空を彩る。
鮮やかな光。あかりとゆかりを照らす。
その光はあかりの瞳に入らない。
あかり、光のない瞳でゆかりを凝視する。無言のまま。
あかりの瞳、一瞬だけ瞬く。
金色に。妖しく。