月、ころてる   作:鈴本恭一

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第2幕・第5章:さんがむりや vs よろうてつ(前哨)

○池の近くの空き地(夜)

 

 

 あかりの体から金の粒子が新たに吹き出る。

 中空を舞う銀色の粒子、ヘビのような鋭さでゆかりへ躍りかかる。

 

結月ゆかり「無駄です」

 

 ゆかり、パーカーに手を突っ込んだまま迎え撃つ。

 

 あかり、見る。

 

 ゆかりの体から、細長く煌めく糸状のものが幾つも伸びるのを。

 (同居人"さんがむりや")

 

 ゆかり、糸を壁にして防御。

 蜘蛛の巣のように展開した糸の網が、銀の奔流を受け止める。

 銀光、激突。

 大量の銀粉、糸の表面にまとわりつく。銀糸の壁ができる。

 壁を突破できた銀はひとつもない。

 

 糸、ネットのように組み合わさって大きく広がり、銀の粒子達を絡め取っていく。

 銀の細片、自分から糸に取り付く。眩く。

 糸、銀の粉を大量に付けられて重くなり、地面でズサズサのたうち回る。

 

 ゆかり、新しい糸を幾つも放出。

 銀、新たな糸へ纏わり付く。

 糸、暴れる。振り払う。揉みくちゃに。

 

 金の霧、糸と銀の格闘を飛び越え、ゆかりの頭上に拡がる。

 霧は濃さを増して煙に近くなる。輝く金粉を内包。

 

 金煙の一部、くぼむ。

 そこからひときわ濃い煙が一条、高速で放射される。ガスと光点の混合物。

 ゆかりに向かってひた走る。

 

結月ゆかり「無駄と言いました」

 

 ゆかり、先ほどよりもずっと太い糸の束を肩口から一本生やす。

 (パーカーの上から生えている)

 

 糸の束は弾けるように枝分かれし、細かい繊維状の膜を形成する。

 ゆかり、その膜で全身を包む。

 直後、金色の煙をしたたかに浴びる。

 薄膜が煌めく。

 金煙、ゆかりを包み込む。

 

 ゆかり、平然と眺める。

 

結月ゆかり「捕縛用の触手と互角なのは流石ですが、同居人のエネルギー吸収皮膜を突破するほどの力はない。あなたもそれは分かってるでしょう?」

 

 ゆかりの肩胛骨あたりから、別の触腕が伸びる。動物の内臓と植物の根の中間のような造形。

 

 新たな触腕、鋭く伸びてしなる。鞭のように。振り回す。

 

 目にも留まらぬ峻烈な速さでゆかりの周囲を引き裂く。

 金の煙が千々に乱され、かき消される。

 

 煙は濃さを薄め、霧状に戻る。

 霧の中にいた金の光達、霧から次々と飛び出す。

 さらに高い位置へ結集。

 

 金色に輝く粒子達が一ヶ所に塊を作る。

 

 糸と格闘していた銀の粉が上昇。

 金塊の表面を銀粉が覆う。

 

 その金と銀の核を、薄い金の霧が大きく包む。

 

 いびつな三層の透視天球儀。

 

 ゆかり、それを見上げる。

 

結月ゆかり「なぜ未だにあかりさんの中へ入っていないのかは知りませんが、その状態で同居人に勝つことは出来ません」

 

 金銀の核から、銀の粉が一筋、糸のように伸びる。

 細かい輝きを撒き散らしながら伸びるそれを芯にして、霧が細長く伸長。一本の腕を形成する。

 

 掌も指もない霧の腕、ゆかりの触腕を掴み取ろうと試みる。

 

 触腕、表面からぬめりのある分泌液を出して抗う。

 分泌液に触れた金霧は軽さと活性を失い、重々しくゆっくり地面へ落ちる。

 分泌液、霧に触れた箇所が固体化。ぼろぼろと剥がれ、散る。

 触腕、失った液をさらに分泌。霧腕を叩き反撃する。

 

結月ゆかり「いつもと同じです。溶解用の触腕はあなたの力を上回る。攻防ともに私たちの勝ちです」

 

 金の核と銀の粒子、その一部が輝き、規則的に瞬く。

 

 ゆかりの触腕と皮膜、それに合わせるように淡く発光する。

 

 ゆかり、目を細める。

 

結月ゆかり「おしゃべりはそこまでです」

 

 触腕、枝分かれ。さらに素早く霧を薙ぎ払う。

 金光、銀と霧の腕を増やして対抗。

 叩き、ど突き、ぶつかり合う。

 多腕同士の格闘。

 

 

 あかり、その格闘を呆とした瞳で見やる。

 

紲星あかり「あ……」

 

 あかり、自分の目の前に、金の光の一部がいることに気付く。

 その金の光の中に、黒い靄が見える。

 蚊柱のような、恐ろしく小さく細かいものが大量に密集し、不規則に蠕動している。

 金の粒と黒の靄が、形状を変える。

 金の文字。

 黒い靄が下地になり、書かれた文字を見やすくする。

 

 

      " い ま な ら 見 ら れ る "

 

 

紲星あかり「なに、を…?」

 

 

      " あ の お ん な の か く し ご と "

 

 

紲星あかり「(はっ、と息を呑む)」

 

 

      " き さ ま は つ れ て か れ な い "

 

 

紲星あかり「なんのこと……」

 

 

      " き さ ま は こ こ "

 

      " あ の お ん な は あ そ こ "

 

 

      " き さ ま は つ れ て か れ な い "

 

 

紲星あかり「なんのことだってば!」

 

 あかり、叫ぶ。

 黒靄、震えながら踊り狂う。

 

 金文字、形を変えて示す。

 

 あかり、それを見る。

 目を瞠る。

 

紲星あかり「―――うそ……」

 

 突如、騒音が発生する。

 

 羽虫の飛翔する音。

 弦楽器が滅茶苦茶に掻き鳴らされる音。

 空電ノイズの雑音。

 それらを無理やり束ね、人間が聞こえるような領域に落とし込んだような騒音で、嗤う。

 "よろうてつ"の哄笑。

 

 ゆかりの前で格闘していた三重の球体、輝きを急速に増す。

 そして唐突に、夜空へ向かって急上昇。

 三日月を一瞬だけ包み、幻のように消える。

 

 

 沈黙。

 

 ただの空き地になる。

 

 

結月ゆかり「……あかりさん」

 

 ゆかり、触手と触腕を全て体の内に納め、ゆっくりとあかりに近付いていく。

 

 あかり、ゆかりを震えた瞳で見詰める。

 

結月ゆかり「ご無事ですか?」

紲星あかり「(青ざめた顔)」

結月ゆかり「もう少し早く気付けば良かったのですが、申し訳ありません」

紲星あかり「……」

結月ゆかり「さほど悪さはされていないように見受けられますが、今日のところは帰って休みましょう。そちらの、お友達も気を失われているようですし」

 

 ゆかり、地面に横たわる葵を指さす。

 葵、失神中。表情が負の激情で歪んでいる。

 

 あかり、口をもごもごと動かし、何か言おうとし、結局は何も言わず。

 ただ頷いて見せる。

 

 ゆかり、ほっと息を吐く。

 

結月ゆかり「お友達は私が運びます。あかりさんは、足元に気をつけて下さい」

 

 ゆかり、葵を無造作に抱え上げる。

 あかり、その2人を眇める。

 

 

 発破音。

 頭上で大きな光が広がる。

 

 花火。

 赤と緑、黄色の星弾。輪になって華になって夜空を彩る。

 

 鮮やかな光。あかりとゆかりを照らす。

 

 

 その光はあかりの瞳に入らない。

 

 あかり、光のない瞳でゆかりを凝視する。無言のまま。

 

 

 あかりの瞳、一瞬だけ瞬く。

 

 金色に。妖しく。

 

 

 

 

 

 

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