○結月家のあるマンション・屋上(昼)
黒い空に張り付く銀色の光、膨張。
膨れあがった光の塊、蹴り飛ばされるように屋上へ放たれる。
ゆかりのもとへ。
(光弾、発射)
結月ゆかり「(素早く対応。手を上へ向ける)」
体から捕縛用の糸を展開。編み込んだ糸の壁を頭上に掲げる。
(祭りの夜に銀の光を退けた、捕縛用の触手)
(腕そのものも、エネルギー吸収用の皮膜で包む)
光の塊、彗星の如く銀色の尾を引いて糸の壁に直撃。
無音。しかし空気が震える。
銀光が爆発。糸の壁を巻き込んで炸裂する。
強烈な圧力に耐えきれず、糸の壁がばらばらに吹き飛ぶ。
(防壁、破壊)
銀光の残滓、ゆかりに降り注ぐ。
ゆかり、掲げた腕に展開していた皮膜でその光を吸い込む。無傷で済ます。
結月ゆかり「これは……」
吹き散った糸の破片を浴びながら、ゆかり、あかりを見詰める。
紲星あかり「(暗黒の球体をゆかりにかざす)」
結月ゆかり「(目を細め、構える。肩口から触腕を3本生やす)」
ゆかりの触腕、分泌液を滴らせながら高速であかりに肉薄する。
あかりの黒球、再び蠕動。
上空で踊る金の星から、鮮光が直線状に閃く。
レーザービーム。
猛烈な勢いで迫っていた触腕の全てを、上空からのレーザーが切り刻む。
(八つ裂きにされる触腕)
金の光刃、切断された触腕の破片達を執拗な動きでさらに細かく斬り飛ばす。
何条もの光の剣が、あかりを彩る。
あかり、笑う。
金の瞳を輝かせて。
紲星あかり「"さんがむりや"の攻撃は、もう私に届かない」
結月ゆかり「(目を細め)……それを招き入れてまでして、この後、私をどうするのですか?」
紲星あかり「(目を見開き)ゆかりさんを植民地にする」
星屑が瞬く。
紲星あかり「"さんがむりや"をゆかりさんから駆逐して、"よろうてつ"をゆかりさんの中に棲ませるの。そうすれば、ゆかりさんはずっとこっちにいる。私を置いてどこかにいかなくなる」
結月ゆかり「つまり、私を支配したいのですね?」
紲星あかり「……うん、そう。そうだね。そうだよ」
あかり、恍惚の相貌で甘やかに微笑む。
紲星あかり「私はゆかりさんを隅々まで支配する」
あかり、黒の球体に片方の手を突っ込む。
球体が揺れる。
黒に飲み込まれた腕を、重々しく引き抜く。
紲星あかり「なんのためらいもなく、どこかに行かれるくらいなら……」
あかりの引き抜いた腕に、色のついた風が纏わり付く。
(球体から七色の風が噴出する)
赤、緑、青、黄、紫、藍、橙。
色とりどりに染め上げられた何陣もの疾風が、あかりの腕を軸にし、大きく渦を巻いて踊り狂う。
(七色の風から罅割れた笑い声が囁く)
あかり、風が巻かれたその腕を、ゆっくり振り上げる。
万華鏡めいて色彩を変化させる風達が、螺旋状に密集。
竜巻を形成し、膨張。
(それはひとつの巨大な剣だった)
(七色に閃く竜巻の大剣を振りかざす)
ゆかり、瞬時に触手糸、触腕を再び生やす。
(太い触腕を幾つも交差させ、分厚い楯を作る)
(触腕の壁の外側に、糸の壁を3枚展開。重ねる)
紲星あかり「―――あなたを私のものにしてやる」
あかり、振り下ろす。
結月ゆかり「!」
ゆかり、両手を前方に広げる。
七色の嵐が迸る。
扇状に爆走する激風が屋上の空間を蹂躙。自然空気を吹き飛ばす。
渦を巻く暴風から金と銀の放電。床が灼かれる。
暴虐のそのもののような竜巻の切っ先が、ゆかりの4重防壁に叩き付けられる。
(3枚の触手壁、触腕の楯、それらが容易く容赦なく破壊される)
防壁を蹴散らした七色の竜巻を、ゆかりの両手が押し止める。
(ゆかりの両手には、エネルギー吸収皮膜)
荒ぶる烈風がゆかりの手に触れて力を無くす。嵐はそよ風に堕ちる。
(くすくす、笑いが風から弾ける)
――不意に、あかりの両手に、何かが刺さる。
黒い針。
10センチ程度の長さ。
エイの毒針のような返しが付いている。
それが全部で4本。
(針は吸収皮膜を突破していない)
(しかし落下せず、突き立てられたまま)
あかりの黒い球体、瞬間的に収縮する。
針、爆裂。
(耳をつんざく轟音)
若竹色の火柱が、巨人のような大きさで黒い空に吹き上がる。
鮮やかな業火は衝撃波となって、屋上全体を舐める。
(屋上、炎の海と化す)
翡翠色の炎、ゆかりの両手を灼く。
ゆかりの手、皮膚が裂ける。出血。
ゆかり、血を流す。
結月ゆかり「(驚きに瞠る)」
負傷で姿勢を崩したゆかりに、七色の凄風が怒濤となって押し寄せる。
竜巻、ゆかりを屋上の端まで軽々と蹴散らす。木っ端のように。
ゆかり、吹き飛ばされる。鉄柵に引っかかる。奔流が止まらない。
あかり、暴風の放射を続ける。
(たっぷり5秒)
(5秒の後、ようやく猛風が収束する)
(炎も幻のように消えている)
結月ゆかり「……(屋上の端で俯す。あちこち焦げ付いたパーカー。裂傷を負う皮膚。動けない)」
紲星あかり「ほら、やっぱり」
あかり、満足げに微笑む。
紲星あかり「あなたの"さんがむりや"より、私の"よろうてつ"の方が強い」
七色の風、黒い球体の中に戻る。
頭上を支配していた暗黒の星図、徐々に薄くなっていく。
あかり、ゆかりを見下ろす。笑みを消して。
紲星あかり「ねえ、ゆかりさん。なんで、私をここに呼んだの?」
結月ゆかり「……」
紲星あかり「いなくなっちゃうなら、なんで私と一緒に過ごしたの?」
結月ゆかり「(小さい声)……私では、父と母を慰めることができないから」
ゆかり、俯せのまま応える。
(顔は上げない)
結月ゆかり「両親がどれだけ私に食事を作っても、努力しても、報われることはないから。私相手では……」
結月ゆかり「だから、私とは違う、彼らに応えてくれる子が欲しかった……」
紲星あかり「ゆかりさんの、代わりが欲しかったの?」
結月ゆかり「……」
紲星あかり「いなくなっちゃうゆかりさんの代わりに? 一緒に食べて一緒に笑う子供が欲しかったの?」
結月ゆかり「……そうです」
紲星あかり「(震える。握り拳を作る。怒りに滲む声)……ふざけないで」
結月ゆかり「……」
紲星あかり「私は、人形じゃない。ゆかりさんの代わりなんてイヤだ。絶対にヤだ」
あかり、背後に後ずさり、鉄柵へ近付く。
紲星あかり「私が代わりを演じたら、ゆかりさんはどこにいるの?」
結月ゆかり「……」
紲星あかり「(すがる声)あなたが欲しいの。ゆかりさん」
あかり、鉄柵に背中を預ける。
(空にあった偽りの星々は消失している)
(曇天が再び姿を現す)
紲星あかり「……海で、待ってる。みんなで遊んだ、あの海で」
あかり、黒い靄を大きく全身に絡ませ、その場を跳ねる。
鉄柵の上に軽々と乗る。爪先だけで立つ。
結月ゆかり「(顔を上げて)私が、そこに行かなかったら?」
紲星あかり「海で待ってる」
あかり、翼のように黒い靄を広げ、鉄柵の後ろへ飛ぶ。
屋上から身投げする。
紲星あかり「あなたを、待ってる」
あかり、落ちる。
ゆかりの視界から消える。
何の音も発生しない。
結月ゆかり「………」
ゆかり、独り、残される。
雷鳴が響く。遠く。低く。
紲星あかり「(M)私達の最後の海――――――決戦が始まる」