月、ころてる   作:鈴本恭一

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第3幕・第3章:さんがむりや vs よろうてつ(開幕)

 

 

 

○結月家のあるマンション・屋上(昼)

 

 

 黒い空に張り付く銀色の光、膨張。

 膨れあがった光の塊、蹴り飛ばされるように屋上へ放たれる。

 ゆかりのもとへ。

 (光弾、発射)

 

結月ゆかり「(素早く対応。手を上へ向ける)」

 

 体から捕縛用の糸を展開。編み込んだ糸の壁を頭上に掲げる。

 (祭りの夜に銀の光を退けた、捕縛用の触手)

 (腕そのものも、エネルギー吸収用の皮膜で包む)

 

 光の塊、彗星の如く銀色の尾を引いて糸の壁に直撃。

 無音。しかし空気が震える。

 銀光が爆発。糸の壁を巻き込んで炸裂する。

 強烈な圧力に耐えきれず、糸の壁がばらばらに吹き飛ぶ。

 (防壁、破壊)

 

 銀光の残滓、ゆかりに降り注ぐ。

 

 ゆかり、掲げた腕に展開していた皮膜でその光を吸い込む。無傷で済ます。

 

結月ゆかり「これは……」

 

 吹き散った糸の破片を浴びながら、ゆかり、あかりを見詰める。

 

紲星あかり「(暗黒の球体をゆかりにかざす)」

結月ゆかり「(目を細め、構える。肩口から触腕を3本生やす)」

 

 ゆかりの触腕、分泌液を滴らせながら高速であかりに肉薄する。

 あかりの黒球、再び蠕動。

 

 上空で踊る金の星から、鮮光が直線状に閃く。

 レーザービーム。

 猛烈な勢いで迫っていた触腕の全てを、上空からのレーザーが切り刻む。

(八つ裂きにされる触腕)

 金の光刃、切断された触腕の破片達を執拗な動きでさらに細かく斬り飛ばす。

 何条もの光の剣が、あかりを彩る。

 

 あかり、笑う。

 金の瞳を輝かせて。

 

紲星あかり「"さんがむりや"の攻撃は、もう私に届かない」

結月ゆかり「(目を細め)……それを招き入れてまでして、この後、私をどうするのですか?」

紲星あかり「(目を見開き)ゆかりさんを植民地にする」

 

 星屑が瞬く。

 

紲星あかり「"さんがむりや"をゆかりさんから駆逐して、"よろうてつ"をゆかりさんの中に棲ませるの。そうすれば、ゆかりさんはずっとこっちにいる。私を置いてどこかにいかなくなる」

結月ゆかり「つまり、私を支配したいのですね?」

紲星あかり「……うん、そう。そうだね。そうだよ」

 

 あかり、恍惚の相貌で甘やかに微笑む。

 

紲星あかり「私はゆかりさんを隅々まで支配する」

 

 あかり、黒の球体に片方の手を突っ込む。

 球体が揺れる。

 黒に飲み込まれた腕を、重々しく引き抜く。

 

紲星あかり「なんのためらいもなく、どこかに行かれるくらいなら……」

 

 あかりの引き抜いた腕に、色のついた風が纏わり付く。

 (球体から七色の風が噴出する)

 赤、緑、青、黄、紫、藍、橙。

 色とりどりに染め上げられた何陣もの疾風が、あかりの腕を軸にし、大きく渦を巻いて踊り狂う。

(七色の風から罅割れた笑い声が囁く)

 

 あかり、風が巻かれたその腕を、ゆっくり振り上げる。

 万華鏡めいて色彩を変化させる風達が、螺旋状に密集。

 竜巻を形成し、膨張。

 (それはひとつの巨大な剣だった)

 (七色に閃く竜巻の大剣を振りかざす)

 

 ゆかり、瞬時に触手糸、触腕を再び生やす。

 (太い触腕を幾つも交差させ、分厚い楯を作る)

 (触腕の壁の外側に、糸の壁を3枚展開。重ねる)

 

 

紲星あかり「―――あなたを私のものにしてやる」

 

 

 あかり、振り下ろす。

 

 

結月ゆかり「!」

 

 ゆかり、両手を前方に広げる。

 

 七色の嵐が迸る。

 

 

 扇状に爆走する激風が屋上の空間を蹂躙。自然空気を吹き飛ばす。

 渦を巻く暴風から金と銀の放電。床が灼かれる。

 暴虐のそのもののような竜巻の切っ先が、ゆかりの4重防壁に叩き付けられる。

 (3枚の触手壁、触腕の楯、それらが容易く容赦なく破壊される)

 

 防壁を蹴散らした七色の竜巻を、ゆかりの両手が押し止める。

 (ゆかりの両手には、エネルギー吸収皮膜)

 

 荒ぶる烈風がゆかりの手に触れて力を無くす。嵐はそよ風に堕ちる。

 

 (くすくす、笑いが風から弾ける)

 

 ――不意に、あかりの両手に、何かが刺さる。

 

 黒い針。

 

 10センチ程度の長さ。

 エイの毒針のような返しが付いている。

 それが全部で4本。

 (針は吸収皮膜を突破していない)

 (しかし落下せず、突き立てられたまま)

 

 あかりの黒い球体、瞬間的に収縮する。

 

 針、爆裂。

 (耳をつんざく轟音)

 

 若竹色の火柱が、巨人のような大きさで黒い空に吹き上がる。

 

 鮮やかな業火は衝撃波となって、屋上全体を舐める。

 (屋上、炎の海と化す)

 

 翡翠色の炎、ゆかりの両手を灼く。

 ゆかりの手、皮膚が裂ける。出血。

 

 

 ゆかり、血を流す。

 

 

結月ゆかり「(驚きに瞠る)」

 

 負傷で姿勢を崩したゆかりに、七色の凄風が怒濤となって押し寄せる。

 竜巻、ゆかりを屋上の端まで軽々と蹴散らす。木っ端のように。

 

 ゆかり、吹き飛ばされる。鉄柵に引っかかる。奔流が止まらない。

 あかり、暴風の放射を続ける。

 (たっぷり5秒)

 (5秒の後、ようやく猛風が収束する)

 (炎も幻のように消えている)

 

結月ゆかり「……(屋上の端で俯す。あちこち焦げ付いたパーカー。裂傷を負う皮膚。動けない)」

紲星あかり「ほら、やっぱり」

 

 あかり、満足げに微笑む。

 

紲星あかり「あなたの"さんがむりや"より、私の"よろうてつ"の方が強い」

 

 七色の風、黒い球体の中に戻る。

 頭上を支配していた暗黒の星図、徐々に薄くなっていく。

 

 あかり、ゆかりを見下ろす。笑みを消して。

 

紲星あかり「ねえ、ゆかりさん。なんで、私をここに呼んだの?」

結月ゆかり「……」

紲星あかり「いなくなっちゃうなら、なんで私と一緒に過ごしたの?」

結月ゆかり「(小さい声)……私では、父と母を慰めることができないから」

 

 ゆかり、俯せのまま応える。

 (顔は上げない)

 

結月ゆかり「両親がどれだけ私に食事を作っても、努力しても、報われることはないから。私相手では……」

結月ゆかり「だから、私とは違う、彼らに応えてくれる子が欲しかった……」

紲星あかり「ゆかりさんの、代わりが欲しかったの?」

結月ゆかり「……」

紲星あかり「いなくなっちゃうゆかりさんの代わりに? 一緒に食べて一緒に笑う子供が欲しかったの?」

結月ゆかり「……そうです」

紲星あかり「(震える。握り拳を作る。怒りに滲む声)……ふざけないで」

結月ゆかり「……」

紲星あかり「私は、人形じゃない。ゆかりさんの代わりなんてイヤだ。絶対にヤだ」

 

 あかり、背後に後ずさり、鉄柵へ近付く。

 

紲星あかり「私が代わりを演じたら、ゆかりさんはどこにいるの?」

結月ゆかり「……」

紲星あかり「(すがる声)あなたが欲しいの。ゆかりさん」

 

 あかり、鉄柵に背中を預ける。

 (空にあった偽りの星々は消失している)

 (曇天が再び姿を現す)

 

紲星あかり「……海で、待ってる。みんなで遊んだ、あの海で」

 

 あかり、黒い靄を大きく全身に絡ませ、その場を跳ねる。

 鉄柵の上に軽々と乗る。爪先だけで立つ。

 

結月ゆかり「(顔を上げて)私が、そこに行かなかったら?」

紲星あかり「海で待ってる」

 

 あかり、翼のように黒い靄を広げ、鉄柵の後ろへ飛ぶ。

 屋上から身投げする。

 

紲星あかり「あなたを、待ってる」

 

 あかり、落ちる。

 ゆかりの視界から消える。

 何の音も発生しない。

 

結月ゆかり「………」

 

 

 ゆかり、独り、残される。

 

 雷鳴が響く。遠く。低く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紲星あかり「(M)私達の最後の海――――――決戦が始まる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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