* * *
(フラッシュ)
ゆかり母、入院。
小学生ゆかり、遠くから病床の母を見やる。
ゆかり母、顔を覆い、泣き続ける。
* * *
○結月家・ゆかりの部屋(昼)
ゆかり、明かりも付けず部屋に立ち尽くす。
手をじっと見詰める。
傷つき、血が流れていた手。
出血は止まっている。
その傷口がみるみるうちに小さくなり、そして無くなる。
手以外の傷も完全に修復される。
結月ゆかり「……」
ゆかり、焦げ跡の残るパーカーを腕の中で丸める。
淡く光り、パーカーが消滅する。
("さんがむりや"の消化作用)
結月ゆかり「(小さく溜息)」
ゆかり、クローゼットから新たなパーカーを取り出し、羽織る。
ふと、机の上を見る。
香油の瓶。
(祭りの夜にあかりへ塗った、スミレの香りのオイル)
結月ゆかり「……」
ゆかり、部屋を出る。
○結月家・居間(昼)
ゆかり父、居間で書類仕事をしている。
窓から見える空模様はさらに荒れており、ひどく暗い。
ゆかり、居間に入る。
ゆかり父「(顔を上げ、やや表情を強張らせ)おかえり。あかりちゃんは?」
結月ゆかり「海に行った」
ゆかり父「それは危ない」
結月ゆかり「危ないね」
ゆかり父「……喧嘩でもした?」
結月ゆかり「実は、した」
ゆかり父、驚きの顔。
ゆかり父「解決できそうかい?」
結月ゆかり「……あの子の望みは、きっと私の望みと違うから」
ゆかり父「僕が迎えに行こうか?」
結月ゆかり「ううん……あの子をここに呼ぶことに賛成した日から、こうなることは分かってた。私達は必ず喧嘩になる」
ゆかり父「そっか」
ゆかり父、強張らせていた表情を緩める。
ゆかり父「(ふふっ、と笑い)ゆかりも喧嘩とかするんだなあ」
結月ゆかり「衰弱しきった母さんを相手に喧嘩するほど、私は弱くない」
ゆかり父「うん」
結月ゆかり「母さんにも私にも悲しむ父さんに喧嘩するほど、私は鈍くない」
ゆかり父「うん。(目尻を下げ、哀しげに)…ごめんな、こんな父親で」
結月ゆかり「……私は」
ゆかり、窓の外を見やる。
黒に近い雲がおそろしい速さで流れてる。
強風がばりばりと窓ガラスを叩く。
結月ゆかり「私は、良い子じゃないから」
ゆかり父「ゆかり」
結月ゆかり「なに」
ゆかり父「ありがとう。あのとき、あかりちゃんをうちに呼ぶことに賛成してくれて」
ゆかり父、頭を下げる。
微笑みながら。
結月ゆかり「……」
ゆかり父「きみと喧嘩できるあの子は、僕たちより全然強いな」
結月ゆかり「あかりさんは怒ってた」
ゆかり、瞳を細める。
結月ゆかり「結月ゆかりの代わりじゃないと、怒ってた。私達全員から拒絶されて、この家で居場所を無くすかもしれないのに。構わないほど怒ってた。きれいな怒りで」
ゆかり、はにかむ。柔らかく。
結月ゆかり「すてきな子。とても、素敵な子」
* * *
(フラッシュ)
幼い頃のゆかり。
火の付いたガスコンロに手を入れる。
ゆかり母、大げで叫び、ゆかりを抱き上げる。
ゆかりの手、無傷。
ゆかり、不思議そうな顔で母を見上げる。
* * *
○海へと続く坂道(昼)
ゆかり、坂道を歩く。
強風の中に小雨が混じる。
ゆかりには雨も風も通らない。
結月ゆかり「……」
ゆかり、進む。
人も車も通らない道。
(傍らには誰もいない)
* * *
(フラッシュ)
幼いゆかり。
父と共に台所に立つ。
台所に置かれた、未調理の野菜類。
ゆかり、その野菜に触れる。
野菜、消失。
ゆかり、満足げに頷く。
ゆかり父、悲しげな顔でじっとゆかりを見て、首を横に振る。
* * *
* * *
(フラッシュ)
幼いゆかり。道路を横断しようとする。
暴走するトラックが突っ込んでくる。
衝突。
トラック、完全停止。
ゆかり、吹き飛ばされることも傷を負うこともない。
涼しい顔で道を渡る。
* * *
* * *
(フラッシュ)
ゆかり、小学校で持久走。
スタートと変わらない速度で走る。
苦しさに耐えるクラスメイト達を置き去りにし、平然と走り続ける。
* * *
* * *
(フラッシュ)
ゆかり、小学校の絵の授業で、不可視の生物群を描いて提出。
教師、困惑。
* * *
* * *
(フラッシュ)
小学校の調理室。調理実習中。
油に引火して火の手が上がるコンロ。
ゆかり、手をかざして火を消す。
目撃するクラスメイト達。
* * *
* * *
(フラッシュ)
ゆかり、母の料理を食べる。
ゆかり母、期待の眼差し。
ゆかり、首を横に振る。無表情で。
ゆかり母、落胆。肩を落とす。
* * *
* * *
(フラッシュ)
ゆかり、小学校の絵の授業で、不可視の生物群を描いて提出。
教師、困惑。
* * *
* * *
(フラッシュ)
小学校のクラスメイト達、着替えて教室から廊下に出る。
体操服のゆかり、3階の教室の窓から飛び降りてショートカット。
そのまま校庭で準備運動を始める。
* * *
* * *
(フラッシュ)
小学生ゆかり、課題の野外写生中。
ネコの死体に群がるカラスを写生。
カラスが去った後、ネコの死体に触れ、消す。
* * *
* * *
(フラッシュ)
ゆかり母、学校に呼び出される。
教員達にひたすら謝る。
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* * *
(フラッシュ)
ゆかり、小学校の廊下を歩く。
すれ違う生徒も教師も、皆ゆかりを避ける。
* * *
* * *
(フラッシュ)
小学校の給食時間。
ゆかり、給食を前にして全く食べない。
クラスメイト、誰もゆかりに話しかけない。
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* * *
(フラッシュ)
ゆかり母、入院。
小学生ゆかり、遠くから病床の母を見やる。
ゆかり母、顔を覆い、泣き続ける。
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(フラッシュ)
ゆかり、マンションの屋上に佇む。独り。
* * *
結月ゆかり「……」
* * *
(フラッシュ)
あかり、結月家の玄関に入り、お辞儀をする。
* * *
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(フラッシュ)
あかり、ゆかり母の料理にはしゃぐ。
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* * *
(フラッシュ)
あかり、ゆかり母と一緒に台所に立つ。
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(フラッシュ)
あかり、夜の海でキャンプファイヤー。ゆかり父と談笑。
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* * *
(フラッシュ)
あかり、居間で夏休みの宿題。解けず唸る。
ゆかり、助言。
あかり、顔を輝かせて解き始める。
ゆかり、見守る。
あかり、両手を挙げてガッツポーズ。
ゆかり、拍手。
* * *
* * *
(フラッシュ)
ゆかり、浴衣のあかりの髪を梳く。
あかり、ゆかりに身をゆだねる。
* * *
* * *
(フラッシュ)
あかり、笑う。
* * *
○結月家・居間(回想)
結月ゆかり「父さん」
ゆかり父「うん?」
結月ゆかり「……お願いが、あるの」
ゆかり父「なんだい」
結月ゆかり「ご飯を、作っておいて」
結月ゆかり「あの子が食べるから。きっとたくさん食べるから」
○海へと続く坂道(昼)
ゆかり、坂の終わりに辿り着く。
坂道に接続された、コンクリートの堤防。
その向こうに広がる砂浜。
荒々しく波打つ海。
暗黒の曇天。
少女。
紲星あかり。
結月ゆかり「……」
ゆかり、堤防を軽い動きで飛び越える。
波打ち際に佇むあかりに近付く。
あかり、ゆかりに気付き、振り向く。笑む。大人びた笑い方。
紲星あかり「ゆかりさん」
結月ゆかり「あなたを」
ゆかり、暴風雨の中を貫く声で鋭く告げる。
結月ゆかり「あなたを、"よろうてつ"から略奪しに来ました」
ゆかりの周囲の雨と風が静止。
雨雫が力なく砂浜に落ちる。
力を奪う領域が急激に広がる。
("さんがむりや"展開)
結月ゆかり「あなたを私の植民地にしてあげます、あかりさん」