オラーシャの赤い兎   作:八志 牛男

1 / 4
ハルハ河演習作戦の頃の話
リュービアッツェ演習の話


テストは何のためにあるのだろうか?もちろん実力を試すことにより進むべき方向性を確認してその後の時間配分を調整するためだとはわからないわけではないけれども。つまりいいことなので機会さえあるならどんどんやるべきってこと。

 

それはそれとして良薬は口に苦し、過ぎたるは猶及ばざるが如し。自尊心に攻撃を加えてこないようなぬるいテストには意味がないとしても、自尊心を折られ続ければ戦意が続かない。……まぁ、自尊心の回復は将来に期待するとして、今はとりあえず戦い抜きましょう。

 

 これもまた戦意を喪失した状態での戦闘行動のテストになるでしょうし。……そんな状態で戦うべきかどうか?指揮官は部隊を後退させて態勢を立て直すべきじゃない?ウィッチには後退できない時もあるんでしょう。きっと、おそらく……ないといいなぁ……。

 

「各中隊の指導ウィッチは現状を報告されたし!!」

 

「第二中隊、問題なし」

「第三中隊も同じです」

「第四中隊、全機被撃墜。現在50人以下で地上交戦中。敵ボリシェビキ空中重戦闘ウィッチ」

「第五中隊、同じく。第六中隊の残余と合流しつつあり。第六中隊指導ウィッチが戦死判定により臨時に指揮をとってます。高射砲2門を確保したけど砲弾無し。砲を廃棄し中隊残余との合流と陣地構築を実施中。120人の生存確認」

「第七中隊交戦中!!敵パウリーナとソフィア!全機健在なれど弾少なし。現状ではあと5分で全滅すると思われる」

「第八中隊、味方により被撃墜3。八から七へ、味方誤射を止めるように。八から五へ、ソフィアがそちらに向かうまで時間がないから陣地構築を放棄し、優位地形へと退避するように」

「五から八。優位地形とはいずこにありや?全世界は知らんと欲す。……実際、森に分散すると指揮がとれないので集中しておく必要性があると判断します。森に入ると射線が集中できないどころか索敵にも失敗するという事実を忘れましたか!?」

「八から五へ。現状から判断するに集中は愚策であり、全滅は時間の問題である。1人でも多く生存出来るように分散せよ。」

「七から八!貴官には敢闘精神が足りない!!それでもオラーシャ軍人か!!」

「八から七。貴官には危機意識が足りない。全てのウィッチには最善効率で死ぬ義務がある。それでもユークライン人?」

「一から全員へ。わが連邦には民族問題は存在しません。ですので、煽らないでください。現状を確認します。DC-3輸送機の速度から作戦空域を突破するためにはもう1時間は必要となり、彼我の速度差とこちらの火力の集中を機動によって突破されているという事実により、各中隊の陸戦ウィッチが射撃を集中することによる火力差を発揮して敵を空中撃破するというアイデアは失敗したことが明らかで、作戦の決定権も向こうに握られています。演習の目的は達成しました」

「では、終了しますか?」

「……とはいえ、このまま終われません。各中隊は高度を3000m以下に下げて射撃を個々の防御に専念してください。撃墜された後も出来る限り見晴らしのいい地形で密集して陣地構築を行うように。私は狩りに出ますので、後はディチャーチンに頼みます。個々人の奮闘に期待します」

 

 それだけ言い残して私はDC-3輸送機から空へと飛びこんでいきました。

 

 

 

 私には記憶がありません。キエフ軍管区の軍人さんに拾ってもらったのが最初の記憶です。ですから名前ですら私の本当ではないのでしょう。でも私は幸福です。私はこの国を救った元帥の家の子どもになったのです。名字こそ共有していませんが、それでもお義父様は私を娘として扱ってくれて、私に名前を授けてくれました。私を実の子のように愛してくれました。

 でもレーセン・イナバはないと思うのです。それでは扶桑皇国人のようではないですか。とはいえ、それがしっくり来ている自分もいます。娘心は複雑怪奇というやつです。きっと。今度機会があったらユークライン人風の名前をつけて下さいね。まぁ、お義父様がそう付けたいなら文句は言いませんけど。

 

 お義父様は私をオラーシャキエフ軍管区出動集団の指導ウィッチにつけて下さいました。大戦時の政変によりオラーシャ陸軍は政治組織をも兼ねた総合的組織に変革しましたが、それでもお義父様ほどの実力者なら重要な人事にも将校の選挙制が普遍化したにもかかわらず、ねじ込めるようです。やめてください。お義姉様であるミーシャ・ディチャーチン様の座を奪って指揮をとらなくてはならない私の事も考えてください。お義姉様の方が指揮能力があるのですからなおさらです。とはいえ、お義父様には考えがあるのでしょうが、私としてはお義姉様と私がその能力として相応しい所へと落ち着くことを祈るだけです。

 

 キエフ軍管区出動集団は国土防衛の義務を負ってないがゆえに、ヒスパニア戦役に全力を発揮して活躍した赤色空軍ひいては共産主義者への対抗として設立されたオラーシャ陸軍が使える外征を最初から目的としている機動ウィッチ集団です。ペテルブルク管区とモスクワ管区が共産主義者によって占拠されたのでキエフが保守派の首都となったことが政治的にこの集団の設立に影響しています。

 つまり、海軍と空軍が共産主義者に占拠されているので私達に外征で活躍しろということなのでしょう。陸軍も義勇軍を出してはいたのですが政治的配慮によって防衛任務に主に従事した上にその戦果もヒスパニアに分配されたので、影が薄かったのです。残念なことです。

 

 そのために対抗集団として設立されたキエフ軍管区出動集団には陸軍の並々ならぬ熱意が反映されています。空戦可能なウィッチこそ3名に過ぎず、空中機動可能なウィッチを合わせても7名(私を含めて)にしかなりませんが、陸戦ウィッチは1000名をちょっと超えた数が配備されています。全オラーシャ軍の陸戦ウィッチの5分の1です。はっきりいうと私には荷が重いのですよ、お義父様。陸軍ではお義姉様のことを部下なのでディチャーチンと呼び捨てにする慣行があるだけでもしんどいのですから。

 

 ですが、陸軍の熱意がその各中隊の指揮官層にも反映されていることで正直私の指揮が無くても各々の中隊長が最善の指揮を発揮できるであろうことが私の心を穏やかにします。

指揮はお義姉様に任せて、私は私に出来ることをすればいいんです。

 

 

 キエフ軍管区出動集団には各中隊に空挺用M1931 76mm高射砲20門とその弾薬輸送用及び陸戦ウィッチ搭乗用と予備に45機のDC-3輸送機が配備されています。これが8中隊(7、8中隊は軽装備中隊なので高射砲は配備されていませんが)も用意されるとそのコストは戦艦1隻にも匹敵するかもしれないとのもっぱらの噂ですが、それでも実現されているという驚きの贅沢な編成です。

 

 その贅沢さは私の乗騎がブリタニアのスプライト社のソードフィッシュのウィッチ用改造機(なんと総生産数30機の内28機が我が連邦向け!!)であり、なおかつ私が1度発艦すると2度と追い付けない速度を持つ輸送機(DC-3輸送機の最高速度は365km/h、巡航速度274km/hに対してソードフィッシュの最高速度は222km/h、巡航速度167km/h、我が連邦の主力練習機Po-2では最高速度150 km/h、巡航速度110km/hにまで離されます。とはいえ次世代主力機のI-16やI-15bisは流石に最高速度600km/hや530km/hの高速を発揮します)が配備されているということに現れています。

 ですが実際の所I-16やI-15bisを動かせるウィッチというものは限られているのです。我が連邦の空中機動可能なウィッチ約500名の内で150名程度しか動かせませんし、その能力を十全に生かせるエース層となると50名程度にまで減少するでしょう。そのことから私達にはPo-2で用いられる空中一般戦術が必要となります。だってそうでしょう?大半のウィッチはPo-2に乗っているんですから。

 

 そのことが私とその指揮能力に戦術的困惑をもたらします。キエフ軍管区出動集団のコンセプトはそのDC-3輸送機を移動に利用する戦略的機動性により決戦地に少しでも多くの戦力を集中することにあります。とはいえ戦略的機動性の保有は必ずしも戦術的機動性を意味しないということを確認しなくてはなりません。

 そしてそうではなかったことが確認されてしまいました。DC-3輸送機に乗った陸戦ウィッチの集団がエース級空戦ウィッチを圧倒出来れば何も悩むことはなかったでしょう。わが連邦の有り余る5000人の陸戦ウィッチが空戦をも解決したはずです。でも、そうではない以上、私達は敵空中戦力に捕捉された場合に備えなければなりません。どのようにして?

 

 答えの1つは今は敵側にいます。DC-3輸送機から発着可能な空戦ウィッチを養成するというシンプルかつどうしようもない方法です。着陸する方はDC-3に速度を合わせてDC-3側に設置された綱に固定すれば出来ます。ですがDC-3から飛び立つというのは難問です。DC-3の中で魔道エンジンを動かすのは危険であるがゆえに外で動かさなければなければなりません。

 外?初期にはパラシュートを付けて降下中に魔道エンジンを動かさせたり、着陸時に使う網を発艦時にも付けてみる等の方法が試されましたが、危険性及び効率性を勘案するとそのような方法なしで直接的に発着可能な空戦ウィッチを投入すべきだという結論に達したようです。実戦時にそんな悠長なことをしている時間はないというしごく最もな理由が決定的だったそうです。着陸用の網は武器をつるしてウィッチが空中で交換する用途に再利用されて継戦能力が向上したので無駄な研究ではなかったということになってます。

 

 それはともかく、そんな特殊技能持ちは少なく、さらに練習機と比べると安定性や離着陸能力に劣る次世代主力機でそんな芸当が出来る者は本当に希少であることが陸軍の熱意の割にはうちに属する空戦ウィッチの少ないことの正体です。こんな特殊技能を訓練する意義も証明されていませんし、陸戦ウィッチを空戦に参加させるというアイデアが魅力的すぎたことも追い打ちをかけています。

 

 前置きが長くなってしまいましたが、この演習ではうちのエースたちが敵に回っている以上はPo-2で用いられる空中一般戦術の一般解答つまり“狩り”を行うしかありません。

 

 この戦術は狩りといいつつ恐ろしく受動的な戦法であり、上昇限度が3000mという低空で制限され相手に対して常に劣速なPo-2(とソードフィッシュ)にまともな空戦を実施することは不可能なことからひたすらにその旋回能力を活かして敵機の妨害が可能な地点の占位と防衛目標からこちらへと目標を変えさせることを目的とした狙撃を実施することです。

 敵の高高度爆撃どころか中高度爆撃にも対応できないような戦術が一般解答として採用されてしまうことから分かるようにこの機体は能動的空戦を行うようにはできていないのです。Po-2は地上攻撃に投入されることでその真価が発揮されることはわかってます。ネウロイが飛行場から飛び立つ生態をしていればそこを襲撃するという方法で制空権争いに参加できたのかもしれませんが……。閑話休題。

 

 ともかく、足らぬ足らぬは固有魔法が足らぬの精神でいきます。一般解で足りないなら特殊解です。見つかりさえしなければ何でもできるってもんです。

 

 私の使い魔であるオキノウサギ(推定)が勝手にその耳を喜びを示すように激しく動かしています。こいつは勝手で活発、カッとなりやすくかついたずら好きでいつも私に同化しています。私の周りで起こる不自然な出来事(いたずらで済まされるような)の犯人はこいつなんじゃと常々思っているのですが、尻尾をつかませません。尻尾と耳の感覚は常に共有しているのに、味覚を共有できないことが残念です。ウォトカ混入事件は許さん。

 私達はお互いに何となく意思疎通してますが、深いところではこいつは謎だと思っています。品種ですら私側から同化を解除できなかったせいで推定でしか分かってませんし。

 

 

 高空から真っ逆さまに私達は落ちていっていますが、落ち着いて魔力の波長を使い魔と合わせていきます。良く聞こえる兎の耳が私にあらゆる波長を届けてくれます。教えてくれます。世界は波動だと。解釈することは干渉することで、あらゆるものの波動が相互に干渉しあった混沌の、それでも美しい世界の中、でもなお世界を個々に還元、分解して理解するのに十分な能力を持つ兎の耳が。兎の耳は完璧ですね。その完璧さを発揮するための充足感へと私は速やかに堕ちていきます。こいつと利害が一致していくのです。

 

 

 さぁ、世界を欺いてやりましょう?

 

 

 ようやっとたどり着いたソードフィッシュの稼働高度に魔道エンジンを急速回転させて縦の落下速度を横への速度へと変換しつつターン。地上交戦中の第四中隊残余の集合予測地点へと機動。高度を稼働限界ギリギリまで回復させつつの直線飛行、速やかに最高速度へと到達、で到着予定は10分後。地上戦における5分はほとんど永遠に近いというけれど、逆説的にI-16も私のソードフィッシュでもどうせ戦闘に間に合わないという意味においては等しいでしょう。

 

 移動時間で指揮官用携行無線の波長を第四中隊の使用周波数に合わせて状況を傍受しよう、にも1中隊の内で無線を装備する小隊指導ウィッチの数に等しい12個の波動はほとんど沈黙して辛うじて残っている4個からの悲鳴がただただ垂れ流されているだけなのだけど……。

 私が携行している指揮官用無線は特注品で各中隊用無線、各小隊用無線への発信機能に加えてその全てに対して受信ができるようになってます。若い娘さんへの偏見である機械に弱いという説を肯定するように、それぞれの無線には1個上と下の区分の受信機能つまり対応する目盛りと発信機能とスイッチしかついていないというユーザーフレンドリー?さが発揮された作りで小隊指導ウィッチ以下は楽が出来てより直接的な訓練に時間を割くことが出来ます(そして通信を用いた小隊以下の戦術的柔軟性は限られることになります)。

 

 このシステムはしわ寄せが中隊指導ウィッチ、とりわけ私、に来るんですけどね。

 

 中隊用無線は1個上つまり全体指揮も執る第一中隊用無線と下の小隊12個の発信を受けるので目盛りは13個で済みます。中隊間での連絡と情報が第一中隊用無線に集約されることで意思疎通と方針決定が速やかに行われるそうです。その場合に各中隊用無線は第一中隊用無線に合わせておけばいいので、何も操作する必要はありません。それはいいんですけど、私はその間目盛りをずっとカチャカチャし続ける羽目になります。8中隊×13で104個もの目盛りがあるのにです。

 情報の伝達用に中隊用無線は受信した通信をそのまま発信できる機能がついています。もしこの機能がついてなかったなら、地獄の作業が待ってたはずです。何回復唱するはめになったことか……。そうだったら専用の無線手の養成が不可避になっただろうことを考えるとむしろそうであって欲しかった。

 なんですか!中隊無線手はその専門性および後方性から不可避的に特権階級へと堕落し、前線の利害を反映しなくなるので有害であるという主張は!!私は私の仕事と責任を減らしてくれるありとあらゆるものを歓迎しますし、それ故に私はこの地位にふさわしくないはずです。

 だいたい104個も目盛りはいらないでしょ!!各中隊と自分の中隊に連絡が取れればいいしそれで十分でしょうに。何でよその中隊の小隊に連絡をとるんです?実際8中隊に連絡が取れればいいのにこんなに無駄に目盛りがあることにどれだけ苦労させられたことか……。

 

 愚痴が長引きましたが、言いたかったことは、この関係は同じように各中隊にも持ち込まれるので、各小隊はいつ報告を聞いてもらえるか分からないから現状を流し続ける必要があるということです。重要度を勘案して処理できるシステムだと嬉しいんですけど、各部隊が自分の出会った事象が最優先だと思うせいで構築に失敗したとかなんとか。

 

 可能ならウィッチは戦闘を遂行する機械であればいいと思わないでも無いのですが、そうもいかない悲しい現実が待っています。誰も私達の利害、前線の利害を反映できないなんて信じられますか。私にはまだ信じられません。専門化による効率化の推進こそが共産主義の脅威であり、戦争こそが最も誤魔化しが聞かない分野のはずなんですけどね?それでも私達は保守を選んだ個々人にすぎないし、私の仕事は目の前から消えてくれませんけど。

 

 ともかく消えてくれないなら何とかするしかないわけで、その為の手段を幸福にも私は持っています。私の固有魔法は隠蔽ということになっています。この説明は事実の半分でしかありません。次に問わなければならないのはどのように相手の感覚を欺くのかです。もちろん、答えは私の兎性を以って!!相手の探査手段を聞いて、それを偽装することが兎の本分性、草食動物の誇り!ですがその間は、正確には隠蔽をかけつつの移動中には自分から通信なんてしてる余裕なんてないので、ここに大義名分が出来ます。

 ちょうど私より優れた人物が私の中隊にいて、皆様はお気づきだったと思いますけど8中隊×13で104個という計算には自分の分が含まれているのですが、この計算は自分と全く同じものつまり移譲可能な指揮権という予備がシステムに組み込まれているということです。人に仕事を押し付けれるということは幸せです。本来は、彼女の部隊だったはずであることを考えるとなおさらです。

 

 こうして、私は幸福な自由と2つばかりの永遠を経て、現場に到着しました。

 

 幸運なことにカティア・スタンチンスキー指導ウィッチとその第四中隊は未だ存在していました。無線傍受によるとボリシェビキ空中重戦闘ウィッチ(この区分は私達独自のもので重は40mm機関砲もしくは50kg爆弾以上を装備した戦闘機動が可能であることを示すだけで実際に装備しているとは限りません)は弾切れによって後退したようです。

 

 私は彼女がもう1度襲撃に戻ってくる可能性に賭けて、準備をします。ちょっとずるです。演習に対するメタ的な観点から敵勢力に増援がないので追加的な襲撃は不可能であり、I-16の航続距離的に判断すると今から1~3中隊に襲撃をかけに行くと補給に帰れなくなることから戦果の最大化の為にはこっちを先に片付けてから行く必要があり、7、8中隊への襲撃に2人投入されてるところに追加的に行くよりも4、5中隊を襲撃する方が効率的で、先に落とされた5中隊と7、8中隊の現在位置が近接しつつある上に4中隊の方が残存戦力が少なく、更には所詮演習なので襲撃側には持久戦という選択肢は存在しません。

 

 本来的には作戦を選択できる攻撃側、及び優速側の敵に散々に翻弄されるはずなんでしょうけど戦術目標を決め打ち出来てやっとソードフィッシュの良さが生きます。その元々のカタログ上の航続力の長さと最高速度の低さからの有無を言わせぬ長滞空時間と複葉機独特の旋回力の優位性!!これで向こうさんが来るまで空中待機ができる上に、どの方角から来ても速やかに正面に捉えることができます。わざわざうちがブリタニア製ストライカーを試験導入しているのは、政変以来の経済部門の依存の政治的結果だけではなく地上襲撃にはこれで十分すぎるという判断の結果でもあるのです。

 

「定期報告。北側より敵影なし。分隊統率に問題があるので塹壕にこもるのは敵機を確認してからでも良いと意見具申します」

「私も同意です。南も問題なし。顔を出すくらいは許してください。お願いします。小隊指導ウィッチだけが監視するのは、……後々の小隊員の文句を考えたくありません」

「各員は文句を言わないで、監視しましょう。小隊員にも文句を言わせないでね。顔を出さないで塹壕にこもっている間は直上を取られない限り、弾は当たらないから心配しないし、させないこと。徹底させること。誰かが直上を取られた瞬間に全員で射撃を集中させるのが1番安全な方法です」

「こっちも問題なし。そうは言いますけど、BT-5(陸戦ストライカー)を背負っていつ来るか分からない射撃命令を待ちつつ、1人で暗くて狭い蛸壺の中でずっと待機するのはきついっすよ」

「東側も大丈夫。あっ、そこの人は顔を引っ込めて!!……貴女たちは未だマシですよ。私のとこに別の小隊の生き残りがかき集められたせいで、さっきから走り回らされてるんですけど。……あ~、もう!!また、引っ込めてくれてくれないし。……、私はカウンセラーじゃないんです。人を落ち着かせるなんてどうすればいいってんですか?……森に逃げるな!!……追いますんで、仕事の代替願います。通信終わり」

 

 私の真下で蜂の巣のように穴ぼこが点々と密集した地面から1人が森の方に走っていってしまい、小隊指導ウィッチが追いかけて行きました。ご苦労さまです。私は中隊指導ウィッチや小隊指導ウィッチや空戦ウィッチなどの選抜された少数だけを相手すればいいのでこういう苦労はしないでも済んでるので助かります。その変わりにこいつらは頭が良かったり何か光るものがあるので、説得するのに苦労する上に度々私が説得されたり、優秀なくせに意見の不一致は基本なので調停に奔走させられるのも勘弁してほしいんですが、……それは、贅沢ですか?

 

「……、無線機の番を変わりました、第6小隊の分隊指導ウィッチのマルタです。……実戦だったら、彼女は銃殺刑なんですか?」

「中隊指導ウィッチとして代替を認可します。……うちの軍法を再確認しないで迂闊なことは言えませんけど、私達はウィッチですから最悪でも実験室送りまでですよ。銃殺まではしないで済むんで安心してください」

「……それは、ほんとに安心しても良いんですか?」

「私達の祖国と保守派の良心を信じなさい。私達は共産主義者じゃないんですから、罪は祖国と神の前に償えばなんとかなります。……そもそも逃げるなと言いたいんですが、さっき一方的に撃たれてみるまで、これほど心に来るとは思っても見ませんでしたから私も偉そうには言えませんよ。ともかく私達は仲間ですから、可能な限り守りますよ。その代わりに絶対逃してあげませんけどね、……そういうことでいいですよね、カティア?」

「もちろんですけど、作戦中は中隊指導ウィッチと呼んでくださいね。……でも、これが演習でほんとに良かったです。実戦だったら今の所3分の1しか初陣を生き残れられなかったんですよ。ヒスパニア戦役の経験者としては情けないばかりです」

「この結果は中隊指導ウィッチのせいじゃないですよ。もっと根本的な問題です。所詮私達は陸戦ウィッチなんですから、空にあげられるなんてことがどだい無理だったんです。そもそも私達が此処に招集されてから高射砲の運用訓練しかしてないんですよ?今回の結果を見て夢を見るのは諦めて、もっと堅実に活動を積むべきです」

「それでも、私がもっと早く見切りをつけられていたら、第五中隊みたいに高射砲を少しでも残せてたかも――」

「5中隊が残せたのは偶然です。今回の結果からの反省はそもそも敵に空中で捕まるなという点に尽きます。そもそも、高射砲なんかより、個々のウィッチが生き残るほうが遥かに大事です」

「でも、向こうに今から中高度爆撃に専念されちゃったら、もうどうしようもないことを考えたら少しは残しておきたかったのよね」

「士気を下げるようなことは言わないでください」

「そら、私も実戦なら嘘をついても良いけど、演習なんだからちゃんと話し合っておくべきじゃない?」

「今、ですか?」

「鉄は熱いうちに打て。……我らが栄光の第4中隊が地獄の劫火の洗礼を受けて、生き残った小隊指導ウィッチでさえ士気喪失してるみたいだから、少しでも現実を忘れさせてあげようかと思ってね?」

「私達はそんなヤワではありません!!」

「ヒスパニア戦役の経験者として言わせてもらうと、ヤワじゃない人間なんていないよ。精神力は有限な資源に過ぎないんだから、出来るだけ温存して必要なときだけに投入したいの。だから部下を戦闘開始寸前までは無駄話に引き込む能力を評価したいんだけど、そういう話をするの、私は苦手だから実務話でお茶を濁そうかと思って」

「小隊指導ウィッチだけが、そんな気遣いを受けてたなんてバレたら後で吊し上げですよ~~、分隊にも無線の受け子だけはあるんですよ」

「いつも、思ってたんだけどアレーシャのその態度は小隊指導ウィッチとしてどうなの?

ちゃんと指導できてるの?」

「ひっ、……今からお説教は勘弁してください!!もう穴に入っているのでこれ以上は反省を示せませんよ~~!!」

「穴に入るのは反省を示す手段じゃないと思う」

「だから、その態度はどうなのって」

「これでも支持されてるのはそれはそれで人徳ではあるから、あまり追い詰めないように」

「敵襲、敵襲!!……あっ、やっと繋がりました。東からウィッチ1人が接近中!!低高度!!装備は不明」

「こっちでも確認。全員頭を下げて指示があるまで待機!!マルタ分隊指導ウィッチ、貴女の直上に来たら射撃指示を出せ!!」

「……、え、いえ、了解しました」

「……ちょっと気を抜きすぎた、……、あっ、これには返答不要。全員射撃指示を待て」

 

 無線の傍受を止めて東側を注意すると確かにボリシェビキ空中重戦闘ウィッチが迫って来ています。無線の切り替えタイミングの問題に苦戦しているのが私だけじゃないことに安心しつつ、気持ちを高めておきます。

 

 

 ……ボリシェビキウィッチは、様子見なのか射撃を集中されないように直上には占位せずに距離をギリギリまでとって斜め横からの断続的な射撃と機動を組み合わせた挑発行動を繰り返しています。

 

 合理的に考えればいくら相手が40mm機関砲でもシールドを張って塹壕にこもったBT-5装備の陸戦ウィッチがこんな無理な射撃で殺される確率は殆ど無いはずなのですが、精神を恐慌に陥らせるには十分な恐怖を振るまいています。たとえ演習だとわかっていた上でもですよ。

 

 2度。軽い音がリズミカルにカラフルな演習用弾薬の弾痕をそこらに撒き散らして、しばらく弾倉交換のための静寂が響くというサイクルが繰り広げられる。

 

 このまま、待っておけば相手はまた弾切れで退却せざるを得ないはず。……、そんな事は理性でもわかっていても、人間はそういうふうにできてない。原始的な2F行動。逃走か、闘争か?最近の研究だと怯え、逃走、闘争、死んだふりの4F行動説に拡張されたりしてるんだけど。

 

 ……そして、誰かの、限界点が3回めの静寂の中で破られて、命令無しでの発砲音が響き渡った。

 

 1度均衡が破られてしまえば、もうあとは雪崩落ちていくだけ。速やかに耐えられない人間が射撃を開始すれば、みんなついていってしまう、人間性の発露。……こと、ここまで至ってしまえば、カティアも射撃命令を出すしかない。個々人が蛸壺のような塹壕に籠れば射撃で一網打尽にされるのは難しくなるけど、私達はそんなに強くはできてない。どうしても運命を共有できる誰かは必要で、それは仲間であり、効率的でなくても見捨てることは難しい。

 

 案の定、この事態の誘発を狙っていたボリシェビキは腹立たしいような冷静さで射程ぎりぎりの円機動で相手の目を慣らしてから、地面すれすれを最高速でジグザグ飛行で抜けて塹壕から顔を出して射撃を行う仲間思いの愚か者たちを射抜いていきます。思わず笑っちゃうぐらい一方的なんですよ。

 

 

 さぁ、お仕事ですよ、相棒さん?

 

 

 第4中隊の間を抜けていくボリシェビキウィッチにその勇猛さを称して手榴弾の雨をプレゼントしてあげます。

 

 おぉ、ちゃんとシールドで無効化して、反撃に上方向に射撃しましたね。

 

 

 

 

 その行動は0点ですけどね……?

 

 

 貴女は私のことを演習前に聞いていたはずでしょう?パウリーナさんから私のことを聞いてるでしょう?私が隠蔽することは知っているでしょう?

 

 そりゃ、ソードフィッシュは貴女達のI-16には追いつけないくらい遅いですよ?それでなんとかするには高度を速度に変換して追いかけるしかないから上方向にいるだろうという発想も合理的ですし私はそんなに手榴弾を遠くに投げられないですから位置をある程度特定できるけれども……。

 

 

 

 

 貴女はほんとにその程度で対応できるウィッチがこの部隊を指揮できるとでも思ったんですか……?

 

 

 

 

 「私、レーセン・イナバ、今貴女を確殺するの」

 

 実際、ケレン味は大事です。私的にはどうでもいいですが、ワタシが喜びます。

……それはともかく、ワタシは相手を確殺できる時しか行動しません。相手に存在を気づかれないんだから当然のことですよね?

 

 

 右側から囁いてあげたので、びっくりした様子でボリシェビキは右を向いてしまいました。可哀想なポリーナ。反共集団の中でボリシェビキって呼ばれるなんて……。

 

 せめて、上司のワタシが50kg爆弾でキレイな花火にしてあげることにします。

 

 

 

『た~ま~や~!!』

 

 

 謎の叫び声と一緒にボリシェビキ空中重戦闘ウィッチはキレイに吹き飛ばされていきました……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 嘘です。演習なので50kg爆弾は爆発しません。ただポリーナが持ってる演習用撃破判定装置が起動しただけです。

 

 ワタシが、実際に吹っ飛んでいかないことに不満を耳やらしっぽやらの謎の動きで表したり、ホントはこうなっていたハズ的な幻影を送ってきてきれます。アフロはウソでしょうよ。

 

 残念でもしょうがないじゃないですか。彼女はホントは味方なんですよね。だからといってネウロイは人間的な反応はしてくれないし、倒されたら消えちゃうとかいう戦い甲斐のない相手って言いますけど、イタズラって相手があってこそでしょ……。

 

 え、次はパウリーナさんをぶっ飛ばす?多分無理だと思いますけど……。

 

 やるったらやる?無理だってば。また無駄なことをして……。……また?

 

 またって何でしたっけ?……何か大事なことを忘れているような気が……。そりゃ、記憶喪失者なんだから何でも、忘れてるというのは正しいですけど……それでもなお、というものもあるような気が……

 

 気にするな?……そうですね、イキマショウ?ワタシ。

 

 

 

 

 

 その後の演習の結果は、1~3中隊は無視されての中高度からの50kg爆弾の嵐にどうしようもなく、完全な恐慌状態に陥って作戦行動は不可能となり、第3中隊が作戦空域を離脱したとき、つまり最終的には私達は1012名の陸戦ウィッチのうち、603名が戦死していました。エグい。……正しい。これは解散ものかなぁ……。どうやら私達の前途は多難のようですよ。はぁ……。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。