機動戦士 ハイスクールAGE〜革新の為に〜 作:silverArk.
辺りが火に包まれている。少し前まであったはずの建物は軒並み残骸に変わるか、今にも崩れそうになっている。
そして、目の前で崩れた木材から俺を庇って代わりに潰されてしまった女性がいた。
かなりの高さから落下した木材は、その女性の胸部をいとも簡単に叩き潰している。……即死だった。
その光景に、俺は
外では相変わらず、怒声とともに何かを撃つ様な音が響いている。
俺は目の前に伏している、死んでしまった女性へと震える左手を差し出す。女性は庇ってしまえば自らが死んでしまうことを承知していたにも拘わらず安心感のある笑みを浮かべていた。
震える手が女性に触れる、その寸前。一筋の光が俺の目の前を擦過した。余りの光に目を瞑ると同時にチリ、と指先が焦げる感触がする。光とともに断末魔の様なものが響いた。
そうして、目を開けた俺の目の前には何もなかった。そう、文字通りなにも。あれだけ燃え盛っていた火も、今にも崩れそうだった木材も。……俺を庇って死んだ女性も。
「――あ」
口から空気が漏れる。一瞬にして無へと変わってしまった目の前の光景。その事実に、俺は膝をついた。
強烈に襲ってくる虚無感。転生する前は絶対に経験しなかった感覚に、俺は堪え切れず吐き気を堪えることが出来なかった。
素直に、逆らう事無く胃からせり上がってくるものを全てぶちまけ、尚も襲ってくる不快感に身を捩る。
そうして蹲る俺。その視界に、光が射した。その光はどこか神々しく、そして目の前を全て吹き飛ばした光に似ていた。
「どうかしましたか?」
突如として掛けられた声に、俺はゆっくりと顔を上げた。
俺に声を掛けた人物。それは人では無かった。
全身から発されている眩しくない程度の光。トーガのような服装。そして何より人では無いことをはっきりと示す、背から生えた純白の羽。それは天使であった。
しかし、俺はそんな存在に頓着している程心に余裕は無かった。茫然と、その天使を無感動に眺めつつ口から自然に声が漏れる。
「……かあ、さん」
何を思ったか、天使は俺の方に跪くとゆっくりと手を差し伸べた。その手は俺の頬を撫でた。
「先ほどの汚らわしい悪魔を葬った攻撃で母親が亡くなってしまったのですね。残念です。しかし、悲しむ必要はありません。貴方の母親の命は主の元へと向かったのですから」
「……っは」
思考がぐちゃぐちゃになる。悪魔?主?何をコイツは言っているのだろうか。いや、その前にコイツは何を言っているんだ?母さんを消したのは、コイツ?
纏まらない思考。混乱の極みにある俺に、その天使は続けた。
「故に、私たちとともに戦いませんか?汚らわしい悪魔と堕天使を共に滅し、この世に清浄なる世界をもたらす為に。この戦いで戦果をあげたならば、主は死んでしまった母親を蘇生してくださるかもしれません」
「……」
「貴方からは強大な力を感じます。是非ともその力を我らとともに振いましょう」
「……」
「どうしました?返答を……ぐッ!」
気づけば、俺はその天使を刺していた。寸前まで刃物など無かった右手。しかし、天使へと攻撃をした時には右腕が純白の装甲を纏っていた。そして、天使を穿っていたのは右のマニュピレーターに握られたビームダガーであった。
ほぼ無意識下で行われた攻撃。俺ですら攻撃をした事に気づいていなかったそれに、天使はギリギリ障壁を張ってガードをしていた。
「何をッ!」
「こんのおぉぉぉッッ!」
驚愕の表情で硬直する天使。その表情からは、下等生物に一撃を貰ったという思考が顕著に表れていた。
そして俺はと言うと、目の前の天使が起こした事を思い出し、恐怖を覚えていた。そして、恐怖に沸騰した頭は目の前の天使に追撃を下した。
障壁に抉り込むようにして何度も何度もビームダガーを叩きこむ。
一撃毎にビームを構成する粒子が散り、障壁に罅が入る。そして、遂に障壁に穴が開いた。
その光景に、流石に危険と感じたのだろう。天使は掲げた手に光の槍を構成した。
だが、それよりも先に最高出力に上げられたビームダガーが穴から天使の心臓部分を貫く。さらに、それにとどまらず肩部に設置された小型バーニアが火を吹いて腕を強制的に上へと挙げた。
強制的に動かされた腕からは枯れ木を折るような音。しかし、その代償を支払った代わりに天使は脳天まで間っ二つになり、焦げたザクロへとクラスチェンジした。
仰向けに倒れる天使(だったもの)。しかし、そんなものは既にどうでもよかった。
俺はその場に膝を突くと顔を伏せて、胃の中の物を全て吐き出した。それが固形物から半固形物、黄色い液体に変わってようやく吐き気は治まった。
次いで瞳からは涙が溢れ出した。それは天使を殺した事による悲しみではない。
「かあ、さん……」
光が穿った場所の塵をかき集めて呟く。右腕が未だ装甲に覆われたままであるため、地面を削る事しかで来ていない。
しかし、俺はその行為をやめる事が出来なかった。地面を抉り続け塵を集める。
轟、と風が吹いた。その風は集めた塵をいとも簡単に吹き飛ばしてしまった。
「……母さぁぁんッッ!」
慟哭する俺の周囲から、まだ火は消えていなかった。
それが全ての始まりだった。俺がこの世界へと転生してから既に何百年と過ぎた。とは言っても人間はやめてはいない。ある意味では人間ではないが。
転生特典はAGEデバイス。ガンダムオタであった俺は転生先でガンダムに乗る事を夢見ていたためだ。しかし、それは叶わなかったが。さらに俺には、転生特典のほかに死ぬ度に別の肉体に転生をするという呪いが付与されていた。転生する度に記憶は一旦リセットされるが、魂と融合したAGEデバイスが記憶を戻してしまう。さらに、転生前と同じように俺をⅹラウンダ―へと進化させた。
ある意味デメリットにも思えるそれは、俺から人外どもへの復讐心を忘れさせず、戦闘技術を落さないという重要な役割を果たしてくれた。
俺が転生した世界は歪んでいた。その歪みの原因は人外ども――天使、堕天使そして悪魔だった。
そして、俺は転生すると必ずその人外どもと戦ってきた。しかも一人ではない。一番初めにこの世界へと転生した時に作り上げた組織。その仲間たちと、手にした力とともに。
「おのれぇ……人間風情がぁ……」
「まだ息があるのか。しぶとさだけは凄いな」
ずるずると這いずるようにして動く人外。それが恨みの声をあげた。
「ま、とっとくたばれ」
無造作に、無感動に右のマニュピレーターに握ったハイパードッズライフルのトリガーを引き絞る。
放たれた螺旋状に回転するビームは悪魔を貫き、その存在を抹消した。
時代を重ねることによって進化した力。その初めての試運転に俺は少し心が躍っていた。
転生する以上、ⅹラウンダ―能力以外の肉体に依存しない力。真にスーツ型であるMS。
それが、俺たちの力であった。
魔法、正確には魔術だがそれを使うものは居はするのだが、その数は少ない。と、言うのも魔術というものは本来秘匿するべきものであり、安易に披露する物ではないからである。さらに、魔術を扱うための回路が年を経るごとに少なくなり始めているらしい。
「任務、完了。帰投する」
人間のオークションをしていたという場所を廃墟へと変えた俺は、その場をストライダーフォームにて一気に離脱しながら、連絡を入れる。
「こちらは片付いた。……ああ、実戦データもとれたし対象も護衛やお得意さんごと消滅させた」
通信から喜びの声が上がるがそれをスル―して俺は続ける。
「このまま俺はあの町へと戻る。済まないが交渉は頼んだぞ」
通信の相手は不平を洩らす。しかしながら、俺は交渉ごとは苦手であるしあの町から今は目を離せない為に渋々了承の意を発した。
「そう不満を言うなよ、分かっているさ。後は頼んだぞリディ」
そして、通信を切った俺は機首をその町へと向けた。
悪魔が事実上不法占拠をしている土地。そして、俺が転生した場所。
無能な貴族のお陰で最早無法地帯となっている町、駒王町その場所へと。
「さあ、行くぞAGE2。今度こそあいつ等を滅ぼす為に」
俺のその声に、ガンダムのツインアイが煌と輝いた。