機動戦士 ハイスクールAGE〜革新の為に〜 作:silverArk.
堕天使を殺してから数日、町は騒然としていた。と言うのも、堕天使に殺された兵藤の遺体が発見され、それについての捜査が始まったためである。
ニュースにもなった兵藤の殺害事件だが、町の評判は兵藤の死を悼むより、自業自得といった風潮である。それについて俺は、特に思うことはなかった。警察も犯人を兵藤の犯罪行為に耐えかねて、と考えているようであるし実際自らの欲望で死んだことは間違いようのない事実であるのだから。
だが、一方で兵藤の死によって面倒な事になったのは確かである。
警察の調査が入った学園の悪魔どもがピリピリとし始めたのだ。特にあの高慢ちきな赤髪が一番ピリピリしている。それも当人からすれば(人ではないが)当然なのだろう。自分が支配している(と思っている)土地で、しかも学園の生徒が殺された。さらに城にも記憶を弄りづらい国家権力が侵入してきたのだ。さらに俺が召喚がキャンセルしたことで、犯人を敵対勢力と考えているのだろう。
その為にあの悪魔たちは、侵入してくるはぐれ共の討伐をそっちのけにして夜な夜な意味をなさない徘徊を行っている。
「……単細胞共め」
ため息混じりの毒が口から漏れる。アイツらは一つの事にしか考えが行かないのだろうか。犯人を追っかけ回すのは勝手だが、今まででさえまともに果たして居なかった責務を完全に放棄するなど、今時の子供でさえしない事だろう。
自らのしたことに責任を持てない、持たない。それは最早獣以下の存在と言っても過言ではないだろう。本音を言うのならば、今すぐにでもアイツをぶっ殺してやりたいところだ。ところなのだが、それを今すぐと言うのは難しい。
この町は自称あいつの支配下、その土地で何の策もなく殺してしまえば、お飾り魔王が黙ってはいない。恐らく、この町の人間全てを殺してしまうだろう。
それは避けたい。出来ることなら、あいつが堕天使の根城である廃教会にでも乗り込んでくれれば楽であるのに……。
何故、俺が堕天使の根城を放置しているのか。それは曲がりなりにも奴らがはぐれ悪魔共を狩り、悪魔にズブズブに洗脳されきった人間を殺すからである。
この町にはどこから沸いてくるのか、アホみたいな数のはぐれ悪魔がやってくる。それを俺が相手するとなると、とても手も時間も足りない。それに、破滅を待つばかりとは言え何の罪もない人間を殺す事は出来ない。
その点、堕天使やはぐれ神父は容赦なくそうした者たちを狩り取る。故に、まだ利益がある内は放置に徹しているのだ。俺が殺したあの堕天使は人以下の兵藤とは言え、一応人を騙して殺した。だからつい、殺ってしまったのだった。
ともあれ、ピリピリし始めた悪魔共は強権を発動。数日に渡って学園を休校にしやがった。だからこそ、俺は真っ昼間の町を歩いているのであった。
それにしても、と俺はフッと、とある事について思案を巡らせた。とある事と言うのは兵藤の遺体の事だった。
ニュースでも流れた兵藤の事件だが、その中で一つ俺が分からない事があった。
それは、兵藤の左腕が何かによって引きちぎられたかの様に欠損していた。という情報だった。
少なくとも、俺が最後に見たときには両腕はキッチリあったし然りとて、腕を千切って行くやつがあの辺に居たとも思えない。 全くの理解不能だった。
仮に兵藤が神器を保有していたとて、死体からは神器を取り出せない。神器は肉体ではなく、魂に癒着しているからである。だが、もし仮にその神器に魂が入っていればそれは分からないが。
ともかく、今日はどうするかとそれまでの思案を断ち切って予定を考え出す。
「きゃッ!?」
そして、下げていた視線を正面に戻そうとした時、俺の視界に何かが入り込んだ。
視界に入り込んだのは布だった。一般的にはヴェールと呼ばれているやつだ。
それが視界に入り込むと同時、転ぶ音が聞こえたので顔を上げると、シスター服の女性が転んでいた。
妙な。この道はアスファルトのひび割れなんかも何もない道だ。なのに何故転ぶ?
ただ転んでいるだけならヴェールを渡して通り過ぎるのだが、辺りには彼女の荷物らしきものが散乱してしまっている。しかも、ひとつふたつという次元じゃあない。恐らくは彼女の荷物ほぼ全部ではないだろうか。
そこまでいくと可哀想に思えてきたので、流石の俺も手伝うことにした。
「……随分と派手にこけたな」
「あ…ありがとうございます。あぅ……なんで何もないとこで転ぶのでしょうか」
とりあえずその辺に落ちている物を片っ端から拾って往く。俺が拾ってトランクに戻して居るのに対して、何故か彼女は拾ったものを落としてまた混乱する。
どうやらドジと天然と運動音痴が掛け算になって、ここまで大きな被害をもたらしているらしい。よく今まで大きな怪我もなく生きてこられたな、と俺は見当違いな事を思ってしまった。
「これで全部、だな」
「あ…ありがとうございます」
最後の物を渡した俺は、そこでようやく女性の素顔を見た。その素顔はなんと言うかおっとりとした雰囲気を美人だった。こんな美人なら、ドジでも天然でも運動音痴でも周りの人は助けるのだろうな、と俺は思ってしまう。人間顔が九割だかなぁ。……限度はあるし、中身がアレだったらお仕舞いだが。あの悪魔のように。
「じゃあ、俺はこれで」
「ちょっと、待ってください」
「…礼なら要らないぞ」
俺はさっさと立ち去ろうと踵を返す。一度は見捨てようとした手前気まずい。だが、彼女は僕の服の端を摘んで邪魔をした。
「そ、それもあるのですが、道案内も頼めませんでしょうか?言葉が通じなくて…どうしようもなくて」
「…ああ、なんだそういうことか」
どうやら目の前の彼女は、今日からこの街の廃教会に赴任したらしい。日本に来たはいいものの、道に迷った挙げ句、日本語が出来ないので道も尋ねることが出来ずに困っていたようだ。
話している言葉は英語だが訛りからしてイギリス系の英語、そのうえ比較的田舎の方だろうか。
一応、多くの前世を経たお陰で大抵の言語なら理解出来る。だからこそ、今もこうして軽く自己紹介や話が出来ているのだ。
…それにしても妙である。普通ならば日本語を習得している聖職者が派遣される筈だし、それに日本人でも事足りる。信徒は日本にも居る。例えば、突然家を訪問して来て聖書の話をしてくるやつらとか。
話が逸れたが、この町のしかも廃協会に来るなどアイツの言っていた人物で間違いはないだろう。
アーシア・アルジェント。堕天使に潜り込んでいるアイツからの報告にあった少女だ。
普段はちゃらんぽらんの癖に報告書とかは妙に真面目なお陰で、頭の中の情報と一致した。
彼女も裏の事情は知っている。だが、何のためにここに居るかは分からない。本格的に堕天使の手先になったと言う報告もない。
だからこそ、俺は彼女を教会に送る。道中で様子を見るためと、あわよくば情報を引き出すためである。
「ヴェ!! 痛いよぉ!!」
ふと、子供の鳴き声が響いた。
声のした方向に振り向くと、公園で子供が泣いていた。
よく見ると膝が血まみれだ。擦り傷怪我が痛くて泣いているのだろう。
ふと、俺にもこんな時期があった、と郷愁を覚えしまう。
「男の子がこんな事で泣いてはダメですよ? ……ほら、これで。……治りましたよ」
彼女――アーシアはその子供を見た瞬間にその場を離れると、子供の側に駆け寄った。そして、その場に屈むと、子供に顔を近づけながら、慰めの言葉をかける。その姿は、あの忌々しい鳩なんかより、よっぽど天使に思える姿だった。
どうやら普段は運動音痴のようだが、特定の条件下では無効化されるようだった。何か世界の補正でも掛かって居るのだろうか。
「……やはり、か」
そして、俺は嘆息した
アーシアが擦りむいた部分に両手を翳す。するとアーシアの指に突如として指輪が出現。そこから緑色の光が放出する。その光に触れた子供の怪我は数秒たらずで消え去り、なんと完治してしまった。
報告書通りの能力だった。
「わっ!治ったぁ!ありがとう! お姉ちゃん!!」
その子供は理屈は分からないが怪我が治ると、笑顔元気よくアーシアに向けて礼を言い、後ろにいる母親の方へと駆け寄った。
だが、母親はこどもの手を引っ張って、急いで離れてゆく。明らかにアーシアを恐れていた。
しかしそれは仕方の無いことではあるのだ。。彼らのようになんの力も無く、裏の事情も知らないたちにとって、彼女らのような特殊な力を持つ者は人でない存在に見えるし、思ってしまうのだろう。
そうやって迫害された者も組織には何人か居る。故に、逃げた母親の気持ちも分かるし、アーシアの気持ちも少しは分かる積もりだ。
組織に居る人間はその殆どがただの人間だ。元々MSは人が、人ならざる者を狩る為に造ったものだ。だからこそ、組織に入った人間はほぼ全て人外に恨みを持つ者となる。その為、神器を知らずに驚く者も少なくは無い。
にしても、少し怖がりすぎではなかろうか?
アーシアの治癒の光みたいな危険性の少ない能力に対してはいささかオーバーリアクションだと思えてしまう。しかも、子供を治療して貰った分際で。
「……庵さん、すみません。いきなり止まってしまって」
アーシアは母親の視線が刺さったせいで、その場で立ち尽くしたが、数秒ほどで立ち直り俺に振り向いた。
ぎこちなさを感じる笑顔だ。まるで、味方も大きな被害を受けたのに勝ったと喧伝した時の俺みたいに。
「……アーシア、君は至って普通の人間だ。何も思う必要は無い」
「……え?」
俺はそれだけを言うと、そのまま目的地へと足を進めた。
アーシアを廃協会へと送った俺は、その足で町をブラついていた。色々と思う事があったからである。
始め、俺はアーシアを警戒していた。一応、堕天使陣営に属していたからである。
しかしながら、彼女は純粋であった。それは言葉の端々からもアーシアの恣意からも感じられた。
「可哀想に。アレだけ純粋ならさぞ生きにくかろうよ」
純粋と言うものは時として弱点ともなる。そこに漬け込まれて死んだ奴を、俺は大勢見てきた。だからこそ、俺は素直にアーシアを可哀想と思っていた。
が、その一方で俺の失ってしまったものへの羨望も絶えなかったのは確かだった。
アーシアはある意味、ユリンポジです。