あくる日ヒカルは街を歩いていると、「あ!進藤ヒカル君よね!?」と声をかけられた、市川さんである。
「お願いがあるの! 今から囲碁サロンに来てくれない!?」
あぁそうか、塔矢名人に会える時かと思い返したあとヒカルはわかりました、とついていくことにした。
車の中で佐為と話をした、(佐為、お前塔矢名人と打ちたい?)
『ヒカル私は先日kuroshiroと打たせていただきました、今度は貴方が塔矢名人と打ってはどうですか?』珍しく謙虚な佐為。
(なんだよ、いつもは打ちたい打ちたい言う癖に)
フンとしているヒカルに対し、
『私はこの前kuroshiroと全力で打つことができました、ヒカルは今だれとも全力で打てなくて悔しい思いをしているでしょう、その不満を解消してあげたいのです』
そう佐為が言ってくれたので、遠慮なくヒカルは塔矢名人と打つことにした。
(でもいいよなぁ佐為はこれからkuroshiroと打ち放題なんてさ、羨ましいったらないぜ)
少し根に持つヒカルであった。
囲碁サロンについたとき、目の前には白スーツの男と、落ち着いた面持ちの和服の男がいた。
「君がアキラを二度も負かした進藤君だね? 息子が世話になった」
そう和服の男が話しかけて来た。
「はい、たまたま近い年の子がいなかったので、打たせていただきました」
丁寧に返すヒカル。
「君の実力が知りたい、一局お願いできるだろうか?」
「望むところです」
お互い知りたいものを知るための対局が始まった。
あらかじめアキラから棋譜を見せてもらっていたが故に置石など無粋な真似はすまいと、握ることにした。
黒はヒカル、白は行洋で対局することになった。
(この頃の塔矢先生も強いけど、まだこの頃なら俺は勝てる自信がある!)
そう思い、一手を打ち始めた。
じっくり様子見をしようとしていた、行洋相手に、ヒカルはガンガン攻め立てた。
行洋の地を奪っていく、ヒカルに対し、隣にいた緒方は驚愕していた。
この歳で塔矢名人に対し攻撃的に優勢を保つとは只者ではない…。
そしてその相手が自分でないことに、嫉妬すら覚えていた。
「ありません」
対局も終盤、攻撃的なヒカルに対し粘っていた行洋はついに投了を切り出した。
まさかこんな年端もいかない子供が塔矢名人を圧倒していいのか!? 緒方は狼狽えていたが、必死に冷静を保っていた。
「saiは君か?」
急に切り出して来た行洋に対しヒカルはびっくりした。
しかし、ここは知らぬふりをして
「saiってなんですか?」
と逆に聞き返した。
「そうか、君はsaiではないのか、kuroshiroというネット碁の棋士は知ってるかね?」
「ネット碁はやったことないです」
と嘘をつくヒカル厳密に言えば嘘ではないのだが。
「君やsai、そしてkuroshiro世界は広いものだな」
感慨深げな行洋に対しヒカルはどうしたのか聞いてみた。
「ネット碁棋士にkuroshiroとsaiという棋士がいてね、両方とも無敗の棋士であったらしいが、私はネット碁というものがどうも胡散臭く感じてしまっていてね、しかしそこの緒方君が棋譜を持って来てくれたんだ、それを見た瞬間私の囲碁に対する見識がどれだけ狭いか痛感させられたよ、そして君と打ったことによりなおさらね」
ははは、と笑いながら行洋は言う。
「そんなことないです、塔矢名人もすっごい強い棋士だと俺、いや僕は思ってます」慌ててフォローするヒカルであるが、
「ふふっ、気兼ねしなくていい、今の一局で君が私を上回っていることが、わかった。 いやはや碁の世界は広いものだ、できるなら私もkuroshiroとsaiと打ってみたいものだ」
行洋はネット碁に対してやる気があるように思えた。
「進藤君、君はネット碁はしないのか?」そんな行洋の問いに、ヒカルは返答に困った。
「できたらいいんですけど、パソコンがないんです」
たははっと返すヒカル。
「そうか、それならよければ私の研究会にこないだろうか? 君なら大歓迎だ、何よりアキラが喜ぶだろう、あれから君のことをこの囲碁サロンでずっと待っているからね、たまにはアキラと打ってくれないだろうか?何より私もまた君と打ちたい」
親バカですまないなっと謝りつつ行洋は切り出していく。
(佐為?どうする?)との相談に『いいのではないでしょうか? それに行洋と打つことにより、kuroshiroとの対局に備えて勝負勘も養わねば!』という佐為の一言により、時間の会う時でよければという条件で参加することにした。
これには行洋も喜び、ありがとうと、感謝の言葉をヒカルに伝えた。
そしてひと段落を終えた頃、ある男は我慢の限界を迎えた、「進藤!俺とも打て!!」緒方である。
もう夕方近くでヒカルは帰らないといけない時間なので、そこは行洋が今度は緒方君とも打ってくれないだろうか?と助け舟を出した上で、無事帰路に着くことができたのである。
つくづく恵まれない緒方であった。
しかし、研究会にきてくれるならチャンスはいくらでもあると、限界を迎えていた緒方であったが塔矢名人の手前、なんとか堪えることにした。
「やっぱ塔矢先生は強かったなぁ」
そう満足げに呟くヒカル。
『しかし、まだあの頃のように碁が変わってないので少し物足りない感じはありましたね』
弟子の勝利に満足するも物足りげな佐為。
「でも絶対塔矢先生はまた強くなるぜ、俺も佐為もそうだけど、ハク、kuroshiroがこの世にいて、あんな強い奴が碁を打ってるんだからさ!」
『間違い無いですね、私も彼の碁には感銘を受けました、あれほどの逸材に出会わせてくれた碁の神に感謝せねば』
天に祈りを捧げている佐為。
「大げさだなぁ、でもそれだけ、碁の神様から俺たちが選ばれたってことかもしれないから、もっと頑張らないとな」
『そうですね』
へへ、ふふっと二人は笑っていた。