そんなハクを尻目にヒカルにはやることがあった。
それは自身の祖父との碁と塔矢との邂逅である。
祖父との勝負は買って自分が長年使っていた碁盤と出会うため、しかし塔矢との邂逅にはどうすべきか悩んでいた。
「なぁ、佐為、じーちゃんとの勝負でちゃんとした碁盤はもらえると思うけど、塔矢とはどうするべきだと思う?」
手始めに佐為に聞くことにしたヒカル。
「それはヒカルのやりたいようにやればいいと思いますよ、あの時のように私が打ってもいいですし、ヒカル自身が新たに打っても結果はそう変わらないと思います」
できれば私が打ちたいですけど…とやはり碁が打ちたそうな佐為であった。
「俺は佐為に打たせるのが無難かなぁって思ったんだけどさ、一番面白そうなのはハクに打たせることだと思うんだよな!」
少し興奮したようにヒカルがいう。
「ハクに打たせる? そういうことですか、ヒカルも意地が悪くなりましたね」
最初何を狙っているのかわからなかった佐為だが、意図を察するとふふっと笑みをこぼした。
「でもハクがあの調子じゃあなぁ…」
と碁にさっぱり興味をなくしている新たなライバル候補をヒカルは思う。
「しかしハクと塔矢を打たせるのは私も名案だと思いますが、問題は時期ですね、もうあまり時はありませんから、私たちのどちらかが打つしかないのでは?」
佐為がそう問いかけると、ヒカルは
「そうだけどさ、これならハクの実力がどれほどか見れると思ってさぁ〜、未だに実力がどれくらいなのかわかれないのが悔しいよなぁ」
とっとと本気で打ちてぇよ…と愚痴をこぼすヒカル。
「いっそのことあかりちゃんとハクには自分が逆行者だということを話してもいいのでは? そうすればハクと本気で打てますよ!」
とシンプルな解決方法を示す佐為ではあるが
「そんな簡単に自分が今までの進藤ヒカルじゃないって言えっかよ」
と複雑そうにしているヒカル。
「でもいずれにせよ言った方がいいことなんかなぁ…?」
ヒカルと佐為には尽きない悩みであった。
無事爺ちゃんとの碁に勝ち、ヒカルと佐為は長年使っていた碁盤との再会に喜んで、一局打ちながらヒカルは
「やっぱこの碁盤が一番しっくりくるよなぁ」
と感慨深げに呟いた。
「そうですねぇ、それにしてもヒカルは本当に強くなりました、今では私と対等に渡り合えるようになっているとは…」
逆行して、初めて二人が携帯碁盤で打った時、佐為は驚嘆していた、まだまだ自分の足元にも及ばないと思っていた弟子があれから10年経っていたというが、ここまで腕を上げているとは…。
「バッキャローこっちは元の世界だと本因坊背負ってんだよ!おいそれと負けられるか!」
とヒカルは意地を張っている。
「あんなに小さかったヒカルが本因坊にまで上り詰めるなんて…、やっぱり信じられませんね!」
パタパタ袖を振りながら佐為は抗議するが、
「じゃあ今目の前で打ってる俺は偽物だっていうのか?佐為?」
ふっふっふっと形勢がヒカルに傾いたのをいいことにヒカルは意地悪く笑った。
「!? やりますね、流石は本因坊…ですが私も本因坊なのですよ!」
形勢が悪くなり、むむっとなるが少し考え直し形勢を立て直した佐為。
「しっかし他の奴らと打てないともの足りねぇのがあるのも確かだよなぁ… 俺は佐為とだけ打てればもうそれで良いと思ったけど、まさかハクっていう知らない幼馴染がいて、そいつがかなりの実力を秘めてるってなると打ちたくなるのが碁打ちの性ってやつだよなぁ」
それに対しては佐為も同意した。
「そうですねぇ、私もこんなに強いヒカルと、いえ強さは関係なくまたヒカルとこうして打てるだけで幸せなのに、あのハクという者は底知れぬ何かがあって、どうしても知りたくなってしまいますね。」
人の欲望とは底知れないと、幽霊の佐為が言う。
「確かに底知れねぇよな、だって幽霊になってまで碁を打つやつまでいるからな」
二人は笑った、ひとしきり笑った後、
「案外虎次郎の生まれ変わりを神様が用意してくれたとかそういうことってあったりするかもな」
ニシシとまた笑ったヒカル
「そうだといいですね、それに成績もヒカルより優秀ですし、おとなしいですから、案外そうなのかもしれませんね」
少し人の悪い顔をしながら笑う佐為
「うっせーな!成績なんてどーでもいいの!これからも碁打ちで食ってくんだからさ!」
ツーンとした顔のヒカル
「そういえばヒカルは今回も碁のプロになるのですか?」
思い出したかのように聞く佐為
「まぁ…俺が食ってくにはこれしかないしなぁ…他にできることがありゃそれもいいかな?って思ったけど、やっぱ碁を打って暮らせるだけでも万々歳だよ」
暮らしのことに対して真面目に考えていたヒカルに対し佐為は感動した。
「ヒカルも大人になったんですねぇ…」
「そりゃ大人にもなるっつーの、あれから10年以上経ってんだからさ」
色々大変だったんだぜ〜、と言いながらヒカルはその当時当時に思いを馳せているようだ。
「ところであかりちゃんとは私が消えてからどうなったんですか?」
思い立ったことで一番気になることを佐為は聞いた。
「あぁ〜、あかりか…俺と結婚したよ…?」
なぜか疑問形だったヒカル
「えぇぇ!?結婚したのですか!?ヒカルが!?嘘でしょう!?」
信じられぬ顔をする佐為であったが、
「いやさ、なんかあくる日にこれ書いてくれってあかりに出されてさ、それが婚姻届だったのよ、そいでそれ書いて気がついたら結婚しててさぁ」
あっはっはーっと笑いながらヒカルがいう。
「ヒカル…あなたって子はどうしようもないですね…」
呆れる佐為であったが過ぎたことはもうどうにもできないので、
「今回こそはあかりちゃんをしっかり幸せにするんですよ!」
そう釘を刺した。
「わかってらい、前の時よりは良くするように努力はするさ! それに前の時もあかりはそれでいいのか?って後で聞いたけど、幸せだって聞いたから大丈夫だよ!…多分」
勢いよく言ったものの最後は不安なヒカル
「その多分を絶対にするのがヒカルの男の見せ所でしょ!」
佐為が厳しい言葉と厳しい一手を打ったところで
「だぁーーーい!投了だぁーーい!」
碁盤をひっくり返しそうな勢いでそのまま話題も投了したヒカルは、その場でひっくり返ったのであった。