kuroshiroはsaiのように相手を問わずに打っている節があるので、競争率の高さは比ではなかった、それこそ前の世界でのsaiのように打てただけで自慢できるレベルである。
そうやって日々を過ごしていた頃、ハクが珍しくネット碁の話をしてきた。
「ヒカル!最近さネット碁で凄い強い人が現れたんだ!!」
どうやらこのハクという少年自分の強さには無頓着らしい。
「え!? そんな強い奴がいるの!?」
驚いたふりをして、頭の中でsaiでありますようにと願うヒカルと佐為なのであった…。
「うん!!saiって言うんだけどさ! 凄いんだよここ最近急に出てきて無敗なんだよ!!」
と興奮しながら話すハクに対して
「お前も無敗なんじゃないのかよ?」
と冷静に返すヒカル。
「そりゃそうなんだけどさ、きっと僕の場合は運が良くてたまたまなだけだよ」
相変わらず自分の実力には無頓着なハクだが、残念そうな顔をしていたのでヒカルは聞いてみると、
「この前saiに何回か対局申請してみたんだけど、全然対局できなくてやっぱり本当に強い人は打ってくれないなぁって思って…」
その言葉を聞いた瞬間ゲェ!?っという声がヒカルと佐為から出ていたのであった。
「ゲェッ!?ってどうかしたの?」
不思議な顔をしているハクに対し、いやなんでもないと誤魔化すヒカル、これに対し佐為の哀しみはこれ以上ないくらい深まっていた…久々にヒカルの体調に影響を及ぼすほどに…。
「ごめんちょっとトイレ!」
トイレに駆け込んだヒカル、そして泣き崩れている佐為…。
「こんな好機を何回も逃しているなんて…痛恨の至り…」
「まさか向こうから申請してきてくれてるとは思わなかったしなぁ…、次からはちょっと対局申請一人一人チェックした方がいいかも…?」
と反省したヒカルと佐為なのであった…。
なんて美しい碁なんだろう…。
そういって一筋の涙を流したのはこの対局をもっとも間近で見ていた進藤ヒカルであった。
黒と白の模様が入り混じって手をつないだかと思うと離れて、また手を繋いだかと思うと離れる。
ダンスを踊っているような美しい碁であった。
kuroshiroとsaiの対局が叶うのはそう遠いはなしではなかった。
すれ違いの日々が続いたが、ついに念願叶って対局が成立したのである。
『ヒカル!!ついにこの日が来たのですね…』
佐為は天を仰ぎ天に感謝している中、ヒカルは慎重に対局を成立させたのであった。
持ち時間は3時間、ネット碁としては長い時間の設定で対局は、黒がkuroshiro、白がsaiで粛々と始まった。
どっしり構えたkuroshiroに対しsaiもまたどっしり構え、戦いは膠着していたが、その一手一手全てが美しかった。
ヒカルは人の碁がこんなに甘美な碁に感じられたのは、佐為の碁とあかりの碁以来であるが、今またさらなる甘美な碁に酔いしれることができるとは思いもしなかったのである。
気がついたら涙がでていた、この対局を一番の特等席で観れたことに…。
『ふぅ…投了です…』
佐為が投了を宣言した。
ヒカルとしてもこれには驚いたが盤面を見れば最後の形勢は明らかであった。
コミを入れてもsaiが3目半とどかない…。
こんなにも美しい碁を自分は打てるだろうか?と考えながら投了ボタンを押した。
『ヒカル…世の中にはこんなに素晴らしい打ち手がいるのですね…、ますますこの世に未練が出来てしまいました』
そう笑った佐為の顔は未練と言いながらスッキリした顔をしていた。
「あぁ、この世には俺たちよりももっと碁が打てる奴がいる、そしてそれがこんなにも近くにいるなんて俺たち、幸せ者だよな」
二人して嬉し泣きをしていた、最中ピコン!と音がなった。
「今までで一番楽しい碁でした! よかったらまた打って頂けないでしょうか!?」
kuroshiroからのチャットであった。
これには二人もびっくりしたが、思い直すとここまで美しい碁を打ったのだ、それも当然だろうと思い返し、佐為にどうする?とヒカルは聞いた。
『もちろん!!!何度でもこれから対局をお願いいたします!100局でも1000局でも打ちましょう』
佐為は興奮してヒカルにそう返すよう催促した。
この囲碁サイトにはフレンド機能というのがあるらしく、kuroshiroとsaiは晴れてフレンドになり、これからも切磋琢磨していくことになる、その中で不満を募らしている人物がいた、ヒカルである。
「俺もハクと本気でうちてぇよ!畜生!こんなん見せられて俺は本気で打てないなんて…」
先ほどの嬉し涙と打って変って、悔し涙に変わったヒカルに対し佐為は『まぁまぁきっと機会はありますよ』と宥めるしかなかったのであった。
余談ではあるが、この夜の検討は深夜に至るまで続いたという。
kuroshiroにsaiこいつらは一体何者なんだ!? こんな碁を打つやつなんてプロでもいないぞ…、一部始終余すことなくみていた、白スーツの男はただただタバコとコーヒーを嗜みながら、この一局を食い入るように眺めていた。