転輪の夢想   作:ドライグ

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日常

 

家族(ともう1人)との食事を済ませ木綿季と共に家を出る。

 

ドアを開けると家の前には少し大人びた少女が立っていた。

木綿季の双子の姉、藍子だ。彼女は俺と木綿季が出てくるとおはようございます、と挨拶してきた。隣にいる木綿季と同年代には見えないほど丁寧で大人びている。本当に同じ時に同じお腹から出てきたのかと思うほど、彼女たちの性格は真逆だ。同い年でも姉妹という関係になるとそうやって性格に表れるのかもしれない。

だからといってどちらが悪いというわけでなく、どちらも魅力的な女の子だ。

 

そんな二人と朝早い住宅街を歩く。今はちょうど学校に行く1時間前だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界を理解したあの日の夜、すぐに今自分が覚えているすべての出来事を書き出した。だが、読んだ時から時間が経っているのもあるのか断片ずつしか思い出せなかった。思い出そうとするとこう、靄がかかったようにぼやけてはっきりしないのだ。

そんな感覚に襲われながらも書き出したものから、今後必要なことをさらに書き出した。その中で特に重要になってくるモノはゲームセンス、そして何よりも純粋な戦闘能力。これからこの物語に関わっていく上でこの2つは必要不可欠だ。

なにせ例え現実の世界が平和だとしても物語の舞台の主な場所は仮想世界であり、そして関わったすべてが戦闘技能を必要とするのだから。

 

第二の人生だとか、自分が死んだあと周りはどうなったか、なんてどうだっていい(・・・・・・・)。物語はすでに始まっているのだ。彼を中心に歯車は回り始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ

俺は”キリト”なんだ

 

彼の苦悩を知っている

俺の在り方を知っている

 

戦わなければならない責務がある

救わねばならない生命がある

変えなければならない世界がある

 

たとえこの身が朽ち果てようとも、成し遂げなければならない

それが彼の理想なのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩きながら自分のやるべきことを再確認した所で、ちょうど目的地に着く。そこには今となっては見慣れた道場がある。

ここを初めて見つけたあの日のことは、まだはっきりと昨日のことのように思い出せる。

 

 

あの日、何をすべきか漠然と考えながら、とりあえずできることからしようとランニングをしていた時ふと、風を、空を切る音が聞こえた。

立ち止まり、音の聞こえた方向を向くとそこには小さいながらも立派な道場があった。そこから一定の間隔で音が響いてくる。

その音につられるように気づけば自然と足が向いた。この音だけが響く空間で声をかけるのは少しはばかられたのか、無意識に足音も立てないよう静かに音の方へと進んだ。

 

その先にはその音の主であった一人の男性が木刀を振っていた。その時、男性がこちらに振り向いた。中々の勢いだったので向かれた自分は少しびくりと体が反射的に揺れ、またその人も驚いた顔をこちらに向けてきた。

が、その後すぐその驚いた顔から目尻の下がった柔和な顔に変わり、「入門希望者かな?」と話しかけてきた。これがのちに先生となる彼との出会いだった。この出会いがなければ、俺はいつまでも暗い中を1人でもがいていたと思う。

 

 

そんなこんなでその時から約三年間この道場に通っている。

平日は毎朝登校する前と放課後に鍛錬している。登校前となると中々に早い時間になってしまうが、できる限り鍛錬に時間を取りたいと頼み込んで開けてもらっている。

「真面目な初弟子の頼みだからね、それくらいお安い御用だよ」と笑って了承してくれたことには今もとても感謝している。

と、こんな形で学校以外は鍛錬漬けなことからおかげさまで学校では親しい友達はいない。そもそも精神的な年齢が離れすぎて、小学生のノリにあまりついていけないのもある。

 

さて、何故彼女たち紺野姉妹も一緒なのかといえば、彼女たちもこの道場に通っているからだ。自分が通い始めてから一年ぐらいした頃に二人そろって入門してきた。剣の腕が後に仮想世界の中で最高峰になることはすでに知ってはいたが、まさかリアルでやり始めるとは思ってもいなかった。

二人が始めた理由は単純に興味があっただけじゃなく、多分出会ってからずっと俺が2人と仲良くしていたのも要因の1つだろうとは思う。自分が高熱で倒れた後ずっと紺野家と酒井家は家族ぐるみで関係が続いていて、意図的なことがなかったわけではないがほとんど自然に仲は深まった。

 

入門する時の2人、特に藍子の表情は印象に残っている。普段おとなしい彼女の瞳が爛々と輝いていたのは本当に驚いた。どこが彼女の琴線に触れたのかは未だに分からないが、2人して楽しそうに剣を振っている姿を見ていると、現代社会には合わない光景ではあるものの結果的に2人が剣術に出会えたのはよかったと思えた。

 

ほんの数年前のことをぼんやりと思い返していると、どうしたのー?と木綿季が顔を覗き込んできた。なんでもないよ、と朝日に薄く照らされた道場へと3人で歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――削がれ、削がれ、また削がれ、変わりゆく。己が先に意を伝えんと技をなす。されど未だ他者である。

 

 

一通りの技を振るったところで剣を下げ、一息つく、と同時に時間が押し寄せる感覚に陥る。この不思議な感覚は昔からあるが、慣れているのもあって少し違和感を感じるだけだ。だが、この感覚は前世で中学の頃やっていた剣道を途中でやめた理由の1つであるという苦い思い出でもある。

普段とは異なる感覚になる原因を知りたい気持ちもあるが、今は別段困っているわけでもなく、むしろ集中できるので気にしてはいない。思考をいったん打ち切り、先生の方に向き直る。

 

「うん、教えた型は問題ないね。型と型を繋げるのも自然にこなせていて、ぎこちなさはもうないね。本当に和人は呑み込みが早くて、教えがいがあるようなないような」

 

と先生は苦笑いを浮かべた。

 

傍で座って見ていた姉妹のうち妹の木綿季はすごーい!、と言って手をたたき、姉の藍子は妹のように大きなリアクションをとってはいないもののじっとこちらを見ていた。最近よく見る三者三様の反応に自分も先生と同じように苦笑いを浮かべながら、彼女たちと入れ替わる。

 

最近から彼女たちも型の練習へ移行し始めている。とは言ったものの、まだ身体づくりのトレーニングがメインで、型はまだ触り程度だ。トレーニングも、女の子の成長を妨げないよう先生が上手く調整している。

女の子もある程度は身長必要だよね、とは先生の談。だが、2人して元気が有り余っているせいか、課せられたメニューでは満足できないようで始めは少々ぐずり、時間を掛けて先生と二人で何とか分かってもらえた(納得はしていないようだったが)。

そういうわけで、彼女たちと勿論俺も含め、ハードワークは禁止されながらもゆっくりと着実に剣術を学んでいくのだった。

 

一日中ずっと剣を振るいたいところではあるが、義務教育なので日中は学校に行かなくてはならない。藍子と木綿季とは同じ学校に通っており、ほぼ毎日一緒に登校している。二人ともそれぞれ学校生活は順調なようで、学年の中でも特に木綿季は人気者のようだ。あんなにエネルギッシュでいて可愛く、人懐っこければそれは人気が出るというもの。藍子は年齢にそぐわない落ち着いた性格と姉という立場で培われたのか頼り甲斐があり、それでいて気軽に話しかけやすいようでこちらも人気があるのはうなずける。

だが、前にも思ったことだが、俺は残念なことにもう既にボッチである。いじめられているとかそういうわけではないが、単に男子のノリについていけないのだ。それゆえ輪に入れず、また女子からは何をしたわけでもないのに若干距離がある。

仕方のないことだと割り切れたのと、すべきことに意識が向いていたこともあって、正直自分ではそこまで気にしてはいなかったが、同学年の友達がいないことに藍子と木綿季にだいぶ心配された。女子小学生に心配される中身三十歳って......と、このことの方が心に刺さった。

 

 

世間一般的ではないだろうが、これが今自分を取り巻く日常である。こんな日々が続けばいいのに、とは到底思うことができない。むしろこの先起こるであろうことを考えれば考えるほど、鉛のような重圧がのしかかる。

そうしてまた、剣を振るうのだった。

 




変わらない日常など、ありはしないのだから





※1 一部表現を変更し、より読みやすくなるよう編集しました(1/22)
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