転輪の夢想   作:ドライグ

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転機

 

埼玉の親戚の家である桐ヶ谷家に来てからしばらくが経つ。桐ヶ谷夫妻は快く迎え入れてくれて、特に気を張ることもなく過ごせている。

直葉とは当初少しぎこちなかった。こちらは成長した彼女を知っているというのと、彼女が年齢的に少し人見知りということが理由だと思われる。だが今では桐ヶ谷家にある道場で稽古を一緒にするほどの仲となった。

といっても、自分は剣術で直葉は剣道なので同じ稽古をしているわけではない。一緒にやり始めた頃は、前に剣道経験があるにはあるので剣道をやってはいたのだが、やはりどうしても体に合わない感覚したので途中から剣術に戻した。直葉の剣道の先生でもあるお爺さんからも剣道をやらんか、と有難いことに勧められたが丁重に断らせて貰った。直葉はそのことに少し残念そうにしていたものの、かえって今は剣術が見れて楽しいと言ってくれている。

お互い似ているようで別のものを修めてはいるが、朝夕一緒に汗を流し、高め合えてるので結果的に良かったと思う。

 

こうして桐ヶ谷家に居候することを機に埼玉の学校に転入したのだが、学校が変わっても相変わらず親しい友達と言える友人は出来ていない。その反面ネット上、つまりゲームの中での交流は増えている。そのことを客観的に見ると一般的にはよろしくないのは分かるが、仕方ないことだと納得するしかない。あまり気にしていない自分がいるのも事実だ。

また桐ヶ谷家に来てから変わったことといえば、PC関連に詳しくなったことが挙がる。翠さんーー直葉のお母さんーーが昔からPC関連に触れていて、さらにかなりのゲーマーらしく、機械音痴な直葉と違い俺がネット関連にある程度強いということが分かると、時間があるときに色んなことを教えてくれた。

趣味が合う子が出来て良かったわ、とニコニコしながら一緒に作業したのは記憶に新しい。直葉はそんな翠さんに頬を膨らませていたが。

 

こんな中でもしなければいけないことを忘れることはなかった。

月に三度以上は東京の道場に通い続けた。出来るなら週に何度も行きたいところではあったが、それは現実的に不可能だったので月に最低三回に収めた。だがさらに先生に無理を言って週に2回ビデオ通話で師範して貰っている。このことを二つ返事で了承してくれた先生には本当に頭が上がらない。

また、定期的に道場に行くに度、藍子と木綿季の腕は上達していた。2人の成長具合は著しく、会うたびその具合を先生から聞いた。純粋に技の練度が高いというのもあるが、何より形が自然で滑らかなのだ。

 

こうして住む家は変わったが、色んな人のサポートもあってほとんど変わらず過ごさせてもらっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが再び悲運は訪れる。

紺野夫妻が亡くなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉ちゃん、これからボクたちどうなるのかな......」

 

2人は一時検査という形で病院に預けられることとなった。目元はまだ腫れたままだ。

 

「分からないわ。病院にも長くいれるわけじゃないし......」

 

妹を不安にさせるようなことを言うべきではないということは藍子は心の中では分かってはいた。だが普段は落ち着いている彼女でもまだ小学生。両親の死はもちろん、その後に起きた出来事は心を蝕んでいた。

その出来事とは学校を追われてしまったことだ。

どういうわけか両親と自分たち姉妹が、両親の亡くなった理由である病気 HIVのことを学校にリークされたのだ。その情報はすぐさま拡散し、2人はとても学校にはいられなくなってしまったのだ。

両親がいなくなってしまったことで傷ついていた2人に、たとえ子どもたち自身の判断ではなかったとしても仲良くしていた友達が離れていくのは、さらに大きな傷を残した。

また親族とはいうと、そもそも亡くなる前から交流はなかった。なぜ交流がなかったのか。学校での件もあって、勘の良い彼女たちはその理由も察してしまった。

 

もう2人の唯一の心の支えは和人だけだった。

彼と出会ってからずっと、彼と一緒にいる時や話している時は病気のことを忘れられていたのだ。

 

2人はそんな彼に会えるかもしれないと、和人の両親が入院している病室へフラつきながら向かった。病室のドアは開いており、そのまま入るとそこには和人の両親と和人、そして先生がいた。知っている人が皆集まっていることに驚きつつ入ると、部屋に居た4人がこちらを振り返った。

 

「あら、らんちゃんとゆうきちゃんじゃない。いらっしゃい」

 

と和人のお母さんが声をかけてくれる。

 

「こんにちは。えっと、なんでみんないるんですか?」

 

と尋ねると再び和人のお母さんが口を開いた。

 

「ちょうどあなたたちのことについて話をしていたの。2人とも近くに来てくれる?」

 

2人は何の話だかさっぱりで、恐る恐る近寄った。

 

「あの、話って一体......?」

 

姉の藍子が聞く。

和人のお母さんは優しい笑みを浮かべて、

 

「らんちゃん、ゆうきちゃん。いきなりだけど、2人とも私たちの家族にならない?」

 

と言った。

 

えっ...と藍子と木綿季は言葉を詰まらせた。

一体どういうことなのだろうか。家族になる......?

いきなりのことで2人は混乱する。状況をうまく飲み込めない。

そんな2人に和人のお母さんは話を続けた。

 

「混乱させてしまってごめんなさい。これはあなたたちのお父さんとお母さんと少し前に話をしていたことだったの。2人はもう長くはない、ってお医者様に言われた時期に私とお父さんに病気のことを話してくれたの。私たちが亡くなった後娘2人、藍子と木綿季をどうしようかっていうこともね。その時、じゃあ私たちが預かります、って私が言ったの。そう言った時、2人はすごく驚いていたけど、お願いしますって言ってくれて。本当は本人たちがいる時に話すべきだったんだろうけど、その後すぐ私たちが事故にあって、私たちの容態が安定する頃にはもう紺野さんたちは危ない状態になってしまっていて。だからこんなに話すのが遅くなってしまったの」

 

一通りの事の経緯を話し、和人の母は藍子と木綿季を改めて見る。

2人はしばらく立ち尽くしたままだったが、少し経つと木綿季は声を出さずに涙だけをポロポロと流し始め、藍子は俯き体を震わせた。

そして2人はこくりと頷いたのだった。

 

こうして2人は酒井家に養子として入ることになり、一旦の終息を迎えたに見えた。

しかし、2人はまもなくAIDSを発症した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らにとって運命となる日まであと1年。

 

 

 

 

 





これにて序章となる原作前は終了です。
いかがでしたでしょうか?
作者としては皆さんに色んな部分に違和感を感じてもらえたら最良だと考えています。
現時点で語れることはほぼありませんが、何か気になったところがありましたら感想欄などで聞いてもらえれば、答えられる範囲で答えたいと思います。
今後は時間が空けば書くかもしれませんが、基本的に3月末からの再開となります。勝手ですがよろしくお願いします。




















ーーーーーーさて、彼は何か忘れてはいないだろうか?
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