正義の仮面   作:マスクオブジャスティス

5 / 9
普段は週末に書いてるけど思った以上に評価が高い上に感想も結構頂けたので調子に乗った。筆も乗った。



4話

 試験も終盤に差し掛かった。ほどほどにロボットを倒し、それほど目立つ動きをしていたわけではないが私がヒーローであることがどうやらバレてしまっているらしい。私の正体を察したと思われる子供たちの行動は幾つかに分かれた。まずは私から離れて残っているロボを探す集団、次にそれまでと変わらずに私に近くても気にせずに周囲でロボと戦う者達、最後に私に向かって来る者が何名かいる。さらに最後の集団の子供たちは私がロボを破壊していくのを妨害してくる者達と追加ポイント目当てに私の正体を暴こうとする者達に分かれた。

 

 「なるほど、なかなか簡単にはいかないものだな、っと!」

 

 向かってくる子供達をいなす。あくまでもこれは試験であって向かってくる子供達はヴィランでもなんでもないので怪我をさせないように上手く立ち回る必要がある。流石にそんな状態であってはロボットを破壊する暇はない、私の妨害をしようとしている者達にとっては目論見通りといったところか。しかし、確信があるならばともかく本当にヒーローであるか証拠もないまま向かってくるのは下策だ。この試験では他の生徒への妨害は当然ながら禁止されている、ただしあくまで生徒への妨害であって私たちヒーローにはそのルールは適応されない。そういう意味でもし私が実は生徒だったならば向かってくる彼らは失格ないし減点の対象となるような行動をとるのはリスクが高すぎるとしか思えない。ヒーローを目指すならばもう少し慎重さを身に着ける必要がある。ここは教師らしく少しばかり授業をするとしようか。

 

 「てめえら! 他の生徒への妨害が禁止されてるのを分かってんのか!?」

 

 いつもとは口調を変え荒々しい態度で向かってくる子供達を一喝する。その私の言葉に向かってくる子供達は動きを止めた。向かっている相手が生徒であるかもしれないと脳裏を過ったのだろう。その一瞬の動揺は実際の現場では命取りとなる。

 

 「レッスン1だ。動きを止めるな、一度でも自分の考えを信じたならばヒーローは迷ってはいけない」

 

 そう言いながら一番近くにいた生徒に足払いを掛ける。体勢を崩したところで下から掬い上げるようにし離れたところに投げ飛ばす。仮にもヒーローを目指してここに来ている者達ならばこの程度は大した怪我を負うこともないだろう。

 

 「そしてレッスン2、味方が、いや今日の場合はライバルだろうが、共に戦う者の負傷に動揺してはいけない」

 

 思わず投げ飛ばされた生徒のほうへ視線を向けていた別の生徒の眼前に移動し、硬直している隙を突いて背負い投げる。

 

 「最後にレッスン3、不測の事態に陥っても直感だけで行動してはいけない、考えるんだ」

 

 やっとのことで事態を察した一人の生徒が、慌てたように私の方へと向かってくるが、直線的で読みやすい動きであったので腕を取り、巴投げの要領で後方へと投げ飛ばす。

 

 「さてヒーローの卵の諸君、今回の授業は如何だったかな?」

 

 動きを止めたままの生徒と投げた地点でようやく体を起こしている生徒達に向けて言い放つ。嫌味のような言い方になってしまったが、私としては折角プロヒーローと対峙しているのだから試験の点数ばかりを気にせずに出来るだけ学べることを学んでいって欲しい気持ちだ。

 

 「クソッ! これがプロか! もう時間もないのに相手してられるか!」

 

 あっさりと蜘蛛の子を散らすように子供達は方々に分かれていった。その考えは間違いではない、点数ばかり気にするなとは思っているが、これは試験であるので最終目標である合格に向けての行動として悪くない。悪くはないがな私としては是非とももっと向かって来て欲しかった。しかし彼らはこの試験に並々ならぬ覚悟と信念を持って来ている、そんな彼らの意思を尊重して追い打ちをかけるような真似はしない。だが、どうやらまだ一人だけ骨のある少年がいたようだ。

 

 「残念だが、力だけで押し切るには君にはまだスピードもパワーも足りていない」

 

 「ッ!」

 

 後ろからこっそりと近づいてきていた少年はある程度近くまで来たタイミングで一気に飛び込んできた。だがその動きは読めていた。軽く体をずらし横に抜けていった腕を掴む。そして相手の飛び込んできた勢いを殺さないようにそのまま一回転させて回転のエネルギーも上乗せした状態で手をハンマー投げのようにして放し投げ飛ばす。

 

 「さて生徒は一人だけになってしまったがレッスン4だ、終わったと思っても決して油断してはいけない。油断していると君のような者にあっさりとやられてしまうからね」

 

 投げ飛ばされた少年は上手く受け身を取ったようですぐに起き上がってきた。瞳の中に見える闘志の炎はいまだ消えていなかった。

 

 「どうやらまだやるようだね、ただあまり褒められた行動ではない。時間ももう少ない、私の事は無視して一体でも多くのロボを倒すことををお勧めするが?」

 

 そう言っても少年はファイティングポーズを取った。

 

 「意地でもそう来るか。何が君をそこまで奮い立たせる?」

 

 「ハア……ハア……、僕は、僕はまだ一体もロボットを倒せていません! 今から少しでもロボットを倒して間に合うか分からない。だから僕は、僕の得意なことでやるんです!!!」

 

 息を荒げながらも少年は吠えた。

 

 「ほう? 参考までにその得意なことを教えて貰ってもいいかな?」

 

 「僕は、ヒーローが好きです。オタクだとかナードだとか呼ばれることもあります、それぐらいヒーローの事は出来る限り調べて研究してきたつもりです! だから他の誰かに出来なくても僕ならあなたの正体を見破れる!!!」

 

 素晴らしい、自分ならば絶対に出来るというその自信、それは確かに彼がいままで積み上げてきた物からくる確固たる物だ。今まで誰かに無駄だといわれたこともあるかもしれない、それでも彼は好きであることを諦めなかった、それは誰にでも出来ることではない。

 

 「良いだろう少年! さっきのお勧めは取り消す! 全力で掛かってくれば私もうっかり個性を使ってしまうかもしれないぞ?」

 

 少年の狙いは間違いなくそこにある、ただ観察しているだけでは完全には分からない、ならばヒントを自ら引き出す、そういう魂胆だろう。そのヒントとは個性だ、ヒーローの個性というのは広く知れ渡っている、似たような個性もあるだろうが、それでも個性さえ見ることが出来れば私の正体を彼は見破るだろう。

 

 「ハイッ!!!」

 

 元気よく返事をしながら愚直に突っ込んでくる少年を迎え撃つために私も構えを取る。しかし寸での所で少年は足を止められることになってしまった。

 

 「うわっ!?」

 

 試験会場が揺れた。それに動揺して少年は足を止めた。私も構えを解き振動の発信地の方へと目を向けた。

 

 「なるほど、あれが例の……」

 

 そこにはビルの高さをも超えるような巨大なロボットが立っていた。

 

 




たくさん感想をいただけて大変ありがたいのですが、経験上で個別に返信していると稀に困った方がいらっしゃることがあるので目を通すだけで返信はしておりません。感想自体は有難いので返信なんていらねえそれでも俺は感想を書くぜと言う方は遠慮なくどうぞ、しっかりと目は通させてもらい調子と筆の乗りを良くします。

追記、『東の栄』様、誤字報告ありがとうございます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。