正義の仮面 作:マスクオブジャスティス
試験会場に現れた巨大ロボがプレゼントマイクの説明していた0ポイントのお邪魔キャラだろう。生徒達との公平性を保つためにロボの詳細は参加しているヒーロー達には伝えられていなかったが、まさかこれほどとは想像していなかった。
「さて少年、どうにもあれはこっちに向かっているようだ。もたもたしていれば我々もあっさりと潰されてしまうだろう。君には幾つか選択肢がある」
巨大ロボに呆気に取られたことで動きを止めていた少年に声を掛けると、少年は私の言葉を聞いてようやく体勢を立て直した。
「一つはあれがこちらに来るまでに私の正体を見破ること、次に私の事は諦めて一目散にこの場を去り一体でも多くのロボを倒すこと、最後にそれ以外の選択肢だ」
「それ以外?」
「ああ、そうだ。ただなんでもかんでも私が教えてしまうと他の生徒達と公平ではなくなるからね、それ以外の選択肢は自分で考えてみるといい」
ちなみに私の中でのそれ以外の答えは巨大ロボを速攻で打倒し、かつ私の正体を見破ることだ。はっきり言ってあの巨大ロボはプロであっても打倒するには個性の相性にもよるが多少手間取るだろう、しかし不可能ではない。それくらい出来なければプロとしては失格だ。それにヒーローとして模造品とは言え街として作られた試験会場を破壊されることを容認するわけにはいかないからだ。
「それ以外……なんだ? 僕は何をすればいい? 考えるんだ、プロのヒーローがわざわざ個別にそう言ったからには何かあるはずだ、正体を見破りつつロボから逃げる? いやダメだきっとそれではこのヒーローの人には逃げられてしまう……、考えろ、考えろ、考えろ……ッ!!!」
少年は思考の海に潜ってしまった、深く考えこんで動きを止めている点はマイナスポイントだが、最善の結果を求めようとするその姿勢はプラスポイントだ。
「補講の時間だ、レッスン5、よく見ることだ、ヒーローとしての正しい答えはいつだって目に映るところにある」
「見る……?」
どうにも自分でも深く考えないうちにこの少年のことを気に入っていたようだ、なんとなくヒントに近い物が口から漏れてしまった。ただ少年は他の子供達が諦める中、果敢にも私に向かってきたのだ、これくらいはしてあげてもいいだろう。
「そうだ、よく見るんだ。今自分が何をしなければいけないのか、ヒーローならば何をすべきなのか」
私と少年の視線の先では巨大ロボが縦横無尽に暴れまわっている。危うくその腕に弾き飛ばされそうな者や足に踏み付けられそうになって慌てて逃げ惑う者達が大勢いる。これは試験である上に彼らは仮にもヒーローの卵達だ、なにかしらの安全対策もされていることだろうし、大きな問題はない。ただもしあのロボが仮想ヴィランでなく本物のヴィランだったならばどうなるか、そして試験会場ではなく実際の街中であればどうなるか、逃げ惑う人々が無力な一般市民であったならば、それらの事を考えれば自ずと答えは出てくる。
「答えは決まったかい?」
「……ハイ、でも僕はそれじゃあヒーローにはなれないんです……」
「ならば諦めるかい? 目の前の現実から逃げてヒーローという名の臆病者になるかい?」
「……それはダメです! 僕はここでヒーローになれないかもしれない……、でもそれでも本物のヒーローならきっとこうする!」
その時だった、瓦礫に足を取られた少女がロボに踏み付けられそうになっているのが視界に映った。それはきっと少年も同じだっただろう。あれでは逃げ切れない。
「下は任せたまえ!」
「分かりました!」
説明はいらなかった、私と少年は同時に駆け出した。考えるよりも先に体が動き、その後に思考が付いてくる。あの少女を救う為にはどうすればいいか、簡単だ、目にも止まらぬ速さで少女を救出する、もしくはロボの方を排除する。あるいはその両方だ。少年はパワー型の個性だったようで、躊躇せずにロボの眼前まで跳躍していった。ロボを打倒するつもりであることははっきり分かった。しかしそれだけでは足りない、要救助者に対しての気配りが出来ていない。倒した衝撃で瓦礫となって降り注ぐかもしれない、その辺りのことまで求めるのは卵達にはまだまだ難しいだろう、しかしこれから学んでいけばいい。今、足りない分は私が、彼らの先輩で彼らよりも大人で、そして紛れもないヒーローである私が補うことにしよう。
「S M A A S H !!!」
少年が叫ぶと同時に拳をロボに叩きつける。見事な威力のそれはロボを吹き飛ばすには十分であったようで、ロボがあっさりと機能停止したことが窺える。その間に私は瓦礫を撤去し、動けなくなっていた少女を救出する。
「どうやらあまり心配する必要はなかったようだが、やはり詰めが甘い」
ロボの倒壊による二次被害を心配する必要は無いほどにロボは吹き飛ばされていた。しかし代わりといってはなんだがどうにも力の制御を誤ったのか脱力した様子で、少年は自由落下している。このままでは頭から地面に真っ逆さまだ。
「少年! 気をしっかり持て!」
その言葉に少年は一瞬だけ体に力を入れたように見えた。そこで器用にも空中で体を半回転させると足を下にして勢いよく落下した。落下地点を見ると地面に罅が走り、息も絶え絶えで汗と涙でひどい表情をした少年が倒れていた。どうにも相当に負担の大きな個性のようだ。
「その様子ならば大丈夫かと問いかけるべきなのだろうが、ここはあえてこう言わせてもらおう。よくやった少年!」
「ハイ……」
「どうやら体は酷い状態のようだな、ならばここでレッスン6とレッスン7だ」
「……?」
「ヒーローなら痩せ我慢! そして笑え少年! 誰かを救った後ヒーローは悲観した顔をしていてはいけない。」
「……ハハ」
顔を引き攣らせながら、少年は笑顔を作った。
「そうだ、ヒーローならば助けた者達の前で悲観してはいけない、希望は確かにあることを知らしめなければいけない」
「ハハハッ……」
「うむその調子だ、本来ならばもっとこのように高らかにポーズを決めてワーハッハッハとするとよりカッコいいぞ」
アクション仮面特有の片腕を斜め上に上げ、もう一方の腕を胸元に持ってくるポーズを取る。
「ワーハハハ……ってあれそのポーズどこかで見たような気が……」
「おっと私としたことがうっかりしていた、他の生徒達には内緒だぞ?」
「あの……」
少年と話をしていると、救出した少女が立ち上がって不思議そうにこちらに目をやってきた。私たちの会話の意味があまり分かっていないようだった。私としては正体がバレる心配がなく有難いことだ。ただひょんなことから見破られてしまうかもしれないので早々に撤収するとしよう。
「君も無事でよかった、といっても私は精々瓦礫をどかした程度、本当に活躍したのはそこで倒れている少年だ。お礼なら彼に言ってあげるといい」
そう言い残し、その場を去る。間も無く試験終了の合図が鳴らされた。終わってみればあの少年のことばかりが気になる、最終的に彼は普通にポイントを得ることは出来なかった。しかし、子供達には知らされていないが、この試験では救助ポイントが設定されている。文字通り誰かを救助したりしたなどの功績によって与えられるポイントであり、少年にはそのポイントを与えられるだけの十分な成果がある。それに恐らくだが私の正体を見破ったことによる追加ポイントもある、実際に彼にどれだけのポイントが与えられるか分からないが、十分に合格の可能性はある。
「待っているぞ少年、ここが君のヒーローアカデミアだ」
この後に、参加していた教員達は他の教員達と共に採点作業がある。その場で彼の合否がはっきりするだろう。