今日からマのつく成り代わり! 作:なす
突然だが、一番怖いものってなんだと思う?
そりゃ、十人十色にあるんだろうけど。
例えば、幽霊とか、雷とか、台所の黒い悪魔とか、饅頭とか。
もちろん俺にもある。
ただ単に怖いものってんならそれはもう大量に。俺は自覚のある臆病者なもんで。
だからといって、変に卑下するつもりもないんだけど。恐怖心ってやつは人を生かすと信じてやまないから。
そんな俺に、この世界でまたひとつ怖いものができた。
明確な形をもたない、漠然とした怖さ。
人によっては心地よく思うのかもしれない、それが、俺には理解出来なくて。
理解できないものが、俺にとっては一番怖い。
「ユーリ陛下。」
……薄茶に銀の虹彩をもつ、
その瞳に灯る信頼が、俺は怖くて仕方がない。
◇
あのとき。
噴水に落ちて意識を失った俺は、目が覚めたら案の定異世界にいた。
とはいえ、景色は地球と何が違うでもない、ただの街道近くの森ではあるのだが。
まぁ、場所が一瞬で変わったのには変わりがない。
正直言って信じたくないこの現実に、なんとも言えない複雑な気持ちになりつつ。
倒れている状態から立ち上がって辺りを見渡す。
双黒……黒髪黒目が人間に忌み嫌われていることは知っていたから、とりあえず住人に会わないようにするのが最善か。
と、一瞬考えて、それじゃダメなことに気づいて肩を落とした。
だって!!このままじゃ言葉通じねぇ!!
なんだっけ、金髪の敵の、俺の前世のこんやく、いや待った今のは聞かなかったことにして。
そんな事実は(覚えてないし)なかった、いいな?
とにかく、アーダル、?……アーダルベルト?だったっけ。
あいつにアイアンクローされた後に言語習得みたいな展開だった気がする。
なんでアイアンクローしたんだったか。痛めつけたら俺の脳みそに化学反応でも起こんの?
そこらへんの木に頭ぶつけたらいい?
……んなわけねーよなぁ。知ってた。
なんだっけ。たしか魔術と対になってる人間の術をかけたんだっけか?
詳しいことは覚えてないが、とにかく人のいる所にいって、アーダルベルトとどうにか会った方が今後を考えるといいんだろう。
隠れてても、こう、なんか魔族の不思議パゥワーで未来の魔王様(ことこの俺!)を迎えに来てくれるとは思うけど、言葉が通じないんじゃ今後困るし。
そもそも、トイレじゃない場所からここに来た時点で、原作と違う場所に出ているかも、なんていう可能性はすっぽ抜けていた。
ま、実際は同じ場所だったっぽいから結果オーライ。
目覚めた場所からちょっと歩くと、一人の現地人に見つかった。
俺を見ると、わけわからん(一応ドイツ語ベースらしい)言語で叫んで、女性が逃げていく。
確か、ユーリはそれについて行って石を投げられたはずだが、そんなことはもちろんごめんだ。
だから、その場で待つことにした。
ほら俺って、未来の魔王様だからさ。自ら出向くとか?ちょっと無理っていうか?
……っていうイキリは、今は横に置いといて。
恐れるべき存在を見たとき、何をするかっていうと、それに対抗できる助けを呼ぶよな。
俺の予想と、原作知識が正しければだけど。
女性に呼ばれてやってきた、デカい金髪の男はアーダルベルトであるはずだ。
「Hey!」
眉を寄せながら、声をかけられる。
こんにちは、なんて友好的なものでは無いはずだ。おい、とかそんな感じの呼びかけ。
声の主は、オールバックにされた金髪と。
俺より一回りくらい大きいんじゃないかっていう、筋肉質でくっそ体格のいい身体を持っていた。
そんで、俺にはいまいち良さがわかんないけど、恐らく美形と呼ばれるであろう顔。なんか、笑ったらアニメのごとく歯が光りそうではある。
たぶん、合ってる。こいつがアーダルベルトで。なんとなく見覚えあるし。
男は、上から目線(物理)で俺を一瞥すると、そのデカい一歩でこちらに近づく。
ここで俺は、言語のために潔く頭を差し出さなきゃいけない訳だけど。
デカい男が威圧感たっぷりに近づいてきたら、まぁ後ずさるよな。反射で。
…………、あっ。
「…………。」
「…………。」
それを無言で繰り返すこと数秒。
男は顔を引き攣らせて、立ち止まった。そして小さく悪態の様なものをつくと、両手を上げて俺に何か話しかける。わ、わかんねー……。
敵意がないのを示してる、んだとは思うけど。
「…………。」
こいつは一応、俺を利用したがってる?やつだったはずだから、すぐ殺すとか殺意高めじゃなかったと思う。
……でも、なんか、眉間の皺、深いね?
「えっと、その、」
そろりと目を逸らしつつ、意味の無い言葉を吐き出す。
それに対して、推定アーダルベルトは器用に片眉を上げた。
そしてため息をつくと、こちらに手を伸ばす。
それに対して、今度は首を竦めるだけに留めると、頭をがしりと掴まれた。
「ッ!!」
瞬間、脳に衝撃が走る。
痛みというか、勢いの強いホースの水が、急に顔面を襲った感じ。あ、それ痛いわ。
くだらない事を考えているうちに、男の手が離れる。掴まれた瞬間は意識出来ていなかった周りの音が、耳に流れ込んできた。
「……わかるか?」
「エッ、あっ、はい。」
覗き込まれてされた問いかけの、とっさの返事がこれである。コミュ障か。
駄菓子菓子なるほどこれが魔法……!(違う)
明確に認知できたファンタジーに一瞬興奮しかけたが、目の前にいるのが知らねぇ男な事で秒で収まった。
「えー、っと。ありがとう、ございます?」
「あぁ。お前、……あー。
今、どういう状況かわかってるか?」
俺自身どうしたもんかな、と思っているが、この男もどう行動するか迷ってはいるらしい。
ここでわかってる、っていうのはどうかと思うが、わかっているのは事実だし、わかりませんと堂々否定するのもどうなんだ。
と、さっさとわからんと言えばいいのに思案した結果が、
「…………さぁ……?」
これである。バカかよ。
アーダルベルト(仮)も恐らく呆れていると思ったが、目を細めるだけだった。
「……そうか。まぁ、取り敢えずお前に対して敵意がないのはわかっただろう。今はそれでいいから着いてこい。」
マントを翻し、アーダルベルト(仮)が街道に出る。
双黒が歓迎されないのは分かっているだろうに、町に行くのか。
住民からの信頼がある程度はあるっぽいから、こいつから俺の存在を説明してはくれるんだろうが。
原作通りなら、たぶん迎えもすぐ来るだろうし。言葉が分かった今は、ここで待っててもいいんだけど。
聞こえない足音にか、はたまた別の用事でか、俺の前を行く男はこちらを振り返った。
「言い忘れたな。オレの名前はアーダルベルトだ。お前は?」
明確に、俺の立場に対して味方だと言えるやつらと、利用しようと考えている可能性のあるやつ、どっちがいいかって聞かれたら、圧倒的に前者だ。
でも、こいつだって根本から悪か、って言ったら違うわけで。
どちらかというと、善性であった、はず。いや、悪いには悪いんだろうが。
そういうの、知識がちょっとあるだけで、実際に話したことの無い俺が考えても結局意味ないんだけどさ。
「……渋谷有利。よろしく、アーダルベルトさん。」
「アーダルベルトでいい。お前は、ユーリでいいな?」
「おう。」
今んとこ、悪い感情を持てない相手を、一方的に忌避するというのも、なんか、違うような。
俺が嘘見抜くの得意ってわけでもないから、そんなの出会うほとんどの人間がそうなんだけどさぁ。
それを、原作知識で上手いこと補うつもりでもあったわけで。
補いつつ、あるかもしれない原作との誤差を確かめ、自分でも見極め、みたいな。
今のところ不足はないけれど。
……原作のユーリが、この男についていたらどうなっていたんだろう。
嘘の優しさでできた言葉を信用していたら。
信用しても、そんなに悪いようには、されなかったんじゃねぇかなぁ、とか。
……あぁ、全然わからん。どうするかな、本当に。
どうするべきだったか。今後のために。
◇
「ユーリ!」
街道に出ると、複数の馬からだろう、力強い蹄の音が背後から聞こえた。
そして、俺を呼ぶ声。
振り返って、まず俺が見ちゃうのは、声の主……とかでなく。
まぁ、空飛ぶ骸骨だよね、っていう。
それに関してはひとつだけ言おう。骨は、空を飛ぶんだぞ、と……。
「離れろアーダルベルト!」
俺の思考を遮り、ウェラー卿コンラート(仮)が声を荒らげる。
茶髪に、軍服のようなものを着た、長身の青年、で合ってるはず。
にしても、今気づいたけど、こんなに怒ってるウェラー卿って、割と珍しいのでは。
そんなことはどうでもいいんだけども。
取り敢えず、礼儀として分かりきった質問でもしておこう。
「……知り合い?」
「まぁな。」
問いかけに、アーダルベルトは剣を抜きつつ不敵に笑って見せた。
アァー、わかった、OK。
こういう所がかっこいいんだな?理解理解。なるほど日本人じゃできない。
俺たちのやり取りに、推定ウェラー卿はなんだか、言葉に詰まったようだった。
それでも、彼は剣を抜いた。
切っ先は、俺の隣へと。
後は、原作とほぼ同じ道を辿った、んだと思う。
アーダルベルトのもとから、ウェラー卿に連れ出されて。
そのまま、フォンクライスト卿ギュンターと合流を果たし、借り物っぽい家に一旦腰を落ち着けて、色々と説明を受けた。
フォンクライスト卿の俺に対する賛辞(制服が黒であることさえ賞賛された。)を聞き流して適当に相槌を打ちつつ、状況の説明には耳を傾けておく。
ついでに知ったのは、アーダルベルトが行使したのは法術で、魂の溝から蓄積言語を引き出したということだった。そういやそんな設定だったね。
つっても今は現実か。ほんと摩訶不思議なこともあるもんだ。便利だからいいけど。
途中、ウェラー卿は子供たちに連れられて外に出て行った。
それを尻目に、フォンクライスト卿とちょっと話をした後。
「今日からあなたは魔王です!」
なんて、嬉しくもないことを嬉しげに言われてしまったのが、今。
そこで一度、沈黙が落ちて。
ストーブで薪がはぜる音だけがする。
それに耳を傾けながら、顎に手をあて、ちょっと考えたあと、
「フォンクライスト卿は、」
「ギュンターでいいと申しておりますのに。」
「……ギュンターはさ、俺に言葉教えてくれるつもりだったんだよな?」
「その通りでございます!あぁ、それをあの男っ……!」
少し迷いはしたが口にすることにした。
「じゃあさ、文字だけでも教えてくれない?」
たしか原作ユーリは文字を使えなかったと記憶しているから、俺もきっと使えない。
「、……??!?!」
ガタタッ、と、椅子をひっくり返す勢いでギュンターが立ち上がる。
そのまま声にならない声で口をぱくぱくとさせた後、どばっ、と滂沱の涙を流した。
菫色の瞳が波打っている。
「ばだっ、ばだじでよろじげればっ!
……っご、この不肖ギュンターっ、誠心誠意あなた様にお力添えをっ!!」
会話できても読めないのは不便だろうし。
なるべく早く習得しておきたい。それならこの男に教わるのが一番いいだろう。
……と、思ったけど。
「べいがぁあ~~!」
……早まったか?
長い銀髪を振り乱し、涙どころか鼻水まで垂れ流す勢いで縋りつこうとしてくるギュンターをするっとかわして、外に続く扉に手をかけた。
恐らく俺の顔は引きつっていただろう。
「じゃ、俺はちょっと外の空気吸ってくるから。」
文字が読めるようになったら異世界の本読み放題だな。
いや~楽しみだ!
…………現実逃避もほどほどにしよう。
教師としては優秀な男だろうし、大丈夫だろ。……大丈夫だよな?
「はぁ。」
さっさと閉めた扉に寄りかかり、冷たくなった外の空気を吸い込んだ。
もうすぐ日が暮れる。
「陛下?」
「うわっ、と。びっくりした。」
隣からした声に肩を跳ねさせると、「すみません。」と、悪びれた様子もなく笑いながら、ウェラー卿が軽く頭を下げる。
そしてまた、腕組みをしたまま俺の隣の壁にもたれて、離れた位置にいる子供たちを見守りはじめた。
何をやっているんだろうか、野球っぽく見えなくもないけど、と、俺も子供たちの観察に入る。
道具が充実してないのは、ここがそう裕福そうにも見えない村だから、どうとも思わない。それにもし野球なら、こっちの世界にはない競技だったと思うから、やっぱり、お遊び程度にしかできないだろう。
あ、でも、このタイミングならこれは野球で確定か?
『渋谷有利』は野球が好きだから。
「空振り三振でアウト。ハウエル、一塁と代われ。」
やっぱり。
「野球。」
ポツリ、とこぼれた言葉にウェラー卿がこちらを向く気配がして、チラリと視線を寄越した。
「そういやキャッチャーはいないんだな。」
「この村には、子供が5人しかいませんから。割り振ることができないんです。」
苦く笑うのを見てから、再び視線を戻す。
「……ふぅん。」
このシーンに、覚えがあるような、ないような。
やっぱり15年以上前の記憶なんてあてにならない。
でも、この子供たちに野球を教えたのは隣の男なんだろう。
「あんた野球好きなの?」
「好きですよ。陛下は、そうでもない?」
「まぁ、好きでも嫌いでもないかな。友達と遊んだり、授業でやったりする程度。」
「それは残念。面白いのに。」
「生憎、野球よりもっと好きなものがあるんでね。」
俺の返しに、ウェラー卿は「へぇ、」とひとつ瞬きをした。どんな仕草も様になって腹立つ男だな。
その後彼は、何が好きなんです?とでも、続けようとしたのかもしれない。
けど、
「ん、」
「おっと。」
ピッチャーらしい子の投げたボールが上手く飛ばなかったらしい。
俺の方にきたそれを、横から伸びたウェラー卿の手が危なげもなく受け止めた。
「大丈夫です?陛下。」
そりゃあんたが受け止めたからな。
俺はすっごい微妙そうな顔をしていただろうし、その顔のまま言ってやろうかとも思ったが、それより先に声を上げる人がいた。
「へい、か?陛下!?」
ウェラー卿から、ボールを受け取ろうとこちらにきた少年だ。
伸ばした手から、ボールがすり抜けて落ちていく。
遊びに集中していた子供たちの意識は、ボールによってこちらに引き寄せられていた。
だから、さっきからウェラー卿が言っても反応していなかった単語が、ようやく耳に入ったのだろう。
おい男前、お前のせいだぞ。
面倒なことになったらどうしてくれる、とそれこそ面倒がって訂正もしなかった自分を棚に上げて思う。
でも、子供たちの反応は想像していたものとは違っていた。
ふと視界にはいった、握りしめた拳が震えている。
「陛下って、コンラッド、この人だれ!?母さんたちが言ってた恐い人!?」
「ブランドン!この方は我が国の王になられるんだよ。恐い人どころか、お前たちの村を守ってくださるお優しい方だ。」
ふざけんなよてめぇ。
「王様!?」
そこにいた子供たち全員が、恐怖を宿した瞳を俺に向ける。
そして跪いて顔を覆った。額を地面に押しつける子もいる。
おいおいおい。原作を思い出したってのもあるけど、それがなくてもアッ(察し)というやつだ。
「顔を上げてくれよ……。」
こっちが顔を覆いたい状況だ。
聞こえていないのか、一人がそのまま許しを請う。
「お許しください王様っ、どうか首をはねないで下さい、どうか家を焼かないで。」
ウェラー卿が困った顔をして、子供たちに声をかけようとした。
が、それは不発に終わる。ハイ俺のせいですね。
遮るように動いちゃったけど、わざとじゃないんで許して欲しい。
一番近くにいた、たぶん、ブランドンくんの前に膝をついた。
ビクリと肩が揺れる。
「顔、あげてくれないか。」
恐る恐る、あげられた顔。
眉がへにょりと下げられている。
「ご、ごめんなさい。」
「うーん、なんで謝るかなぁ。」
「ごっ、ごめんなさい……。」
まいった。どうしようか。
…………あー、うん。……そうだな。
結局人間関係なんて、やること変わんないよな。
「あのさ、俺、渋谷有利ってんの。お前は?」
「えっ?ぁ、ブ、ブランドン。」
「そーかそーか、ブランドン。お前、野球好きか?」
「う、うん。」
「俺はな、アーチェリーが好きなの。そりゃもう楽しくってさぁ。」
とりあえずは、自己紹介でもしてみようか。
初対面なんだし。名前を知らなければなんて呼んだらいいかもわからない。
つい話しかけたけど、相手のこと知りもしないのに、何話したらいいかもわかんないし。
好きな食べ物は?なにやってる時間が好き?将来やりたいこと。
ふーんそっか、俺はなー。
ペラペラと、そりゃもう好きに話しかけた。
周りの子供たちが、戸惑う気配がする。それでも、続けた。後ろで見ているはずの男前が、俺をとめることはなかった。
「あのさブランドン。」
「な、なに。」
「俺って誰だと思う?」
「えっ?シ、シブヤユーリって、さっき自分で、」
「そう、俺は渋谷有利っていうんだよ。オウサマって名前じゃなくてな。他には何を知ってる?」
「なに、って、」
ブランドンが、指折り数えて話し出す。
アーチェリーが好き。寝るのも大好き。怖いものがいっぱいあって、おれたちのことも怖い。
それと…………、
「な、まだ俺のこと恐い?」
これで恐いって言われたら、それもまた仕方なし。
判断材料になるかと思って色々話したけど、相手からすれば急に意味わからんこと言い出したやつだろうし。
『王様』って存在が、どうあろうと恐いって言うなら、何を話そうが変わらないとも思う。
でも、俺は特別じゃないから、こんなことしか思いつかなかった。
俺の持論なんだ。
わからないものは怖い。わかったとしても怖いものなんて、山ほどあるだろうけど。
でも俺は、わからないならまず知ろうと思う。
それが人だった場合、口があるから話すし、耳があるから聞く。
そんな普通のことしか、できないんだけど。
「こわく、ない。」
「……そっか。」
パチリ、と瞼が瞬く。
俺を見る瞳が、綺麗な青色をしていることに、今気づいた。
「……ユーリは、王様、なんだよね。」
「さぁ、どうなんだろうな。俺もよく知らね。」
「えっ!?でも、コンラッドが、」
チラ、とブランドンがウェラー卿に目を向ける。が、知らん知らん。
未来のことはわからんからな。もしかしたら俺が初っ端からヴォルフラムに屈する展開だって有り得る。
それに、
「お前ら、王様恐いんだろ?」
「……うん。」
「じゃあ俺もんなもんやりたくねーなぁ。」
「えぇえええ。」
大きな目を見開いて、意味わかんない、と言わんばかりの顔をされた。
「…………でも、うん。
ユーリが王様なら、恐くないよ。たぶん。」
「たぶんかよ。」
じゃあ、
「どうなるかわかんねーけど、俺が王様になるんなら。」
……そうだな。
視線を下げて、足元に落ちたボールを見つけた。
拾い上げてから、ブランドンの手をとって、その小さな温もりの上にそっとのせる。
「お前たちが、野球楽しめるような国にしようかな。
道具揃えて、球場つくって。メンバーももっと必要だな。きっと賑やかになる。
あ、あと、キャッチャーも必要だ。」
そういえば、原作のユーリが言ってたな。
あのセリフは好きだった。
「お前がやるか?ブランドン。」
「え?」
「お前がサインをださないと、ゲームはずっと始まんないぞ。」
『渋谷有利(俺)』のセリフを他の人に押し付けていくスタイル。
だって俺、野球やってねーし。
「おれが、サインを……。」
ぎゅ、っとボールを握りしめてから、ブランドンは顔をあげた。
「やる。やるよ。キャッチャー。だから、」
「俺も、王様にならないと?」
「うん。」
「はははっ、俺ばっか大変じゃん。末恐ろしいガキんちょだな。」
「ユーリは、怖いものいっぱいあるんだろ?じゃあ、しょうがない。おれのことも、まだ恐いんだ。」
「……いや、お前は怖くない。」
「!じゃあ、エマは?ハウエルは?」
「それはちょっとわかんねーな。」
「そっか……。」
しょんぼりするブランドンの、金髪を掻き乱してやった。
すっかり暗くなった外で、家から漏れる明かりをはじいて、きらきら光る。
「今日はもう遅いけど、また話せばいいだろ。今度は他のやつも。」
「!また、来てくれるの?」
「そりゃな。自分の国(予定)にある村に、王様が来てなんか文句でも?」
「ない!」
背を押して、帰りを促す。
ほかの子供たちも、ずっとこちらを見ていたようだが、野球の道具を持って帰っていく。
それぞれの家だろう場所で、母親が彼らの名前を呼んだ。
実は、彼女たちがずっとこちらの様子を伺っていたのも知っていた。
ひとつ頭を下げて、それぞれの家に入っていく。
ブランドンは、手を振ってきたから、振り返してやったけど。
「ユーリ陛下。」
俺が手を下ろすと、後ろから声がかかる。
向き直れば、腕組みを解いたウェラー卿が、俺を見つめていた。
「なに?」
「ギュンターから、聞いていますか。」
「なにを。」
「……あなたが、第二十七代眞魔国君主、……魔王だということ。」
「聞いたよ。」
もちろん聞いたさ。
それはもう嬉しそうに言いやがりましたよ、あの美人。
ウェラー卿は「そうですか。」と一言呟くと、子供たちの去っていった方を見た。
「……ここは、難民の村なんです。」
ウェラー卿が、この村について話すのを、なんとはなしに聞く。
どうして、彼等が王を恐れるのかを。
「愚かな王のしたことですよ。」
そう締めくくる、
憂いを帯びた薄茶の目が、遠くを見ていた。
「俺がそうなるとは、思わないわけ?」
「ありえません。」
間髪入れずにピシャリと言われる。
思わず、眉をひそめた。
それを聞いて、俺はやっぱり、この男が。
……ひとつ、息をついた。
「あのさ、
やっぱあんた、意味わかんねぇわ。」
「…………はい?」
デフォルトで微笑んでるイメージのこの男が、目を丸くして、間の抜けた声を出す。
一拍おいて、困ったように首を傾けた。
「それは、どういう……、」
「陛下ぁああ!」
ウェラー卿の言葉を遮って、背後の扉からギュンターが勢いよく姿を現す。
「陛下!いつまで外の空気を吸いに行っておられるのです!?
そろそろお戻りください!尊き陛下の御身がお風邪を召したらと考えるだけで私は……!」
「はいはいはいはい。」
ぐずぐずと泣き出すギュンターの背を押して、扉をくぐる。
「続きはまた今度な。」
わからないなら、まずは知ろうとしなければ。
「……はい。」
「続き!?続きとはなんです陛下!?よもや私の知らぬところでなにか……、」
「さっさと入る!!ほら、あんたも。」
振り返って、声をかける。
「ええ。そうします。」
明るい室内から、外にいるウェラー卿の表情は見えない。
それが、よりいっそう、
「陛下?」
突然頭を振った俺に、扉を閉めたウェラー卿が、不思議そうな顔をする。
どこからどう見ても、好青年ってカンジ。
だけど、
「なんでもない。」
俺はこの男が、怖い。
コンラッド「解せぬ(´・ω・`)」
公式で好青年のコンラッドを怖がる主人公というのも、どうなんだと思わないでもない。
のに!ひたすら趣味詰め込んでいくので!ご注意を!!
8/4:加筆修正
アーダルベルトとの会話を追加しました。