今日からマのつく成り代わり!   作:なす

3 / 5
 
1、2話加筆修正しました。
気が向いたら内容思い出すついでに読み返してやってくださいm(*_ _)m


DER ERSTE AKT(2)

 

ま、

誰がなにを怖がろうが、時間は進むし日は昇る。

 

「………ねっむ。」

 

異世界生活二日目。

毒がどうとか言って、固くてまっずい携帯食しか食べられず。

(あっれコンラッドさんどこ行くの?子供たちの家に食事をご馳走に。ふーん。)

護衛がどうとか言ってむさ苦しい男達に囲まれ、クソみたいに悪い環境で寝させられ。

(あっれそこの人は仮にも王様差し置いてベッドで寝るんだ身代わり?ふーん。)

そんな疲労困憊の俺にも、朝日は平等に降り注ぐ。

 

「そんなに擦るとよくないですよ。」

「……おー。」

 

眩しさと寝不足に下がる瞼を擦ると、すぐ隣から声がかかった。

ろくに寝れないまま、つい先程起床して現在。ウェラー卿と二人、出立のため村の出口へと足を向けている。

行き先では、眞魔国の兵士とギュンターが、既に準備を整え待っているのが見えた。

その元気をわけてほしい。

あと、

 

「?」

 

目が合えば、不思議そうにしながらも微笑むこの男。

夜の間ずぅっと起きて護衛とか、いかれたことやってのけてなお輝く笑顔が目に眩しい。

思わず、そのタフ過ぎる男に胡乱げな視線を送った。

 

「どうかしました?」

「……いーや、別に。」

 

こいつが隣にいると俺が体力無いみたいで嫌なんですけど。

理不尽?知ってら。

その不満に、この男に対する苦手意識の相乗が無きにしも非ず。

思わず、大きなため息を付いた。

これから男とタンデムする予定が入っていることもあって、俺のテンションは底辺を這っている。

八つ当たりのように、やっぱりにこにこしている男前にじと、っとした目を向けた。

 

「ユーリ!」

「ん?」

 

不意に、少年らしい高い声が俺の名前を呼ぶ。

そんなことをしてくれるのは、俺の知る限りただ一人。

 

「ブランドン。」

 

ぶんぶんと手を振りながら、彼は俺の傍に駆け寄ってきた。

……愛いやつめ。

お陰でちょっとだけテンションが浮上する。

 

「見送りにきたんだ。もう、行くんだよね?」

「おう。ありがとな。」

 

少し寂しそうに見えるのは、俺の欲目だろうか。

 

「じゃあね、ユーリ。コンラッドも。

……その、次は一緒に野球やろう。それでいっぱい教えてよ。」

「もちろん。」

 

とは言っても、俺もすごい詳しいわけじゃないから、勉強する必要はありそうだ。

そう思いつつ返事を返せば、ブランドンはホッと息をついた後、へにゃり、と音が付きそうな顔で笑った。

 

「へへ。」

「どうした?」

「ううん。次は、他のみんなとも話してね。」

「わかったよ。……またな。」

「うん!また!」

 

ぽんぽん、と頭を撫でてから、昨日同様に手を振って。

止めていた足を進める。

 

「機嫌いいなぁ、ブランドン。」

「次の約束ができて嬉しいんでしょう。」

 

零れた呟きに言葉が返った。

斜め上の顔をちらと見上げて、また前を向き直す。

……そう言うあんたも機嫌よさそうね。

という言葉は飲み込んで。

なんか、嫌な予感がしたから。

余計なことはしないに限る。薮蛇ダメ、絶対。

 

そんな俺たちの元に、兵に指示を出していたギュンターが、思わず、といった様子で割って入った。

 

「陛下!!わざわざあんな人間のガ、いえ、子どもに構わずともよいではないですか!

礼儀はなっておらず、陛下に対する敬意もないような不埒者など。」

 

ぷんぷん、といった擬音が聞こえてきそうだ。

ウェラー卿がそれを見て苦笑する。

本当に悪意のある言葉でもないからだろうか。

 

「えぇ……、いいんじゃねーの。敬意なんてなくても。」

 

敬意、ではないかもしれないが、慕ってくれてはいるんだろうし。

子どもらしいのはいいことだ。それと無礼はイコールじゃない。

そうであったところで、公の場で軽んじられるのでなければ、害だってない。

てかそういうの面倒臭いから考えたくない。王様としては、考えなきゃいけないのかもしれないけど。

 

「いいえ!よろしくありません!」

 

お美しい顔面が真面目な顔をするのも大変目によろしくありません。

若干引きつつも、なんだ、と身構えていると。

 

「そんな、そんなことっ、」

 

綺麗すぎる顔についた瞳がうるりと揺らぐ。

あ、待てよ、コレってまさか。

 

「ずるいではないですかぁぁあああ!!」

「……そっちかぁー。」

 

キィィ!と今にもハンカチを噛みそうな怒りようだ。

私にも構ってください、とかその内言い出しそうで嫌だな。というか思ってそう。欠片も嬉しくないけど。

敬意うんぬんは建前ってやつか。

 

「陛下の貴重なお時間をなにも人間ごときに割かずとも、

このギュンターめがあなた様の─────」

「はいはい。」

 

だいぶ私情の混ざった怒りのようなので、スルーを決め込むことにした。

というか、いつの間にかウェラー卿はこっちを気にするでもなく馬と戯れていた。

こいつ……!

ウェラー卿そういうとこあるよな!知ってた!

 

「陛下。」

 

あ゙ぁん!?

未だ引きずる寝不足も相まって、どう考えても機嫌の悪そうな顔をした俺を見て、ウェラー卿はきょとんとする。

そして、自己完結したのかひとつ頷くと、俺に手を差し出した。

 

「陛下、俺とタンデムしましょうか。」

 

にっこりと言われて、少しだけ気が抜ける。

 

「ギュンターとだと、ちょっと大変でしょ。」

 

相手が。

 

気が抜けて下がったはずの肩が若干わなないた。頬が引き攣るのを感じる。

わかってたんなら助けろと。

ほんとそういうとこある。

怒っても仕方ないから、というか怒ることでもないから何も言えないんだけどさ。

 

「……はぁあ。」

「?」

「いや、じゃ、頼んます。」

「はい。頼まれました。」

 

もういいや。

ウェラー卿は眞魔国の住人のなかでも割と常識的だと思ってたけど、こいつもこいつでかなりマイペースだよな。

知らないわけじゃなかったけど、予想以上というか。なんか、『ユーリ』すげぇ、って感想しか出ない。

俺、こいつに素敵なステッキとかギャグかまされた日にはどうしたらいいんだ……。

戸惑いしかねぇ。

 

将来に不安を感じつつも、馬に乗ったウェラー卿の手を借り、その後ろに乗り上げた。

あー……屈辱。

タンデムも嫌なんだけど、手を借りなきゃ馬に乗れないっていうのもかなり嫌だ。

かっこ悪いじゃん。これで俺が女の子なら、騎士と姫感出てて絵面はいいのかもしれないけど。

いや、それはそれで王様としては威厳がないか。

とにかく、早く自分で乗れるようにならなければ。

 

進み始めた一団のなか、村から離れていく馬に揺られながら、取り留めもないことを考えていると、

 

「俺はときどき、あの村に寄るんですが。」

「うん?」

 

前から、穏やかで耳触りのいい声が落ちてくる。

 

「つらい経験をしたにしては、あの子たちはよく頑張って育ってます。

……今日改めて、そう思いました。とても、強い子たちだ。」

 

……そりゃ、そーね。

俺だったらグレてるよ。なのに、あの子たちはあんなにも純粋で、真っ直ぐで。

ブランドンにいたっては、俺のことを信じてくれた。

柔らかで強い心がそこにある証拠だろう。

 

後ろを振り向いても、小さくなった村に、あの綺麗な金髪は見えないけれど。

 

「……じゃあ、また行く予定もあるんだよな。」

「ええ。」

「なら、そのときは俺も連れていってほしい。無理にとは、言わないんだけど。」

 

一緒に野球やるって、言ったしな。

 

「仰せのままに。」

 

彼はやっぱり、笑いを含んだ、機嫌のいい声で応えた。

 

 

 

  ◇

 

 

 

「…………。」

 

つぶらな黒い瞳と見つめ合う。

その目を逸らすことのない俺に、彼女は瞼を下ろし、顔を寄せた。

 

「わっ。」

「はは、好かれましたね、陛下。」

 

そう、彼女は漆黒の美しい(しゅくじょ)である。

 

 

王都(ここ)にくるまで、長かった。

馬の上で、途中まではウェラー卿と会話して気を紛らわせてはいたんだけど。

国のこととか、魔族や魔術のこととか、兄弟のこととか、魂のこととか、まぁ色々と。

え?最後なんかおかしいって?

俺もだいぶおかしくなってたんだからしかたない。だってケツいてぇし、むさ苦しいし、ケツいてぇし、ケツがいてぇし?

あん?同じことしかいってねぇって?ほっとけ。

あと、王城のことも聞いたな。名前のこととか、誰がそこで待ってるとか。

情報は集めておかねば。聞いてないのに知ってることを言ったときの保険にもなるし。

それでも結構面白かった。

異世界のことだから、ってのもあるんだろうけど、ウェラー卿の話し方がうまいんだろうな、たぶん。流石色男。

 

あと、ひとつだけ頼み事もしておいた。

村に行ってから思い出した、原作に基づく知識から。

根拠なんて何もない、ガキの世迷いごと。いくら王様だろうが、意図の読めない指示に簡単には従えないだろう。不審に思うのが当然のこと。

それを、この男はそれはもうあっさりと承諾した。

頼んでおいて、世話になっておいてなんだが、ほんとそういうとこだぞ。

たぶん、それが顔に出てたんだろうけど。

ウェラー卿はおかしそうに笑って、俺を見た。

 

「意味わかんない?」

 

……そう、なんだけどさぁ。

なんて返したらいいかわからなくて、黙った俺に、「後で話してくれるんでしょう。」と、柔らかな声がかけられる。

この男が優しいことは、知ってるんだよ、ちゃんと。

原作とか知らなくても、今までの言動から。

それでも、どこか怖いと思う気持ちが、わからないと思う不信が、消えない。

思わずため息が出て、それを気にするウェラー卿に「なんでもない。」と返した。

 

……なんとかしないとなぁ。

この男を、怖いと感じるままでいるのは、ダメだろう、やっぱり。

 

─────とにもかくにも。

今は王都だ。王都に着いた。

そして俺の前には黒い馬!つまり!

 

「ばっちりお似合いですよ。」

 

ひとりで!馬に乗れる!!

うんうん。

民衆の前にひとりで馬に乗れない王なんて晒せないよな!

乗る時に手を借りるのは相変わらずだけど、それはそのうちなんとかするからいい。

心臓は二つあるけどそれ以外はキュートな馬、命名:ネロ。

安直な名前ですまんね。

シュバルツにしようか一瞬迷ったけど、女の子には響きがごつい気がしてやめといた。

厨二乙とかいう反応は聞こえませーん。お年頃になったら外国語とか調べちゃうのは俺だけじゃないはずだ!

そうして命名された彼女の背から見渡す景色は、二人乗りのときより断然綺麗で広々としている。

普段より高い視界で王都に入ると、国民は笑顔で俺を出迎えた。

パッと見た限りでも色んな種族(?)がいるな。

振られた手にへらりと笑って振り返すと、今までの道中と同じように、種族について聞いてみる。

と、先まで会話していたウェラー卿ではなく、今度はギュンターが即座に反応して色々教えてくれた。ほーん。

 

そうやってしばらく歩いていくと、王城こと血盟城が間近に見えてくる。

 

「でっか……。あそこにあんたの兄弟がいんの?」

「ええ。きっと待っているでしょうね。……陛下。」

「ん?」

 

神妙な顔をして、ウェラー卿が俺を呼ぶ。

 

「二人は、陛下にキツイことを言うかもしれません。

それが、魔族とこの国を愛しているが故であることを、どうか知っていてほしい。

…………身内贔屓と言われれば、それまでなんですが……。」

 

それは、まぁ。

 

「優しい方が気持ち悪いし……。」

「え?」

 

にこやかに俺を出迎えるあの二人を想像してしまった。

……むりだった。控え目に言って怖い。

 

「いや、なんでも。

最初から俺みたいなガキを、王様だって認めるほうが無理だしな。この国を愛しているならなおさらに。」

 

相手だって俺のことは何も知らないし。

双黒に盲目的になるわけでもないなら、自分の国を任せるなんてこと、できないだろう。

俺だってやりたくて王様やるわけじゃないんだから、そのへんを考慮してほしいとは思うけど。

……って、そういう態度がさらに信用できないんだよな、きっと。仕方がないとはいえ。

 

「俺だって大事にしているものを、会ったばかりで、その上乗り気でもない他人に預けるなんてしたくない。」

 

わかりはするのだ。相手の気持ちは。

なにかを大切に思うことに悪いもくそもないし。

ただ、俺の気持ちもちょっとは考えてほしいだけで。

 

「そんなことはありません!!」

 

俺の発言に全力で異議を唱えるギュンターに引きつつも、城を見ていた顔をウェラー卿に向ける。

ウェラー卿は顎に手を添えて、ぎりぎり聞こえる声で「なるほど。」と、ぽつり。

 

「、なにが。」

「いいえ。なんでもないですよ。」

 

にっこり。

 

……なんか、納得、された?

長い付き合いにはなるんだろうし、俺のことをわかってくれる分にはかまわないんだけど。

こっちはなんとも納得いかねぇなぁ。俺にはわかんないことばっかりなのに。

 

なんて、色々考えたり、女の子に花を貰ったりする内に、王城だ。

敷地内の通路の左右にズラリと並ぶ兵士に出迎えられる。仰々しいなぁ。

国民といい、今まで普通に暮らしてきた俺としては慣れない環境。

 

その歓迎を見て、ウェラー卿とギュンターが話し出すのに耳を傾ける。

ツェリ様の兄君の話らしい。この歓迎は彼の仕業だと。

俺が聞いているのに気付いて、説明してくれる。

上王陛下の兄、フォンシュピッツヴェーグ卿シュトッフェル。そういやそんな名前だった。すげぇ噛みそう。

んでもって、ウェラー卿の地雷?とはちょっと、違うんだっけ。

 

「今度は新王の入城を盛大に祝って、陛下に取り入ろうって算段だよ。」

 

スッ、と一瞬、冷たく目を細める彼を横目に、首を捻る。

スザナ・ジュリアが死んだ原因の人だよな。あと、確かもう一人アウトな人がいて、名前は、……ゲーゲンヒューバー……?そうだ、ヒューブだ。グウェンさんの血縁、だったはず。

魔笛のときに名前が出た人。ニコラの最愛。そんでグレタが懐いてる。

 

「…………。」

 

……もっと、しっかり思い出さないとなぁ。

ヒューブがユーリの護衛したことあるのはアニメだっけ?やばいな。小説と漫画とアニメがごっちゃだ。

ちゃんと見てたことが弊害になるとは。

ウェラー卿が離脱したあたりから、ストーリーがそれぞれ変わっていくんだよな。

アニメだとすぐ戻ってきて……って、それについても考えないと。

箱のことは慎重にならないといけないし。

アニメ時空じゃないことはわかってる。

小説と漫画は展開がほぼ一緒だったけど、今までの事を加味すると小説時空、のはず。

これまでも考えなかったわけじゃないけど、まるマ世界にいる実感が湧かなかったから、しっかりとした計画も立てていなかった。……なんて、言い訳か。

ここは現実。しっかりしろ。

ちゃんと思い出して事前に策を立てないと。

俺は、この国の王になるんだから。……なるんだよな?

……これっぽっちも想像つかない。

それでも、責任ある立場になるのだと自覚をもたなくてはならない。

それが強制でも、やりたくなくても。

采配ひとつで、他人を不幸にだってできてしまうのだから。

 

「陛下?」

「……うん。」

 

俺を陛下と呼ぶ人がいる限り、責任を果たす義務が俺にはある。

どうして俺が、と当然思う。でも、俺が迷うだけ、俺じゃない人に迷惑がかかる。

俺が優柔不断であればあるほど、誰かの大切が蔑ろにされていく。それはあってはならない事だし、なにより俺がしたくない。

それに、ブランドンと約束だってしたんだ。今更ぐちぐちと文句言ってたらかっこ悪すぎるよな。

どうせ魔王になるのは絶対なんだ。なら、さっさと覚悟を決めないと。

順応性の高さが、俺のいいところなんだから!

 

前を見据えて、意識を切り替えるのと同時。

待っていたフォンシュピッツヴェーグ卿の前で、ネロが立ち止まった。

そのまま話すのも嫌なので。

彼女から下りて、その男の前に立つ。

 

「新王陛下。」

 

金髪碧眼の、いかにも偉い人、って感じのナイスミドルだ。

そんで、知識通りなら方々から恨みを買っている男。

政治を任せてはいけない人。

でも色々、会ってから決めようとは思っていた。

 

「初めまして。フォンシュピッツヴェーグ卿。」

 

名前を呼べば、おや、というように目が瞬く。

 

「私のことをご存知とは!光栄でございます。」

 

表情明るく話す男に、にこりと笑顔を向ける。必殺、愛想笑いというやつだ。

それに調子付いてか、彼は積極的に口を開いた。

 

「では改めて、私は上王ツェツィーリエが兄であり、この国の繁栄のために摂政として働いてきましたシュトッフェルと申します。

陛下のご無事なご到着を、心より歓迎いたします!」

「ありがとう。

俺は渋谷有利って言います。この国の、王になる。」

 

俺と同じく、馬から下りたウェラー卿をなんとなく盗み見れば、眩しい笑顔が返された。うん。よし。

静かに息を吐く。

落ち着いていこう。焦ったら負けだ。

さて。ほぼ誰でもそうだと思うけど、歓迎されるのに悪い気はしないよな。

もちろん一般人やってた身として慣れてはいないから、居心地の悪さはちょっとある。でも、その行為自体はありがたく受け取ろう。意図は別として。

お礼は言った。それで初対面の人と話すこともない、はず。何かそれ以上を期待してるっぽいのが、申し訳ないとは思うけど。

なんか、どうにも緊張して他の人相手よりも塩対応かもしれない。

今のところ、俺が何かされた訳でもないのに。

なにをしたかも、知識以外では知らないし。

ただその目は、どうも苦手だな、と。

この人と、あまり話していたくない、と思う。今までこの世界で会った人達と、この人は、なにかが違う、気がする。

愛想笑いのまま、もういいかな、と居心地の悪さに首を傾げる。

まだ本命二人も残っているし。

その横を通りすぎようとすれば、慌てたように声がかった。

 

「っ陛下!」

 

それに立ち止まって、振り返る。

そのままじっと瞳を見つめれば、相手は狼狽えたようだった。

 

「し、新王陛下。

陛下はこの国の将来をお造りになる偉大なるお方です。

貴方様の治世は歴代の魔王に劣ることのない、輝かしいものとなりましょう。

私はそれをより良いものとするお力添えができると確信しております。

どうか、その歴史の一端を担う栄誉を私にお与えください。」

 

美しい所作で、臣下としての礼をとる。

すっげぇストレート。

この先俺に進言する機会がないとみたか、随分と正直に、登用してくださいと。

ちょっと驚いたし、そういうのはぶっちゃけ嫌いじゃない、けど。

そんな俺の気配を目敏く察してか、傍らのウェラー卿が険のある瞳で彼を見た。

そのまま「陛下。」と。些か強い声で俺を呼ぶ。

……うー、ん。

 

「フォンシュピッツヴェーグ卿は、人間ってどう思う?」

 

この人が、たぶん、俺の事を尊重する気がないのはなんとなくわかってるんだよ。

子供に嫌々頭を下げて、これで満足だろう、って。そういう態度なのは、本当になんとなくだけどわかる。

後々言う事聞かせて、権力握るために我慢してる、とか。そういうのよくある展開だし、実際そんな感じで間違ってないと思う。

人柄については、原作の知識に結構頼るつもりだったけど。ちゃんと見て、話して判断をしようとも思ってはいた。

……ただ、ほぼ想像通りの印象かもしれない、この人は。

彼と仲良くするのは、……選ぶのは、きっとこの国のためにならないんだろう。

言って、国のこととか、俺全然わからないんだけどさ。

質問の答えも、なんとなくわかってて、それでも聞いた。

 

「は、人間、ですか?」

「そう。」

「……この国の益とならない、我ら魔族と比べるのも烏滸がましい存在たちだと。」

「……そっか。

でも俺は人間の子供と約束したんだよな。この国の王になるって。」

 

相手が目を見張る。

 

「なにを、」

「魔族であることを誇りに思うのは結構だし、いい事だとも思う。

でもあんたの言う、比べるのも烏滸がましい?存在に、動かされた王の傍であんたは働きたいの?」

「も、ちろんでございます陛下!

慈悲深い王の元に侍ることは、先も申した通り何よりの栄誉です。」

 

目が泳ぐ。

俺に追従するような演技をするなら、最後まで貫き通せばいいのにな。

ここで手のひら返しして動揺もなく、上手いこと言い繕ったならすげぇ有能だなって思うけど。

嫌悪が隠せてないぜ、摂政さん。

ヘイトを稼ぐつもりはないから何も言わないけどな。

もう稼いだかもしれないけど。

……あまり敵を作るような言動は控えないとだめだよな。

 

「あんたみたいにこの国を思って動ける者は貴重だと思う。」

 

他にもいると思うけど。

 

「では!」

「でも俺は、この国の、世界のことをまだ知らない。

なにを判断するにも不十分な知識しかない。

だから、ちゃんとこの場所のことを知ってから、俺が必要だと思った人に声をかけるよ。」

 

言うと、相手は口を噤んだ。

 

「それじゃ。歓迎ありがとな。」

 

もう一度、笑いながらお礼を言う。

そうして歩を進めれば、もう声がかかることはなかった。

ギュンターは明らかにドヤ顔でナイスミドルを見ると俺の後をついて来る。

別にこいつの事も選んでないけど、こういう所は憎めないんだよな。実際、こうもあからさまに好意を向けられて邪険にもできないし、今までの事を鑑みても悪い人じゃない、はずだし。

正直、原作での印象に影響されてる部分はかなりあると思う。

……それに、この世界にきて一番一緒にいるから絆されてるってのも、なくはない。

ウェラー卿もまた然り。ちょっと得体がしれないけども。

そのウェラー卿は、ふ、と少し笑いを抑えて、俺の顔を覗き込んだ。

 

「かっこ良かったですよ、陛下。」

 

それは何より。

 

「王様みたいで。」

 

……?

 

「喧嘩売ってる?」

「まさか。」

 

調子の良さそうな発言に、機嫌も良さそうなにこにこ顔を見上げたが、ウェラー卿は前を向き直した後だった。

 

「彼を選ぶつもりないでしょう。」

「まぁね。あの人も俺の事嫌いだし。」

「俺はどうです?結構いい物件ですよ。」

 

さいで。

 

 

 

  ◇

 

 

 

会話を切り上げれば、正面入口でさらに豪華なお出迎えだ。

息つく暇もないな。

だけどここからが本番だ。

磨かれた靴がカツンと音を立てて、俺の前で立ち止まる。

そのスラリと長い足の持ち主は、俺の頭よりもいくらか高い位置でその声帯を震わせた。

 

「……双黒。こいつが、陛下か?」

 

限りなく黒に近い髪をもつ、長身の美丈夫がその青い眼で俺を見下ろす。

The 魔王!ってカンジの見た目。

ド迫力。の上、眉間に深ぁく寄った皺と、不機嫌そうなバリトンボイスに威圧された。

が、ここで引いたら男が廃る。

……というよりも、王としての及第点も貰えなくなりそうだ。

第一印象は大事にしないと。

深呼吸!……よし!

 

「初めまして。

見たところ、あんたがフォンヴォルテール卿であってます?」

 

容姿についてはウェラー卿から教えて頂いたので問題なし。

そのウェラー卿が、俺よりも緊張した顔をしてるように見えたから、ちょっとだけ気が緩んでしまった。

 

「……いかにも。私がフォンヴォルテール・グウェンダルだ。」

 

彼はウェラー卿を一瞥した後、こちらを値踏みするように見つめた。

 

「ご丁寧にどうも。

俺は渋谷有利。第二十七代眞魔国君主らしいよ。」

 

俺を王にと望む人が確かにいる。

今は、それだけで十分だ。それだけで、胸を張れる。

 

「つまり、あんたらの王様だ。」

 

虚勢を張ろう。

いつかそれが本当になるように。

背筋を伸ばせ。口角を上げろ。

それで、この国を大切に思う人が安心できるというのなら。

 

「どうぞ、よろしく?」

 

今日は笑顔の大盤振る舞いだ。

 




遅くなりました!┏○┓
お待ちくださった方は申し訳ありません!!
評価、感想、お気に入り等してくださった皆様は本当にありがとうございます!
愛してます!(((o(*゚▽゚*)o)))
調子こいておきますね!!

今後もまだ書きたいシーンがいっぱいあるのと、続きを望んでくださる方がいるのでキリのいい所までもそもそ更新したいです。
けど、1話完結型で保険もかけておきます|・ω・`)

9/10:加筆修正
シュトッフェルとの会話を追加しました。
なんでさ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。