詩の部分は読み飛ばしていただいて構いません、本編には関係ない部分ですので
……1週間後
モニカは近くの駅でとある人を待っていた
鞄の中にはチョコレートと皆でリレーしたメッセージカードを添えた箱が入っている。
「モニカ、お待たせ」
タチバナ君が駅のホームから歩いてやってくる。
モニカは手を振ってタチバナを出迎える
「ごめん、待たせちゃったかな?」
タチバナは申し訳なさそうに頭の後ろを掻く
「ううん、私も今来たところだから」
モニカは白いキャミソールの上から茶色いトレンチコートを着て、柱を背にタチバナを待っていた
「で、どこに行く予定なんだ?」
タチバナはモニカに呼ばれはしたが、どこに行くか何をするかは全く聞かされていなかった
「本屋にでもいきましょうか。一緒に読む本でも探しましょう?」
モニカはタチバナの隣に立つとそのまま本屋へと歩みを進めた
「タチバナ君は普段どんな本を読むの?」
モニカは本屋で詩集を眺めながら問いかける
「うーん、読書家ってわけでもないしなぁ……漫画が多いかなぁ、これでも入部してからはいろいろ読むようになったと思うよ」
タチバナはモニカの隣で見慣れぬ詩集戸惑っているように見える
「あはは、漫画だって立派な文学よ?それにそのおかげでナツキとも仲良くやれてるんじゃない?」
モニカは詩集を一つ手に取る
「私のおすすめはこれかな、カミングズ詩集」
モニカの手にしている本には緑色の文字でE.E Cummingsと書かれた詩集が握られていた
「読んだことも、聞いたこともないなぁ……また今度教えてくれない?」
タチバナはモニカから本を受け取り、ページをめくる。
そこには自由な空白の使い方をした独創的な詩が載っていた
「ね、ね。こうしてると私たちカップルみたい?」
本に集中しようとしているタチバナを横からモニカがからかう
「えっ、いや、まぁ……」
タチバナの顔が赤くなる。
そして、そのやり取りを推理小説の棚から覗く影があった。
「タチバナ君……?モニカさんと何を……?デート……!?」
ユリは持っていた推理小説を置くと、すぐさまスマホを取り出して、ナツキとサヨリに連絡を取った。
>>Yuri_thirdeyeが画像を送信しました
ナツキ>>え?何これ?二人本屋で何してるの?
ユリ>>わからない、たぶんデート。
サヨリ>>ねぇ、どこの本屋さんかわかる?
ユリ>>学校の最寄り駅のとこ……
サヨリ>>ユリちゃんそのまま尾行してほしいな。モニカちゃんだけ抜け駆けさせたくないよ。
ナツキ>>さすがに私もこれは看過できないわ……二人とも、とりあえずモニカを尾行して何するのか暴くわよ
ユリ>>でも、二人で部活の参考になる本を選んでいるだけの可能性もあります……
サヨリ>>それでも、二人っきりってやっぱりなんか変だよ!
ナツキ>>とにかくユリ、逐一報告をお願い!私たちもすぐに向かうから!
ユリがスマホから顔を上げると二人は本屋から外に出ようとしているところであった
ユリは慌ててスマホをしまい、ばれないように二人の後ろをついて回るようにした
ユリ>>今、二人本屋出たところです。
ナツキ>>私は今家を出たところよ、20分もあればそっちにつけると思うわ
サヨリ>>私もおうちから出たところ、ユリちゃん見失わないように頑張って!
ユリ>>二人とも楽しそうに歩いてどこかに向かわれるみたいです
>> Yuri_thirdeyeが画像を送信しました
ナツキ>>タチバナも何デレデレした顔してるのよ……
サヨリ>>なんか邪魔していいのかなって思えてきたよ……
ナツキ>>でもさすがに見過ごせないでしょこれは!
ユリがスマホに目を落とすたびに二人との距離は離れていく
ユリ自身さっきまで読んでいた小説のせいで尾行という行動に興奮を覚えていた
(なんだか、小説に出てくる探偵になったみたいでワクワクする……)
ユリは二人の後をつけながら、ばれないように何枚もの写真を撮る
「ここで、お茶でもしない?カフェでお話なんてほんとにデートみたい」
モニカは満面の笑みでタチバナと喫茶店の中に入っていく
「だから、ほんとにそうやってからかうのやめてくれよ……」
タチバナの顔はまだ赤いままだった
喫茶店の中に入ると、コーヒーの香りと甘いスイーツの香りが二人の鼻孔を満たした。
「2名様ですね?」
すぐさま店員が二人の元によって来る
「ええ、2名です」
タチバナはできるだけ落ち着こうと事務的に回答する
「お好きな席にお座りください、後程ご注文をお伺いに向かいますので」
そう告げると店員は厨房の奥に姿を消していった
「ねぇ、今日は天気もいいし、テラスでコーヒーでも楽しまない?」
モニカがタチバナの手を引いてテラスの席へと向かう
喫茶店にはあまり人はおらず、談笑する高校生やカウンターでパソコンを叩く社会人がちらほら見えるだけであった。
>> Yuri_thirdeyeが画像を送信しました
ユリ>>二人はこの喫茶店に入ったみたいです、少し見失ってしまいましたが……今テラスにいるみたいです
ナツキ>>ほんと?私今そこの近くだから合流しましょう
サヨリ>>私も!今駅の近くだからすぐに向かうね!
ユリが顔を上げるとナツキが駅の方からピンクの髪を揺らしながら走ってくるのが見えた
「ユリ……ありがとう……二人は……?」
ナツキは息を切らしながらユリに二人のことを尋ねる
「おそらくテラス席だと思います、ここからでは見えませんが……」
ユリはナツキの額の汗をハンカチでぬぐいながらサヨリの到着を待った
その間にタチバナとモニカはテラスの席について、二人見つめ合っていた
「こうやって君と見つめ合うのも久しぶりね」
モニカはタチバナの目をじっと見つめる
モニカの瞳にはタチバナの姿が反射しているが
モニカにはタチバナのことは眼中になかった。
「ねぇ、こうやって本屋をめぐって、二人で喫茶店に来て……あこがれたことってない?」
「少なくとも私はあこがれたよ?目が覚めた時からずーっとね」
モニカはタチバナに……その先にいるはずの物に一方的に話しかける
二人の前にホットコーヒーが運ばれてくる
モニカは一口コーヒーを口につけるとすぐにタチバナの目を見据える
エメラルドグリーンのその瞳には確かな愛情と少しばかりの嫉妬心がにじみ出ているようであった。
「ねぇ、私ってひどいと思う?皆仲良くって言っておいて、3人を出し抜こうと抜け駆けしちゃったんだよ?」
モニカは両手を顎の下で組んでその上に顔を乗せて聞く
「あはは、ごめんね。そういえば君はダイアログボックスがないと会話できないんだったね」
モニカは人差し指を立てる
「ねぇ、私一人抜け駆けしてずるいと思わない?」
はい >いいえ
「うふふ、気を使ってくれたの?ありがとう、そんな優しいところも大好きだよ」
「でも私は自分で自分のことずるいと思ってる、こんな風に君と二人きりになって自分のしたいことをして……」
「でもいいよね、彼女たちが好きなのは君じゃなくてそこの彼なんだから」
「君のことを本当に愛しているのは私だけだよ~」
モニカは微笑みながら頬を真っ赤に染める。
「ユリちゃんごめん!遅れちゃった」
モニカがしゃべっている間にサヨリがユリとナツキに合流し3人が集まった
「どうするのユリ、正面からガツンと言ってあげた方がいいかしら?」
ナツキは放っておくと一人でも二人に割り込んでいきそうな雰囲気であった
「いえ!ここは草むらにでも隠れて様子を見るのが定番です!」
ユリはふんすふんすと鼻息荒く答える
完全に先ほど見た推理小説に感化されてしまっている
「確かに、今二人がどんなことしてるのか確認したほうがいいかもしれないよ」
サヨリも方向性は違えどユリに同意した。
「わかったわ、じゃぁ二人が見える位置まで移動しましょう」
ナツキたちはこそこそと喫茶店のテラス側に回り込み手ごろな草むらに身を潜めた
「いました!二人でコーヒーを楽しみながら見つめ合ってますね……」
ユリがスマホのカメラを構えてシャッターを切る
気分は推理小説の探偵か、スキャンダル好きなジャーナリストといったところであろう
「なんか、タチバナ様子変じゃない?モニカのこと見てるけど心ここにあらずって感じだし」
ナツキは草むらからひょっこりと首だけ出して二人を観察する
「でも、二人とも楽しそうだよ……どうしようやっぱり止めないほうがいいんじゃないかな……」
サヨリは二人の頭の上に顔を乗せて二人を見る
その瞳には涙がにじみかけていた
「幼馴染のあんたがそんなんでどうするのよ!とにかく変なことしようとしたらすぐ止めるんだからね」
ナツキはサヨリを叱責しつつ、慰める、その目は見つめ合う二人をにらみつけたままで
「また何か、しゃべってるみたいですね……」
ユリは静かに耳を澄まして会話を聞こうとする。
「文化祭にハロウィーン、クリスマス、君は意図してあの3人と個別でイベント起こそうとしなかったよね」
モニカは微笑みながら問いかける
「まぁ、私という彼女がいながらそんなイベント起こしてたらすぐに上書きしてあげるけどね」
「そのおかげか、あなたへの3人の好感度MAXのまま次のステージに進めなくなっちゃってるのよ?」
モニカが指をパチンと鳴らすと新たなダイアログボックスが出現した
そこには3人のSDキャラとその横に棒グラフで好感度が示されていた
3人とも好感度が100%を指し示しており、SDキャラがぴょんぴょんと飛び跳ねている
「私はたぶん元々、彼と3人がうまくいくようにデザインされたサポートキャラのはずだったから見えるのよね」
「でも、私の好感度はこんな感じだから~」
3人のSDキャラの下にモニカのSDキャラが表示される
その横に示された好感度の棒グラフはマックスの100をオーバーフローして65536%と被るように表示されていた
「私が一番あなたのことが好きってこと、わかってくれた?」
モニカはもう一度指を鳴らしダイアログボックスを閉じる
「彼女たちは、確かに私の友達よ、あなたと向き合って、あなたに消されて、あなたに救われて、そのことを再認識したわ」
「でも今、私はそんな彼女たちを裏切ろうとしているわ」
モニカは少し悲しそうな眼をする、しかしその口元は緩み、口角は上に上がっている
「私が好きなのは、君で彼じゃないから……」
モニカは鞄の中を探って一つの箱を取り出す
赤いリボンに包まれたピンクの箱……モニカが取り出したのはバレンタインのチョコレートだった
「ほらこれ、皆で書いたメッセージカードなの」
モニカはその箱の下側に挟まれていたメッセージカードを取り出して見せた。
砂浜に立ち、皆と別れ、海へ目を向ける。
心は海へと沈んでいく。
耳に届くのは3人で紡がれるオーケストラ。
今までは聞こうともしなかった、甘美な響き。
その音色が海と砂浜の境界線を曖昧にしてくれる。
我に返って、海から顔を出す。
砂浜では、3人が演奏を続けている。
海に碑を建てて、私も楽器を手にとって。
新しい音楽を作り始める。
大海を泳ぐ白いイカ
その傍らではねる黒いサヨリ
遠くで咲く赤いユリ
傍らで咲く夏の黄色いヒマワリ
みんなで一つのボウルに入って
ぐるぐるぐるぐるまざってく
おいしいチョコのできあがり。
私の大事にしてるビン
いつもは一人でつめるビン
みんなでつめた一つのビン
太陽に向かってほうりなげるの
三つにして返してもらうの。
落として粉々にならないよう
お気に入りのリボンでラッピング。
静寂、狭かった部屋が広く感じる瞬間
雑音に感じていた音はいつの間にか豊かな音楽になった
冷たくなった心を洗い物のお湯だけが温かくする
ボウルに付いた残りものがふと目に留まる
小指に付いた茶色い幸せを愛おしく運ぶ
皆で作った小さな幸せ
おいしくないわけがないよね
でも君に食べさせられないのがやっぱり少し残念ね。
「あ!見てください二人とも!モニカさんチョコレート取り出しましたよ!」
ユリは首を目いっぱい伸ばし、二人を観察する
「モニカ……なんとなくそんな気はしてたけど、本当に抜け駆けするなんて」
ナツキは怒りを抑えられなくなっているようで、小さな頭がぷるぷると震えている
「……」
そんな中サヨリだけは静かに二人を観察していた、先ほどまでの涙はなく。
何かを見定めんとするようなその目は、いつものあっけらかんとしたサヨリからは見られない雰囲気を醸し出していた。
モニカはリボンを取り外し、プレゼントの蓋を開ける
小さなハート型のチョコレートが6つ収められたそれは、どんな高級チョコレートより貴重なものに見えた
「本当、君にこれを食べさせてあげられないのが残念だわ」
モニカはその中にあるチョコレートの一つを指でなぞる
「でも、実際に食べさせることはできなくても、雰囲気だけでも味わってほしいかな」
モニカはチョコレートを一つ摘まみ上げると、そのままチョコレートをタチバナの前に差し出した
「ロマンチックじゃない?彼女にバレンタインのチョコレートを食べさせてもらえるなんて」
モニカは蠱惑的な笑みを浮かべながら、彼のことをまっすぐ見つめる。
「イベントスチルには残らないからちゃんとスクリーンショットしておいてね、壁紙とかに使ってもいいかもしれないわね」
「「ちょっとまったー!!」」
がさがさとモニカの後ろの草木が揺れてユリとナツキが飛び出してくる
「モニカ、どういうことか説明を求めるわ」
ナツキは両手をぐっと握りしめてモニカを問い詰める
「モニカちゃん、さすがにひどいです、一人だけ抜け駆けするなんて……私、ずっと我慢してたんですよ?」
ユリも目からハイライトが消えかけている
その後ろからサヨリが恐る恐る近づいてくる
「やっほー、モニカちゃん……彼とお楽しみのところごめんね」
なぜかナツキだけは二人と違って怒っているわけではないように見える
「あの……これは……」
モニカは言葉を失ってしまっている
自身でも罪悪感を感じていたのに、その悪事が白昼の元に晒されてしまったのだ
もはや言い逃れはできそうになかった
「モニカちゃん、よく聞いて、私たちは確かに怒ってるよ。でもそれはタチバナ君と勝手にデートしてたってところじゃないの」
サヨリは冷静に、そしてしっかりとした目でモニカを見つめる
「みんなで彼にチョコレート渡そうって約束したじゃない?皆からの感謝の気持ちだって」
ナツキの両の手から徐々に力が抜けていくのが見てとれる。
「私も、最初は一人で彼に感謝の気持ちを伝えようとしました、でもみんなで伝えた方がいいと思ったから賛成したんです」
ユリの目も徐々に光を取り戻している
「モニカちゃん、私たちも彼に感謝の言葉を伝えたいんだよ?」
ナツキはタチバナの目をじっと見つめる
ナツキの目にもタチバナは反射する。
しかし、ナツキの目にもタチバナは眼中になかった。
「私だって一瞬だけだったけど元部長だったんだよ?」
その言葉を聞いてモニカはハッとした。
もしかしたら彼女たちはタチバナ君ではなく最初から彼にプレゼントを渡したかったのではないのだろうかと
「私は最初からそう言っていたんです『彼にはいつもお世話になってますから……』って」
ユリは静かにモニカを見つめる
「私だってそうよ、最初からタチバナにチョコレートを渡す気はないって言ってたのに」
ナツキも最初からこのチョコレートを彼に渡すことを決めていたのだ
「それじゃぁ皆……最初から彼に……というか彼のこと……」
モニカは両手を口元に当てて驚く
「えへへ……秘密にしておくのも違うと思って私が二人に教えたんだよね……」
サヨリは気恥ずかしそうにモニカに伝える
「モニカちゃん、今からでも遅くはありません、このチョコレートは私たちから彼への感謝の気持ちなのです」
ユリも先の二人と同じようにタチバナを通じて彼の目を見据える
「そうよ、私たちからの感謝の気持ち、しっかりと受け取りなさいよ」
ナツキも同じように彼の目を見る
「それじゃ、モニカちゃん彼に一緒に手渡そうよ」
サヨリももう一度彼に目を向ける。
「わかったわ、ごめんなさい皆、このチョコレートは私たち【文芸部】からあなたへのプレゼント」
4人全員が彼の目を見て一斉に目を輝かせる
「「「「ハッピーバレンタイン!!!!」」」」
こうして、4人は彼に感謝の気持ちを伝えたのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
読みにくい文で申し訳ありません。
次のシナリオはSS風にほのぼのとしたものを1つ考えています。
創作意欲が尽きていなければ次の作品でお会いいたしましょう!