キンイロリョテイと愉快な仲間たち   作:尾坂元水

1 / 5
01 ダイナスティという一族

 フジキセキは浮かない顔で林道を歩いていた。

 トレセン学園では栗東寮の長として活躍する彼女は現在もレースを沸かせるウマ娘の一人だ。

 学園最強を謳うチーム・リギルにおいても無敗の4連勝を続け、このまま行けばシンボルドルフ以来の無敗の三冠ウマ娘になるのではと評されていた。

 が、運命は思うように決められないもの。

 連戦が祟ったのかクラッシック初戦である皐月賞を前に休養を余儀なくされた。

 ウマ娘、特にレースをする者にとって脚の怪我は一大事だ、長期休養もやむなしの事態の中で「丁度よいからと」勧められ寮長に就任。

 休養明けからレース勘を取り戻すため再起へのスタート切ったこの頃、やたら忙しいのだ。

「はあ……暇というわけではないのだけどね」

 大きなボストンバックを抱え砂利道を歩く、手入れが行き届いているとは言い難い並木道を。

「桜は好かん」

 フジキセキの母はそう言って、自宅に続く並木道の手入れをする庭師のおすすめを断り実にそっけない広葉樹を適当に植えさせていた。

 きっちりと計ったように等間隔に置くでなく、バラバラと、その時々で気に入った木を植えようとして庭師とは喧嘩にもなったりした。

 風景はチグハグで大きな森のように見えたり寂しい林のようにも見える、どこか寂れた荒れ野のよう。

 広大な敷地の中にぽつんと立つ家は、倉庫と家が別々になったそっけない作り。

 玄関前にウッドデッキの張り出しがあり、窓辺にはラジオとキャロットビールの空き缶が並び、打ち綿がそこかしこから解れ出ているデッキチェアーが置かれている。

 作った当初は真っ白だった家だが、今はすすけた灰色。倉庫の方は外壁の塗り直しを自分でやったらしくやけに赤いペンキが塗られている。

「……久しぶりの我が家だな……もっといい色なかったのかな?」

 近づく玄関、中からは騒がしい声が聞こえて来る。

「先客あり? ふー、とりあえず」

 ドアに手をかける、バラのリースをぶっきらぼうに飾ったドアには当然鍵などかかっていない

 ペラペッラのドアを開けてからノック。

「ただいま帰りました、フジキセキです!!」

 いつもは出さない大声でリビングの方を呼ぶ。

「わっはぁぁぁぁぁぁぁ!!! ミラクルフジちゃんんんぅんぅん」 

 飛び出しきたのは……大きかった。

 身長も体格も、その胸も。

「ゼッ……ゼニヤッタ? なんでここにっていうか、また遊びに来ているのかい?」

「イエス!! そうなのおんんん、また遊びに来たのぉ。レイチェルがベェーリィークール、冷たくされるから寂しくってぇ……バーンとビールをしみじみドリンキーしにきたのぉ!!」

 耳が倒れる、というか後ろ向きになる。

 どこがしみじみなのか、どれがしみじみなのかわからないしと言う酸っぱい顔。

 母の家は珍客が多い、どこの誰ともわからないウマ娘がフラッと遊びに来ても問題ないと言い切るぐらいにオープンだ。

 ビールの濃い香りを惜しむことなく撒き散らし、圧力感じる胸に眉をしかめるフジキセキ。

「ちょっとどいてゼニヤッタ、今日は……」

「待ってたぞ!! バカ娘!!」

 それピッチャーなのか……ジョッキじゃなくってピッチャーで飲むのか。

 片手に持った波なみにビールが注がれた巨大な器、もう片方の手にビアチーズの入ったカップ。

 真っ黒な髪は少し癖毛でチラホラとあらぬ方向に踊り、額の真ん中に白い消印みたいな痣、トロンとした目に不敵な笑みのウマ娘は大笑いしていた。

 フジキセキの母ダイナスティはいつにも増して陽気なお出迎えだった。

「ぎゃはははははははは、相変わらず硬そうだなーお前はさ」

「フッシャー!! 遅いぞバカ野郎!! 早く早く早くしろよ早く!!」

「……バカ娘じゃありませんし、野郎でもないしって……うそでしょう……」

 ゼニヤッタが出てきたてだけでも「これは……」と嫌な予感を漂わせていたのに、その後ろを転がりだすように飛び出してきた存在に顔色が悪くなった。

「……スマッシュおばさん……」

「おばさん言うな!! フッシャー!! 早く酒の肴をつくれよ!! あたしはあたしはあたしは朝からまってんだぞ!! あたしは!!」

 そうでしょうそうでしょう、会いたくない存在との遭遇に体が硬直する。

 飲み友に部屋を解放しているとは聞いたがロクでもない状態だ。

 ウマ娘スマッシューはその筆頭とも言えた。

 いついかなる時でもテンションが高い、目はいつも白目多めの究極の三白眼、顔形は美しいのにメガネなかったら「怨霊」に見えると言われるほど怖い顔。

 鬼の末脚で活躍したレースは多いが、負けっぷりも大胆という白黒はっきりした型のウマ娘。

 ゲートが大嫌いだし隣に並んだウマ娘が自分に挨拶しないと怒っちゃうという短気っぷり。

 現役最後のレースでは頭に血が登りすぎてゲートを頭突きでこじ開け、文字通り出血大サービスで走ったと言われる強者。

 所謂凶悪短気なウマ娘を前に、とにかく抑えて手で押す。

「えーと、まあ、まってくださいよ。支度しますから……」

「はやくしろー!!」

 耳元に狙いすませて声をかけるスマッシューにフジキセキはよろけながら居間のドアへと寄りかかった。

「母さん、何なのですかこれは……」

 ビール片手にユラユラしながら笑うダイナスティ、急転の事態にオロオロするフジキセキに真っ黒な耳が踊って答える。

「飲み会だよ、おバカ娘」

「だからバカはないでしょう……」 

「そうだった、そうだったよぉ、私の可愛いポニーちゃんさ。早くこっちに来てキスしておくれ!!」

 日本のウマ娘とは違う、帰郷した娘を軽いジョークで笑いものにしながらも親愛を示せと招く母。

「……はいはい。ただいま帰りましたよ、親愛なる母……ダイナスティ」

 両手の獲物をプラプラさせながらも額を見せているダイナスティに、今は母の背を越したフジキセキはキスをした。

 偉大なる曲者。

 生まれを呪われ、生きることに拒絶され、それでも走ることを好み、見るものすべてを震撼させ落胆させ、終わりの時を小馬鹿にされ、本国から遠く離れた島国に望まれた母は今悠々自適な生活を送っていた。

 

 

 

 

 間取りは十分に広い、日本家屋にある玄関という区分けはなく部屋の中も靴のまま。

 リビングはコの字にテーブルを囲むように置かれたソファ。

 暖炉を右手にレンガの壁にはむき出しの鉄骨が柱の補助として建てられており、その柱に最新のテレビがかけられている。

 質素な生活ながらもダイナスティにとって心待ちな楽しみがある。

 それがレースの中継を見ることだ。

「ていうかさ、トレセン学園はなんで新人ウマ娘のテレビ中継をケチってるんだよ。全部放送してくれたらいいのにさ」

「生徒の数を考えたらサービスしている方ですよ。最初の新人戦が放送されるのはシリーズの原石を見つけたいという観客のためです。そもそもグレードレース以外は学園内レースなんですから」

「新人の何回戦とかやったらいいのにさ、競うのはきっと楽しいさ」

「フッシャー!! ほんとだよ!! もっともっとどつきあって走らないとダメだろ!! どつけ!!」

 どんなレースですか?

 殴りあうようなレースがあったらスティープルチェイスを超えた障害競走だよと苦笑い。

 相変わらずテンションも高く食欲も酒も旺盛なスマッシューは、ソファの上で体をシンクさせている状態だ。

 リビングに置かれた大型フラットテレビにビデオセットをしてキッチンに立ち酒の肴を作るフジキセキ、ビール片手にソファーに寝そべるダイナスティは焼きイカをかじりながら映し出されるレースに目を輝かせていた。

 かぶりつきで目を輝かせるのはゼニヤッタ。

「うふふふぅぅぅん、日本のウマ娘ちゃんはとってもソーキューーーート。ベリーベリースモールでキャシャーンでちっちゃくて可愛いのでーす」

「褒めてませんよね」

「アーレルヤ!! 讃えてるよぉぉぉん、プリティープリティーポニーィちゃん、抱っこして帰りたいぃぃぃん」

「そんなこと言ってるからレイチェルに嫌な顔されるのでは? お願いですから現役の選手には言わないでくださいよ、そんなこと。バカにされてる思う子もいますから」

「オーノー、日本ウマ娘ジョーク通じないのぉ?」

「フシャー!! うんなこというやつはあたしがあたしがあたしがかじってやるぅ!! あたしがなっ!!」

 ゼニヤッタは相変わらずのカブのみビール、ひたむきに興奮状態スマッシュ。

 2人して飲兵衛、ソファーの後ろにはゼニヤッタが山のように持ち込んだキャロットバーボンビールがすでに品切れの状態。

 テーブルの上にはクラフトビールのケンタッキーエールが並び、さらに現在は◯ド◯イザーも併飲である。

 呑んだら食べない人は多いが、この3人は呑んで食べる。

 ただ誰も料理をしない、結局その手間をフジキセキが甲斐甲斐しくやるしかないのだ。

「ところで母さん、気になる子がいたんですか?」

「いたさ、一度ここに遊びに来た、あのチビさ」

「えぇぇ……来た日にスマッシュおばさんにいじめられてた子ですか、確かに今年からトレセンに来てますけど……あの子はあまり期待しない方が良いとおもうんですけどね。なにせ適性診断で最初のトレーナーに匙投げられ……」

「フシャー!! あいつか!! あのチビか!! あの黒っぽいやつか!! 妹の子だろ!! あいつわ……」

 話に食いつき飛び出したスマッシュにジェラルミンのトレーが顔面を打つ音が響く。

 殴打したのはダイナスティ、暴挙に固まりキッチンにうずくまるのはフジキセキ、これは暴動の前触れ。

 暴の権化とも言われるスマッシュにトレー殴打とか完全に暴挙と震えるが、やったダイナスティはいたって普通だ。

「おまえな!! その先言うなよ、見るのを楽しみしているんだよ、黙ってられないなら帰れよ!!」

 顔から落ちたトレー、鼻先真っ赤なスマッシュは真顔で。

「ごめんダイナスティ、仲良く見よう」と素直に謝り、答えを聞いたダイナスティは「うん、わかってくれて嬉しいさ」と頷いた。

 凍りついた時間は何事もなく動く、キッチンからそっと2人を見るフジキセキ。

 ゼニヤッタは呑み続けている。

「わかってくれたらいいさ、これは私の最高の楽しみなんだからさ」

 こめかみにピストルの仕草。

 ダイナスティは島国に来てやっとその名を認められた。

 大陸にいた時にも名声はあったが、その名に連なるファミリーを見出すことはできなかった。

 だから大陸ではマスコミに嘲るようにこう言われていた。

「彼女の名に連なるファミリーなど生まれない、彼女のレースは偉大だったが彼女自身が不出来すぎる。だから大陸を後にするんだろう、望むトレーナーがいてよかったのでは島国だとしても」と。

 ウマ娘は不思議な血脈を持つ。

 本当に血で繋がる親子ももちろんいる、フジキセキとダイナスティのように。

 だが血以上に異なる世界からの絆によって引き合うものを見出すし、それが集まることで作られるのがファミリー。

 島国で言う所の一族であり、一門であり、魂の血族である。

 キッチンから顔を出し、料理をまとめるフジキセキにダイナスティはウインクする。

「ここに来てお前を得た、だけど魂で繋がるやつはもっといる。私は見たいんさ、魂で繋がった仲間たちを……子供達を」

 老後の楽しみみたいな話だがレースから身を引いた後、大陸ではファミリーの発現はなくこのまま寂しく死ぬのかと思っていたところを実業家トレーナーに請われて島国へとやってきた。

「君の名をしらせて欲しい。我が国にも世界に通づるウマ娘がいること、その土壌は何も大陸だけではないはずだから」

 夢に満ちた眼差しだった。

 がぜん反骨魂が燃えた、このまま寂しく大陸にしがみつき骨を埋めるのもやむなしとしょげた事を笑い飛ばし、まだみぬ土地に行くことを決めた。

 自分という存在を元に、見知らぬ土地で花開く仲間がいるかもしれないという冒険に心を焦がしてやってきた。

「私は一門とか一族とか作る気ないけどさ、私のここに」

 頭から胸、ハートを刺した人差し指。

「ここにビビッと来るやつを見ていきたいのさ」

 母の夢はまだこの地で続いている。

 輝く目でそう言われるとなかなか文句は言えないものだ。

 だからこうしてフジキセキは運んでいる、中継されない新人ウマ娘を収めたトレセン学園放送部が撮っているビデオを借りて。

「さあ!! 飯はできたのかい!! 早く見ようぜ!!」

 すっかり出来上がったダイナスティと2人はソファの上ではしゃいでいた。

 

 

 

 

 ウマ娘の一族というものは不思議である。

 異なる世界から、その名を持って生まれる彼女たちには「奇縁」というものが付いて回る。

 ウマ娘という「女種」しか存在しないこの種にとって血縁は自分の子のみという考えは通用しない。

 異なる世界で結ばれていた縁は、この世界において不可思議なつながりを見せる。

 我が国にもこの種による一族と呼ばれる集団がいる。

 我が国では他国に比べれば「一家」「一族」「一門」という同族意識の形成が的確になされたのは近代(明治以降)になってからであり、それ以前の彼女たちの奇縁については詳しくわかっていない。

 奇縁の系譜として知られる名を挙げるならタニノ家、メジロ家、シンボリ一門、エリモ家、まだまだ現在にまで連なる一家は多く存在する。

 その中でもここでは近代ウマ娘史の中でもっとも異形な奇縁を見せた一族について話そうと思う。

 近代我が国に招かれ移り住んだウマ娘の血統の中でも異色の存在。

 そして現在行われる我が国の国民的スポーツエンタテーメント・トゥインクルシリーズにおいて不屈の闘者として数多くのウマ娘と奇縁を結んだダイナスティというウマ娘とその一族を。

 

 

 

 

「ギャ(^◇^)ははははははははは!!!!」

 リビングに響き渡る大爆笑、ビールを抱いたままフローリングの床を叩いて笑うスマッシュ。

 大口開いてソファで笑うゼニヤッタ。

 同じく腹抱えて涙目になって笑うダイナスティ。

 笑いの坩堝の中で唯一大きなため息を見せるフジキセキ。

「はぁ……だからいったでしょう。この先私の方が大変なんですからね、あの子栗東に入るんだから……」

 テレビに映っているのは学園内レースの様子。

 第3角から第4角へと走る集団の中、勢い良く飛び出していく影が1つ。

 すごい勢いだった、誰も追いつけない勢いでその影は飛び出していた。

 飛び出して逸走していた。

 完全にコースを外れ、固定カメラの視界から消えていく。

 後に残ったのは埒にぶつかる大きな音と、天に向かって突き上げられた拳だけが画面の右下から見えているという滑稽極まりない図になっていた。

「フシャー!!! あいつあいつあいつ!!! 逸走しやがった!!! あいつ!!」

「アンビリーバボー!! スーパージョークゥー!!」

 本当にジョークであって欲しい。

 額を抑えこの先くるであろう苦労を考えるフジキセキの前で母ダイナスティは笑いを止めて画面を見ていた。

 耳をツン立て目を開いて。

 画面からは消え綺麗にゴールを切ったウマ娘たちが映る図の中に混じる雑音は、声高く叫んでいた。

「うっしゃぁぁぁぁぁぁ!!! やったやったやったぁ!!! はははははははレースってたのしー!!」

若々しくも粗雑な声が聞こえて、それを聞いてダイナスティは大笑いを再開していた。

「きたよ!! ビビビッときたよ!! あいつは私の子だ。魂で繋がった子だ!! 元気があっていいぞ!!」

 ソファの上で跳ねる母。

 元気がある事は確かに良い事だ。

 注意や諫言を付け加える空気ではない、母ダイナスティもゼニヤッタもスマッシュも笑っているのだ。

 レースに緊張し思うように走れない子も多い新バ戦で彼女は思っい切り走って、走って走って、最後のカーブが曲がれなかったのに固定カメラについているマイクに声が拾われるほどの大声で喜んでいるのが良かったと。

 

 

 

 

「ははははやってやったぜ……曲がれなかったのはご愛嬌だな」

 1番人気だったのに、勝利とは全く無縁の逸走にして試合中止。

 弾かれた碁石のようにカーブに沿う事なく4角の外ラチに向かって頭から突っ込み一回転。

 すっ転がって見上げた空は高かった。

「あーあ、楽しかった」

 後悔はない、満面の笑みは空に向かってガッツポーズだった。

 ダイナスティがビビビッときたという魂の絆を持つ少女キンイロリョテイの旅路は始まったばかりだった。

 

 

 

 

 




第二作だって、懲りないですね。
本当はこっそり活動報告の方に掲載しようかと企んでいたのですが、文字数超えてしまったので......もったいないですがもう1つスペースをお借りした次第。
ゼニヤッタが出ているのは趣味です。
スマッシュは実在のウマですが、アニメにあやかって名前を変えてみました。
できれば短めで、鬱のないバカな展開がのぞみです。
次回は早速嫁が出てきそうですよ。
でわ、よろしければお付き合いください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。