キンイロリョテイと愉快な仲間たち   作:尾坂元水

4 / 5
少しずつ感が戻ってきたなってか。


04 嫌よ嫌よも、大嫌い

「ははははははは、なんとも取り越し苦労というやつだったなぁ。何かこうモーゼのように未来が開けたよ!!」

 午後のトレセン学園、長い渡り廊下を歩きメイン食堂を抜けた休憩室で四肢を伸ばし満面の笑みを浮かべたクマちゃん。

「プライドの高い集団だねぇ、まあそれでリョテイを拒否してくれるのならこちらに損はないから万事オッケーってやつだ」

 いつになく軽い声に追随するように腹が鳴る。

「ああ今日は食べられそうだ!! よしよしいっぱい食ってリョテイの新しいチームを探す、でもって基礎トレーニングを徹底して……よしよし!!」

 手を打つと立ち上がりスキップを踏む。

 チーム・カペラがキンイロリョテイの加入を拒否したのはつい先ほどのことだった。

 

 

 

 遡ること1時間前、トレーナークマはチーム・カペラのルームにて黄色い罵声を浴びていた。

「そっそっそっその線からこっちは私たちのカイルランドですぅぅぅ!! ゴーしたらミィのキックをおみまいましすぅぅぅよぉ!!」

 口調こそ勢いはあったが、姿は影ちゃんことシャドウシルエットの後ろに隠れた状態のディラローシェ。

 小さく震えながら半分顔を出し、涙ぐんで睨む目で。

「あの、理事長からの話聞いてますか? えっとその件で話し合いをしに来たのだけど……」

「それはちょうど良かったわ、私たちも話があったのよ」

 防衛ラインをがっちり敷かれた戸口の前、ドア開けてそこから2歩までがクマちゃん与えられたステージだ。

 目の前にはカペラのメンツが集まる円卓、オリエンタルアートを始めとする全メンバーはそれぞれ思惑のある顔を見せていたかが、ひときわ尖った目でクマちゃんに対応したのはシャドウシルエットだった。

「私たちの総意よ、キンイロ……なんとかさんを私たちのチームに入れることを拒否するわ」

 相変わらず名前を覚えてもらっていないキンイロリョテイだが、クマちゃんにしてみれば寝耳にジャムのような話。

 実は朝方理事長に呼び出されていた。

「チーム・カペラの正式なトレーナーにならないか」という恐ろしい提案だった。

 そもそも特殊なチームと言われ「できるだけ触らないで」と注意されていたチームのトレーナー就任なんて生き地獄ではないか。

 理由淡々と曰く。

「キンイロリョテイくんのためにもどうだろうという」という。

 珍しくリョテイが大問題を起こさず3ヶ月もチームに所属し、そこからレースに参加していることを熟慮したことに始まっていたが、蓋を開けてみれば相手側からの「入部拒否」に目が点である。

「あ……とぉ……よければ……なんていうか、拒否の理由を……」

「下級の学園内レースで勝ち負けが激しい人は信用できないの」

 自分たちのレースに対する非参加意欲を棚に置いて、ズバッと言い切るシャドウシルエット。

「でもこないだも勝ったでしょう」

「でもつぎで負けたでしょう」

「……えぇぇぇぇ……そういうものだよレースは、いつもはいそうですかって勝てるものじゃあないよ」

「勝ってなんぼでしょう」

 まさか勝負を断固拒否しレースを嫌がる集団に、勝ち負けを語られるとおもわなかったクマちゃん、真顔で反論してしまう。

 最初にこのチームに入るにあたって走り、1つの勝利を挙げたキンイロリョテイ。

 それがカペラの負債を一挙に解消した。

 つぎの一戦も勝利という連勝でポイント不足の不安を十分に解消したが、同じ月内の一戦では負けて下位ポイントしか得られなかった。

 クマちゃん的にみれば、連続すぎるレースで疲労が抜けきらなかったのだろうと当たり前に考えたし、少ないながらもポイントを得られて良かったとも思ったのだが、まさかその一敗でリョテイを見限っていたとは驚きだった。

「……ポイントはとったでしょう」

「そうね、でも低レベルのレースの勝ち負けで一喜一憂したくないの。ポイントは今回の分までで頂くけど……キンイロなんとかさんにはご苦労様ってことで」

 ずいぶんな言い分だ、シャドウシルエットの凜とした視線は恥など微塵もないという態度。

 一方で円卓の面々は複雑な表情も見せ、何か言いたそうな唇はわずかに揺れるのみ。

 決して一線から足を踏み入れることを許さなかったシャドウシルエットは「出て行け」と言わんばかりに続けて言い放っていた。

「チームに残りたいというのならGレースで良い勝ち負けができるぐらいじゃないとダメなのよね」と。

 

 

 

 

「というわけで、お役御免だってリョテイ」

「マジかよ!!」

 がっつり腹一杯に飯を、久しぶりに快食したクマちゃんはグラウンドサイドをぶらぶらしていたキンイロリョテイは目をカッピラいた顔を見せていた。

 夏が近く梅雨の水気を吸った草木が青々とした香りを惜しげなく晒すこの時期、未だトレーニングに打ち込まず、他者が走っている姿を見ているだけだったリョテイはキョトンとした目を見せていた。

「なんだよ、俺ちゃんはお気に召さないってことか!! なかなかハードル高いなぁおぅ」

「まあ、簡単に言うとそういうことなんじゃないかな……ハードルが高いってのはどうかと思うけど、っていうあのチームでハードルとかねぇ」

 クマちゃんは明らかにリョテイの様子を伺っていた、深く落ち込んでくれればこっちのもの。

 自分を必要とし受け入れてくれたとはいえ、曰く付きチームに根をはられるよりここで「失意」にでも打ちひしがれてくれたらラッキーだ。

 慰めて再出発を促せばいい。

「というかねぇ、僕は思うんだけどあのチームはリョテイをなめてるよ、自分たちが走らないくせに……Gレースに出ろとか随分と勝手なこと言う」

「おおぅな舐められてるなぁ、俺ちゃんのこと弱いと思ってやがんなー。頭にくるな」

 淡々としているが口元にはギザギザり怒りの混じった笑み、手応え良し。

 キンイロリョテイの良いところは振り向かないことと自分本意な反骨精神の塊であることだ。

 レースに興味はないと言っても「勝ち負け」に興味がないわけじゃあない。

 ましてや走った張本人として成果を達成しているにもかかわらず「お役御免」などとくれば怒りも心頭だろう。

 悪い顔しグラウンドを走る他のウマ娘を見ている。

「いいじゃねーかGレースなぁ、走ってやろうじゃねぇか」

 キタァァ—————!!

 つかみは、もう完全に手の中だ!! 濡れ手が泡泡泡。

 リョテイが走りたいと言っている。

 今までどうやっても向けられなかった走りへの意欲を、チーム・カペラの理不尽とも言えるクビ宣言で火をつけることになった。

「そうだよ!! 見返してやろう!! 見返して!!」

 立ち上がり拳を振るうクマちゃんに合わせるようにキンイロリョテイもたち上がった。

「おおよぉ!! 決めた!! 明日のステップアップレースでやってやるぜ!! っていうか決めてたけどさぁ!! ぶっちぎってやる!!」

「おう!! その意気だよリョテイ!! さっそくぅ……ぇぇぇぇええええ!! 明日? 明日?! なんで? どうして?」

 立ち上がったテンションから飛び上がってしまうクマちゃん。

 レースに出てくれるのは大歓迎だが、明日というのは問題だ。

 驚きで顔を上げ下げしているクマちゃんをよそに、キンイロリョテイは拳を振り上げる。

「やっぱ魂が燃えてるうちにガンツとやり返してぇじゃねーか。これっていいよな!! 燃えるよなクマ!! あれだ泣きっ面に蜂が来たら食らいついて甘い蜜すすれってことわざのように」

「そんなことわざないよ!! っていうか……明日のレースって何?」

 テンションは上がっていたが、明日レースとかまさに寝耳に水。

 トレーナーなのに聞いてないよぉ。

「あのさぁ基本的なことなんだけど、レースは個人では出られないし、ステップアップなら尚更にだよ」

「カペラで登録してるから出られるぞ!!」

 カペラって……

 問題はそこだ、新人戦レースは個人でもある程度出られる。

 だがGグレードのレースはチーム所属でなければ出られない、同じようにGレース参戦に必要なステップアップレースもチーム所属が求められる。

 当然キンイロリョテイも1人で出られるというこことはなく、クビは言い渡されてもまだ「一応」所属であるカペラからの出走になる。

 ということは、だ。

「リョテイ、明日のステップアップレースを出たらカペラにポイントとられる……よ……」

「勝ってなんぼ!! そうだろ!!」

 勝ってなんぼは耳にタコができるほど聞いたたし言ってきた。

 クビを宣言したのは今日のこと、レース登録はそれ以前。

 ステップアップレースで勝てばGレースへの参戦チケットを手にいれることになる。

 今リョテイは乗っている、この勢いを失いたくない。

 ポイントは基本個人保有、勝ってカペラにこちらから……三行半を

「こっちの方からこんなチーム願い下げだ!!」と、蹴飛ばすという最高の仕返しはリョテイの好物的シュチュエーション。

「わかったリョテイ!! 出ようレース!!」

「やるぜクマ!! Gレースも楽しそうじゃねーか、俺ちゃん俄然燃えてきちゃったぜ!! それにさぁG1レースだけっていう勝負服欲しくなったし」

 復活のシナリオは完成した。

 いざレース、クマちゃんもキンイロリョテイも燃え上がっていた。

 

 

 

 

「ねぇ、なんで……キンイロ……ナントカさんクビにしたの?」

 カペラのチームルームの円卓、対局に座る2人。

 シャドウシルエットとオリエンタルアート。

 2人の間には見えない対立の火花が散っている、それを感じて書棚に隠れるディラローシェとレーゲンボーゲン。

 あとの2人であるディアウインクはバイト、ポイントフラッグはここにいない。

「レンちゃん……なんか怖いの、とってもホラー……どうして影ちゃんクビとか言っちゃったのかなぁ、ミィわかんないよぉ……」

 ディラローシェはカメラを抱いて書棚に隠れているレーゲンボーゲンと肩を寄せ合って

震えていた。

「キンイロさんでもよかったのに……あの人余分なことしないし、ポイントは全部くれるし、レースだけ出てくれてたし……何が気に入らなかったんだろうね」

 むやみにルームでレースの熱弁をする新人は嫌、一緒にトレーニングしようとか誘われるのも嫌、そういうところはリョテイにはなかった。

 むしろ普段はルームに現れなくて当日レース場に来てくれるのかを心配したぐらい。

 手間がないのがよかったのにと、レーゲンボーゲンも書棚からシャドウシルエットを見る。

「影ちゃんどうして……、私はキンイロさんでもよかったのに……」

 全会一致でクビというのはまだ論議され尽くしていなかった。

 ただ前回負けたあとからシャドウシルエットはクビを宣言し始めた。

 オリエンタルアートの対面で足を組んで睨む。

「ねぇ……なんで?」

「誰からも文句は出なかったわ」

「話し合ってないのに、文句の言いようもないでしょう。あんたが突然言ったんだから」

 ピリつく会話。

 2人はリーダー格でディラローシェやレーゲンボーゲンは、とても口を挟める状況じゃない

「影ちゃん……キンイロなんとかさんは確かに負けたけど、ポイントのない負けじゃなかったでしょう。コントロールもしやすいし、応援だけしてくれたら良いなんて条件もゆるいじゃない。何がダメなの?」

「ダメよそんなの、甘ったるいこと言わないでよアート」

 立ち上がったシャドウシルエットは背の高い美しい姿でオリエンタルアートと見下ろす。

「はっきり言うわよ、私あのキンイロ……なんとかさん? ああいう人きらいなの」

 

 

 

 




いろいろ書きながらテンションを取り戻す。
そういう作業が続いてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。