キンイロリョテイと愉快な仲間たち   作:尾坂元水

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めっちゃ久しぶり


05 キュート

「ようこそは中央トレセン学園へ、オリエンタルアートくん。学園では自由に活動してくれて構わない、できればレースにも出て欲しい。この学園に来るものたちにとって当然の「希望」なのだから」

 ふんわり七三分けの髪、紺の折り目正しいスーツは両手を開いて迎え入れるという儀式を進ませる。

 希望。

 正直自分がウマ娘にとって最高峰である中央トレセン学園へ入る事が決まったというのに実感はなかった。

 それほど優れた成績を出していないのだから。

 編入は他の新人ウマ娘と変わらず、希望にあふれた彼女たちとは対照的に猜疑的な気持ちでここにきたのに目の前の理事長は優しい笑みを見せるだけだ。

 そもそも奇妙な挨拶だった。

 中央トレセンと言えば走る妖精ウマ娘にとって最上級のステージを用意するトゥインクル・シリーズへの登竜門。

 いやその門を潜った先、登竜門というラインに立ち戦うという場所だ。

 ゆえに挨拶こそやんわりとしていても、この先の道行が厳しいものであるという説明があってしかりなのに、そういう言葉はなく「自由に活動しろ」と。

 なにより「できれば走ってほしい」など、走りに期待はしていないと言わんばかりだ。

「走るのは苦手ですし、好きじゃない」

 だからはっきりと言った。

 礼儀正しい理事長に。

 走るのが好きじゃないのに、ここに呼ばれた理由が知りたかったから。

 毅然としたオリエンタルアートの質問に理事長は少し頬を膨らませ小さく頷く

「好きじゃあないか……、でも「ここに居て欲しい」君には見つけてほしいんだ、ここで走る事を喜びとする「仲間」を」

 仲間。

 一瞬戸惑った口調、そう言った理事長の目は曇っていた。

 迷っているようにも見えた。

 仲間だろうが友達だろうが一緒にいたとしても走るのは好きじゃない、なのに走る事で華やかな舞台の一番近くにいる。

「仲間……ってなんですか?」

 自信のない応対だった、きっとつまらない学園生活が始まるという達観をうやむやにしたいだけ。

 うつむくオリエンタルアートの思案の前で、理事長はわずかにはにかんだ顔で答えていた。

「君と一緒にいることを楽しいと思ってくれる仲間……かな。それを共有してくれる仲間……うーん……こう、心にドキッとくるような友達……それがきっと学園生活の中でかけがえのない大切な仲間になる」

 曖昧なアドバイス、不機嫌な学園生活のスタートはこの日に始まり、今言葉とは裏腹な「仲間」というチームメイトに悩まされている。

「ときめきをくれる仲間なんてどこにもいないわ……今だって「仲間」のせいでこんなことになっているのに」

 胃痛に疼く胸を抱え歩いていた。

 

 

 

 

「俺ちゃんは昨日から燃えている、だが気分には靄の都でレースレースだ」

 キンイロリョテイは控え室で手足をぶらぶらと振りながら片眉吊りあがりの顰めっ面を見せていた。

 レース直前の控え室で、ブツブツと乗りを語る姿にクマちゃんは素早く反応する。

「まあ、ここに来るまでに色々あったからね。だけど怒りは力になる、今日はきっと良い結果が出せるよ!!」

 悪くないアドバイス。

 怒りを力に変えるというのは単純だが巨大な後押しになる、行き場のない憤りがあるのなら尚更に良いエナジーだ。

 晴天に恵まれたレースを賑わす目玉にも変われるという言葉を前にしてもリョテイは口をへの字に曲げたまま。

「怒りは心を煽るが純然な魂を燃やさすのに適さない……うぬぬぬぅひたすらに腹立たしい、これを解消せずになんとする」

「……哲学……ここで? いやいや今必要なのは滾るエナジーその怒りだよ」

 キンイロリョテイは勉強嫌いだが思考するのは好きだ、無駄にフル回転する優れた頭脳も持っている。

 本当は学業成績も上位に行けそうな記憶力を持ち合わせながらも、予習も復習もしない、ただテストの「山」を貼るのが抜群にうまい。

 だからこそレースのキモとなる「山」を探しているのがわかるが、クビの一件が消化できていないのは仇になる。

 発破をかける大事な時をクマちゃんは見逃さなかった。

「リョテイ、このレースが終わったら大金星を引っさげて強いチームに殴り込みをかけよう。強い俺ちゃんが来てやったんだぞって!! いいだろう!!」

 ひとによっては暴力的な言い方だがリョテイにはこの方が効く、うだうだと作戦を話すより前を向かせるのに効果的だ。

 拳を前にGO!! 熱気をあげるクマちゃんを見てもへの字口だ。

「そんなんじゃねえぞ……うおおおおおん!!!!」

 絶叫、山師リョテイの機嫌は山の天気のように急転を見せてテーブルを叩いた。

「やっぱりダメだ、はっきりしねーのは体と心に毒だ!! いったい俺ちゃんの何が気に入らなかった!! 脚が臭いというほど靴を持って行った覚えもないし、リンゴを根絶やしにするほど食った覚えもない、ましてや部屋を陣取ってゴーゴーを踊ったわけでもないのにクビってなんだ!! もやもやする!!」

 クビになった、という事だけは聞いていたが原因は知らない。

 納得しないという怒りの顔に、クマちゃんはあえて淡々と答えた。

「あーはははは……、むしろそれが原因と言われた方がわかりやすかったよね。まー、でもだからさ、あのチームはおかしいんだよ。自分たちでは走らないくせに下級レースで勝ち負けするような選手は不安とかね……」

「バッキャローイ!! 俺ちゃんは勝つ!! そこは変わらない。そ・れ・と!! 間違えんなよ俺が走りあいつらは走らないそういうルールだ。だからクビの原因は別にあるってのがもやもやもやもやうにうにうにうにしてイライラするんだよ!!」

「リョテイ !! 落ち着こう、今は走る事に集中して!!」

 不機嫌のギザギサ歯はドアに手をかけ控え室を出る。

「……奈落だ奈落にいるわけだ、地に落ちた俺ちゃんの機嫌をワイハまでぶっ飛ばしてくれる起爆剤は!! なんだ!! なんのために走るんだ!!」

 熱くなっている、控え室のドアノブを乱暴に開ける背中には確かな湯気が見えていた。

 しっかりと温まった体はただ勝利を目指していた。

 

 

 

 よそ行きのベレー帽にカメラを抱いたレーゲンボーゲンは自分の隣を速歩で行くオリエンタルアートを見て、いつも通り思っていた。

 ……綺麗だな、と。

 実際オリエンタルアートは眉目秀麗が普通であるトレセン学園の中でも10指に入る美少女としても知られる存在。

 彼女にレース応援に来てほしいと頼みにくるウマ娘もいるぐらいだ。

 ストレートの赤髪は陽に照らされ天使の輪を凌駕する輝きを見せるし、顔立ちもどこか神々しい。

 ロングストライドなのに歩様はスーパーモデルのごとく、すらりと前に進む長くて瑞々しい張りを見せる脚に、ひときわ目立つ「冷たい美しさ」を彼女に見ている。

 近寄りがたい美しさを地で行くオリエンタルアートは、現在怒りと葛藤の中にいた。

 今回のレース、トレセン学園放送部所属の撮影班であるレーゲンボーゲンはチームから唯一応援にきたオリエンタルアートを無視するわけにもいかない。

 レース場まで連れていくという役目の中で、少しずつだが思っている事を口に出していた。

「思うんですけど……普通にそうだと思うのですが、キンイロさんは絶対に怒ってると思いますよ。なんで今更応援なんて?」

「そう……何で? なんでって聞いたの?」

「え……そうですけど……あのひと短気そうだし、レースの敵しかこないし、なんか不安になるじゃないですか」

「そんなの大した問題じゃあないじゃない!! 走ってくれるひとがいることが大事なのよ!!」

 レーゲンボーゲンは駆け足で、レース場の応援席へと向かう近道を走る彼女の後を追う。

 選手でもないのに勝手に地下通路を歩いて一気に最前列の放送部席につこうという魂胆はレーゲンボーゲンがいるからこそできる裏技。

 走ってしまう前にどうしてもキンイロリョテイに言いたい事があった。

「クビはジョーク」だと。

 片手には極甘リンゴとアップルパイの入った籐籠。

 深刻だった話をちゃらにするための「餌」を忘れてきていない。

「いまさらアートちゃんが謝っても戻ってくれないんと思います……」

 全くもってのご意見だったが、前を進むオリエンタルアートにその気はなかった。

「あのね!! なんで私が謝らないといけないのよ!! 私は何も悪くないわ……むしろ私以外が問題なんでしょう!!」

 斜め上の反応、謝まるつもりは毛頭ないし、問題なのは自分たちという指摘にレーゲンボーゲンは固まってしまった。

「えええ……私たちが問題なの? えっとキンイロさんじゃなくて?」

「そうじゃない? あの人が走らなきゃ誰が走るのよ!! 誰も走りたくないのになんで簡単にクビとか言えるのよ!!」

 怒声に竦むレーゲンボーゲン。

 今日の応援でチーム・カペラは真っ二つに割れていた。

 正確にはオリエンタルアートVSシャドウシルエットで、後のメンバーは傍観と無関心と奔放とに割れて対立を見ていた。

「だいたい影(えい)は自分では代理走者を見つけてこないくせに「好き」だの「嫌い」だのと……高飛車になんなのよ!!」

「そっそうだよね、それは影ちゃんが悪いよね……でもさやっぱりGレース走ってくれるひとじゃないとさぁ……」

「だったら何よ!! 自分で勝ち負けしない分を背負わせているっていう気概はないの!!」

 早足だったオリエンタルアートが立ち止まり、抱えていた籠からリンゴが滑り落ちていく。

 地下歩道を転がるリンゴが一瞬の静寂を作る。

 レーゲンボーゲンはしまったと引いた。

「自分じゃ勝てないのに……勝手なことばかり言わないでよ」

 きつい眼差しと悲しく下がった眉のオリエンタルアートが願うことは1つ。

 誰かに勝利を託するという困難、自分では成し得ない勝利のために。

 強いてはチーム存続のため、甘えて媚びてを正義と掲げ学園にとって「何のために存続しているかわからない」走らないウマ娘というメンバーを守ること。

 やる気が無くても、走るのが嫌いでも、いい加減なことのできない生真面目なオリエンタルアートが今日まで重ねた苦労でもある。

 マックスのイライラにうっすらと浮かび溢れ出た涙に、レーゲンボーゲンは罪悪感に小さくなってしまう。

 わがままを言っている、いつもアートが手配りをしてなんとかチームをもたせている。

 走ることが必要な学園で、走らない自分たちがここに居られるために。

「頭下げるぐらいなんだっていうのよ……私は謝らない……でも続けるのよチームのために」

 悲壮は地下トンネルに小さく響き、声は勝負を前に靄を巡らせた走者に届いていた。

 

 

 

 

「何に謝るんだ?」

 足元に転がったリンゴを取り上げたのはキンイロリョテイだった。

 極甘で蜜に輝くリンゴをひと齧り、ジャージを肩にハーフパンツ姿のキンイロリョテイは眉間に寄せたシワのまま睨んでいた。

 他の選手はもういない、刻々と近ずくレースへの中

 レーゲンボーゲンは固まり、オリエンタルアートは慌てて顔を隠した。

「俺ちゃんは今から走るんだけどさ、勝つ理由を考えていたわけさ」

「そう……結論は出たの?」

「考えがつながりそうなんだが、そこに謝るってぇのはない」

「謝る気はないわ……ただ」

「いいね、だれも間違ってねーんだし」

 堂々としたものだった、萎縮しカメラを握って震えるレーゲンボーゲンの前を過ぎ、背中を向けたままのオリエンタルアートの前へと向かうリョテイ。

「キンイロさん、今回の件では私たちのチーム内で行き違いがあったのよ。間違いではなく、クビにしたのは早とちりなの、だからチームのために……」

「いやいや今更そんなことを言われても僕もリョテイもね、理不尽な要請を聞き入れてチームの決定を飲んだわけで……」

 横から慌てて飛び出したのはクマちゃんだった。

 リョテイは不機嫌を撒き散らしながらも前向きに走ろうとしている。

 こんなところで実にもならないチームに足を引かれたくないという思いはいかんなく発揮され、大きな体で2人の視界をがっちり遮っていたが、そのダルマのような体を軽く吹っ飛ばすリョテイの蹴り。

「邪魔だぜクマ」

 耳をピクピクと動かし、への字口のまま蹴倒したクマちゃんを踏んで前に出る。

 目の前で転がされる巨漢に驚きレーゲンボーゲンが声を上げた。

「だから、その……クビの件は行き違いがあったということなのですよ……」

「なんだって? 聞きたいのはそこじゃない」

 オリエンタルアートの背中にかかる言葉にはトゲが見える。

 怒っているのを感じて唇が震える。

「何? 何が聞きたいの……って」

 態勢を立て直そうとしていたオリエンタルアートの肩をキンイロリョテイが思い切り引いて半回転、髪をなびかせ涙を隠そうとした顔を目を睨んだまま壁に両手をついて逃げ道を塞いでいた。

「聞きたいのはそれじゃない。なあさっき言っていたよな、何の為に走ったら良いんだ?」

 壁ドン。

 実際にはオリエンタルアートより少し背の低いリョテイのそれは滑稽に見えるが顔を隠す隙がない。

 下から睨む目は息のかかる位置にいるのだから。

 大胆不敵な行動にオリエンタルアートの鼓動は早くなり、止めたかったはずの涙が出ていた。

「チームの……ため」

「不正解だ、違うだろ」

 毅然とした紫の目には確信がある。

 そうだ

 ハッキリ言わないとダメという視線に、思いつめていた気持ちが溢れでた。

「何のためでもないわよ……私のために走ってよ……」

 

 

 

 

 くるりと一回転、進むべきレース場、トンネル出口へと体を戻したリョテイは指を鳴らした。

「なるほど、ビッカリンコ大正解!! わかった」

 完結な決意表明、驚いているのはクマちゃんにレーゲンボーゲン。

 何がわかったのかわからないが今まで不機嫌で斜に構えていたリョテイの顔からは険が取れ、いつもの飄々とした顔を見せていた。

「俺ちゃんは今日すこぶる機嫌が良い、ワイハでリンボー踊っちゃうぐらい燃えてるからよ。マッハで勝って帰るからよ」

 陽気な声で背中を向けたまま片腕を拳固めてあげていた。

「……リンボーで燃えちゃダメでしょって……リョテイ!! 走るんだよね!!」

 もうどっちに何が転がっているのかわからない、クマちゃんはリョテイの背中と唇をかんだ涙のオリエンタルアートを交互に見て、嫌な予感をゾクゾクと感じていた。

「走る!! でもって勝つ!! ヒャッホォォォォイ!!!」

 飛び上がるほどの上機嫌。

 それは良い意気込みだが、ポイントは? チームは? どうなる。

 クマちゃんは這いつくばったまま不安を喉で止める。

 ここで、後5分もしないうちに走るリョテイにそんなことは聞けない。

 士気をくじけない。

 トレーナーの深慮とはこういうところで無駄に辛いと黙ったクマちゃんの後ろ、オリエンタルアートは大声援を浴びせていた。

「勝ってよ!! キンイロさん……私アップルパイ持ってきているから!!」

 響き渡る笑い声、何かを吹っ切ったようにキンイロリョテイは振り返った。

「オリエンタルアート。お前ってさ可愛いんだね」

 完全な不意打ちに真っ赤になるオリエンタルアートに、人差し指で作った銃口を「バンっ」とあげレース場へと走っていくリョテイ。

「心配するな!! チームの維持ポイントは入れてやる!! あっという間にGレースに行って!! トゥインクル・シリーズにだって出てやるぜ!!」

 耳はツン立ち顔は真っ赤、涙で輝いた目は今までにないぐらい開いたまま硬直しているオリエンタルアートの隣、レーゲンボーゲンは無意識ながらも激しくシャッターを切っていた

「アートちゃんが真っ赤!! アートちゃんが真っ赤!! 撮らなきゃ!! 撮らなきゃ!!」

心で連呼、どうして良いのかわからずオロオロしながら「とりあえず写真とろう」とアートの写真を撮る。

 クマちゃんはただ眩しくその背を見送るだけ。

 景気のいい声のこだまを聞きなかせら。

「まあ任せなって、ビューっと走ってサクッと帰ってくるからよ」

 

 

 

 この日「阿寒湖特別」をキンイロリョテイは走波し掲示板のてっぺんに名を輝かせた。

 上を目指し凌ぎを削るウマ娘達の間を割り、1人飛び出しゴールをぶった切った。

 文句無しの1番を引っさげ、オリエンタルアートの名の元にチーム・カペラへの復帰を果たした。

 それはクマちゃんにとっての苦行の始まりとなった。

 

 

 

 

 

 




間違いなくテンション下がってる今日このごろ
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