あの時はウェスカーさんがいたから触手が使えた。
でも、いまはいない。
感染者を出したくないと言うなら、触手は使えない。
それに、目の前に居るのはちょっとした小手先の技が使えるだけの一般人。
それくらいなら―――
感覚が可笑しくなりはじめた緑谷である。
生徒達を守る為にヴィランをここで足止めしていると言うのに、まさかこのヴィランに囲まれた輪の中に守らなければならない生徒が放り込まれてしまうとは思わなかった。
俺はなぜかノリノリな緑谷に怒鳴る。
「あいつの言うことに耳を貸すな!俺が道を作るからそこから逃げろ!」
「・・・繰り返すだけですよ。黒霧さんが居る限り」
あのヴィランを知っているのだろうか。敵の前だというのに妙に冷静な緑谷。だがここにいると守りながら戦わないといけなくなる。元々俺の個性は戦闘に向いてない。ここから離れてもらわないと俺としてはかなりきつい。
「だが、そこにいると俺が戦いにくい!だから―――」
「戦いにくいんですね。分かりました、なら離れます」
戦闘用コスチュームの腰ポケットから何かを取り出した。
「なんで銃なんか持ってる!?」
「これはフックショット。ウェスカーから貰ったものなんです」
ウェスカーって、まさか協会幹部の!?
「それでは」
緑谷はそれを上に向けて、引き金を引いた。
パーン!
「上から来るぞ、気をつけろ!」
銃から放たれたワイヤーが骨組みに巻きつき、そのワイヤーを巻き取って高所に飛び上がる。どこか遠くに着地するのかと思ったら、あろうことかまた戻ってきた!
危機感の無い声で警告して着地したのは、ヴィランの塊の中。間違いなく誰か下敷きになっただろう・・・
「緑谷、離れると言ったはずだぞ!」
「はーいヴィランの皆さーん!これから皆さんのこんな大人数で来たんだから絶対勝てるなんて甘ったれた考えをぶち壊して差し上げまーす!逃げるなら今のうちですよー?」
俺の声を無視して、下敷きのヴィランから降りない緑谷は滅茶苦茶煽ってる・・・そんなことしたら、
「ああ!?テメェ舐めてんのかぁ!?いいぜ、ガキだから手加減してやろうって思ってたが仕方ねぇ!ぶっ殺してやるよ!」
「舐めてんのはどっちだか。やれるもんならやってみなよー♪」
「てっめぇ・・・ッ!!」
やはりぶち切れられた。てかこれ以上煽んな、手がつけられなくなるから。
「オラァッ!」
先程煽りに反応したヴィランが大きな牙を生やした猪の姿になって突進してきた。変異系の個性か。
しかしあんな突進をまともに食らえば只ではすまない。俺は捕縛しようとするが―――
「・・・・・・」
緑谷が無言で手を差し出す。その手には爆豪と戦ったときよりも鋭く、長い爪が生えていた。
その瞬間、俺は察してしまった。
しかし察した所でもうとっくに手遅れだった。ブレーキをかけたヴィランだったが、勢いをとめられずに、眉間のところに緑谷の爪が刺さってしまった。深々と。
爪が引き抜かれると、そこから緑谷にかかってしまう位勢いよく赤黒い血が噴出して、ヴィランは猪の姿のまま、倒れてしまう。
『・・・!』
ヴィラン共の周りに動揺が走った。
「・・・で?どうするの?」
ばっと、緑谷の周りに居たヴィラン共が素早く距離を取る。
「それだけ・・・か。分かった。ドロッチェ、ここは僕と先生だけで十分だ。皆の援護に回ってくれる?」
「了解。オレに任せろ」
俺の布に隠れていた鼠が飛び出し、ぽふん、と音を立てて煙に包まれる。
煙が晴れて、現れたのはまるで怪盗の様な赤い服装をした、緑谷の膝くらいの身長の大きな鼠。
「行ってくるぜ!」と言った途端、鼠はその場からふっと姿を消した。まるで瞬間移動でもしたかのように。
「それくらいの距離なら直に詰められるね。さ、始めようか。先生、ぼーっとしないで下さいね」
ちらりとこちらに目を向けてきた。光を失った瞳はこちらに向けられていないと知っていてもゾッとした。
「緑谷、絶対殺すなよ?」
「承知しています」
心なしか凄く不満そうな顔をしているように見える。しかし人を殺すなどあってはならない。
だが、俺は目の前のヴィランに意識を向ける。
今するべきことはこのヴィランどもを片付けることだ。
緑谷は・・・多分大丈夫だろうな。あの様子じゃあ危険の心配はしなくてよさそうだし、多分殺人はしないはずだ・・・なぜか俺はそう判断していた。
まだ実戦を知らないような生徒を守らずに背中を預けるなど言語道断だろう。
だが。
この目には、今の緑谷は、そんなヒヨっ子らとは違う、今の状況で唯一安心して後ろを任せられる存在へと写った。
それに、どちらにしても逃がすことは出来ないだろう。というより絶対逃げようとしないのだから、いっそ放っとこうと思ってしまった。
俺はヴィラン共を捕まえては投げて、捕まえては投げてを繰り返し緑谷は切り裂いては蹴って切り裂いては蹴ってを繰り返し・・・
ついに囲んでいたヴィランを殆ど倒した。
「っち、まさかこんなに早く倒されるとはな・・・」
「現役ヒーローの助けがあったとしても、かなり強いですね。テストは合格と先生に伝えておきましょうか」
残されたのは、体中に『手』を無数につけた、おそらくリーダー格であろう男と、先程緑谷をこちらに送り込んだ黒霧、とやらだけだ。
「そりゃどうも。ところで、ここに来たのってまさかオールマイトの抹殺ですか?」
オールマイトの―――抹殺だと!?
「その通り。私達ヴィラン連合は対オールマイト用の兵器を用意しています。緑谷出久、たとえ貴方が相手をしたとしても、一筋縄ではいきませんよ?」
「ほーう?そうですか、ならその兵器、僕が叩き潰してあげましょう」
緑谷は満面の笑顔を浮かべていながら驚くほど冷たい声でそう言った。
「その軽口、言えないようにしてやるよ」
リーダーの男からも殺気を感じるが、何故だろうか、緑谷のほうが怖かった。
その男の背後に黒いもやが現れる。
そこから現れたのは―――
「ッ!?なんでタイラントが・・・!!」
瞼の無いギョロ目の瞳に、脳が露出した頭部を持った巨体の大男。
「緑谷、知っているのか!?」
「見たことはありませんが、あんな異形は僕の知っている中では、それじゃないかと」
今の緑谷は笑顔が消えて、真剣な顔になっていた。
緑谷がこの様子だと、かなり危険な奴のようだな。
そのときだった。
「やれ、脳無」
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」
脳無、と呼ばれたそれは、その巨体に似合わぬ速さでこちらに殴りかかってきた。
「先生離れて!」
「分かっている!」
ばっとそこから飛びのき、その体から繰り出される豪腕の一撃を間一髪で避ける。その一撃は、地面のアスファルトに突き刺さった。
「・・・まさに
暴君のように強く、危険な存在。確かにその通りだな。
「先生、僕に一つ策があるんですが、いいでしょうか?」
策、か・・・ある意味賭けになるが、今回は賭けるべきだろう。
「なんだって良い、やるんだ」
「分かりました!」
緑谷は突き刺さって抜けなくなった腕をするすると登っていく。
脳無の頭の所までくると、右手で口をこじ開け、そのまま左手を―――
「ッ!?やめろ!」
俺の制止も遅く、脳無の口の中に肘の所までまで突っ込んだ。
強引にこじ開けていた右手を離してしまうと、脳無はもちろん口をしっかりと閉じる。
入れっぱなしだった左腕はそのまま、噛み千切られた。
「うあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っっっ・・・!!!!」
足場の腕から落ちて、肘から先の無い左腕の傷口を押さえながら蹲る緑谷を俺はすぐさま脳無から引き離す。
「なんでこんなことをした!?」
「っ・・・先生。あいつを少しの間だけ、押さえてください。大丈夫です、ちゃんと元に戻りますから」
「・・・・・・大丈夫なんだな?」
「はい、なので先生、お願いします」
「分かった」
先程よりも激しく暴れまわる脳無を布で拘束する。今までに無いような凄まじい馬鹿力でこっちが振り払われそうになりながらも、俺はなんとか足を踏ん張って耐え抜く。
そして、そろそろ力が限界になりかけたときだった。
「ア、アア、アアアアアアアアアアアア・・・!!」
脳無の様子がおかしい。そう思った直後。
「「なっ!?」」
リーダーの男と俺の声が綺麗に重なる。
脳無の体から赤いそれが大きく揺らめいた。
「チェックメイトだ。勉強不足だったね、ヴィラン連合!」
脳無の体が、激しく炎上していた。さっきまでの激しい動きとは逆に首を押さえて低く呻いていた。
「てめ、何をした!?」
「・・・!!そういうことですか!考えましたね・・・」
リーダーの男は意味が分からないと混乱しているが、黒霧は感心している。
「緑谷・・・お前何した」
「僕の血を体内に入れるために腕を入れてやりました」
「じゃあなんで血を体内に入れようとした?まさか血が大気に触れると燃えるとかじゃないだろうな」
「あれ、先生知ってたんですか」
左腕を見れば、喰われたはずの腕が戻っていた。
緑谷、一体お前は何をされたんだ・・・?
久しぶりに戦慄していると、そのうちこんがり焼かれた脳無は倒れた。
「チートが・・・!黒霧、撤退だ。・・・クソガキ、覚えてろよ絶対いつかぶっ殺してやるからな覚えてろよ!」
「やれるもんならやってみなよ♪ま、ぜーんぶ返り討ちにしてやるけどね」
「・・・やっぱここでぶっ殺してやる」
緑谷・・・また煽ってやがる。しかも乗って来てんじゃねえか・・・!
「言っておくが、これ以上は手助けはせんぞ」
「はい。こちらが撒いた種なんで、こちらでどうにかしますよ」
結果はどうなったのかって?もちろん緑谷が勝ったさ。敗北したリーダーの男―――死柄木弔は黒霧によって瞬く間に回収された。
「くそぅ・・・ガキに負けたぁ・・・畜生・・・・」
カウンターに突っ伏して泣いている死柄木。
「こればかりは相手が悪かったです。彼女は下手したらオールマイトすら超えるほど強いんですから」
「・・・マジで?」
「マジです」
「ふざけんななんだよそのぶっ壊れた性能は」
黒霧が慰めの言葉をかけるが一向に立ち直る様子を見せない。
「あいつがこっち側ならよかったのに・・・なんでそっちなんだよ・・・寝返らせることなんて出来るのかよ・・・?」
「今の所は無理でしょうね。というか良い大人が子供みたいに何泣きじゃくってるんですか。この先これくらいで泣いてちゃ後が持ちませんよ」
「・・・・・・そうだな」
死柄木が持ち直し始めたのに気づいた黒霧は、
(緑谷出久によって少しは成長したようですね。やはりこの襲撃は正解でした。それにしても・・・彼女、今回なぜか微妙に戦闘狂っぽかったような・・・)
そう心の中で呟いた。
死柄木弔 目標
・オールマイトの抹殺
・緑谷出久を仲間に引き入れる
やったね緑谷!また厄介ごとが増えるよ!
緑谷の力に気づき始め、なにか危険なもう一つの悪意が蠢いてる事を感づきはじめる先生
オールマイトの対抗策として完全にロックオンしたヴィラン連合
緑谷は本気でかかってくるならこちらも本気で迎え撃つという信念みたいなのがあるようです。殺すの嫌なのに。
手加減したら相手に失礼だと、そう考えています。
おかしいところがあったら教えてください。
次は体育祭編。サンズたちを、暫く出さなかった分、体育祭で出番を増やす予定です。