ソードアート・オンライン~剣と槍のファンタジア~   作:白泉

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 どうも、白泉です!

 今回は前置きなしに、早速本編のほうをどうぞ!


20話 心中

 転移門から家までの帰路を、ツカサは軽いとは言えない足取りで歩いていた。リアに相談もせず、独断でああいってきてしまったが、このことを聞いてリアはどう思うのだろうか。それを考えると、ツカサの足をさらに重くさせる。

 

 

 

 だが、その道は永遠に続くはずもなく、家にたどり着いてしまう。ツカサはわずかに息を吐いてから、扉を開ける。案の定、リアはまだ起きていないようで、リビングには人の気配がない。いるのは、ソファの上で寝転んでいる一頭の狼だけである。ほかでもない、ついこないだテイムしたティバインウルフのルーである。

 

 本当にこの使い魔は特殊な点がいろいろとあり、「元はボスモンスター」「体の大きさを変えられる」などのほかに、「主人と離れることができる」というものがある。

 

 

 通常使い魔は、いつでも主人に付き従うものであり、別行動はできないというのが鉄則なのだ。だが、ルーはここで待てと命令されれば、ずっとそこに待機させることができる。連れて回るのはあまりに目立つという理由で、ツカサは連れて行かないという選択することが多かった。

 

 

 

 そんなルーを横目で見ながら装備を解き、ツカサの脚は家の奥へとむかうと、木製の扉を再び足開ける。だが…

 

「っ…!」

 

 

 

 リアの姿は、どこにもなかった。

 

 

 

 ツカサの心臓は早鐘を打ち、冷や汗が噴き出るような感覚に襲われる。

 

 

 リアが、いない。このタイミングでこの状況は、あまりにも不吉だった。ツカサは震える指でメニューウィンドウからフレンドリストへと飛び、スクロールさせる。名前の量が極端に少ないために、その名前はすぐに発見される。そして、その隣には…グレーの色。

 

 

 

 ツカサの心臓は、今ではまるでその体内から出ようとしているかのように脈打ち、それが耳元でなっているかのような錯覚にも陥るほどだ。

 

 

 

 

 気持ちを落ち着けようと、ツカサは目を閉じ、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。徐々にそれらが収まっていくのを感じ、それと同時に頭が澄んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 まず至った結論は、「リアが自殺するはずはない」。いくら辛いことがあっても、あのリアが自ら命を絶つはずはないと思うし、何より、その場合自分に一言も言わずに死のうとすることはないと、ツカサは断言できる。だから、とにかくその線は却下にする。

 

 

 

 とすれば、グレーゾーンの意味はあと一つしかない。…圏外に出ているのだ。だが、だとしたら一体どこへ行ったのだろう。

 

 

 ツカサはリビングへと引き返し、脚を組んで椅子に座った。

 

 

 今までのこのSAOでの記憶が頭の中を高速で巡る。リアは恐らく、適当な場所に行ったのではない。必ず意味がある場所にいる。そして、リアは“見つけられることを望んでいる”。

 

 だが、一緒に過ごした時間はあまりにも膨大で、記憶の籠を漁っても、なかなか出てこない。そんな自分に対する苛立ちと、刻々と過ぎていく時間に焦りを憶え、ツカサは大きくため息を吐いた。

 

 

 

「リア……」

 

 

 

 ぽつりとその名をつぶやく。いつもはそれで「何?」と柔らかい笑みを湛え、振り返る彼女がいないことが、あまりにも空しく感じた。そう、まさに、「胸にぽっかりと穴が開いた」感じだ。

 

 

「どこに行ったんだ……」

 

 

 そうつぶやいた時だった。

 

 

 頭の中にひらめく一つの場面。

 

 

 

 

 

 

 美しい夕焼け、手すりの奥に臨むのは、アインクラッドから見える雲海、そして、そこにたたずむ一人の少女。身体は横向きで、顔だけこちらを向けた彼女は、いつもとはどこか違う、大人で、ミステリアスな雰囲気を纏っていた。そして、その唇がゆっくり動く。

 

『ねえ、ツカサ君。私、死ぬならここで死にたいなぁ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひらめいた。ここだ。間違いない。そう確信した次の瞬間、ツカサはメニューウィンドウを開いて、再び装備をしながら玄関の扉を開けていた。

 

 

 武器の種類ゆえにそこまで認知はされていないが、ツカサは実はアスナよりも高い敏捷値を持っている。つまり、アインクラッド一の脚を持つということになる彼の本気の走りは尋常ではない。

 

 

 まさに颯のように駆け抜け、一分ほどでその身を転移門に躍らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に広がる雲海は壮大で荘厳だ。それも、茜色にうっすらと染まってきているのも相まって、息をのむほど美しい。リアはそんな景色をぼんやりと眺めていた。

 

 

 

 久々に人を殺した。だが、その実感は“現実世界”よりも確実に薄い。銃の重いリコイルショック、硝煙の臭い、そして真っ赤な液体を飛び散らせて倒れる人間。ナイフで刺し殺したこともある。柔らかい肉にナイフが刺さる感触と、鼻につくかな臭いにおいは忘れようもない。

 

 

 

 それに比べれば、ただポリゴンが散るだけの殺人とは、何と軽いものだろう。

 

 

 いや、今のリアが考えていることはそんなことではない。

 

 

 今のリアを埋め尽くしているのは、純粋な“恐怖”だった。糸が切れたように理性が吹き飛び、まるで獣のように人を殺しまわる自分が、自分の中にいるという恐怖。そしてさらにそれを上回るのは、ツカサに刃を向けた自分に対する恐怖と怯えだ。

 

 

 

 

 

 怒りに身を任せ、目の前の人に剣を振るう。その剣はあっさりとその身に突き刺さり、そして、その人の長い黒髪が揺れ、見慣れた漆黒の瞳が覗く。

 

 

 

 

 想像しただけで、恐怖が腹の底で暴れまわり、怯えで筋肉が硬直する。

 

 

 

 

 

 そもそも、自分は生きていてはいけない存在なのだ。忘れかけていたことを思い出した。なぜなら、自分は“禁忌から生まれた”のだから。

 

 

 

 そんな思考が、鉄の手すりを強く握らせる。ここから身を投げたら、どんなに楽なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 その時だった。一陣の風が吹き、リアの長い髪を揺らす。リアがふっと振り返ると同時に、身体を誰かに抱きすくめられた。

 

 

 胸板の感触や、腕の回し方のそれらは、涙が出るほど懐かしく、大好きなもの。

 

 

 そして、彼は耳元で漏らす。

 

 

「良かった…リア、ちゃんと生きてるんだな…⁉生きてるよな…⁉」

 

 

 

 耳元で彼の安堵の言葉を聞きながらリアはつぶやいた。

 

 

「ツカサ君…」

 

 

 

 

 そうつぶやくと、ツカサの回された腕の力が強くなる。リアも思わず抱きしめ返そうと腕を上げるが、すぐにそれは下げられた。

 

 

「来ちゃだめだよ、ツカサ君…」

 

 

 自分の口から洩れた言葉は、今までにないほど弱弱しく、かすれていた。

 

 

 

「私は、ツカサ君を傷つけようとした…この世で一番…一番、大切な人なのに……」

 

 

 

 涙で視界が滲む。

 

 

 だが、ツカサから返ってきたのは、否定でも、肯定の言葉でもない、吐息が混じった笑いだった。

 

 わけがわからないリアをよそに、そのままの体勢で、ツカサは低いトーンでリアに語り掛ける。

 

 

 

「なぁ、リア。…こんなこと言ったら、不謹慎だと思う。だけど、正直に思ったことだから…」

 

 

 ツカサは一度そこで言葉を切り、そして

 

 

「俺は、リアが俺のために人を殺してくれた事が、ものすごく嬉しかった」

 

「っ…」

 

「ああ、俺はこんなに大切にされてるんだなって。別に今までだって分かってたけど、改めて、な」

 

 

 

 嗚咽が漏れないように、リアはぎゅっと唇を噛み締めるのに必死だった。そんなリアのことをわかっているかのように、ツカサは畳みかけて言う。

 

 

 

「でもな、リア。リアが俺を大切に思っててくれるように、俺だってリアのことを大切に思ってる。もし俺がリアが剣に貫かれてるところなんて見たら、俺もそいつを必ず殺してる。」

 

 

「で、でも…っ」

 

 

 リアは声が震えるのを必死に抑えながら言った。

 

 

「自分に課せられた任務を忘れて殺しまわるだなんて…」

 

「いや、あそこで殺しておいて俺は正解だったと思う。このまま生かしておいたら、倍の犠牲者が出ただろう」

 

「それに、私はツカサ君にも剣を向けた…!」

 

「結局、ちゃんと止まっただろう?俺は傷つかなかったし、今こうしてちゃんとここに立ってる。それで十分じゃないか?」

 

 

 

 

 

 反論の言葉を失い、リアは押し黙るしかない。耳元で、ツカサが笑った気配がした。ゆっくりと体が離され、ツカサの顔が見える。

 

 

 

 アインクラッドの夕日は、まるで作り物と見間違うべき端正な顔に浮かぶ、どこまでも優しく包み込むような、穏やかな笑みを柔らかい光で照らしあげていた。

 

 

 

 そして、ツカサは言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

「俺たち、あんまり一緒にいすぎて、言葉にしなくてもわかることが多いけど、ちゃんと言葉にしなきゃ伝わらないことだってあるんだよな」

 

 

 

 目元がじんわりと熱くなり、

 

 

「なあ、リア。これからちゃんと話し合わなきゃいけないことが、たくさんあるな」

 

 

 

 視界が滲み、

 

 

 

「まあ、今回のことについての俺の気持ちの結論は、俺だってリアのことが大切で、リアなしじゃ生きていけないってこと」

 

 

 一滴の涙が頬を伝って地面に落ちる前に、リアはその手を伸ばし、ツカサを抱きしめた。ツカサは一瞬動きを止めるが、すぐにリアに再び腕を回す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 低い夕焼けだけが、2人を優しく見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 




はい、いかがでしたか?いやぁ、ツカサがイケメン過ぎた回でしたね(実際にイケメンですがw)。


 さて、これで僕の大好きな回が終わり、そして同時にラフコフ編も終わりを迎えました。ラフコフ編といいながら、ほとんどリアとツカサの物語になっているというw頑張ってオリジナル性を出したと思ってご容赦ください。



 次回はですね、ほんとは番外編にしようとしていた話を本編にぶち込もうと思ってます。2人が1か月お暇ができてしまったので。


 …待てよ、次回もどちらかといえばツカサが中心の話だぞ。ツカサ強し…


 というわけで、次回もお楽しみに!
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