ソードアート・オンライン~剣と槍のファンタジア~   作:白泉

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お久しぶりでございます、白泉です!

 あの、はい、本当に久々すぎて…僕自身が自分の話を忘れるという事態になるほどですが、なんとか帰ってまいりました。一年以上お待たせしてしまって本当に申し訳ありません…‼

 これからも相も変わらずの亀更新ではございますが、頑張っていきますのでよろしくお願いします!

 さて、今回はいよいよユイ編でございます、

 ここで警告なのですが、少々のキャラ崩壊&下品なネタがございます。純粋なままのリアとツカサが好きな方は飛ばすことをお勧めします。(原作の話の流れと変わらないのでその点はご安心下さい)

 それが了承できた方だけ、早速本編のほうをどうぞ!


32話 ある女の子

 昼過ぎ、リアとツカサはその日の仕事を終え、昼食を取りに家に一度帰っていた。

 

 ちなみに今日のメニューはナポリタンにコーンスープだ。実はこの間、夜な夜な最前線でレベル上げをしていた時にドロップしたアイテムの解析を行ったところ、トマト独特のあの酸味に似ているらしいということが分かった。ということで、早速実験した、ということである。

 

 ゆっくりと、かつ思わずハッとくぎ付けになってしまうほど上品な所作でフォークに赤い麺を巻き付け、ツカサはそれを口に入れる。

 

 じっくりと目を瞑って咀嚼するツカサ。

 それを見守るリア。

 

 まるでこれからボス戦を控えたかのような空気の張り詰め方であるが、お忘れなきよう、片方はパスタを食べ、片方はそれを見守るという、ただの食事風景である。

 

 静かに、ややエロティックに喉仏を上下させてパスタを飲み込んだツカサはゆっくりと目を開けた。

 

「ん、美味い」

 

 ツカサの言葉によって部屋の緊張感は一気に解け、リアはへにゃり、と表情筋を崩す。なんだかんだ言って、ツカサに料理を褒められるときが彼女にとって一番嬉しい時なのである。

 

「やった!やっぱりこれはトマトだよね!?」

「ああ、ほとんど現実(リアル)と一緒だ」

「ようやく見つかってよかった、ケチャップだけ妙に物足りなかったから。でも、最前線でドロップするアイテムだから、まだまだ商業化は難しそうだね」

「だな。90層あたりまで突入してしまえば当たり前になるかもしれないけどな」

 

 なんて会話をしつつ、平らげ、食後のコーヒーを啜る2人。どうやらオールラウンダーとしてこの世界をより良くするという思考は、こうして最前線を離れている間も忘れていないようだった。

 

「…そういえばさ」

「ん?」

 

 コーヒーカップを口に運ぶ手前でリアが口を開き、ツカサは呼んでいた新聞から目を上げる。

 

「軍のこと、どうしようか」

「…そうだな」

 

 最近の悩みとなっている軍…アインクラッド解放軍、と名前を変えたその組織は、いまでは手綱の切れた暴れ馬と化している。秩序や統制が全くなく、ただの有害な組織になれ果ててしまった。

 

 リアとツカサが支援している、あの教会も軍の支配地域のため、考えなくてはいけない大きな問題の一つだった。

 

 教会の拠点を上の層にすることも視野には入れているものの、それはただ単なる一時的な凌ぎにしかならないし、始まりの街に住まう他のプレイヤーを見捨てることにもなる。それは自分たちの目的上宜しくないことなのだ。どうせなら、軍のほうを改革したい。

 

 だが、そう簡単なことでもないことは、リアとツカサも重々承知だった。

 

 組織というのは厄介だということは、身をもって知っている。改革には膨大な時間と労力が必要とされるのだ。しかし、かといって自分たちができるか、と言われれば答えはノー。

 

 最前線を開拓できる数少ないプレイヤー(現在は休止中であるが)として、常に最優先は攻略だということは、リアとツカサの同意見だった。

 

 が、この無視できない状況。

 

「あああ…どうしたもんか…」

 

 リアは珍しくその整った顔立ちに憂いを浮かべ、深くため息を吐いた。

 

 

―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―

 

 外に出れば、少し冷えた冷たい空気が肺を満たす。すでに日は高く上りきっているというのに肌寒い。冬の足音がすぐそばまで来ていることを感じ、リアは思わず空を見上げる。

 

 どこまで茅場は現実世界に近づけたかったのだろうか、その青空はまさに冬の空色だ。夏より澄み渡る薄い青。

 

 この空は日本までつながっていると故郷を思い出しながらなんど見上げたことか。

 

 リアがそんな感傷に浸っている時だった。

 

 隣の家(と言っても、10メートル程度離れている)の扉が唐突に開き、話声と共に3人の人間が出てくる。

 

「パパ~、抱っこ!」

「おー、いいぞ!」

「キリトくん、すっかりパパが板についちゃったね」

 

 …ん?

 

 リアは思考が停止した。

 

 あれぇ、なんでこんな辺鄙(へんぴ)なところかつ、マイホームの隣から聞きなれた男女の声が聞こえてくるんだ?おまけに、幼女の声までして、パパと呼ばれている男がいるぞ?

 

 ちらりとリアがツカサを見上げれば、ツカサも固まっていた。そして、2人でゆっくりと声のほうを向く。

 

 そこには、幸せそうな3人家族…そして、そのうち2人は、リアとツカサのよく知る人物だった。

 

 リアとツカサの凝視に気がついたその夫婦もこちらを向き、バッチリと視線が交差する。

 

 男にしては少々長めの黒髪にやや女顔の少年、そしてもう一人は栗色のロングヘアを揺らし、大きなハシバミ色の瞳を持つ少女。

 

 …もう、これは疑いようがなかった。

 

 この世界にドッペルゲンガーというものがなければ。

 

 間違いなく、彼はリアの従弟で、彼女はツカサのはとこだった。

 

 そして、ピシャァァァン!と雷でも落ちたかのように静まり返るこの状況の中、まったくその雰囲気にそぐわないかわいらしい声が一つ。

 

「パパ?ママ?」

 

―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―

 

「まっさか、キリト達のホームがうちの隣なんてねぇ…」

「確率にしたらとんでもないぞ…」

 

 一端キリトとアスナの家にお邪魔させてもらい、アスナの淹れたお茶をすすりつつ、リアとツカサはまあ状況を受け入れていない様子で呟いた。勿論、2人のセリフはキリトとアスナも言いたいものだ。

 

 というか、未だにホームの場所を教えていなかったことに、今更気がついたリアとツカサ。いや、言い訳をすれば、こんな辺鄙なところに毎回のようにキリトを呼ぶのは非効率であるし、普段は依頼やら攻略やらであまり家として機能していなかったことも大きい。…いや、別に隣にキリト達が引っ越してきたことは何の悪いことはない、一体何を言い訳しているんだ、とまだ困惑しているリアの頭の中にはぐるぐると可笑しな思考が回っていた。

 

 

 しかし、今現在この状況で最も話題にすべき議題はほかにある。

 

 別に家族同然のキリトと、一番仲の良い同性の友人であるアスナが引っ越してきたことはなんの問題もない。

 

 一番問題なのは…

 

「新婚になってヤることヤってるのは分かる。けどさ、どうやったらこのアインクラッドで子供なんてできるの…?初めて聞いたんだけど」

 

「リア、俺達にはまだ聞いたことがないシステムかもしれないが、実際にはあるのかもしれないぞ。なにせ、こことリアルの“死”は直結してる。ならば、“生”すらも直結することも可能なのかもしれない」

 

「え、それ言ったらリアルでもアスナ、妊娠して子供生まれてるってこと?十月十日はどこ行った?」

 

「もしかしたら、ヤることヤったのは十月十日前かもしれないぞ」

 

「ああ、若気の至りで…ワンナイトラブ…うちの従弟が…まだあんなに小さかったキリトがこんなふうになっていくなんて…」

「あんなにアスナもおしとやかだったのにな…」

 

 段々と怪しげな方向へ話が進んでいく2人。その虚ろな目は焦点が合っていなくて遥か彼方…恐らくキリトとアスナの幼少期を見ているのだろう。口から魂が抜けだしているのかと思うほどの阿保面だ。

 

 一方キリトとアスナは、顔面偏差値チート級の2人の口からそんな下世話な言葉たちがポンポンと紡ぎだされているこの状況にぽかんとしていたが、その話の中心が自分たちだということに気がつき、

 

「「なんと破廉恥な」」

 

 という2人のハモった言葉に我慢できなくなったため、顔を真っ赤にして

 

 

「「ちょぉ~っと待ったぁぁ‼‼」」

 

 とようやく突っ込んだ。

 

 あまりの勢いの良さに、リアとツカサは一瞬でこちらに意識が帰ってくる。

 

「リア姉とツカサが思っているようなことじゃない!」

「そうだよ!大体2人してなに変なこと考えてるの!」

 

 肩を怒らせ、息切れしそうなほどの凄みに、こちらに生還してきたばかりのリアとツカサは目をぱちくりした。

 

 そして、2人して顔を見合わせ、そしてゆっくりキリトとアスナのほうを向き、首を傾げる。

 

 

「「…ほんとに?」」

「「ほんとに‼‼」」

 

 こうしてキリトとアスナの体裁はなんとか免(まぬが)れることができたのであった。

 

―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―

 

 さて、なんとか普通に話ができる状況になったため、キリトはこの8歳ぐらいの少女を発見したときの状況について語った。

 

 なんでも、この近くの森を散策してるときに発見したらしい。近くに親がいる様子もなく、目を覚ましてみると、記憶がない上言語状態は幼児レベル。おまけにシステムウィンドウはバグでおかしくなっているときた。

 

 正真正銘の訳ありの子に違いない。

 

「新聞や雑誌の尋ね人コーナーを探したが情報はなし。でもこんな子が一人でいたら目立つだろう?だからこれから始まりの街にこの子を知っている人がいないか探しに行くところだったんだ」

「なるほどね…」

 

 リアは顎に手を当てて考え込む。

 

「ツカサ君、この子見たことある?」

「いや、ないな」

 

 ツカサは断言した。

 

 オールラウンダーとして、下層プレイヤーから攻略組まで幅広く多くの人と関わってきたリアとツカサは、大方のプレイヤーの顔と名前は憶えている。だがこの子は記憶にない。こんな幼い子どもを見つければ、間違いなく保護していただろうから忘れている可能性は限りなく低いだろう。

 

 こんな子どもが、アインクラッド初日から今日(こんにち)に至るまで一人で生き抜いてきた可能性も同じぐらい低い。

 

 システムのバグという点も引っかかる。NPCであることは間違いないようだが…

 

 

「とりあえず、教会に連れてってみようか」

「教会?」

 

 首を傾げたアスナに、リアは説明する。

 

「始まりの街に、幼いプレイヤーを保護している、いわば孤児院みたいなところがあるんだ。そこを切り盛りしてる人は定期的に街を見回って、困っている子どもがいないかパトロールしてる。もしかしたら、ちらりとでも見てるかもしれないし、そうでなくてもそこならこの子を預かってもらえるからね」

「そんなところがあるんだな」

 

 流石リア姉だな、顔が広い、と感心しているキリトの横に座るアスナの顔は優れない。

 

 それはリアが“預かってもらえる”と言ったからだった。

 

『短い間に、情でも移ったんだろうな』

 

 リアはそんなアスナを横目で見つつ内心思う。確かに、目の前に座る少女は可愛い。艶やかな黒髪にぱっりした黒曜石の瞳、真っ白くてきめ細やかな肌、作り物かと疑ってしまうほど容姿が整っているし、幼児レベルの言語能力とでもなれば、母性本能がくすぐられ愛おしく思ってしまうのは当然のことなのかもしれない。

 

 だが、キリトとアスナは攻略組だ。今は休暇中とはいえ、再び前線に戻ればほとんど家を空けることになる。そうなった場合、寂しい思いをするのはこの子のほうなのだ。それがわかっていても手放しがたいのだろう。

 

 わずかに、羨ましいな、なんて思ってしまった自分を叱咤し、リアは思考の沼から抜け出した。

 

「私たちこれから暇だし、よかったらついていこうか?仲介役がいたほうがやりやすいだろうし」

「ほんとか?それは助かるな」

「ツカサ君もいい?」

「ああ、勿論」

 

 ツカサも快くうなずいてくれる。

 

「よかったねぇ、ユイちゃん。お姉ちゃんたちもついてきてくれるって」

 

 アスナがユイの頭を撫でながら微笑んで言えば、一生懸命ミルクを飲んでいた手が止まり、どこまでも深い黒に純粋な光を湛えた彼女の目がこちらを向く。

 

「…だれ?」

「私はリア。こっちはツカサ君だよ」

 

 まさかの幼女にさえ人見知りが発動しているツカサの代わりにリアが自己紹介をする。すると、ユイは難しそうな表情を浮かべた。

 

「り、あ…ちゅ、さ…?」

 

 リアは言いやすくて大丈夫そうだが、ツカサの名前は難しかったらしい。たどたどしい口調ではちゃんと発音できていない。

 

 それを見かねたアスナは、

 

「こっちがねーねで、こっちがにーにだよ」

 

 という。

 

 いや、アスナ、何言ってるんだ、とリアたちが思うよりも早く、

 

「ねーね!にーに!」

 

 と満面の笑みでユイはアスナの言葉を繰り返した。

 

 ぐほっ、とリアはダメージを喰らった。間違いなく、そんじょそこらのラスボスより相当重い攻撃を繰り出してきやがるぜ…!とリアは心の中で胸を押さえ、うっと蹲(うずくま)りつつ、芝居がかった発言をこぼした。可愛い…!可愛すぎる…!

 

 が、そんなリアよりもダメージを追った人間がいた。

 

 言わずもがな、リアの隣に座るツカサである。

 

 口さえ開いていないものの、その眼は間違いなく遥か彼方イスカンダルへ飛ばされていた。完全に呆けた顔という言葉が似合うほどぽかんとしていた。

 

 ああ、恐らくユイの言った「にーに」という言葉がツカサ君の頭の中で永遠ループしている最中だろうと、リアは考察する。実際、其の考察は完全なる正解だった。

 

 そんなツカサに追い打ちをかけるように、ユイはタッと椅子から降りるとテーブルを回り込んでツカサの脚に飛びついた。

 

 びくぅん!とツカサの手がわずかに跳ねる。

 

 が、問答無用と言わんばかりにユイは満面の笑みで「にーにもいっしょにおでかけ?」と問いかけた。

 

 人見知りに「この子可愛い」が加えられ、二進(にっち)も三進(さっち)もいかなくなったツカサがオロオロと手を震えさせ、視線を必死に泳がせているのを横目に、リアとキリトとアスナは声を押し殺して爆笑していた。リアなんかは、目尻に涙を浮かべ肩が高速で痙攣している。この状況を知らない人が見れば、一大事と勘違いし救急車を呼ぶ(もちろん、この世界にそんなものはないが)レベルだ。

 

 

 普段はどんな状況でも冷静で、涼しい表情を浮かべているあの男が、幼女によって過去最大級に動揺させられているというこの状況が何よりも面白かった。

 

 勿論、この後リアがツカサにコテンパンにされたことは言うまでもない。




はい、いかがでしたでしょうか?なんだかんだで随分長くなってしまいました…。

 今までリアとツカサはいろいろな面で常人離れしていたので、彼らの歳相応の面を出したいなぁと思っていくつか詰め込みました。

 まぁ、僕から言えるのは2人も健全な未成年ということですね!←

 さて、次は教会に4人でレッツゴー!次回も気長にお待ちください!

 
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