プロット通りに書いたのに何でこうなったんですか。
(さて、どうしたものか……)
ナザリック地下大墳墓のモモンガの自室にて、モモンガは思考を巡らせていた。「
だが、この辺りに存在するモンスターに関する報告は有益なものであった。
(この辺りに脅威らしい脅威はない。少なくとも、あの都市までの道くらいならば安全なはずだ)
この付近に存在するモンスターはゴブリンやオーガなどと言った、ユグドラシルならば初心者が真っ先に倒すことになるであろう雑魚とすら呼べないようなモンスターばかり。大墳墓より北に存在する森林地帯にはもう少し強力なモンスターが存在するが、それもモモンガからしてみれば誤差としか言いようがないレベルだ。
いきなり都市に行って無知から面倒事に巻き込まれてはたまったものではない。取り敢えずは近くの村へ向かい、僻地で魔法を研究していたため世情に疎い旅の
「何にせよ、動かねばならん時、か……」
ふと口から溢れたそんな言葉に、モモンガの傍に控えていたアルベドが敏感に反応した。
「モモンガ様。ご命令くだされば、守護者一同、いつでも行動を起こす準備は出来ております!」
「あ、うん……んんっ、そうか、頼もしいな」
「勿体なきお言葉です!」
(あっぶな……NPCの前での振る舞い方も考えないとな……)
突然割と大音量で話しかけられたため一瞬素の口調が飛び出してしまうが、小声だったため幸いにもアルベドに聞こえたような様子はなかった。だが、今後も大丈夫という保証はどこにもない。
(疲れるんだよなぁ……)
外の世界のあるのかどうかもわからない脅威よりも、ある意味そちらのほうがモモンガの悩みの種となりつつあった。モモンガはこの世界へとやってくる前はユグドラシル以外趣味のないごく平凡な社会人だったのだ。上司からの理不尽な要求をどうにかこなし、給料の使い道など生活費とユグドラシル以外ほぼなかったような人間なのだ。
そんな人間にいきなり絶対的な上位者として振る舞えと言われたところで無茶を言うなという話である。モモンガの中でそれに近しい知識といえば、ユグドラシルの中で遭遇したレイドボスと、ギルドメンバーから教えられたアニメや特撮に登場するキャラクター程度のものしかない。
当然、その程度のものではほぼ役に立たないため、ギルドメンバーで遊んだTRPGや、ユグドラシルにて行っていたロールプレイで培った死の支配者としてのものでどうにか騙し通しているというのが現状だ。
(はぁー、アンさんが居てくれたらなぁ……)
こういった悩みが思考を支配するたびに、思考の中をよぎるのは最後までアインズ・ウール・ゴウンに寄り添ってくれた彼女のことだった。
彼女はゲーム内における戦術眼という意味ではモモンガと比べても大きく劣るが、ギルドの評判や他のギルドのトラブルを利用した盤外戦術においてはかのぷにっと萌えですらも「いや自分でもここまでエグくないですよ」と行ってのけるほどの辣腕を見せるのだ。
そんな彼女が近くにおり、尚且愚痴なんかも聞いてくれるのだとしたらこれほどに心強い味方は存在しないだろう。
(いや、考えた所でどうしようもないか……アンさんを探すためにも、まずはこの世界のことをしっかり把握しないとな)
「モモンガ様? いかがなされましたか?」
「いや、なんでもない。少し考え事をな」
「左様でございますか……」
モモンガの悩みの種筆頭となっているアルベドはどことなく不満げな様子だったが、それを口にだすことはなかった。
(なんであんなことしたんだか……)
アルベドがモモンガに対して異常なまでの執着を見せつけているのは、アンサングと別れたあと玉座の間へ向かったモモンガが玉座の間にて控えていたアルベドの設定を「ちなみにビッチである」から「モモンガを愛している」に書き換えてしまった事が理由なのだが、少なくともモモンガが思っていたそれの数十倍重い愛を向けられることとなってしまったのだ。
それに加え、アルベドはナザリックの守護者の中でも知恵者に分類されるだけの頭脳を持ち合わせている。自分の一挙一動をそんな女性に見られていると考えるだけでもモモンガは存在しないはずの胃が締め付けられる思いをしていた。
(うん、情報収集には俺が行こう!
そんな感じで、深淵なる考えなど無縁の領域で今後の方針が決定したのだった。
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アルベドは、憂鬱な思いを隠せずに居た。この大墳墓の主であるモモンガの前でそのような醜態を晒すことは、守護者統括としてあるまじきことではある。だが、1人の男に恋する女としてならば、無理も無い話ではあるのだろう。
(モモンガ様、またアンサング様のことをお考えなのですね……)
モモンガから出された指示に従い、守護者に〈伝言〉を飛ばしている間も、頭の中の半分程度は先程のモモンガの様子が占めていた。
至高の御方としての風格を漂わせながらも、かつての仲間を想い、アルベド達守護者では決して届くことのない領域で思考を巡らせる様は、アルベドが永遠に見ていたいと思うほどに素晴らしいものだった。少なくとも、アルベドの中では。
(アンサング様は、何をしておられるのでしょうか……)
アンサング・ドール。モモンガと同じく、ナザリック地下大墳墓に最後まで寄り添い続けてくれた慈悲深き至高の御方。ユグドラシルからこの世界へと転移した際にナザリック地下大墳墓を出ていたためか現在は行方を眩ませているが、モモンガ曰くこの世界にいることは確かであるという天使を、アルベドは思い浮かべる。
(モモンガ様を悲しませる訳にはいかない……)
守護者達にとって、モモンガとアンサングは等しく、至高の41人の中で最後まで残ってくれた慈悲深い主達だ。だが、アルベドにとってはそれらの意味合いは少々異なってくる。
アルベドにとって、愛しい者であるモモンガをおいてどこかへと去り、今やどこに居るのかもわからない存在など、憎むべき対象でしかない。アルベドを創造したタブラ・スマラグディナに対してはその憎しみもやや薄れるが、憎むべき対象であることに変わりはない。
(何にせよ、早く見つけなくてはならないのは確かね……)
では、そんな彼女にとってアンサング・ドールはどういった存在なのかと言えば少々特殊なものとなっている。
(アンサング様が居なければ何も進まない……!)
何がと言われれば、アルベドの恋の行方である。
アルベドはこの世界に転移する前から、玉座の間にて雑談を交わすモモンガとアンサングの姿を見てきた。
彼らを除いて誰も居なくなってしまった、至高の41人。例えアルベドにとって憎むべき対象であったとしてもモモンガが彼らを何より大切に思っていたことはアルベドも理解している。そして、彼らが居なくなってしまったことがモモンガにとって耐え難い悲しみだということも。
そんな中において、アンサングと話す時だけは、モモンガも、そしてアンサングも、その悲しみを忘れることが出来ていたように感じたのだ。
そしてアルベドから見た玉座に腰掛けるモモンガと、玉座の肘掛けに腰掛けたアンサングが雑談を交わすその様は、非常にお似合いだったのだ。残された2人が互いに互いを温め孤独という寒さに耐えようとするかのように明るく雑談を交わす光景は、そのまま絵画にすることが出来ればこの世界の至宝にできるのではないだろうかとすら思えるほどに儚げで、美しいものだった。少なくとも、アルベドの中では。
長々と語ったが、早い話がアルベドはアンサングを恋敵として認識していたのだ。
無論、モモンガにもアンサングにもその気は欠片も存在しない。互いにリアルをゲームに持ち込むことを嫌う気があったため、互いに互いのリアルはあまり知らず、モモンガはアンサングのことをたっち・みーの知り合いだから勝ち組なんだろうけど良い人だから別に問題ない程度にしか認識しておらず、アンサングもまたモモンガのことはいっつもメンバーのことを第一に考えているお人好し程度にしか認識していない。普段からログインしているギルドメンバーがモモンガとアンサングになってからは互いに互いが大切な存在になったことは確かであるが、どこをどう間違えたとしてもそれは恋慕のそれではない。
そんなことは露程も知らないアルベドは、モモンガの第一后となる際の最も高い壁としてアンサングを(悪意0で)敵視していたのだ。
無論、アンサングが居ない間にモモンガと事を成してしまえば実質勝利だろうという誘惑や、捜索するふりをしてアンサングを亡き者にしてしまえばいいという暗い欲望がアルベドを襲うこともある。だが、そんな事をするのは「私は貴方が居ると恋を成就させることが出来ない負け犬です」と声高に叫ぶようなもの。栄えあるナザリック地下大墳墓の守護者統括であり、モモンガの第一后となる(予定の)者がそのような無様を晒せるわけがない。
(一刻も早く、アンサング様を見つけないと!)
その勘違いを指摘する者が居ないまま、アルベドは気合を入れ直して守護者統括としての仕事に戻るのだった。
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(うおお、何だ? すっごい、お姫様だ)
突然目の前に現れた絵に描いたようなお姫様を見たアンサングは少しの間脳内の語彙力が消失していた。一方のラナーもまた目を丸くしており、彼女の後ろに控えていたクライムは、王城の中では見慣れない顔であるアンサングに対し、警戒を深めた。そんな彼が視界に入ったアンサングは、面倒なことになる前に親しげな笑みを浮かべて喋り始めた。
「これは失礼。つい見とれてしまっていたよ。私の名前はアンサング・ドールという。訳あって旅をしていた所王国戦士長殿の任務を手伝うこととなってね。それの礼を兼ねて招待されている身だ。遠方の地から来たせいで世情に疎くてね。失礼だが、お名前をお聞きしても?」
アンサングが自らの身の上を話すと、クライムも取り敢えずの相手の身分がわかったからか警戒を解き、ラナーもまた邪気など欠片も存在しない花が開いたような笑顔を浮かべ、言葉を紡ぎ出した。
「まぁ、旅人の方だったのですね。私はラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。この国の第三王女です。こちらは私の騎士、クライムです」
「ご丁寧にどうも」
自分が紹介されたからだろうか、クライムが姿勢を正し、丁寧に一礼してみせた。そんな様子を見ながら、アンサングもまた親しげな様子を絶やさずにやや芝居がかった口調で喋り続ける。
「それで、王女ともあろう方が何故こちらに?」
「あの戦士長が客人を城に招くというのとても珍しいことですから、一体どんな方なのか気になってしまいまして」
「ああ、やはりガゼフ殿はそんな感じなんだね」
「はい、いきなり貴方のような美しい方を連れてくるものですから、ちょっとした騒ぎになっているんですよ?」
「ああ、もし迷惑をかけてしまったのなら謝るよ。とはいえ、今の私は無一文だからお姫様が満足するような謝礼は出せないけどね」
「迷惑なんてとんでもありません! それよりも、もしお時間があるのでしたら私に旅の話を聞かせてくれませんか?」
「ああ、それでいいなら、喜んで話すとしよう」
ラナーは変わらない無邪気な笑顔を浮かべながら答える。それに対してアンサングは薄気味悪い違和感を感じながらも、ラナーとクライムを客間へ入れた。
―・―・―・―
「とまぁ、話として面白いのはこんなところかな。お姫様のお眼鏡に適ったかい?」
「ええ、とても! 私は外に出ることが殆ど無いので、とてもおもしろかったです! クライムはどうでしたか?」
「はい、自分としても非常に興味深い話でした」
「そうかい、それはなによりだ」
取り敢えずユグドラシルにて行われたレイドイベントの内の1つを物語として語った。無論、規模はこの世界に合わせて相当ダウングレードさせてある。アンサングは語る際に閉じていた目を開き、ラナーとクライムを見据えた。表面上こそ礼節を持った口調ではあるが、クライムのその瞳は英雄譚を初めて聞いた子供のような輝きを隠しきれては居なかった。そんなクライムの様子を見た後に、アンサングは机を挟んで対面に座っているラナーに視線を向けた。その顔には相変わらずの穏やかな笑みが浮かんでいる。
(気のせいだと思いたいが……)
この世界がゲーム世界ではない以上、アンサングは出会う人物全てに対してある程度警戒して接してきた。
だからこそ、ラナーを見たときに感じた違和感の正体に気づくことが出来た。
人は生き物である以上、完全に同じ表情を繰り返すということは出来ない。その日の体調、その瞬間瞬間の気分、周囲の環境。そういった様々な要因によって、一見同じように見える笑顔にも僅かながら差異が発生する。そういったものさえも判断材料にしなければならない会話を現実世界で嫌という程に行ってきたアンサングはそういったものを読み取る能力で言えば一流であり、その僅かな差異から相手の真意を見抜くことすら可能だった。
(楽観的が過ぎるよな……!)
だが、目の前に座っているラナーからはその差異が一切見られなかった。まるで、こう言われたら笑顔A。ああ言われたら笑顔B。そう言われたら笑顔Aと予めそうプログラミングされているかのように表情を変えるのだ。
あらゆる行動や仕草、表情や言動から本心を廃する。そういったものに気をつけなければ何をされるかわかったものではない世界を生きてきたアンサングからしてみればふざけるなとしか言いようがないレベルだった。
今現在の段階でこそ、敵対する要素は何も存在しないが、もし目の前のこれが人並み以上に頭が回るならば単純な知恵比べで上回ることは不可能だ。
乾かないはずの喉が干上がるのを感じながらもアンサングは表面上は親しげな笑みを浮かべて言葉を紡ぎ出した。
「さて、お姫様がいつまでも私のようなどこの馬の骨ともわからない奴と居るものではないよ。怒られる前に帰るといいさ」
「うーん、そうですね。名残惜しいですが、私もそろそろ戻らないといけません。ドール様、楽しいお話をありがとうございました。行きましょう、クライム」
「はい。それではドール殿、私達はこれで」
ラナーが優雅に一礼をした後、クライムもそれに従って一礼し、出口へ向かって歩き始めた。
「ああ、ドール様。1ついいですか?」
「……何だい?」
扉を開けるためにクライムがラナーより先に出たタイミングで、ラナーが後ろを向いてアンサングを見据えた。そのラナーの顔を見たアンサングの動きが一瞬硬直した。
「私はとある事情から、力のある方との繋がりを大事にしたいのです。もし、何かあった時には私に力を貸してくれますか?」
「……報酬次第、かな」
その顔に浮かんでいたのは、先程までの穢れを知らない無垢な姫君が浮かべるそれとは正しく対極にあるものだった。狂気を孕むどころか瞳そのものの輝きは欠けているように見えるにも関わらず、その狂気が光を照り返して剣呑に輝いているかのように感じる瞳。辛うじて笑みの形を保っているに過ぎない唇。その表情を見たアンサングは少し黙った後に苦笑いを浮かべ、そういうのが精一杯だった。
アンサングがそう言うと同時に、一瞬前まで浮かべていた表情は鳴りを潜め、再び花が開いたような笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます! 連絡は戦士長さんを通じて行えばいいですか?」
「ああいや、これをあげよう。お姫様でも使える〈伝言〉に似た魔法を込めた宝石だ。この宝石を持っている者同士でしか会話は出来ないが、用がある時はこの石に語りかけるといい。返事ができる状況ならば応じるよ」
これを敵に回してはならない。本能でそう察したアンサングがそう言ってラナーに渡したのは簡易な装飾が施された赤色の宝石だった。
――――――――――――――――
「フフフ……」
「ラナー様、その宝石は……?」
自室へと戻ってきたラナーは終始笑顔を浮かべていた。彼女が笑顔なのは割といつものことなのだが常日頃から彼女のそばにいるクライムから見ても、今の彼女は上機嫌に見えたため問いかけた所、クライムの方を向いたラナーはやはりいつもの数割増しで輝いている笑顔で喋った。
「とっても素敵な贈り物よ」
「はあ……」
とはいえ、普段からラナーの傍にいれば高級な品を目にすることも珍しくないため一般人と比べれば少しは目利きが聞くクライムから見ても、その宝石はラナーの服飾に使われているものと比べて質が良いものとは思えなかったため、曖昧な返事を返すことしか出来なかった。
気づいていた。否、気づかれた。
先程からラナーの脳内を支配していたのはその事実だけだった。
ラナーの内に秘める狂気を知る者は数こそ少ないが確かに存在する。だが、取り繕うことを覚えたラナーを見てその狂気を看破した者は彼女が──素性も何もわからない旅人、アンサング・ドールが初めてだった。旅人と言うには明らかに無理がある軽装ながら絢爛豪華な装備と、もはや芸術家が作った彫刻であると言われたほうが納得がいく程に整った彼女自身の容姿。
(ああ、何だろう、この気持ちは。恐怖? 羨望? 歓喜? わからない、わからない!)
極めつけは、最後に見せた彼女の表情。まるで、お前も大変だなと言わんばかりの嘘偽りのないようにしか見えない苦笑い。そこにどんな本心を隠しているのかはわからないのに、何かを隠していることだけはわかる苦笑い。
彼女は、アンサング・ドールは、自分と同じ人間なのかも知れない。いや、そう看破したからこそ、〈伝言〉と同等の機能を無制限で誰でも使用可能というこれ1つで立派な豪邸が建てられるであろうマジックアイテムを渡したのだろう。
自分を使いこなしてみせろとでも言うのだろうか。それとも、お前など井の中の蛙だとでも言うのだろうか。それとも……
沢山の判断材料を渡されたにも関わらずアンサングの真意がラナーにはわからなかった。その未知は、途方も無いほどに甘美なナニカとなり、ラナーを包んでいた。
「今日は良い天気ね」
同じ光景しか見えないはずの、自室の窓から見える風景が、今日は何故か輝いて見えた。
ちょっと主人公の説明をしないと分かり辛いにも程があるので次の投稿は主人公の設定になると思います。
評価やお気に入りや感想ありがとうございます。執筆の励みになっております。