シズちゃんが酒代のために冒険者になる話 作:ファジー・ネーブル
シズちゃんが酒代のために冒険者になる話を書きたかったのです。
2018/10/08/23:30.読み返して死ぬかと思うほど恥ずかしくなったので書き直しました。
たまにちょいちょい表現や誤字を修正したりしてます。
彼女は何の因果か生まれ故郷にして死に場所であるナザリック地下大墳墓から未知の世界へ転移してしまった。ここはユグドラシルなのか、「りある」なのか、全くの異世界なのか、それすら分からなかったが、彼女が行うべき事は変わらない。ナザリックに帰還する。それこそが最優先事項にして最終目的だ。
そんな彼女は今、酒代のために冒険者になろうとしていた。
ことの始まりは転移直後まで遡る。
彼女は不幸中の幸いというべきか、エ・ランテルという都市の近くに転移した。
(…………状況は分からない。でも、このままだと餓死する。)
彼女は
ナザリックから放り出された以上、このままでは食事も取れずに死ぬ。彼女は死を恐れていない。だが、至高の御方々の役に立てないことを何よりも恐れている。至高の御方々の役に立たない形で死ぬことだけは認められない。
(…………だから、生き延びて、帰らないと)
そんな彼女は自分が摂取できる食料を求めて、エ・ランテルに入ることにした。そしてカルマ値がプラスに設定された存在らしく、検問所を通ろうとする人々の列に真面目に並んだ。
このとき前に並んでいた四人組が、ことの発端となる。
彼らはいわゆる冒険者というもので、いつも通り
(金属鎧の音?にしては足音が小さい、というか歩幅が狭い)
彼の常識では金属鎧というのは体格にも体力にも優れ、なおかつ金銭的に余裕がある
そこには神の芸術品があった。
この世のいかなる人形より整った顔立ち、冷たい輝きが宿った
黄金のラナーと名高き第三王女と並ぶであろう美しさがそこにあった。
彼は列から抜け出して、道化のような仕草で彼女の前に跪きながら口上を述べた。
「初めまして美しきお嬢さん!俺の名はルクルット・ボルブ!あなたのお名前を教えていただけませんか!?」
「…………うわぁ」
「ド、ドン引きありがとうございます!」
彼女は思わずこの上なくダサいものを見たかのような声を出してしまった。しかし彼は随分と心が強かったらしく、ドン引きされていると理解した上で感謝してのけた。彼女はその心の強さを少しだけ評価しようと思った。なお、彼の仲間と思しき三人は苦笑いをしていた。
「それで、お名前を教えていただけたら嬉しいのですが」
「…………」
シズは悩んでいた。彼女は『ナザリックの全てのギミック及び解除方法を熟知している』と『設定』されている。ゆえに情報漏洩の恐ろしさというものにはプレアデスで最も敏感だった。ここがどこか分からない以上、自身を含めたナザリックの情報をどこまで開示して良いのか、慎重な判断が必要だ。ナザリックの情報を抜こうとする敵対者の意思でここに転移させられた可能性もゼロではないのだから。
「あ、あの?」
「…………シズ」
結局、彼女は自分をピンポイントで転移させた者ならば知っていて当然であろう情報から開示していくことに決めた。自分の名前が広まれば、もしかしたらナザリックが自分を見つけてくれるかもしれないという期待もある。
「シズさん!いやシズちゃんと呼ばせていただきたい!惚れました!一目惚れです!愛しています!どうか俺と付き合ってください!」
「…………嫌」
「い、嫌って……」
ルクルットはシズの取り付く島もない反応にガックリと肩を落とす。ドン引きされた上で彼女の極寒の視線に耐えながらアプローチしたことは褒められてしかるべきだろう。
彼女は自分が至高の御方々に与えられた美しさに、彼が一目惚れをしたということは理解した。しかし、この身は至高の御方々のものだ。くれてやる訳にはいかない。
「ではせめてお友達から!」
「こらルクルットいい加減にしないか!すみません、うちのチームメンバーが……」
「…………いい」
ダサいとは思っても害を受けたとは思っていないシズは鷹揚に答えた。しかし少し気になった言葉を聞き返す。
「…………チーム?」
「はい、冒険者チーム『漆黒の剣』です。私はリーダーで
「
「
「
「以上、四人からなる
「…………冒険者って何?」
「えっ」
「…………えっ」
どうやらこの地では知っていないとおかしい常識だったようだ。常識を知らずに大失敗するところだったと、シズは聞き返した判断を自賛するのだった。
「えっと、冒険者というのは隊商の護衛やモンスター退治などによって収入を得る仕事です。聞いたことはありませんか?」
「…………ない。
「冒険者は実績によってランク分けされているんです。下から順に
そう言いながらペテルは首にかけた銀のプレートを持ち上げて見せた。
「…………アダマンタイトより上は?」
「ありません。アダマンタイトが最も硬い金属ですから」
「…………そう。ありがとう」
「いえ、お役に立てたなら幸いです」
シズは至高の御方々が話していたことを思い出していた。たしか、『しょしんしゃえりあ』なる場所では敵が弱い代わりに程度の低い金属しか採掘できないという話だった。ではアダマンタイトが最も硬いというここはユグドラシルの『しょしんしゃえりあ』なのだろうかと彼女は考えた。
話が一段落したと見たペテルは、シズに誰もが疑問に思うであろうことを聞いた。
「ところで、シズさんは変わった装備をされていますがメイド、なんでしょうか?」
「…………うん」
どうやらシズのプレアデスとしての装備が気になっていたらしい。シズ・デルタのことも知っているものならば当然プレアデスことも知っているはずなので、シズは教えても問題ないと考えて肯定した。
すると、その肯定を聞いたニニャがためらいがちに問いかけてくる。
「あの、ツアレニーニャという女性を知りませんか?あちこちの屋敷を盥回しにされているらしいのですが」
「…………知らない」
「そうですか……」
それを聞いたニニャは悲痛な表情を見せる。それを見たシズは創造主に設定された善性を刺激されるが、できることは大してないと思いなおす。
「…………見つけたら、教える。……頑張れ」
「ありがとう、ございます」
そう言ってニニャは少しだけ笑う。そんな場の空気を変えるようにペテルがシズに問う。
「そういえば、変わったメイド服をお召しになられていますが、シズさんはどこからいらしたのですか?」
「…………ナザリック」
「ナザリック……?聞いたことが無い地名ですね……。遠い、にしては荷物をもたれていませんし……」
「…………転移で飛ばされた」
「転移!?」
「驚きである!」
「どうしてそんなに驚いてるんだ?」
「転移ってたしか、第三位階の魔法だろ?すごいけどそこまで驚くことか?」
「第三位階の転移は
「第五位階といえばアダマンタイト級冒険者、英雄の領域である!シズ殿は一体誰に飛ばされたのであるか?」
「…………分からない。気付いたらこの近くにいた」
「着の身着のままってことか、それで荷物をもってなかったんだな」
「…………うん」
厳密にはアイテムボックスにいくつかの装備やアイテムなどの荷物は入っているが、このあたりではアイテムボックスを使わないか、使えないのが当たり前のようなのでシズは話をあわせる。合点が行った様子のペテルがこれからどうするのか問う。
「ということは、シズさんはナザリックに帰られることが目的なのですね?」
「…………うん」
「しっかし聞いたことも無いほど遠くから転移なんて、どうやって帰ればいいんだ?」
「ルクルット!」
「あっ、ごめんシズちゃん!不安にさせるつもりじゃなかったんだ!」
「…………探す。地の果てまで」
「いや、シズちゃん、地の果てまでって……」
「…………例え一生かかろうと探す。世界全て」
彼らは最初、小さな女の子がムキになっているか、現実逃避をしているのだと思っていた。だが、シズの全く揺るがない目を見て認識を改めた。この子は本気だ、と。
ニニャにはそこまでして帰りたい奉公先があるとは信じられなかった。貴族の豚どもは自分たちのことを家畜だとしか思っていない。どこの国でも同じはずだ。
「シズさん、あなたは一体……」
「…………私は至高の御方々に仕える戦闘メイド『プレアデス』が一人、シズ・デルタ」
至高の御方々。そんな敬称をもつ存在など彼らは知らない。このリ・エスティーゼ王国の王族どころか、隣のバハルス帝国で絶大な権力を誇る皇帝すらそんな呼ばれ方はしていない。そしてシズのような美貌と忠誠心の持ち主を護衛として複数抱える存在など、想像もできない。
「…………順番、来た」
見ると前に並んでいた人の検問が終わり、漆黒の剣とシズの番が来たところだった。彼らは彼女に大きな謎を感じながら前へと進んだのだった。
そして案の定シズは検問所で止められた。彼女がラナー王女に匹敵する美しさを持っていたことや、彼女の装備の全てに鑑定しきれないほどの魔法がかかっていたことも検問所の兵士たちを驚かせたが、止められた理由はそこではない。
金がない。それが唯一の理由だった。
シズ・デルタはNPCである。少なくともユグドラシルではNPCが金を使う機会など存在する訳がない。ゆえに彼女は一銭も持たされておらず、無一文だった。
このままでは都市に入れず餓死するのも時間の問題だろう。そこへ救いの手を差し伸べたのが先ほどドン引きされた男、ルクルットだった。
「まあまあ兵士さんたち!その子が入れないのは通行料の問題だけだろ?なら俺が払うからさ、通してあげてよ」
「知り合いなのか?」
「告白したりされたりした仲なんだよ」
「…………告白されはしたけど、告白してはいない」
シズは
「ああ、そういうことならいい。ほら、早く払って通れ」
兵士はめんどくさいものを見たような目でそう言うと、ルクルットから通行料を受け取ってシズを通した。
シズは思う。この人間たち、特に通行料を貸してくれたルクルットという男がやたらと好意的なのは自分の外見が働いているのだろうと。この魅力という力によって、自分は都市に入ることができる。創造主は、博士は今もその御力で自分を守ってくれているのだ。彼女は自らの創造主への畏敬と感謝の念を一層深め、例え何を犠牲にしようとも絶対にナザリックへ帰還しなければならないと決意を改めたのだった。
そしてエ・ランテル市内へ入ったシズは驚きで立ち止まる。
「…………うわぁ」
右を見ても人間、左を見ても人間。どこを見ても人間、人間、人間。かつてナザリック地下大墳墓におよそ1500人もの人間の集団が攻め込んできたと聞いたことはあったが、外から見た都市の大きさと中から見た人口密度を合わせて考えれば総人口は1500人どころか数万人、数十万人はいるのではないだろうか。
「そういう感動の『うわぁ』を俺のときにも聞きたかったなー……」
「馬鹿なこと言ってるんじゃないルクルット。シズさんは人が多いところは初めてですか?」
「…………うん」
「はぐれないように気をつけるべきであるな!」
「よっし。ならシズちゃん、俺と手を繋ごう!」
「シズさん、僕と手を繋ぎましょう」
「…………分かった。ルクルットと繋ぐ」
「諦めろルクルット。完全に脈無しだ。……えっ!?」
「いやまだだ!諦めたら勝負は終わりだろ!?……えっ!?」
「…………?」
漆黒の剣の面々が驚愕する一方でシズは無表情のまま首を傾げていた。そのシズに恐る恐るペテルが問いかける。
「あの、シズさん……今なんて?」
「…………ルクルットと繋ぐ、と言った」
「そ、それはお付き合いしてくれるってこと!?」
「…………それは嫌」
「つまり、どういうことであるか!?」
「…………ルクルットと交際する気はない。でも、ルクルットは私のことが好きで通行料を貸してくれた。……だからお礼」
「えっと、よかったですね。ルクルット」
「ニニャ、教えてくれ。俺は手を繋げることを喜べば良いのか?付き合えないことを悲しめば良いのか?」
ルクルットの真顔の問いにニニャはそっと目を逸らした。
居た堪れない空気を変えるべくペテルがシズに尋ねる。
「そういえばシズさんは何か働き口に予定はありますか?やはり、故郷に帰るにも当面の生活費は稼がなければなりませんし」
「…………冒険者になりたい」
「例えば権力者や豪商の護衛とかではなくですか?冒険者は死ぬかもしれませんよ?」
「…………私が仕えるのは至高の御方々だけ」
「分かりました。では登録の為に冒険者組合に行きましょう。初めは誰でも
「そうそう、手取り足取り何でも教えるぜ!」
「魔法のことなら聞いてくださいね」
「森のことなら任せるのである!」
「…………ありがとう」
四人の善意に礼を言って、ふとシズは大事なことを思い出す。この街に入ろうとしたそもそもの目的だ。
「…………聞きたいこと、ある」
「おっ、さっそくか!シズちゃんが知りたいことならこのルクルットお兄さんが何でも教えてあげちゃうぜ!」
「落ち着いてください。多分ルクルットが知ってることじゃないですから」
「むしろ変なことを教えないように監視すべきである!」
「ニニャもダインも言いすぎだ。ルクルットも悪気があるわけじゃないんだ。答えられないだろうけど」
「お前らなぁー!?」
相変わらず仲のいい四人を見ながら、シズは至近において最も重要な質問をした。
「…………この街で手に入る、最もカロリーが高い飲料は?」
その意図が分かるような分からないような質問に、四人は顔を見合わせた。
こうして、シズは漆黒の剣に連れられて冒険者組合へ行き、酒代のために冒険者になるのであった。
続く。