シズちゃんが酒代のために冒険者になる話   作:ファジー・ネーブル

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シズの合理的思考に関する『設定』と魔銃名は独自設定です。


シズちゃんが周りにドン引きされる話

 C(シー)Z(ゼット)2()1(イチ)2()8(ハチ)Δ(デルタ)。通称シズ・デルタ。それが彼女の名だ。

 

 彼女は自動人形(オートマトン)として創られ、基本的に合理的な思考で動くように『設定』されている。だが、人間の思考は非合理的な部分も多い。ゆえに彼女の思考は常に賛同される訳ではないのだ。

 

 そんな彼女は今、周りにドン引きされていた。

 

 ことの始まりはカルネ村に到着したときまで遡る。

 

 

 

 カルネ村に一行が着いたとき、そこは狩り場だった。頑丈な鉄の鎧を身に纏った騎士たちが無手の村人達を追いかけ回しては冷たい(つるぎ)を刺していく。妻子を守ろうと抵抗した父親は何度も貫かれ、わが身を挺して子供を守ろうとした母親は首を()ねられた。

 

 その光景を見たンフィーレアはシズにこのまま村へ突入することを頼む。

 

「シズさん!このまま突っ込んでください!騎士の注意を引き付けます!」

「…………了解」

 

 シズは時速50キロメートル近い速度で吶喊(とっかん)し、ンフィーレアは荷台に掴まりながら魔法を放つ。

 

「《酸の矢(アシッドアロー)》!」

 

 彼の指先から飛び出した酸の矢が騎士達の鎧を溶かし、その隙間から酸が入ったらしき騎士が悲鳴を上げながら転がりまわる。周りの騎士達は仲間をやられたことに激怒した様子で一斉にシズ達を追いかけだした。

 

「次の分かれ道を左へ!」

「…………左折、了解」

 

 ンフィーレアは騎士達を森へ誘導しようとしていた。森の中ならば大勢が一人に斬りかかり(にく)くなる。シズが騎士達を倒すのが少しでも楽になるはずだ。そういう計算で彼は動いていた。

 

 そして、森のほうへ向かったのはもう一つ理由がある。その方向に、最も助けたい女性がいるのだ。エンリ・エモット。彼女の家は村の中でも森側に近かった。もしもどこかへ逃げ出そうとするならば森の中を目指すはずだと彼は判断していた。

 

 そして彼らが森へと続く一本道に出たとき、彼はそれを見つけた。最も守りたい女性が、最も愛している女性が、騎士の凶刃に倒れようとしているのを。だがこの位置では《酸の矢(アシッドアロー)》は彼女にも被害が及んでしまう。ゆえに―――。

 

「シズさん!『僕を投げて!』」

「…………幸運を」

 

 彼は自身に《鎧強化(リーンフォース・アーマー)》をかけると、シズに投げられ硬い金属鎧を纏った騎士へ肩からぶつかった。肉が金属に叩きつけられる音がする。彼は体勢を崩した騎士を地面に押さえつけるが、魔法で防御力を強化したとは言え生身で鉄の塊に衝突して痛くないわけがない。だが彼は自身の痛みなどどうでもいいと言わんばかりに叫んだ。

 

「エンリ!逃げて!」

「ンフィーレア!?」

 

 エンリは驚愕した。騎士に追い詰められ、ただでやられてなるものかと硬い鉄の兜を拳が砕けるほど殴りつけた。だがその行為は騎士を逆上させ、背中を切りつけられる結果にしかならなかった。もう自分は死ぬ。せめて妹だけでも助けたい。そう考えた瞬間に彼が現れたのだ。

 

 下敷きになった騎士は激昂し、単純な力の差でンフィーレアを跳ね飛ばした。そして血に(まみ)れた(つるぎ)で彼を突き殺そうとした。だが―――。

 

「《酸の矢(アシッドアロー)》!」

 

 再詠唱時間(リキャストタイム)が間に合った魔法が兜の隙間に当たり、その奥の目を焼き潰す。騎士はたまらず絶叫し、(つるぎ)も捨てて逃げ出した。

 

 兜から跳ねた酸がンフィーレアの肌を焦がす。だが彼は声一つ上げずにエンリに歩み寄った。彼は懐からポーションを取り出し、彼女に差し出す。

 

「これを飲んで、エンリ」

「ンフィーレア、どうして……」

「そんなことはいいんだ。いまは、君の傷を癒したい」

 

 火傷だらけにも関わらず優しい声をかける彼に、思わずなぜここにいるのかと問う。だが彼はそんなことよりも私の傷を癒したいと語った。

 

 エンリは気付いた。彼は、ンフィーレアは私を助けるために来てくれたのだと。彼女の心臓が大きく跳ねる。今まで友人だとしか思っていなかった彼がやけに男らしく見えた。

 

「エンリ、僕の恋人になって欲しい。君が好きだ」

「……はい!」

 

 ンフィーレアは戦場の高揚の中で、平穏な日常や好きな人の命など容易に失われるものだと理解した。ゆえに彼は何をしてでもそれらを守り抜くという覚悟を抱いたのだ。

 

 ちなみに、その背景でシズが追いついた騎士達をナイフ一振りで蹴散らしている。二人の邪魔をするものは当分現れそうになかった。

 

 

 

 高く昇った日の(した)で、素朴な葬儀が行われている。あの後で騎士達はシズに追い散らされたが、それまでに失われた多くの命は戻ってはこなかった。その中には、エンリ・エモットの両親もいる。彼女は父母の亡骸に寄り掛かって泣いていた。

 

 ンフィーレアは彼女に寄り添い、手を握る。騎士を追い払い傷を癒した。だが、亡き人を蘇らせることはできない。彼は自らにできることは彼女の傍にいることだけだと言わんばかりに、ただ強く彼女の手を握った。

 

 ンフィーレアはエンリの傍にいるためにカルネ村に数日滞在することにした。ゆえに彼に雇われたシズも同じく留まることになる。そして彼女は彼からの追加依頼で、その怪力によって村の復興を手助けしたのだった。

 

 嵐は去った。あとは踏まれた麦のように立ち上がろう。小さな体で盛んに人々を助けるシズを見て、村人達は悲しみを背負いながらも前を向いて生きていく決意をした。

 

 

 

 だが、その決意を踏み躙るかのように新たな影が村に迫る。物見櫓(ものみやぐら)に登っていた村人が、新たな騎馬の一団がこの村に向かっていることを見つけたのだ。

 

 村人達はンフィーレアとシズに頼み込む。どうかもう一度村を救ってくれないか、と。彼は快諾する。彼は愛する人と、その人が住む世界を守りにきたのだ。ならば彼に雇われている彼女にも異論はない。

 

 そうして彼と彼女は待ち受ける。村の広間で謎の一団を。

 

 そこに現れたのは装備が異なる傭兵のような一団だった。金がないゆえに揃わないというより、個々人が得手不得手に合わせて改造を施したような格好だ。そしてその先頭に出たのは黒髪黒目の屈強な男。彼は広場で二人を目にすると名乗りを上げた。

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフである!王命により、村々を襲っている帝国の騎士を討伐するべく参った!君たちは村人か!?」

 

 シズには王国戦士長というのが何かは分からない。国家の最高武官なのか一部隊の隊長に過ぎないのか。だが堂々と名乗りを上げるということはこの国では有名なのだろう。そう思い隣のンフィーレアに目を向ける。

 

 彼は彼女の視線に軽く頷き、王国戦士長に対して慇懃(いんぎん)に応じる。

 

「私はエ・ランテルの薬師、ンフィーレア・バレアレです。隣の白金(プラチナ)級冒険者シズ・デルタさんを雇い、この村を帝国の騎士から救いました。大勢の死傷者が出ましたが、もう騎士達はいません」

 

 王国戦士長はその言葉に目を剥くと馬を降り、二人の前で深く頭を下げた。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉もない!」

「……頭を上げてください、王国戦士長様。あなたがたは間に合いませんでしたが、私がカルネ村に来ようと思ったのは王国戦士団が村人をエ・ランテルまで護送したからなのです。今朝、東の村々が襲われていることを私は知り、大急ぎで彼女を雇って急行したがゆえに間に合ったのです」

 

 その言葉に戦士長は、否、ガゼフ・ストロノーフは驚いて顔を上げた。

 

「……!そうか、私が部隊を分けて避難民の護送を優先したのは無駄ではなかったのだな……!」

 

 ガゼフは自身の選択が結果的とはいえ帝国の騎士を退け、多くの犠牲を出しつつも一つの村を救うことができたのだと喜んだ。

 

 だが、一つ疑問が残る。エ・ランテルからこの村までは歩けば早朝に出て夜中に着くか否かという距離がある。走りきれる距離でもない。一体彼らはどうやって今朝出立して間に合ったのだろうか、と。ガゼフがそのことを尋ねると、ンフィーレアは複雑な表情をして語った。

 

「実は、隣にいる彼女、シズさんが馬車から馬を外して自分で牽いてここまで駆けて来たのです」

 

 その言葉にガゼフは仰天する。馬車を牽いてきたということはンフィーレアという少年を乗せてきたのだろう。人一人を乗せた馬車を休みもせずに牽き続け、朝から夜までかかる距離を昼か夕方までに駆け抜けるなど五宝物がなければ自分ですらできない。その伝説の英雄が如き偉業を目の前の小さな少女が成したとはとても思えなかった。よく見ればその顔は人形のように整っており、ますます屈強さから遠いように思える。

 

「その容姿からは信じがたいが……それほどの力があるというならたった二人で帝国の騎士達を追い払ったのも納得できる」

 

 得心が行ったように頷くガゼフを見ながら、ンフィーレアは馬車馬を馬車に載せて馬車馬より速く駆けて一時間で到着したなどという頭が痛くなるような話は黙っておこうと心に決めた。世の中には知らないほうがいいこともあるのだから。

 

 

 

 そして王国戦士団が帝国騎士の残党を狩るために出立しようとした時、斥候がその知らせを届けた。この村を、魔法詠唱者(マジックキャスター)の集団が囲んでいるという(ほう)である。

 

 ガゼフはンフィーレアとシズを連れて村の外側に位置する家屋から様子を伺う。見れば羽の生えた白いモンスターを従えた白尽くめの集団が並んでいた。

 

「戦士長様、あれは?」

「あれは天使と呼ばれる召喚モンスターだ。通常のそれよりも強力な性質を持っている。そして装備も恐らくは金属糸を編み上げたもの。そんな魔法詠唱者(マジックキャスター)をあれだけ揃えるとなると、噂に聞くスレイン法国の特殊部隊、六色聖典のいずれかだろう」

「……勝てますか?」

「……君達を彼らが襲う理由があるとは思えない。ならば、狙いは私だろう。間違いなく、私を殺せるだけの戦力があるはずだ」

 

 ガゼフは(いかめ)しい顔つきで推測を述べた。だが、その目に絶望はない。それを見たンフィーレアが何か勝機があるのかと問う。それに答えるかのように、彼はシズへと向き合った。

 

「デルタ殿。私に雇われないか?あなたの存在は彼らの計算外だ」

「…………冒険者は国同士の争いに関わらないのが規則……この村を救った時点でかなり苦しい」

「だろうな。だが、彼らは表向きは存在しない部隊だ。どんな被害を受けようと、表沙汰になることはない。……どんな被害をもたらそうと表沙汰になることはない、というのも事実だがな」

 

 彼はこうもタイミングよく包囲されたことから、帝国騎士はスレイン法国の偽装部隊ではないかと疑っていた。彼は政治や根回し、貴族的なことにとことん疎い。しかし、馬鹿ではない。武人としての思考回路はこの状況の裏にある戦術的な企みを正確に見抜いていた。

 

 そしてシズは少し(うつむ)き、その美しい顎にまだら緑のグローブを当てて六色聖典がもたらす被害を考える。彼らはガゼフ・ストロノーフ暗殺のために来ている。暗殺とは犯人が分からない殺しだ。では村の家屋から見える距離で包囲している彼らは村人を生かしておくだろうか?……答えは否だ。断じて殺す。でなければ暗殺が成立しない。

 

 そしてンフィーレアの依頼は正確には『エンリ・エモットと村の救助』だ。対象が一人ならば馬車に乗せて逃げ切れるだろう。だが村人全員は不可能だ。ならばここで戦い、敵を撃滅するしかない。

 

「…………ンフィーレア、いまも依頼内容に変更はない?」

「ええ、ありません。救ってください。僕の愛する人と、その世界を」

 

 彼は大切なものを守ると覚悟した目で、恥ずかしげもなく愛する人のためだと宣言した。それを聞いたシズはガゼフに返答する。

 

「…………戦士長……雇用の必要はない……元より倒さねば依頼が果たせない」

「……感謝する!!」

 

 彼は彼女の手を力強く握った。

 

 

 

 六色聖典が一つ、陽光聖典。その隊長、ニグン・グリッド・ルーインは作戦の成功を確信していた。獲物は檻へと入り、包囲は完成した。あとは村人を逃がすための隙を作ろうと突撃してくる猛獣を数で圧殺するだけだ。腐った王国を生き永らえさせる善意の悪、ガゼフ・ストロノーフは『詰み』に入ったのだ。

 

 彼は知らない。陽動部隊が蹴散らされたことを。彼は想像だにしない。この村に猛獣(ガゼフ)より強い自動人形(イレギュラー)がいることを。

 

「汝らの信仰を神に捧げよ」

 

 それが彼の最期の言葉になった。

 

 

 

「…………指揮官と(おぼ)しき男の頭部狙撃(ヘッドショット)成功……敵部隊に混乱を確認……指揮官と断定」

 

 シズ・デルタは創造主より与えられし自らと同名の魔銃、『C(シー)Z(ゼット)2()1(イチ)2()8(ハチ)』を構え、初手で指揮系統の破壊を試みた。そしてそれは成功し、敵部隊は突然未知の攻撃で指揮官が死んだことにより激しく動揺している。どうやらこの部隊は均質な隊員を一人の指揮官で厳しく統率するタイプだったようだ。

 

「……まさかこの距離で当てるとは」

 

 ガゼフはその武器がすごいのか技術がすごいのかすら分からない常識外の超遠距離狙撃に舌を巻く。だが、これで敵の戦力は大幅に下がった。あとは突撃で決着をつけるべきだとガゼフは出撃しようとする。

 

 しかし、他と同じ格好ではあるが明らかに周りに命令を下している隊員をシズは発見した。それを同じ手順で撃ち抜く。

 

「…………副指揮官と(おぼ)しき男の頭部狙撃(ヘッドショット)成功……敵部隊の混乱、拡大……副指揮官と断定」

 

 その、戦術としては極めて正しいが全く容赦がない戦いに、ガゼフ率いる王国戦士団は揃って顔を引きつらせた。

 

 そして冒頭へ至る。

 

 彼女は周りの気まずい空気にも気付かず、一つだけの翠玉(エメラルド)の瞳で敵を捉え続けた。

 

「…………敵部隊の撤退開始を確認……追撃を提案」

「……いや、それは不要だ。指揮官と副指揮官を殺された部隊は機能しない。彼らは祖国に帰る以外の選択肢はないだろう。デルタ殿のことを向こうは一切感知できていないはずだ。原因不明の攻撃で部隊が機能不全に陥るなど、まともな国家なら原因が分かるまで動けん」

「…………了解、戦闘を終了する」

 

 その言葉を最後に彼女は魔銃を下ろし、戦闘体勢を解く。

 

 指揮官と副指揮官はほぼ間違いなく遺体を持ち帰られ、蘇生されて戦線に復帰するだろう。だが、ガゼフはそれを(はば)むつもりはなかった。彼は王国を守りたいだけであって、法国の恨みを買いたいわけではないのだ。

 

 

 

 こうして、開拓村連続襲撃事件、およびガゼフ・ストロノーフ暗殺未遂事件は一度も王国戦士団の武器が振るわれることなく、終息したのだった。

 

 続く。




ドン引きされる系美少女シズちゃん!
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