シズちゃんが酒代のために冒険者になる話   作:ファジー・ネーブル

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今回は4500字くらいでちょっと短いです。ほのぼの。

森の賢王の毛皮は『普段は柔らかいが衝撃を受けると硬化する』そうです。(出典オバロwiki)

2018/10/18/19:04.投稿後にエンリのセリフがちょっと変なのに気付いたので修正。
2918/10/19/23:35.シズの物理攻撃値は魔銃込みだったと気付いたので表現修正。


シズちゃんがもふもふをもふもふする話

 C(シー)Z(ゼット)2()1(イチ)2()8(ハチ)Δ(デルタ)。通称シズ・デルタ。それが彼女の名だ。

 

 彼女はかわいいものが大好きである。小さいもの、もふもふしたもの。そういったものを見つけたら持ち帰って何時間でも抱きしめたくなるほどに大好きである。

 

 そんな彼女は今、4メートルを超える巨大なもふもふをもふもふしていた。

 

 ことの始まりは事件翌日の朝まで遡る。

 

 

 

 村の復興を手伝っていたシズ・デルタは不思議に思っていた。森はモンスターの領域であり、よく生存競争に負けたモンスターが溢れ出てくると聞いた。しかしこの村は森のすぐ近くにもかかわらず塀どころか柵すらないのだ。それについて依頼者の恋人となった三つ編みの少女、エンリ・エモットに尋ねるとこう答えられた。

 

「この村の北に広がる森は『森の賢王』という大魔獣の縄張りなんです」

「…………森の賢王?」

「はい、二百年の時を生きる、蛇の尾を持った白銀の四足獣だそうです。なんでも言葉を解し、魔法も使うとか。とても強いので、他のモンスターがよって来ないんです」

 

 その言葉にシズはわずかに翠玉(エメラルド)の目を輝かせた。

 

「…………もふもふ?」

「えっ?……まあ、毛が生えているのだから、もふもふはしているんじゃないでしょうか?」

「…………行く」

 

 シズの心は渇いていた。最近、野盗団に囲まれたり冒険者殺しを倒したり帝国騎士を蹴散らしたり六色聖典を狙撃したりと、物騒なことが立て続けに起こっていたのだ。彼女は癒しを求めていた。

 

「あの、行くってどちらへ?」

「…………森の賢王……もふもふしにいく」

「えぇ!?」

 

 エンリは驚いて声を上げるが、既にシズは背を向けて駆け出していた。もふもふを期待する彼女は気付かなかった。縄張りを守る大魔獣が友好的ではない可能性に。

 

 

 

 もふもふを求める少女、シズ・デルタは森の中にいた。暗殺者(アサシン)追跡者(ストーカー)職業(クラス)レベルを持つ彼女は森の中でも迷うことはない。木に付けられた爪とぎの後を見つけ、それを元に森の賢王の居場所を探る。

 

 そして見つけた。洞穴(ほらあな)の中でいびきをあげる、自らより巨大な白銀の毛玉を。

 

「…………見つけた」

「……んぅ?」

 

 彼女の言葉に反応したのか、巨大な魔獣がもぞもぞと動いて目を覚ました。そしてその大きな頭が持ち上げられ、薄暗い中でも目立つ赤金(ストロベリーブロンド)の髪を視界に収めた。魔獣は声の主を見つけると驚いたように誰何(すいか)する。

 

「むむ!?そなたは誰でござるか!?某に気づかれずにここまで近付くなど只者(ただもの)ではござらぬな!?」

 

 森の賢王は明らかに警戒した様子でシズを見ている。それに対し彼女はあくまで友好的な態度を崩さない。

 

「…………シズ・デルタ……もふもふしにきた」

「もふもふ?まさか某を愛でようというのでござるか?笑止!某は森の賢王!矮小な人間に愛でられる小動物ではござらん!」

「…………あなたは私より弱い」

 

 シズは直感的に相手の強さを見抜き、自分より弱いと断定する。しかしその言葉に大魔獣は侮られたと判断し、目つきを鋭くして戦闘体勢に入った。

 

「……ほう?言うではござらぬか。そなたが某よりも強いというなら……証明して見せるでござる!」

 

 そう言うと森の賢王は立ち上がり、その威容を見せ付ける。大きい。全長4メートルはあり、体重は2トンを超えるだろう。

 

 しかしシズは困った。彼女はもふもふを堪能しに来たのであって、敵対したり傷付けたりすることは望みではないのだ。不可知化して無理矢理触るという手もあるだろうが、もしも転げ回られて下敷きになったりしたら堪らない。彼女の物理防御力はレベル20戦士職程度しかないのだから。

 

 結局、彼女は不可知化して一時撤退することに決めた。もふもふ対象が敵対的であるという事実を考慮していなかった以上、新たに作戦を練る必要があるのだ。

 

「む!?消えた!?」

 

 彼女の姿を見失った魔獣はしばらく警戒し、聞き耳を立てたり匂いを嗅いだり、巣穴を尻尾で探ってみたりした。しかし結局、音も立てずに逃げ出したと判断し、再び眠りに就くのであった。

 

 

 

 カルネ村に帰還後。癒しを求めた自動人形(オートマトン)シズ・デルタは、村の幼女ネム・エモットを抱えて歩いていた。彼女に癒されつつ森の賢王と仲良くなる方法を探るためである。ネムと森の賢王、かわいいもの同士で何か共通点があるかもしれないと思ったのだ。

 

「…………ネム……何をされたら嬉しい?」

「お姉ちゃんのお手伝いができたら嬉しい!」

「…………そう」

 

 ネムはいい子だ。両親を亡くして辛いのは自分も同じなのに、姉のために幼い身で頑張ろうとしている。……とても、とてつもなく、恐ろしい発想だが……もし至高の御方々が一人残らずお隠れになられてしまったら、私は辛さに耐えて姉妹のために頑張れるだろうか?

 

 シズがそのような身の毛もよだつ恐ろしいことを考えていると、前方から姉のエンリがやって来た。

 

「シズさん!」

「…………ただいま」

「どこまで行ってたんですか?ンフィーレアが探してましたよ?」

「…………森の賢王を見つけた。でも警戒されてもふもふできなかった」

「当たり前です!いくらシズさんが強くても、森の賢王は恐ろしい魔獣なんですからね!?」

「…………諦めない」

「諦めてください……」

 

 エンリは呆れたように言うと抱えられているネムに視線を移した。

 

「ネム、そろそろお昼ごはんの時間だから帰りましょう?」

「うん!ンフィー君とのお話終わった?」

「え、ええ!終わったわよ!?」

 

 ネムにンフィーレアとの『お話』について聞かれたエンリは顔を赤くして誤魔化すように答えた。昨日から二人は一緒にいることがやたらと多く、それを何となく察したネムは気を利かせてエモット家から離れていたのだ。

 

「…………教育上、ほどほどに」

「わ、分かってます!!」

 

 致していることを控えるよう、シズから遠回しに言われたエンリは耳まで真っ赤にして叫んだのだった。

 

 なお、彼女を責めるのは酷というものである。両親を失い、自身と妹も死にかけ、そこへ颯爽と現れた恋人に助けられたのだ。死別の悲しみから逃れるかのように初めての恋に熱中するのは、致し方ないことであった。

 

 釣り橋効果などと言ってはいけない。ついでに恋人になった時系列も気にしてはいけない。恋心は論理的ではないのだ。

 

 

 

 カルネ村での宿としているエモット家に戻ったシズは、森の賢王をもふもふするための作戦をンフィーレアに相談していた。錬金術師(アルケミスト)ならば何か役に立つアイテムなどを持っていないかと考えたのだ。

 

「森の賢王、ですか」

「…………なんとか、もふもふしたい」

「力ずくでは駄目なんですよね?」

「…………傷付けたくない」

 

 その言葉でンフィーレアはシズが森の賢王に負けることはないと判断し、協力することにした。

 

「でしたら、粘着剤がいいですね。相手をその場に拘束する薬剤です。ちょうど念のために持ってきている分があるので、お譲りしますよ」

「…………ありがとう」

 

 彼女は礼を言うと粘着剤の硝子瓶を受け取り、森の賢王に再びもふもふを挑むのであった。

 

 ちなみに、ベッドの割り当てはンフィーレアとエンリが夫婦のベッド、シズがエンリのベッドである。ネムがいるときに致さないだけ、彼らは冷静だろう。

 

 

 

 シズが例の巣穴へ行くと、どうやら縄張りの巡回に出かけているらしく木の葉が敷き詰められた寝床があるだけだった。仕方なく外へ探しに出ようとすると―――。

 

「誰でござるか?」

 

 なんと、森の賢王が巣穴へと入ってきたのである。

 

「…………さっきぶり」

「その姿と声は、某を愛玩動物扱いしたうつけものでござるな!?今度は逃がさんでござるよ!!」

 

 大魔獣はそう言うと、立ち上がり、両前足を広げて二足歩行でじりじりと迫ってきた。巣穴の幅と高さは4メートルほど。不可知化して脇をすり抜けようとしてもギリギリばれる狭さだ。

 

「…………追い詰められた」

「ふっふっふ。状況がよく分かっているでござらんか。さあ!覚悟するでござる!」

 

 そして巣穴の主はそのまま近付いてくる―――と思いきや、なんと尻尾を伸ばして突き出してきたのである。元々全長程度しかなかったはずのそれは、いまや20メートルはあろうかという長さがあった。

 

 それに驚いたシズは慌てて避けながら、尻尾に粘着剤を振りかけた。そして何度も尻尾の攻撃を避けているうちに、ついにそれは巣穴の壁に張り付いてしまった。

 

「これは!?……おのれ人間!小細工とは卑怯でござる!」

「…………真剣勝負に卑怯はない」

「ふん!しかし、その妙な液体はもう無いようでござるなぁ?」

 

 事実だった。シズが持ってきていた硝子瓶にはもう一滴も粘着剤は残っていない。更に言うなら予備もない。そしてシズがいるのは巣穴の一番奥であり、逃げ場はない。

 

「尻尾は封じられたでござるが、もう終わりでござる!!」

 

 森の賢王はそう言うと、尻尾で攻撃しているうちに後一歩で前足が当たるまで詰められた距離を更に詰めた。

 

「…………言ったはず。『追い詰められた』と」

「……?なにを―――こ、これは!?」

 

 4メートルにも及ぶ巨体が前に進んだ時、それを支える両後足は『地面に撒いてあった粘着剤』に絡め取られていた。

 

「…………追い詰められたのはあなた。……あなたは必ずここへ帰ってくる。ならば罠を張っておくのは常識」

「おのれ最後まで小癪な!しかしもう前足が届く距離でござる!八つ裂きにされるがよいでござるよ!」

 

 その言葉と同時に鋭い爪を持つ二本の前足が同時に振り下ろされる。だが、シズは避けない。避けられるほどの広さはない。何より『避ける必要がない』。彼女は巨大なそれらを真っ向から両手で組み受けてみせた。

 

「なんと!?」

「…………至高の御方々に与えられた力で、あなたをもふもふする」

 

 彼女はそう言うと、その小さな体からは想像もできないほどの筋力で、巨大な二本の前足を力尽くで地面に押し付けた。自分がいる少し手前の、粘着剤が撒かれた地面に。

 

「ま、またねばねばでござるか!?」

「…………拘束トラップは回避できないほど広いのが鉄則。……これで尻尾も足も封じられた……諦めてもふもふされるべき」

 

 彼女は降伏を促す。だが森の賢王は、二百年のときを生き言葉を解し、『魔法を使う』大魔獣は抵抗した。

 

「まだでござる!《全種族魅了(チャームスピーシーズ)》!」

「…………!」

 

 人間だけでなく全ての種族、異形種すらも魅了する極めて強力な魔法である。それを受けたシズは微動だにすることなく目の前のもふもふを見つめている。

 

「ふっふっふ。某に魅了されたでござるな?ならばこのねばねばを何とかするでござる」

「…………」

 

 シズはその言葉に従い中和剤を取りに行こうともふもふの巨体をよじ登って巣穴を出ようとした。

 

「…………何をしているでござるか?」

 

 と、見せかけて背中でもふもふを堪能していた。

 

「…………魔法は抵抗(レジスト)した。魔法妨害の特殊技術(スキル)を使おうと思ったけど、使うまでもなかった」

「そ、それでは勝負は!?」

「…………私の勝ち……大人しくもふもふされるべき」

 

 その言葉に森の賢王は悔しそうに唸った。

 

「ぐうううう!こうなればもはや負けを認めざるを得ないでござる!弱肉強食は自然界の定め!煮るなり焼くなり、好きにするが良いでござる!」

「…………もふもふするだけ」

 

 それからシズは夕食の時間になるまで目一杯もふもふを堪能し、ここ数日の心の渇きを存分に癒したのであった。

 

 続く。




もふもふを抱きしめる美少女とか見てるだけで癒されます。
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