シズちゃんが酒代のために冒険者になる話   作:ファジー・ネーブル

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今回はあの男がもふもふにしたのと同じことをしてもらえます。

2018/10/19/23:06.あの男の登場シーンに加筆。


シズちゃんがもふもふにしたことを男にする話

 C(シー)Z(ゼット)2()1(イチ)2()8(ハチ)Δ(デルタ)。通称シズ・デルタ。それが彼女の名だ。

 

 彼女はかわいいものが大好きである。しかし、かわいくないものは別に好きではない。ゆえに、かわいいものに対する反応をかわいくないものに行うなどまずありえない。

 

 そんな彼女は今、もふもふにしたことをぼさぼさ頭で無精髭の男にしていた。

 

 ことの始まりは彼女がエ・ランテルへ戻るところまで遡る。

 

 

 

 その話がされたのは、もふもふを堪能した翌日の朝だった。エモット家の食卓でエンリから切り出された話をシズは聞き返す。

 

「…………エ・ランテルへ、移住する?」

「はい。この村は多くの大人を失いましたし、お父さんとお母さんも亡くなりました。いま私とネムが生活できているのは生き残った大人たちに助けられているからです。……つまり、私達はこの村の負担になっているんです。だから、せめて私達が大人になるまでの間だけでもエ・ランテルへ移って負担を減らしたいんです」

「…………カルネ村が好きだからこそ、離れるの?」

「はい……」

 

 そういうと彼女は寂しそうな、しかし納得している顔をした。シズはンフィーレアに人形のように整った顔を向けて尋ねる。

 

「…………バレアレ薬品店に住むの?」

「はい。エンリとネムちゃんは薬草の知識もある程度ありますし、店の手伝いをしながら生活してもらおうと思っています」

「…………そうすれば、村は立ち直れる?」

「僕達が騎士を引き付けたおかげで、村の被害は再建できないほどではありません。ですが、それでもやはり親のいない子供が二人減るだけでも大分違うのです。人口の母数が少ないですから」

「…………そう」

 

 シズはエンリとンフィーレアの説明で一応の納得はした。だが、肝心のもう一人の意見を聞いていない。

 

「…………ネム……エ・ランテルへ来る?」

「うん!……ネムができるのはそれくらいだから」

「…………ネムは強い」

「そうなの?」

「…………うん……心が強い」

 

 やはりネムはいい子であり、それ以上に強い子だ。親を二人とも亡くして、その家からも離れるのは辛いはずだ。至高の御方々が全員お隠れになられて、その上でナザリックから離れる。そんなこと、自分には想像しただけで(つら)過ぎる。

 

 結局、シズは三人の移住を助けることにした。彼女が手伝ったことにより、昼頃までには荷物の整理もお世話になった人たちへの挨拶も済んだ。そして本来ならば朝から夜までかかる道程(みちのり)を、シズは三人と荷物を乗せて四時間ほどで戻ったのだった。

 

 なお、荷台に縛り付けられていた馬車馬は荷物の代わりに置いていかれた。きっとあの村で農耕馬として復興の一助となってくれることだろう。サンキュー馬。フォーエヴァー馬。君のことは次の馬を買うまで忘れない。

 

 

 

 夕方。バレアレ薬品店に戻ったンフィーレアは祖母のリイジーにこっぴどく叱られていた。どうやら唯一の肉親である彼女にも行き先を伝えずに飛び出してきたらしい。

 

 彼女は冒険者組合に人探しの依頼を出しに行ったところ、そこで初めてカルネ村へ向かったと知ったそうだ。野盗団潰しのシズが護衛だと聞いたが、安心できるのか否か彼女にはいまいち分からなかった。ゆえにあと一日遅ければ自分も探しに行こうか、とやきもきしていたそうだ。

 

「まったく、少しは後先というものを考えたらどうなんじゃ!この馬鹿孫が!」

「ご、ごめんお婆ちゃん!」

「……おぬしはもう少し冷静な子だと思ってたんじゃがな。結果として村を救えたから良かったものの、一歩間違えればおぬしも死んでいたんじゃよ?」

「分かってるよ……。でもちゃんと強い冒険者も雇ったし、まったく考えなしに動いた訳じゃないんだよ。それに後一歩遅かったらエンリとネムちゃんは死んでたんだよ?」

「……まぁ、それに関しては、おぬしの判断が正しかったと褒めてあげよう」

 

 そう言うとリイジーは申し訳なさそうに縮こまっているエンリとネムに向き直り、優しい声で二人を歓迎した。

 

「よく来たね、二人とも。……ご両親のことは残念じゃった。村のために住み慣れた家を離れるなんて、おぬしらは本当にいいこじゃ。村が復興するまでの間、ここを本当の家だと思って住むといい」

「……!ありがとうございます!!」

「ありがとうございますお婆ちゃん!」

 

 二人に頭を下げられた彼女は鷹揚に頷き、シズに目を向ける。腰が曲がった自分と同じくらいの背丈しかない小さな娘だ。本当にこの子が帝国の騎士を蹴散らしたのかと疑わしく感じるが、全員が揃って言うのだから嘘ではないのだろうと納得する。

 

「おぬしが野盗団潰しのシズじゃな?孫と村を救ってくれて感謝する」

「…………依頼……達成」

「依頼だからにしても、こんな無茶な依頼を受けてくれて本当に感謝しておるよ。ンフィーレア、報酬は渡したのかい?」

「あっ、そういえばいくらか決めてなかった……」

「おぬしは本当に……」

 

 結局、ンフィーレアは金貨300枚、蒸留酒6000本分の報酬を支払った。バルド・ロフーレ氏がシズに払った謝礼の6倍である。どこにでもあるような開拓村一つの価格としては高いが、ンフィーレアにとってはエンリ一人の命だけでもお釣りが出るほど安いだろう。

 

 この結果にシズも大満足である。3日間の時間と2発の銃弾を消費してしまったものの、ナザリック捜索時間が2000日も伸びたと考えればお釣りが出るどころか大儲けだった。

 

 しかしこの金額に当のエンリは驚愕のあまり腰が引けていた。カルネ村のお金を全て集めても銅貨3000枚がいいところだろう。金貨なら7枚半だ。にも関わらず恋人のンフィーレアはその40倍もの額を個人で払ってみせたのである。

 

「ン、ンフィーレア、こんなに払って大丈夫なの……?」

「へ?ああ、大丈夫だよ?貯蓄は金貨3万枚以上あるし」

「さん…………!?」

 

 エンリはあまりの額に気が遠くなった。金貨3万枚。どこの御貴族様かと彼女は思う。その認識はある意味正しい。金貨3万枚というのは貴族であるエ・ランテル都市長パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアの全財産に匹敵する金額だ。

 

 だが注意しなければならないのは、バレアレ家にとって金貨3万枚はあくまで『貯蓄』でしかないということだ。諸々の財産を売り払えばその総額は金貨3万枚に達する。合計で金貨6万枚である。

 

 贅沢が義務の貴族とポーションの探求以外に金を使わないバレアレ家では事情が違うかもしれない。だがそれでも、日給銀貨1枚とすれば一生どころか三千年以上は働かずに食っていける財産をこの家は所有しているのだ。

 

「あ、あはは……私、とんでもない玉の輿に乗っちゃったかも……」

「そ、そうかな?」

 

 乾いた笑いしか出てこないエンリに照れるンフィーレア。一組の若いカップルの認識がすり合わされるには、もう少し時間がかかりそうだった。

 

 

 

 翌朝。シズはこの街で知り合った人々に別れの挨拶を済ませた後、街道を西へ歩いていた。この国で最も情報が集まるであろう王都へ向かうためである。彼女としては別に走っても良い。だがあの速度ですれ違ったら人が怪我をする、とンフィーレアに指摘されたのでゆっくりと歩いているのだ。シズは無闇に人を傷付けることを好まない、いい子なのである。

 

 移動に時間がかかることに関しても、お弁当の蒸留酒を6000本以上アイテムボックスに詰めて準備万端だ。ちなみにこのせいでエ・ランテルの蒸留酒市場に投機を招き、一時(いっとき)、価格が十倍まで高騰した。売り抜けられなかった商人は大損害を受けたが、その中にバルド・ロフーレ氏はいなかったという。

 

 それはともかく、雨合羽や就寝擬装用のテントも用意した。備えあれば憂いなし。彼女の本格的なナザリック探しの旅は順調であった。

 

 しかし、好事魔多し。彼女の前に一人の男が立ち塞がる。その男はぼさぼさの髪に黴のような無精髭を生やした男だった。それだけ見ればまさに野盗であるが、その体は鋼のように引き締まり一見して戦いの中で鍛えられた戦士だと分かる風貌だ。

 

「よう。お前が野盗団潰しのシズだな?」

「…………誰?」

「俺はブレイン・アングラウス。お前が潰した死を撒く剣団の用心棒だ」

「…………復讐?」

「まあそんなところだ」

 

 そういって彼は腰に()いた刀に手をかけ、重心を低く落として口上を述べた。

 

「―――野盗団潰しシズ・デルタ、決闘を申し込む」

「…………嫌」

 

 しかしシズはあっさりと拒絶する。彼女は至高の御方々の敵ならばいくらでも戦うが、そうでもなければ戦うことを好まないのだ。これも全ては創造主与えられしカルマ値を守るためである。

 

「お前がどんなに嫌がろうと、こっちはお前と戦う理由があるんでな。付き合ってもらうぞ」

「……………」

 

 彼女は会話で切り抜けられるものではないと判断し、さっさと不可視化で横をすり抜けることにした。

 

 だが、この判断が彼女に血を流させる。

 

 

 

 目の前のシズ・デルタの姿が消える。街に潜伏している野盗団員からの、冒険者殺しを倒したときの情報通りだ。

 

 (来たな)

 

 彼はそう思い、オリジナル武技〈領域〉を発動する。これは本人から半径3メートルの範囲内で極限まで命中率と回避率を向上させる武技だ。そしてこの武技には『不可視の存在を発見できる』という能力もある。そして彼は幅6メートルほどの街道の中央に陣取り、そのときを待ち―――放った。

 

 その一撃は剣速が不可避の領域に達するオリジナル武技〈瞬閃〉を、更に発展させた〈神閃〉によるものだ。この武技により放たれた剣速は、もはや不可知の領域に達する。

 

 〈領域〉と〈神閃〉、この二つからなる複合武技〈秘剣虎落笛(もがりぶえ)〉。これは人体の急所、頸部(けいぶ)を一刀両断し、吹き上がる血飛沫の音から名付けられた。

 

 常勝無敗の自動人形(オートマトン)、シズ・デルタの肌に刃が食い込み―――血が舞った。

 

 

 

「おいおい、何の冗談だ?」

 

 確実に()ねた。そう思ったにも関わらず領域を通じて感知できる人影には相変わらず首がついたままだ。ふと剣先を見れば僅かに血が付いている。どうやら『〈神閃〉を上回る速さで避けた』らしい。

 

 ブレインはあまりの出鱈目さに嬉しくなった。こいつをここで倒せば俺はもっと上へ行ける。あの日、御前試合で初めて膝をついた宿敵ガゼフ・ストロノーフに勝てる。そう思えば刀を握る手には力が(こも)り、顔には壮絶な笑みが浮かんでいた。

 

「…………痛い」

 

 シズは相変わらずの無表情で痛みを口にする。彼女の首を斬り飛ばすはずだった刃は、頬に浅く傷を付けるに留まっていた。

 

 彼女は判断する。眼前の剣士は間違いなくこちらを感知していると。この直感的に自分より弱いと判断できるレベル帯の戦士職に、不可視化を看破するスキルは彼女が知る限りない。それに、この男の動きは『見えていないのに感知できていた』というものだった。

 

 ならばあの冒険者殺しの女と同じ聴覚による感知か。そう思って彼女は男へ問う。

 

「…………聞こえていた?」

「足音がか?いいや、別の原因さ」

「…………そう」

 

 シズは即座に作戦を変更する。原因は分からないが不可視化は通じない。不可知化ならば通じるかもしれないが、それで次の斬撃を確実に避けられる保証はない。ならば横をすり抜けるのは止めるべきだ。そう考えた彼女は全速力で来た道を駆け出した。

 

「逃がすか!」

 

 それを逃がすまいとブレインは追う。だがシズの素早さはレベル44戦士職に匹敵する。彼が〈下級敏捷力増大(レッサー・デクスタリティ)〉のポーションを飲んでいるとは言え、彼女には追いつけない。

 

 そして数分後。彼が彼女を取り逃がしてしまうかと思ったとき、突然彼女が立ち止まって振り向く足音がした。

 

「…………チェックメイト」

 

 その言葉と気配でブレインは即座に『それ』の正体を見抜く。

 

(遠隔攻撃か!)

 

 彼も立ち止まり、刀を鞘に戻して居合いの体勢に入った。魔法なら避ける。矢玉なら刀で切り払う。命中率と回避率を極限まで高める〈領域〉を発動している彼にはそれが可能だった。

 

 

 

 ―――それが、この世界の武器であれば。

 

「……卑怯だろ、そんなん」

「…………真剣勝負に卑怯はない」

 

 そして、冒頭へ至る。

 

 ()しくも、かつて森の賢王に告げた言葉をシズは繰り返していた。

 

 ブレインの右腕は撃ち抜かれ、骨が砕けているのかだらりと垂れ下がっている。彼は〈領域〉によって飛翔した何かを感知できた。だが、反応はできなかった。一体何が飛んできたのか。そもそも何の武器だったのか。彼には分からず仕舞いだった。

 

「…………通して欲しい」

「……一つだけ教えてくれ。何で殺さなかった?」

「…………殺す必要があるほど強くない」

「……分かった、通りな。……用心棒は廃業だな」

 

 彼はそれだけ言うと道の脇により、不可視化したままの彼女の足音を聞き流した。

 

 続く。




タイトル詐欺?知らんなぁ~?
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