今日は色々あった。
遠山と言う女を助け、飯を奢って貰う……、正確には、トラットリア左門のシェフ・鷹見沢左門という、親父さんの奢りであるが。
俺の見解だが、自らピエロに望んでなった男性――鷹見沢仁。いい兄貴分だと、感じ取れた。
最後に、しゃもじのスペシャリスト? の鷹見沢菜月。そして近い将来、大きな運命に直面する達也という男性。
暖かな空間であったことも言えるが、達也という男性の未来が見てみたい。
そんな衝動に駆られている俺が。
今、空の色は黒。
現在の時刻――8時46分。
そう、夜である。
寝場所? 10万円くらいしか持っていない俺が、ホテルに泊まると?
こんな額、使おうと思えば三十分以内で使い切ってしまうわ。
などと、思いにふけつつ、
「夏が近いから、野宿しても多少は平気だが……、警察の補導には、気をつけないと」
ぼやきながら、寝床を探し始めた。
が、屋根付き(雨宿りが可能)が無い。
橋の下でもいいが、雰囲気からして月居住区を跨いだ場所、つまり大使館もある訳で……。
あとは、今一な所ばかり。
屋根があるが地面が駄目。地面は良いが屋根が無い。両立しているが、民家の隣、警察署の近く。
そんな所ばかりである。
そんな感じで、途方にくれていた俺だが、思い出したことがある。
確か、月人の大半が教団を信奉している。
故に、月居住区には月人が住んでいる=教団関係の施設――教会がある。
教会は、迷える子羊に手を差し伸べてくれる場所。
ただ、地球人である俺を、受け入れてくれるかどうか。
それだけが、問題であった。
「いい人で、ありますように」
それだけを呟きながら、月居住区へ向った。
第二話
罪を背負う教団の神父
月居住区――満弦ヶ崎中央連絡港市の入り江に作られた、言葉通りの月人の為の居住区。
居住区を過ぎると、月大使館、教会、展示館の三つの施設がある。
そして、月大使館の敷地内には、宇宙港が設けられているが、地球の――特に一般人は、大使館すら入ることすら出来ない。
だが、それ以外には制限がもうけられてない為、一般人が歩き回っても問題は無い。だが、月関係の職務についている地球人以外は、滅多に来ないのが現状である。
その最大の理由が、月居住区自体、独特の雰囲気をかもし出しているからである。
よは、地球人を、あまり快く想っていないからである。
それはやはり――
「第五次オイディプス戦争の……、長きに渡る傷跡、か」
月居住区に入った瞬間の、率直な感想である。
「止められなかった事が、俺の罪か」
「罪とは、どうなさいましたか?」
「 !? 」
聞かれた!? どこからだ!
俺は、慌てて振り返った。
そこには、教団関係者の服装が、目に飛び込んできた。
戸惑いを覚える俺。
しかし、教団の男性から、話し出した。
「もし、よろしければ、今から教会でお話を聞いて差し上げますが」
物腰の柔らかい男性。
髪が白く、顔のシワも目立っているので、老人の部類に入るくらいかと。
「俺、じゃなくて、私は地球人ですが?」
あえて地球人と名乗り、男性の出方を伺った。
「迷えるものに、月人も、地球人も、関係ありませんよ」
優しく微笑む男性。
それで判った。
この男性は、後悔と苦難な人生を歩んできた――いや、今も歩み続けているんだと。
「すいませんでした。試すようなマネをして」
俺は、頭を下げながら謝罪した。
「過ぎた事です。では、こちらです」
「聞きたいことがあります」
「何でしょう?」
「名前を。私は、晴山彰浩です。彰浩で構いませんので」
「彰浩、さん、ですね。私は、この先にある教会の管理を任されている、モーリッツです」
名乗り合い、モーリッツを先頭に歩き出した。
「どうぞ、中へ」
モーリッツは、教会の扉を開け、先に招き入れる。
「失礼します」
俺は、モーリッツに会釈しながら入っていった。
そして、前世の記憶と照らし合わせる様に、中を見回した。
さすが教団。合いも変わらず、同じ内装だな。
それに、祭壇の奥には、定番の隠し通路があるんだよな。
などと、物想いにふけていると、
「珍しいですか?」
「あ、いえ、いや、はい」
モーリッツがいる事を忘れてた。
戸惑いながら、はいと答える。
実際に見たのは初めてだが、前世では、相当お世話になった場所である。
だが、前世の事を話しても、軽く流されるのが目に見えた。
だから、あえて伏せた。
「そうですか。では、奥のほうへ――」
「あ、いえ、ここで大丈夫です」
俺の言葉に驚いたのか、モーリッツは目を少しだけ丸くした。が、普段どおりの目に戻った。
「わかりました。では――お聞きします」
座りながら答える、モーリッツ。
俺は、モーリッツに前世の記憶を伏せた状態で、今までの軌跡を話すのだった。
母の死――子供にとって、悲しいことは無い。
何故かって? 二度と会うことはできないから。
怒られる事も無い。庇ってくれない。慰めてくれない。遊んでくれない。など、色々ある。
亡くなった原因は、詳しくは不明。
ただ判っている事は、俺と父のせいである事だけ。
理由は、俺の前世のせいでの極度のストレスと、父の失踪と置き見上げだ。
父の失踪――生きているのか、死んでいるのか判らない。
ただ、俺の父親は最悪だ。
失踪した理由は、浮気した女と駆け落ち。
永遠の愛を誓い合った女――母を捨てて。
しかも、家の蓄えである貯金全てと、会社の金を掴んで。
事実上、借金を背負うことになった俺と母だった。
が、それがトドメとなったのかは不明だが、母は死んだ。
で、その保険金と、一軒屋と土地、その他の物を売り払う事で、借金は帳消しとなった。
これが、俺の両親の末路。
父はどこかで生きている。だが、親とは思いたくない。いや、親ではない。
二度と出会うことが無い事を、強く願っている。
結果――俺は、一人になった。
捨てる神あらば、拾う神あり。
前世の記憶を頼りに、俺は――この地へ、足を踏みしめた。
「――っていう訳で、寝床を探していたんです」
なを、この時にモーリッツには、両親は共に死亡。親戚もいない為、放心状態で適当に歩いていたら、この街に辿り着いた。
そして、駅からここまで合った出来事を話した。
「……わかりました。宜しければ、ここで寝泊りしてはいかがですか?」
「い、いいんですか!?」
モーリッツの提案に、さすがの俺も驚いた。
なんせ、ここは月の重要施設の一つ。なのだが、
「かまいません。ただ、月大使館の方には、話を通しておきますが」
「問題は無いですが……、できれば、警察に連絡は……」
「本当なら、その方が宜しいのですが……、ご安心ください」
俺を安心させるように微笑む、モーリッツ。
「ただ、食事に関しては――」
「贅沢は言いません。寝床だけ、提示していただけただけで、嬉しい限りです。ただ、お礼をさせて貰えませんか? さすがに、寝床だけ貰って、ぐうたらやっていては、モーリッツさんに失礼ですし」
「そうですか……、では、明日からこの部屋の掃除を頼みます」
「はい、わかりました」
前世の癖で、敬礼をしてしまう俺だったが、慌てて手を引っ込めた。
「ははは、面白い人ですね」
案の定、モーリッツに笑われた。
しかし、悪い気分ではなかった。
「ここをお使いください」
モーリッツに連れられて、奥の部屋へ案内された俺。
部屋に入ると、殺風景であるが、普通の生活には全くと言って良いほど問題は無い。
寝床が無い人間にとっては、いたりつくせりである。
なんせ、日当たりが良い、ベッド付きの部屋だから。
「いいんですか? こんないい場所を使っても?」
「ご安心を。ここはさほど大きくは無い教会ですが、今住んでいる人数は、私を含めてたった二人だけですので。……ただ、半月後辺りに新任の方がくるので……」
歯切れの悪いモーリッツ。
「いえ、その前にここを離れます」
断言する。
この居住区に足を踏み入れたときから、わかっていた事なのだから。
なんせ、月人は地球人を嫌っている。
全員とは言わないが、何事にも例外がある。
その結果が、この月居住区。
両者の傷跡はそれぞれである。
地球の一般人はあまり関心は無い。
月の一般人、貴族問わずに関心は大きい。
それが壁を作り、今まで関係を絶っていた。
だが、それが解消されてから、まだ20年しか絶ってない。
これからである。
「いえ、彰浩さん。その必要はありません」
俺を制止させる。
「ここは教会。困っている人に、手を差しのべる場所。新任の方が来たとしても、貴方が出て行く必要は、どこにもありません」
キッパリと答えた。
確かにその通りだ。
教会――それは、神に仕える者、神に救いを求める者が、集う場所。
だが、俺は神に救いを求めた覚えは無い。
ただ、そのあり方に漬け込んだだけ。
しかし、モーリッツは見透かしたように言葉を続けた。
「たとえ、神に救いを求めなくても、誰かに救いを求めている者にも、例外は無いのです」
負けた。
やはり、人生経験豊富で、独自の悟りを見つけた方に理詰めで勝てる訳がなかった。
相手は六十くらいかつ、悟りを見つけた。
俺は前世合わせて、三七くらいで、まだ悟りが見えない。
二倍近い差……いや三倍か以上か。
今度、どんな人生を歩んできたか、失礼承知の上で聞いてみるか?
「モーリッツ」
と、廊下から幼い女の子の声が聞こえてきた。
「リースリット様、いつお戻りで?」
「今」
何ともまぁ……冷静な子で。
ついでに、モーリッツさんが敬語とは。相当な地位に属する方か? なら――
とっさに俺は、首に掛けていた自作ネックレスを、懐に隠した。
そして、素早く身だしを整えてから、
「あの、誰かいるんですか?」
とにかく尋ねた。
尋ねなければ、話は進まない。
「ああ、そうでした。リースリット、こちらへ」
少し気まずい顔をしてから、女の子を誘導した。
「 ん 」
ドアから金髪の、ゴスロリを着た女の子が入ってきた。
「彼女の名前は、リースリット・ノエル。ここで、預かっている子です」
「リース」
それだけかよ!
心の中で突っ込みを入れるが、気を取り直して、
「晴山彰浩だ。彰浩でいいよ」
手を差し出す。
…………。
…………。
…………。
してくれないのね。
俺は、苦笑しながら手を引いた。
「モーリッツ……、ご飯」
「ええ、わかりました。よろしければ、彰浩さんもご一緒に?」
誘いに少し悩んで、
「ありがとうございます」
頭を下げた。
そして、晩酌にありついたのだったが、素っ気無い料理だった。
教会だから当たり前の事なのだが、今一パッとしない。
リースは、黙々と食べているだけ。
上手いとも、不味いとも言わない。
……明日からでも、料理させてもらうかな。
そう考えつつ、素っ気無い食事は終わった。
「それでは、私はもうお休みになりますので」
「え? もうですか」
モーリッツの言葉に、食器を洗っていた俺は驚いたが、時計を見てすぐに納得――というよりも思い出した。
教会の朝が早いことを。
そして――あの時の笑顔。
「確かに、そんな時間ですね」
これで何度目かの物思いにふけながら、皿を洗い続けた。
アイツの笑顔。
アイツの笑顔。
アイツの笑顔。
アイツノエガオ。
その瞬間、俺がガタガタ振るえながら、作業を続けた。
さすがにこの時、モーリッツとリースは一歩下がったらしい。
後ろへ下がる気配があったから。
……安易に思い出すんじゃなかった。と、後悔した――
――ギラリン! と、何かがこちらを向くや否や、全力で襲い掛かってきた。
しかもその手には、愛用の――
『たっ、助け――ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
――日であった。
ガクガクブルブル。
そんな事を思い出しつつ皿洗いを終え、部屋へ戻っていった。
途中で、モーリッツさんに報告しようと思ったが、時間が時間のため、止めておいた。
念のため、火回りだけ確認した。
で、ベッドに倒れこむ。
「ふぅ……、前世の俺、苦労してたんだな」
他人事のように、って魂だけが同じだけで、俺とは別人なのだから当たり前か。
「明日は、朝早くから掃除でも……、する……か……」
つ、疲れが出てきたのか? にしても、早すぎるな。精神面の方が、先に参ったのか?
などと考えていくうちに、意識は闇に沈んでいった。
そして、小さな息遣いで寝ていると、不意にドアが音も無く開いた。
「…………」
リースリット・ノエルだ。
何の躊躇いも無く、部屋へ足を入れようとした。
「 !! 」
しかし、リースは素早く引っ込めた。
何かに睨み付けられた様な錯覚に襲われたからである。
それからリースは、入ることを諦め、ドアを閉めるのだった。
何かに出逢う者たちの物語・外伝Ⅱ
夜明け前より瑠璃色な
~Memory of the past and the tomorrow's future~
第二話
END
次回予告
あれから数日がたったある日の事。
モーリッツに留守を頼まれた彰浩だった。
一応、前世でも似たことをしていたので、難なくこなせる。
初めのうちは案の定、月人に毛嫌いされていたが、モーリッツと彰浩の人柄で受け入れられる様になった。
そして、教会に来た女の子から、月の姫の事を聞く。
その夕方、モーリッツの元へ来るように言われ、買い物袋を置きに奥へ。
その後をリースが追いかける。
そして――運命が、僅かに動き出す。
次回
何かに出逢う者たちの物語・外伝Ⅱ
夜明け前より瑠璃色な
~Memory of the past and the tomorrow's future~
第三話
一つの運命が動き出す日(前編)
なのはそっちのけで書きました。(オイ
メインヒロイン役のエステルの出番は……、まだ先です。(オイオイ
一応出てきますが、チョイキャラ役扱いです。(オイオイオイオイ
で、今後の展開を少しだけ。
前世の記憶に悩まされ続けた主人公は、エステルと出会う。
この辺は、ゲームと似たり寄ったり。
で、教会に居座っていることに、不満の顔を浮かべるエステル。
以後、続きます。
基本的に、ゲームのそり方ですが、ゲームより先はあります。
これ以上はネタバレなので、気長に待ってください。
リリなのよりは、遥かに進み具合はいいかと。
でも、最近は学校の課題で……。
では、また。
最後に、未だにこの作品の主人公の名前が、曖昧気味に。(汗
制作開始:2007/1/20~2007/1/23
打ち込み日:2007/1/23
公開日:2007/1/23
変更日:2008/10/24