「姫様、姫様! 地球があんなに大きく!」
地球を見て、興奮する小さなメイド。
「ふふっ。ミア、あんまりはしゃぐと、鼻を窓にぶつけてしまうわよ?」
微笑みながら、藍をベースにしたドレスを身にまとっていた。
「あ、すいません」
恐縮しながら席に戻るミア。
「私ばっかりはしゃいでしまって……、姫様、申し訳ありませんでした」
「もう、ミアは真面目すぎるのだから。でも、そこがミアの良い所でもあるわ」
「ありがとうございます、姫様。そういえば、姫様は一度地球に行かれたのでしたよね。もし宜しければ、お話を聞かせて頂けませんか?」
目を輝かせながら、姫に過去の話を求めた。
「地球へ行った日……」
とある男の子と手を繋ぎ、空を眺めたあの日――
「――、・様、姫様」
ハッと意識を戻し、
「何でも無いは、ミア。ただ、子供のときだったから、あまり覚えてないの」
ごめんなさいと、最後に付け加えた。
「そうですか、残念です。でも、今度はたくさん想い出を作りましょう」
ニッコリ笑う。
「ええ、そうね」
姫も微笑みを浮かべるのだった。
第三話
一つの運命が動き出す日(前編)
教会の朝は早い。が、前世の習慣で、早く起きるのは苦では無い。
朝起きて、モーリッツの手伝い。
続いて、道具の準備と簡単な掃除。
そして、朝食の準備へと移っていく。
これが彰浩の朝の流れである。
「彰浩さん、頼みがあるのですが」
朝食を食べ終わり、リースから使った食器を受け取っている最中だった。
ちなみに今日の献立は、納豆パンと目玉焼き。
見せた時はさすがに、モーリッツに引かれ、リースは食べないと言い出して出て行こうとした。
だが、二人を何とか説得して食べてもらった。
結果は、まずますの反応だったので、ホッとしたが、なるべく普通ので、と言われてしまったが。
「何ですか?」
食器を流しに置きながら訪ねる。
「そのままで構いません。実は、夕方までここを開けるので、できれば留守を頼みたいのですが」
「ええ、今日はとくにする事が無いので、別に構いませんよ」
食器を手早く洗いつつ、問いかけに答える。
「ありがとうございます、彰浩さん。それでは、今から支度が済み次第、出掛けますので、あとは宜しくお願いします」
「はい、わかりました。モーリッツさんも、お気をつけて」
「それでは。リースリット、行って来る」
「…………」
ただ頷くだけのリース。
「こら! リース、挨拶」
「ぅ……いってらっしゃい」
蚊の泣くような声だったが、言えただけでよしとしよう。
「ええ、それでは」
そう言い残して、部屋を後にした。
皿洗いは、モノの二分で片がついた。
それからは普段通りで、リースはいつの間にかいなくなり、俺は教会の掃除を始めた。
そして――
「すいません」
「はい、どうなさいましたか?」
掃除中に信奉者が訪ねてきた。
「神父様は、ご在宅で?」
「申し訳ありません。ただいま、モーリッツ様は御用で、夕方までお帰りにならないとの事で。もし宜しければ、私がお伺いいたしますが」
「いえ。そうですか……、他の方は?」
「残念ながら、私一人なんです」
深々と頭を下げながら謝罪する。
「あ、ええ、そうですか。……わかりました、また日を改めて」
「はい。神のご加護を」
信奉者は、会釈しながら出て行った。
「ふぅ~。まっ、仕方ないといえば、仕方ない、か」
背伸びをする俺。
こんな感じで、信奉者は来ては帰ってしまう。そんな日々。
しかし、たまにだが、懺悔室で話を聞いていることもある。
信頼は薄すぎるが、だからと言ってどこかで喋ったり、引っ掻き回したりしない様に心得ている。
悩みを持つ者は、誰かに話すことで気が楽になる場合もある。
しかし、誰にでも聞いて欲しい訳ではない。
例えは、親しい友人に話したのが切っ掛けで、相談した内容がばら撒かれる。
友人としては最低だが、相談した内容がばら撒かれるということは、内容によっては最悪だ。
誰々が好きだけど、どうすればいい? 実は悪いことしちゃったんだ。など、勇気がないと、中々言い出せないものもある。
時間が解決してくれる時もある。
だが、けして最善の方法ではない。
では、何が最善なのか? それがわかれば、神父などいらん。ましてや、教会――神すら要らなくなる。
だから、この職業? があると、俺は考えている。
人は、必ずどこかで間違いを起こす。
命を大切に。
当たり前のことだが、子供は好奇心で虫を殺す。
例えばおたまじゃくしと蛙辺りが定番ではないだろうか?
俺も子供の時、地面に叩きつけたりしたことがある。
この筆者である、ダークバスターもその一人。
……話が反れた。
とにかく戻すが、信頼関係が合ってこそ、成り立つモノ。
ここに来て間もない俺に相談する者は誰もいない。
だが――
「彰浩、いる?」
緑色の髪の女の子が、ドアを開けて入ってきた。
「こら。まず返事」
「ごめんなさい」
頭を下げながら素直に謝る。
「……今日はどうした?」
自覚は無いが、俺は軽く頬を緩めて言った。らしい。
「うんとね、今日お姫様が上がってくるの!」
大喜びで答える女の子。
「姫が、上がってくる? ――ああ、その上がるね」
自己完結した俺。
何故『上がる』と言ったのか、説明します。
地球人は、地球から月へ行くことを、上がるといいます。
よは、それの逆バージョン。
月人は、月から地球へ行くので、上がるといいます。
天と地が逆さまという訳で。
「うん! でね、今日は一緒に見に行こうって誘いに来たの」
目を輝かせて答える女の子には申し訳ないが、
「すまん。今日は夕方まで、留守番を任されているから」
と、断った。
愛らしい顔が、グシャリと歪み、今にも泣き出しそうになった。
「み、見に行くことは出来ないけど、今度、は無いか。って、ごめん! 泣くのだけは勘弁してくれ、頼む」
女の子が完全に泣き出さない様に、必死で宥める俺。
本当に、骨が折れるわ。
で、何とか慰めて、別の日に遊ぶ約束をした。
そして、時間だからとの事で帰っていったあと、また掃除を始めた。
そこからは、朝の時を同じ事を繰り返す。
信奉者が来る。
対応して信奉者の意思を聞く。
帰るなら帰る。相談していくなら奥へ。
それ以外は掃除。
以上の流れである。
そして――
「腹減ったな。で、今は……、もう昼か。掃除も大半終わったし、何か――って、冷蔵庫の中身はカラだったんだっけ。参ったな」
と、後頭部を掻きながらぼやく。
「……仕方ない、買出しに行くか」
道具を片付けながら、結論に至った。
「では、次からは」
「はい、連絡を頂ければお届けいたしますので。神父様にも宜しくお伝えください」
「ええ、お伝えいたします。それでは」
「ありがとうございました」
と、いう会話をして店を出た。
手には、食材の入った袋を持っている。
「さすがは通販の時代だな――って、いつの時代だよ、おい」
などと、一人突っ込みをする俺。
「早く戻らないと。一応、留守の紙を張っといたけど」
そう、教会の扉に『ただいま、不在。最悪午後一時までに戻ります』、とデカデカと書いた張り紙を張った。
もちろんモーリッツに許可を得ていないので、あまり宜しくない行いである。
バレたらバレたで、モーリッツが悩んでしまうので、素早く教会へ戻った。
そして、教会に付くと、素早く張り紙を剥がして中に入る。
そこには、モーリッツと、大使館の高官数名――その中に、カレンがいた。
モーリッツの建前があるので、
「あ゛、モーリッツさん……、いつ、お帰りで?」
間が悪いような感じで、モーリッツに尋ねた。
「ついさっきです、彰浩さん。ところで、何故教会を空けたのですか?」
「ええ、実は買い置きの食材が無く、昼も食べることすら間々ならない事になって。それで、少しの間だけ空けて、買出しに出ていたんです」
買い物袋を、モーリッツと、大使館の高官数名に見えるように持ち上げた。
「そうですか」
「あと、午前中に尋ねてきた信奉者の方々の人数は、6人でした。そのうち、一人だけ相談に乗りました。また、モーリッツさんがいる時にでも、とのことで」
俺は簡単な定例報告を済ませた。
「わかりました。彰浩さん、一度荷物を置いてから、またここへ来てください」
「はい、それでは失礼します」
一礼して、奥のドアを開けて台所へ向った。
パタンとドアが閉まるのを見届ける、モーリッツと、数名の高官たち。
うち一人が話を切り出した。
「モーリッツ様、彼が例の――」
「ええ、晴山彰浩です」
「身よりも無いとは……、地球と同じ状況とは。……胸糞悪い」
最後の言葉は、隣の高官の耳に聞き取れないほどの呟きで吐いた。
「……どうですか、彼は?」
「見たところ、これといって変わった様な事は無いですが……、第一印象だけでの判断は、致しかねます」
変わりにカレンが答えた。
「そうですか」
重々しく答える、モーリッツ。
「ですが、何らかの能力と、人脈さえあれば問題ないかと」
「…………」
だが、モーリッツにとって、それは重い言葉だった。
彼――彰浩の能力は、ここ数日間である程度わかった。しかし、肝心の人脈は、彼にはない。
カレンとは、すでに会っているが、親しい仲とはいえない。
せいぜい顔見知り程度。
トドメと言わんばかりに、親はいない。
親戚は当てにならない。
八方塞がりとは、まさにこの事だなと、モーリッツは痛感した。
また私は、ここでも無力だとは。
「――ツ様、モーリッツ様? どうかなさいましたか?」
「あっ、ああ、いえ、大丈夫です」
考えを振り払うように、頭を横に僅かに振るのであった。
? ――リースか。
背後からの気配を感じとり、リースと判った。
が、どこと無く違うと、脳内でサイレンが鳴り響く。
故に振り返ろうとしたが――、振り返ることが出来なかった。
とにかく、このまま気づかない振りをするのが得策だな。と、考えがまとまった。
歩く。
音を立てずについてくる。
歩く。
音を立てずについてくる。
歩く。
音を立てずについてくる。
歩く。
音を立てずについてくる。
歩く。
音を立てずについてくる。
歩く。
音を立てずについてくる――の、永遠と思えるほどのエンドレス。
だが、ここは教会の廊下。
無限回路とか、大層な場所じゃないので終わりは早かった。
扉を開けると、流れるように台所に滑り込み、冷蔵庫に食材を詰め込む。
終わり、冷蔵庫を閉め、そこから固まる。
振り向かないのではなく、振り向けないからだ。
リースは既に気づいている。己自身が認知されていることに。
俺も気づいている。リースが、ワザと認知する様に動いていたことを。
一分経過。
二分経過。
三分経過――カップラーメンの出来上がり♪ と、おふざけしてみたかったが、そんな余裕は存在しなかった。
「……いい加減、振り向いたらどうだ? アキヒロ」
声の質はリースだが、それ以外は別人だ。
警戒しながら振り返る。
そこには――
「――――!」
吸い込まれそうな、紅い、紅い瞳。
雰囲気も、無関心な感じだったが、今目の前にいるリースは違う。
鋭く、射抜くように俺を見ている。
リースには出来ない目。
前世の戦士の本能が、最大級のサイレンを脳内に鳴り響かせる。
ヤバイ。
真っ先に浮かんだ考えだ。
「お前が持っている、ロストテクノロジーを渡してもらいたいのだが」
――あの手作りネックレスか!
「……悪いが、それはできない相談だし、俺と一緒に生まれてきたコイツが、ロストテクノロジーだって? 笑い話にも、出来すぎているのでは?」
リースに、首に掛けていたネックレスを摘んで見せる。
内心、冷や汗を垂らしながら、平常心な声で答える。
「何?」
俺と生まれてきた。の部分に反応した。
俺はチャンスと言わんばかりに畳み掛ける。
……嘘じゃないからな。
「調べれば判る。当時の病院じゃ、話題だったから。古株の連中に聞けば一発だぞ?」
悩むそぶりを見せるが、すぐこちらを見る。
「…………しばらくは、お前に預けておく。だが、少しでも不穏な動きがあれば――わかるな?」
殺気染みた視線が襲い掛かる。
この程度なら耐えられる。
「ああ、約束する。時期が来たら、そちらに渡す」
「時期、だと?」
「今は……、まだ言えない。だけど、信じてくれないか? いつか、話すから」
真っ直ぐな瞳で、リースを見る。
リースは肩を竦め、扉へ向う。
そして、ドアノブに手を掛け、顔だけこちらを向いた。
「最後に一つ。この事は、他言無用で頼むぞ」
「わかっています」
僅かに笑い、部屋を出て行く。
パタンと、閉まった音を聞いた後、少しだけ気配を確認する。
こちらへ戻ってこないことを悟ると、
「ふぅ~~」
壁に寄りかかりながら、床に座り込む。
「経験と知識は別もとと言うが、まさかここまでとは……、耐えられただけマシ、かな」
心地よい疲労感に襲われつつも、立ち上がって、モーリッツの元へ戻っていった。
「しかし、遅いですね。何をやっているのだ?」
「これだから地球人は……」
と、囁き始める、月大使館の高官たち。
高官たちのいらだちが募り始めてきた時、
「すいません、遅くなってしまいました」
扉を開け、深々と頭を下げる俺。
待たせたら、まず謝る。
騒ぎを起こさないための対処の一つ。
「モーリッツさん、何か?」
「実は、あれを――」
とある高官が、懐から包みを差し出してきた。
それを受け取りながら、
「これをどうすれば?」
「私たちの代わりに、フィーナ様に届けてもらいたいのです」
「フィーナ? フィーナ・ファム・アーシュライト……、姫のことですか?」
「ええ、そうです。早急にお渡ししなければならない物なので。場所は、この紙に書いてあります」
モーリッツは、ポケットから紙を取り出し、俺はそれを受け取った。
そして、片手で紙を開くと――トラットリア左門の隣の家だった。
何かに出逢う者たちの物語・外伝Ⅱ
夜明け前より瑠璃色な
~Memory of the past and the tomorrow's future~
第三話
END
次回予告
モーリッツに用事を頼まれ、月の姫のホームスティ先へ行くことに。
その途中で、ハイテンションの代名詞、遠山翠と、達也の妹の、朝霧麻衣と出会う。
翠に散々言われながらも、朝霧家につく。
そこで月の姫、フィーナ・ファム・アーシュライトと出逢う。
そして……
次回
何かに出逢う者たちの物語・外伝Ⅱ
夜明け前より瑠璃色な
~Memory of the past and the tomorrow's future~
第四話
一つの運命が動き出す日(中編)
少し悩みましたが、完成です。
が、二話目の予告変更が発生。
予告でフィーナと会うはずが、結果的にまだ合えてません。
やばっ。(汗
ってな訳で、訂正します。
第四話で、旧メンバーオールスターズです。
そういえば、メインヒロインのエステルは、いつ出るんだろう?
いや、プロットは出来ているのですが、何分全体を通してのと言う訳で。
制作開始:2007/01/23~2007/1/30
打ち込み日:2007/1/31
公開日:2007/1/31
変更日:2008/10/24