一吹きの風が抜け、日は傾き始め、時計の針は二時を指している時。
俺は、月居住区の目抜き通りを歩いている。
やはり、どこと無く浮いているのか、僅かに視線を感じる。
俺も有名になったものだな。
と、馬鹿な事を思いつつ、居住区を抜けた。
「にしても、やはり感覚が違うな」
橋の中間辺りで呟いた。
前に進めば、開放感的で豊かな雰囲気。
後ろに下がれば、閉鎖的ながら洗礼された雰囲気。
両者共に交わることの無い領域。
「これがホントの、見えない壁、ってか」
後頭部を掻きつつ、地図を見ながら歩き始め――
「あぁぁぁぁぁっ! 裏切り者発見、即座に尋問開始!」
「 ? 」
声の発信源の方を向く、俺。
正直、人の習性なんだよな。と、思いながら。
第四話
一つの運命が動き出す日(中編)
駅前のとある場所にあるアイス屋『カントリー・カントリー!!』に、二人の女の子がいた。
「すいませ~ん。バナナバニラアイスを一つと、遠山先輩は?」
茶色い髪の女の子が、緑色のポニーテイルが目立つ、翠に声を掛ける。
「う~ん……、おじさん、今日のオススメは?」
その言葉に、おやじさんの瞳は輝きを増した。
「この――スパイラル・エキストラ・デンジャラ――」
「チョコレートクレープ、一つ」
生き生きと喋るおやじさんを、別の品物で看破した、翠。
「…………あいよ」
ものすごく落ち込むおやじさん。
その作業する姿は、惨めに近いものを感じた、二人だったりする。
で――
「おまちどうさま。合計で750円です」
「はい、これで」
翠が、お会計ピッタリの金額を払う。
「毎度ありがとうございました」
決まり文句を言うおやじさんを背に、店を後にする翠と、女の子。
翠が食べながら専攻し、麻衣が後を追う格好となっている。
「いいんですか、遠山先輩」
お会計の事で、少し驚く女の子。
「いいの、いいの。麻衣には、いつもお世話になっているから」
お気楽に答えつつ、チョコレートクレープを頬張る。
それからは、麻衣と他愛も無い会話をした。
今日や最近の出来事。
今後の事。
お喋りしながら、いつもの帰り道である土手を歩いていた。
そして、月居住区の橋の近くに差し掛かった時――
「あぁぁぁぁぁっ!」
翠がいきなり叫んだ。
橋の真ん中辺りにいた人も、何事かと顔を上げる。
「とっ、遠山せ――」
いきなりの出来事に、あたふたと戸惑う、麻衣。
「裏切り者発見、即座に尋問開始!」
「遠山先輩!?」
翠は、勢い良く橋の真ん中にいる人の下へ駆け寄っていった。
もの凄いで。
やばっ。
遠山翠、だっけ? 放置したまま店を出て……、それから音信不通。
マズイ、不味い、拙い、まずい!
本能が叫ぶ。
走れ。振り切れ。早く逃げろ、と。
またも、前世の記憶が語り始める。
が、よく考えてみれば、あんな女性がここにもいるなら、世界中に溢れている。
考えは纏まり、戦闘時コマンド『迎え撃つ』を選んだ。
が、それがマズかった。
「遠山さん、アタァァァァァァァァァァァク!」
突撃しながら突き出された拳は――
「あ!」
足を滑らせた。
「え?」
故に、攻撃ポイントが下にズレ――
「――――!」
直撃!
クリティカルヒットで、鳩尾に750のダメージ。
ついでに45のオーバーキル発生。
崩れ、大地――正確には橋の上だが――に倒れる、俺。
何でこんな時に限って、綺麗にはいるかな。
そう頭の中で考えるのだった。
只今、土手を歩いてます。
あと15分以内で、目的地に着くとの事。
翠は謝罪を続け、俺は女の子に支えられながら歩いている。
「遠山さんは、海よりも深く反省しております!」
と、さっきから何度も頭を下げている翠。
「っ、く……、ああ」
呻きながら答える、俺。
直撃だからキツイって言うか、体全体に響いたから。
「本当に大丈夫ですか?」
俺を支えながら、気遣ってくれる女の子。
幼さは残るものの、遠山よりも女らしく見える。
「ああ……慣れてるから」
愛想笑いを見せる。
そうですか。と言って苦笑する、女の子。
「で、遠山。いい加減止めてくれるか? 五月蝿くてかなわん」
頭をペコペコ下げられるのに、いい加減嫌気が差してきたので、矢の如く言い放つ。
「がぁぁぁぁぁぁぁっん! 遠山さん、大ショックですよ! 慰めて~、麻衣ぃ~」
シクシクと泣き真似の仕草をしながら、反対側に回って、女の子――麻衣に泣きついた。
どうやら直撃したらしい。
「あっ、ああ、遠山先輩、しっかりしてください」
麻衣は、俺を支えつつ、翠を慰める。
感想――器用だな。
と、いい加減はなれるか。これ以上負担を掛ける訳には。
「あ、もう平気なんですか?」
「ああ、大分収まったから。ありがとう」
離れながら答える。
「ううっ、麻衣まで私の事見放すの?」
少し半泣きになる、翠。
俺と、麻衣は顔を見合わせて苦笑し合う。
それからは、翠から色々尋ねられた。
今まで何処にいたのか?
何処から来たのか?
歳は?
――と、質問内容は、その辺の転校生と余り変わらなかった。
途中で、翠と別れた。
どうやら、途中までは同じ道のりだったらしいが、ここからは反対側だと言って、家に帰っていった。
ただ、彼女の背中は寂しさを訴えるモノがあるが、日の浅い俺が聞き踏み入れる領域ではない。
それこそ、親しい友人が聞くべきである。
ただ、俺はそこまでのレベルに達していないだけ。
一時の想いよりも、長い年月を重ねた絆の方が、人と人の繋がりを示せるモノだから。
ただ、それだけ。
そう、たったそれだけなのだから。
その想いだけが、俺の体にのしかかってきた。
「……さん、時覇さ~ん?」
いつの間にか、ボケッとしていたらしい。
麻衣の顔が、ドアップでされているから。
俺は、驚くが大声は出さなかった。
「着きましたよ」
「ああ、ありがとう」
顔を上げ、家を見る。
見るからに中流階級の家。
上でも下でも無いが、普通よりもちょっと良い家。
だが、俺には眩しく見えた。
家の雰囲気で。
幸せな家庭。
幸せな絆。
誰でも受け入れる。
そんな雰囲気の家。
今のご時勢にはほとんど無い、本物の家族の家。
俺みたいな、たとえ記憶でも血に染まった事がある者が、近寄って良い場所ではない。
多分、この家は、そんな俺でも受け入れてしまうのではないかという雰囲気がある。
ただ、ここまで来て、何か足りない雰囲気がある。
それさえあれば、文句無しの完璧な家庭であるのに。
そう思いながら、
「じゃあ、行きましょうか?」
「ああ」
敷地内に、足を踏み入れた瞬間――黒い三つの影が襲い掛かり、前に飛び退いた。
そして、前転しながら立ち上がり、間合いを取ったつもりだったが、
「わふっわふっわふっわふっ!」
「うおうん!」
「わんわんっ!」
大、中、小の三つの影に押しつぶされた。
「…………」
一連の動きを目の辺りにして固まる、麻衣。
乗っている連中は、とくに邪気は無かったので抵抗はしなかった。
「って、こら! カルボ、ペペロン、アルビ、駄目じゃない」
フリーズから回復した麻衣が、俺にのしかかった犬たちを下ろしながら、やさしく叱る。
完全に退いた事を確認してから、毛と埃を掃いながら立ち上る。
「人懐っこい犬だな」
苦笑した。
動物には、余り良い印象は持ってもらえないタイプなんだが、どうやらこの三匹は交友的だった。
はははは、心配してくれるのか?
『わん!』
一斉に吠える、三匹の犬。
麻衣は麻衣で、いきなり綺麗に吠えたので、目を白黒させている。
また苦笑。
こいつらエスパー犬か? それはそれでどうでもいいか。
「イタリアンズ、どうし――麻衣ちゃん、おかえりなさい」
ほのぼのした女性が、ベランダから出てきた。
「ただいま」
癒し系の人か。
ただ、何とも言えない雰囲気の後ろに、鋭い何かがあることだけは判った。
「あら、そちらの方は?」
俺の事か。
「はじめまして、晴山彰浩です。彰浩で構わないので」
あまり芸が無いが、これが一番良い方法だろう、うん。
「あ、ご丁寧にどうも。私は、穂積さやかと言います」
「さやか……、というと、月大使館のカレンさんのご友人ですか?」
「あ、そうですけど。カレンの知り合いってことは――」
「あ、俺、地球人なんで」
「あら」
俺のフォローと、まとまった考えのギャップの違いに、目が点になる。
カレンを知っているので、月大使館の関係者だと思ったんだろう。
「実は、教会のモーリッツさんから、フィーナ姫宛に、物を届けに着ました。できたら、直接渡したいんですが――います?」
微妙な敬語使いになりつつも、
「え! もう着てるの!?」
何故か、麻衣が反応する。
どうやら詳しいことは知らないらしい。
人の事は言えない立場だが。
「ええ、こちらに。麻衣ちゃんにも、きちんと紹介しないとね」
ウィンクしながら答える、さやか。
やりてか。
と、どうぞどうぞと言わんばかりに、玄関を開ける。
「た、ただいま」
姫がいるとの事で、自分の家なのに緊張している。
当たり前と言えば、当たり前かもしれないが、前代未聞には違いない。
「お邪魔します」
麻衣に付き添うように、家に入る。そして、
「へぇ~」
入って見た、第一印象の感想だ。
やはり、と言うべきか。
外見で感じ取ったモノと同じ――いや、それ以上だった事に驚いた。
「どうかなさいましたか?」
スリッパを出しながら尋ねてくる、さやか。
「いや、何でも無いです――お邪魔します」
返事をしながらスリッパを履く。
「どうぞ、どうぞ」
入って入ってと、手の動作をする、さやか。
愛想笑いを浮かべながら頷き、麻衣を押しながら、後についていく。
「お、押さないでください」
情けない声を上げて講義するが、聞こえないフリ。
これは、基本だと教わったことが――ある、訳が無い。
と、アホな考えを思い浮かべている内に目的の場所に着いた。
時間は、僅か20秒。
リビングが近いタイプの家である。
建築家ではないので、それが良いのか悪いのかは知らんが。
「こちらです――ミアちゃん、フィーナ様」
その声に二人の女性が顔を上げる。
片やメイド服を着て、黒い髪にカチューシャ。
メイドオタク辺りが見たら、写真を取らせてくださいと言うセリフの押収と、膨大なシャッター音が、頭の中に描かれる。
それは置いといて。
片や蒼白い髪に青をベースにしたドレス。
腕の袖や胸元、ティアラについている青い宝石が目に付く。
が、構成に作られた偽者。
本物は、それなりの場か、公正な場所以外では身に付けることは無いだろう。
しかし、綺麗だ。
いや、美しいと言うべきだろう。
「あ、さやか。そちらの方は?」
首を傾げて、俺と麻衣を見る。
「ええ、こちらが――」
「あ、朝霧麻衣です! ほっ、本日はお日照りも良く――」
その言葉に、俺とさやか、フィーナ姫とメイドは軽く笑う。
「麻衣ちゃん、そんなに畏まらなくても大丈夫だから」
「ふふっ、私は月王国の王女、フィーナ・ファム・アーシュライトと申します。はじめまして、麻衣様」
スカートを両手で摘み、軽く会釈した。
努力を行い続けて身に付けた、気品と動作。
腕のいい者にとかせた、全くと言っていいほど癖の無い髪の毛。
雰囲気からしても、その辺にいる女性とは比べ物にはならないモノを纏っている。
まさに、どれをとっても一級品の芸術品と言って良いかどうかは判らないが、とても美しい女性である。
「それで、アナタ様は?」
「あ、俺? ――失礼しました。私は、晴山彰浩と申します。このたび、モーリッツ様より、お預かりした物をカレンさんの代わりにお届けに参りました」
いい終わってから、腰のポシェットから包みを取り出だす。
「カレンの代わりに? 何かしら?」
「私は、ただ渡して欲しいと頼まれたので」
渡しながら答える。
しかし、この場で開けず、
「ミア、コレを部屋に持って行ってくれるかしら、っと、そういえば、ミアの自己紹介がまだだったわね」
「あ、そういえばそうですね。改めてはじめまして、麻衣様、彰浩様。私は、ミア・クレメンティスと申します」
こちらも丁寧に頭を下げる。
こっちは、気品とかはそれほど無いが、この仕事に誇りを持っている。という、強い意志を感じる。
前世の俺も、こんな感じだったんだろうな。
それで今の俺は、前世の記憶に翻弄されっぱなし、か。
この子の意思の強さは、天と地の差だな。
そう考えると、やはり気分が暗くなる。
「――、……さま? どうなさいましたか?」
「い、いや、少し考え事をしてただけだから」
ほとんど条件反射の答え。
身に染みてるんだなと、心の中で吐き捨てる。
そんな時、ふとした言葉が出た。
「そうだわ。彰浩君、今日一緒に夕食でもどう?」
ウィンクしながら提案する、さやか。
「夕食、ですか?」
俺は、その誘いに目を白黒させるのだった。
何かに出逢う者たちの物語・外伝Ⅱ
夜明け前より瑠璃色な
~Memory of the past and the tomorrow's future~
第四話
END
次回予告
さやかに夕食に誘われる、彰浩。
彼は戸惑いながらも、一度教会へ戻る。
そして、月の姫、フィーナ・ファム・アーシュライトと、大きな運命と直面する青年、朝霧達也と、出会いと再会を果たす事に。
そのあと、許可を貰い、再びトラットリア左門に向う、彰浩の姿があった。
今ここに、月と地球の歴史の歯車が、再び噛み合い始める。
次回
何かに出逢う者たちの物語・外伝Ⅱ
夜明け前より瑠璃色な
~Memory of the past and the tomorrow's future~
第五話
一つの運命が動き出す日(後編)
二度も予告内容がズレた!
計画できてるのに対して、後ろへ後ろへズレ込んでいく。
よあけなの大まかな話は出来てるが、細かい一話一話の話が、未だにパソの前に座って考える。という、悪循環法則が続いてます。
が、まともな話が書けてる事に、驚きを隠せない状況。
でも、本気でそろそろ直さないと不味いかも。
とくに、オリジナル小説を書く時は。
とにかく、よあけなSSは、まだまだ序盤の話。
総数話が、何話になるのかは、私にも判りません!
ので、今後の展開にこうご期待!
制作開始:2007/1/31~2007/2/16
打ち込み日:2007/2/16
公開日:2007/2/16
変更日:2008/10/24